恋かもしれない…恋愛偏差値ゼロ 第3部 65
そして、そんなことを、考えていると、
「…だから、高見さんを、ここに呼んだんだ…」
と、平造が、言った…
ダメ出しをするように、言った…
「…この説明で、わかってくれるかな…」
と、平造が、私に、にっこりと、笑いかけけた…
私は、
「…ハイ…わかりました…」
と、言いたいところだが、疑問があった…
なぜなら、そんなことをする前に、堂々と、私を、呼び出せば、すむことだからだ…
良平に頼まれてと言って、正造なり、好子さんなり、あるいは、新造さんに、頼んで、私を呼び出せば、すむことだからだ…
それが、なぜ、M商会の研修を熱海で、行うといって、実は、私を呼び出したのか、疑問だった…
そして、それは、米沢京子も、また、気付いたことだったようだ…
「…会長…それなら、ご家族の方にでも、頼んで、高見さんを、呼び出せば、いいのでは、なかったのでしょうか? わざわざ、M商会の人事部を通じて、研修の名目で、高見さんを、ここへ、呼ばなくても…」
「…いや…それは…そうだが…」
平造が、口ごもった…
私は、その姿を見て、まだ、なにか、ある、と、気付いた…
平造が、言わなかったことがある…
平造が、口にしなかったことがあると、思った…
そして、それは、おそらく、この米沢京子に関することなのではと、気付いた…
なぜなら、私を呼び出すにあたって、この米沢京子が、いっしょに、来ることは、想定内?…
あるいは、想定外?…
どっちだか、わからない…
たしかに、さっき、この平造は、この米沢京子を、支援したといった…
学生時代の学費や、生活費を支援したと言った…
その米沢京子が、今、私と同じ、M商会に、勤めている…
これは、偶然…
それとも、必然…
必然というのは、この平造が、手を回して、わざと、私と、米沢京子を、同じ会社の同じ営業所に、配置した…
水野のお偉いさんに、根回しして、事前に、私と同じ営業所に、配置した…
その可能性はある…
いや、
その可能性はないか?
なぜなら、この米沢京子は、私より、一か月か、二か月前に、M商会に、入社した…
中途入社した…
つまりは、私が、入社する前に入社したということは、その時点では、私が、M商会に、入社するか、どうかは、わからないということだからだ…
彼女が、M商会に、入社した時点では、私が、M商会に、入社するか、否かは、わからなかったに違いない…
だから、私が、M商会に入社して、彼女と同じ職場になったのは、偶然…
偶然の可能性が高い…
ということは…
私が、考え続けていると、
「…良平を出し抜きたかったんだ…」
と、突然、平造が言った…
「…水野さんを?…」
私が、言った…
「…そうだ…」
平造が、頷く。
「…良平から、透くんのことを、聞いて、私も考えた…どうにか、しようと考えた…が…」
「…」
「…素直に、良平に頼んで、高見さんに会っても、面白くもなんともない…良平を出し抜かなければ、面白くない…」
平造が、まるで、子供のように、楽しそうに、笑いながら、言った…
「…米倉は…大日産業は、私の失策で、経営に大ダメージを負った…だから、私は、経営者失格だ…にも、かかわらず、良平には、いまだにライバル心があるというか…傍から見れば、すでに、比べるまでもなく、勝負は、ついているのだが、いまだに、良平には、負けたくない気持ちがある…だから、透くんの真意を聞くにしても、良平を通じて、ただ、高見さんに頼めば、いいのだが、それでは、良平を出し抜けない…だから…」
平造が、説明する…
そして、その平造の説明を聞いて、
「…なぜ、高見さんなんですか?…」
と、米沢京子が、口を出した…
「…なぜ、その透さんを説得するのに、高見さんなんですか?…」
と、聞いた…
当たり前のことだった…
どうして、私なのか?
