恋かもしれない…恋愛偏差値ゼロ 第3部 63
そんなことを、考えていると、
「…会長…」
と、いきなり、米沢京子が、言った…
「…これまで、本当にありがとうございました…」
と、頭を下げた…
その言葉を聞いて、
「…ボクは、もう会長ではないよ…」
と、照れたように、平造が、言った…
「…今は、もう無職だ…なんの肩書もない…」
寂しそうな表情で、言った…
「…だが、まあ、これも、自業自得と言ったところかな…」
私は、思わず、その言葉で、米沢京子を見た…
彼女が、どんな表情をしているのか、見たかったからだ…
彼女は、寂しそうだった…
同時に、困惑している様子だった…
平造の言葉に、なんと答えていいか、わからなかったのだろう…
あるいは、なんと反応して、いいか、わからなかったのだろう…
だから、言葉を探していた…
どう、答えて、いいか、言葉を探していた…
結果、
「…私にとっては、今も、会長です…」
と、言った…
たしかに、その通りなのかも、しれない…
彼女、米沢京子にとっては、その通りなのかも、しれない…
平造は、その言葉を聞いて、一瞬、驚いた様子だったが、すぐに、
「…ありがとう…」
と、返した…
「…そう、言ってもらえると、嬉しい…」
「…いえ、とんでも、ありません…」
米沢京子が、返す…
「…いや、礼を言うのは、私の方だ…ここに、高見さんを連れてきて、くれたのだから…」
平造が、穏やかに、言う…
それから、
「…どうしても、高見さん…キミに会いたかった…」
「…会いたかった…私にですか?…」
「…そうだ…」
意味が、わからなかった…
今さら、私になんの用があるのだろう…
私は、この平造にとって、用済みのはずだ…
私が、平造にとって、価値があったのは、好子さんに、似ているから…
米倉の正統後継者の好子さんに、似ているから、価値があった…
いや、
それは、平造だけではない…
平造の息子の正造にとっても、同じ…
同じだ…
私は、初めて、米倉の豪邸を、訪れたときに、事前に、正造から、米倉家に、裏切り者がいる…
だから、ボクの交際相手として、高見さんを紹介するから、それを逆手にとって、誰が、裏切り者か、調べて欲しいと、言った…
今、振り返ってみれば、なんとも、荒唐無稽の話だった…
なぜなら、私が、正造の交際相手として、米倉家に、出入りしても、誰が、米倉家の裏切り者なのか、簡単にわかるはずは、ないからだ…
案の定、正造の狙いは、別にあった…
正造は、平造が、好子さんを、狙っていると、思ったのだ…
平造と好子さんは、血縁関係はない…
だから、好子さんを、どうこうするんじゃないかと、心配したのだ…
それゆえ、好子さんに、外見が、そっくりの私を平造に与えようとした…
それが、正造の狙いだった…
つまりは、私は、好子さんの代替品…
好子さんの身代わりだった…
それが、後でわかった…
だから、別の見方をすれば、それほど、この平造が、好子さんを、溺愛していたのだろう…
好子さんは、何度も繰り返すが、米倉の正統後継者…
それに比べ、平造は、米倉の分家出身…
あくまで、中継ぎというか、米倉を正統後継者の好子さんに、渡すのが、使命というか…
平造の役割だった…
だから、好子さんを大事にした…
だから、好子さんを、大切にした…
しかし、それが、正造には、平造が、好子さんを狙っているように、見えたのだ…
それゆえ、正造は、好子さんの代わりに、私を、平造に与えようとした…
それが、私を平造に紹介した、正造の狙いだった…
と、
そこまで、考えて、気付いた…
もしかしたら?
もしかしたら、この米沢京子が、なぜ、私を嫌っているのか?
その理由が、わかった気がした…
その理由は、ずばり、私が、好子さんに、似ているから…
平造が、大切にする、好子さんに、私が、似ているからだと、気付いた…
なぜ、気付いたのか?