私自身、さっぱりわからなかった…
これは、米沢京子ではなく、私自身が、聞きたいことだ…
「…透くんは、高見さんに、惚れてる…」
平造が、しんみりと言う…
「…私に?…」
私は、突然、素っ頓狂な声を出した…
自分でも、思いもかけないほど、大きな声だった…
「…高見さんも、わかっているはずだ…」
そう、言われれば、ぐうの音も出なかった…
たしかに、透は、私を好きなのは、わかっている…
が、
しかし、周囲の人間が、思うほど、透が、私を好きだとは、思えない…
透が、私を好きなのは、好子さんに、私が、似ているから…
透が好きだった好子さんに似ているから、私を好きだった…
いわば、私は、好子さんの代替品…
いくら、透が、好子さんと、離婚しても、今度は、私と結婚するとは、思えない…
なにより、周囲の人間が、思うほど、透が、私に惚れてるとは、思えない…
あくまで、周囲だけ…
周囲の人間だけが、私に透が、べた惚れのように、言っている…
それは、この平造のみならず、良平も、良平の妻の春子もまた、同じ…
同じだ…
皆、同じように、透が、私に惚れてるように、言っている…
が、
それは、誤解…
大きな誤解だ…
私が、それを、口にしようとすると、米沢京子が、
「…それは、米倉好子さんと、この高見さんが、似ているからでしょ…」
と、あっさりと、言った…
私の思った通りのことを、言った…
「…だから、会長は、その透さんを、説得できると、思ったんでしょう…」
米沢京子が、断言する…
力強く、断言する…
が、
その口調に、平造は、疑問を持ったようだ…
「…キミは、透くんのことを、知っているのか?…」
と、平造は、即座に、聞く…
「…いいえ、知りません…」
と、米沢京子…
「…だったら、なぜ? なぜ、そんなことを、言う?…」
「…その透さんと、好子さんの結婚は、テレビでも、週刊誌でも、ネットでも、話題になりました…だから、私でも、知っています…」
「…」
「…だから、米倉好子さんが、この高見さんと、よく似たルックスの持ち主であることは、私も、知っています…」
「…そうか…」
「…ですが、どうして、高見さんなんですか?…」
「…どうしてと、言うと?…」
「…だって、普通は、別れた奥様と、似たルックスのひとは、嫌う男が、大半でしょ? なぜなら、同じような顔を見れば、当然、別れた奥様を、思い出しますから…大抵のひとが、嫌な気持ちになるでしょう…それが…」
米沢京子が、一気に言う…
確かに、私は、米沢京子の言葉を、横で、聞きながら、その通りだと、思った…
彼女の言う通りだと、思った…
誰もが、別れた奥様と、同じ顔は、見たくないものだ…
なぜなら、別れた奥様を思い出すからだ…
そして、当然のことながら、それは、愉快な記憶ではない…
不快な記憶だからだ…
それなのに、なぜ、私なのか?
別れた奥様の好子さんに、よく似たルックスの私なのか?
疑問を持つのは、当たり前だった…
つまりは、米沢京子の質問は、誰もが、持つ当たり前の疑問だった…
そして、それを、平造も、わかっていた…
「…キミが、疑問に思うのは、当たり前だ…」
平造が、穏やかに、答えた…
「…だが、私の見るところ、透くんは、好子よりも、高見さんに、惚れている…」
私が、思ってもみないことを、言った…
私自身が、仰天することを、言った…
だから、慌てて、
「…そんなことは、ありません…」
と、言おうとしたところが、私よりも、先に、米沢京子が、
「…どうして、そう思うんですか?…」
と、まるで、平造に、食ってかかるように、言った…
「…いったい、なにを根拠に、そう思うんですか?…」
と、聞いた…
私は、それを、横で聞いて、やはりと、思った…
やはりと、言うのは、この米沢京子…
彼女は、熱い…
熱い感情の持ち主だと、気付いた…
会社では、クールというか…
極端に感情を抑えている…
そして、それは、私に言わせれば、彼女が。カラダが、大柄で、派手だから…
若いときの女優の米倉涼子に似ている大柄で、派手なルックスだからだ…
もっと昔で言えば、女優の飯島直子か?
いずれにしても、派手なルックス…
そのカラダの大きさも、あって、どうしても、目立つ…
だから、だろう…
会社では、極力目立たないように、していた…
自分が、目立つルックスの持ち主であることが、自分でも、わかっているのだろう…
だから、会社では、おとなしくしていた…
極端に目立たないように、していた…
意図的にしていた…
それが、真相だろう…
今の彼女の姿を見て、思った…
思ったのだ…
そして、それは、平造も同じだったようだ…
「…キミ…落ち着きなさい…」
と、米沢京子をなだめるように、言った…
「…そんなに、興奮することじゃない…」
と、直後に、言って、彼女をなだめた…
そして、それから、平造は、私を見た…
私、高見ちづるを見た…
そして、言った…
「…これは、高見さんにも、言っておくよ…いや、高見さんだから、言うというのが、本当かな…なにしろ、高見さんは、当事者だから…」
「…当事者?…」
と、私。
「…そうだ…なぜ、私が、好子ではなく、高見さんに、透くんを、説得するのを、頼むのは、高見さんから、しても、意外だと、思う…でも、傍から見ても、透くんは、好子よりも、高見さんの意見を聞くと、思うよ…」
「…どうして、ですか? どうして、好子さんより、私の意見を…」
「…たぶん、近過ぎるのかも、しれない…」
「…近過ぎる?…」
「…好子と、透くんは、幼馴染…子供の頃から、知っている…まるで、身近な親戚のようにね…おまけに、透くんは、好子のことが好き…だから、好子の言うことなら、なんでも、聞くと思うかも、しれないが、それは、違う…」
「…違う? どうして、違うんですか?…」
「…役割だ…」
「…役割?…」
私と、米沢京子が、同時に声を上げた…
「…そうだ…透くんは、好子が好き…子供の頃から憧れていた…でも、好きだからといって、好子の言うことをなんでも、聞くわけじゃない…」
「…」
「…透くんも、バカじゃない…まして、子供でもない…いくら、好子を好きでも、好子の言うことを、なんでも、聞くわけじゃない…」
「…だったら、なぜ、私の言うことなら、聞くと、思うんですか?…」
「…それは、たぶん、透くんが、高見さんを、評価しているからだと、思う…親としては、複雑だが、好子よりも、高見さんを、評価しているからだと、思う…」
平造が、言った…
これまた、思いもかけないことを、言った…