それは、この米沢京子が、平造を見る目だ…
明らかに、思慕の顔がある…
思慕の表情がある…
つまりは、この米沢京子は、平造に憧れている…
恩人の平造に憧れている…
あるいは、平造を慕っている…
が、
平造の心は、好子さんにある…
だから、悔しいのかも、しれない…
だから、その延長で、好子さんに、外見が似た、私を、憎んでいたのかも、しれない…
本当は、自分が、平造に大切にされたい…
だが、大切にされない…
平造の心は、好子さんにあるからだ…
それゆえ、それを、見て、好子さんを憎む…
それが、今度は、好子さんに、似た、私を憎むという構図だ…
やっと、わかった(苦笑)…
なぜ、この米沢京子が、私を憎むのか?
やっと、その理由がわかった…
そして、その理由がわかると、スーッとした…
まるで、喉のつかえが、取れたように、スーッとした…
謎が、解けたのだ…
なぜ、彼女が、私を嫌うのか、理由が、わかったからだ…
だから、スッキリした…
が、
同時に、考えた…
それは、別として、なぜ、平造が、私に会いたいのか?
あらためて、考えた…
何度も言うように、平造が、私に会いたい理由が、思い浮かばない…
すでに、平造は、引退した…
経営者として、引退して、大日産業には、関わっていない…
そんな平造が、なぜ、私に会いたかったのか、わからない…
もはや、私に用は、ないはずだ…
まさか、好子さんの代わりに、私を愛人にしたいとか、言うわけでは、あるまい(爆笑)…
まさか、親子ほど、歳の離れた私を愛人にしたいわけじゃ、あるまい…
私が、そんなふうな目で、平造を見ていると、平造もまた、私の視線に、気付いたようだ…
「…高見さんは、どうして、私が、高見さんに、会いたいと言ったのか、知りたいと、いう顔をしているね…」
と、穏やかに言った…
が、
その穏やかな表情とは、違って、その視線は、厳しかった…
言葉を代えれば、枯れてないというか…
すでに、現役を退いて、会社経営から、身を引いた男の目では、なかった…
現役バリバリの男の目だった…
私は、平造の問いかけに、頷いて、いいものか、どうか、悩んだ…
「…ハイ…」
と、いうことは、簡単だ…
が、
それでは、失礼というか…
ここで、
「…ハイ…」
と、答えることは、まるで、私が、平造と対等のような感じがした…
なぜか、そんな感じが、した…
だから、答えなかった…
「…」
と、無言だった…
すると、そんな私の返事を待たずに、平造が、
「…答えは、良平だ…」
と、告げた…
あっさりと告げた…
私は、平造の答えに、思わず、
「…えっ? 水野さん?…」
と、呟いてしまった…
つい、口走って、しまった…
「…これは、意外だという顔をしているね…高見さん…」
平造が、私を見て、面白そうに、言う…
あるいは、私を見て、楽しそうに、言う…
が、
その言葉の続きは、驚愕するものだった…
思わず、耳を疑うものだった…
「…良平は、私を恨んでは、いないよ…」
あっさりと、告白した…
「…恨んでない? ウソ?…」
つい、言ってしまった…
つい、口走ってしまった…
それを見た平造が、
「…ウソではないよ…」
と、穏やかに言った…
「…高見さんが、ウソというのは、わかるが、ウソではないよ…」
と、もう一度、穏やかに、繰り返した…
「…さっき、私は、良平とは、盟友というより、本質は、ビジネスパートナーに近いと、言ったね…」
「…」
「…これは、良平も、おそらく、同じだ…」
「…」
「…互いに、気が合い、行動する…でも、それは、トランプをするようなもの…たとえば、二人で、ポーカーをしても、当然、相手に、自分の手の内は、見せない…それと、似たようなものだ…」
「…」
「…だから、私と良平は、盟友であり、ライバルでも、あった…互いに、相手を騙したり、騙されたりする、間柄でも、あった…だからだろう…良平もまた、私に騙されたことに、恨みつらみは、あるだろうが、周囲の人間が、思うほどじゃない…」
平造が、断言した…
穏やかな物言いだが、ハッキリと、断言した…
「…つまりは、私と良平とは、今も繋がりがあるということだ…」
思いもかけないことを、言った…
思わず、耳を疑うことを、言った…
「…そして、その良平に頼まれたんだ…透を、なんとか、ならないかと…」
と、意外なことを、言った…
これもまた、耳を疑うことを、言った…




