恋かもしれない…恋愛偏差値ゼロ 第3部 62
「…お二人は、盟友…親友では、なかったのですか?…」
私は、つい、聞いてしまった…
ホントは、聞いては、いけないのかも、しれないが、聞いてしまった…
私の質問に、平造は、戸惑った様子だった…
まさか、私が、そこまで、露骨に、ぶしつけに、聞くとは、思ってもみなかったに違いない…
私の質問に、
「…親友と、いうより、盟友という言葉があっている…」
そう、平造が、言葉を探しながら、言った…
「…盟友ですか?…」
「…そう…言葉を代えれば、ビジネスパートナーという言葉が、適切かも、しれない…」
「…ビジネスパートナー?…」
「…私と良平とは、初めて会ったときから、気が合い、古い言葉で言えば、肝胆相照らす仲になった…」
「…」
「…だが、内実は、違う…」
「…違う? …なにが、違うんですか?…」
「…ビジネスでは。協力することもあったが、競争することもあった…」
「…」
「…だから、互いに、手の内のすべてを、相手に晒すことは、できない…良平も、同じだと、思う…」
「…」
「…でも、本音では、互いに相手の手の内を知りたい…本音では、相手が、どんな行動を取るのか、知りたい…」
「…」
「…それゆえ、良平の近くにいる人間に、良平の本音を聞くことになる…もちろん、それ相応の報酬を渡してだ…」
「…」
「…そして、その繋がりが、今も生きているということだ…」
平造が、笑った…
私は、それを、聞いて、考えた…
まずは、お金…
平造には、今も、金があるという事実だ…
やはり、金なしでは、相手も、動かないだろう…
いや、もしかしたら、動くかも、しれない…
平造に魅力があれば、動くかも、しれない…
昭和の政治家に、田中角栄という人物が、いたが、その源泉は、金だった…
政治家としての、源泉というか、原動力は、金だった…
が、
金だけでは、ない…
ひとは、金だけでは、動かない…
角栄には、ひとを、魅了する魅力があったということだ…
いわば、ひとたらし…
一度、会えば、角栄を誰もが、好きになったという…
つまりは、角栄には、ひとをたらしこむ魅力があったということだ…
今太閤…
戦国時代の武将の豊臣秀吉になぞらえて、そう呼ばれた…
豊臣秀吉が、太閤だったからだ…
太閤=前の関白だったからだ…
そして、秀吉もまた、ひとたらしと呼ばれていた…
他人を魅了する能力があったのだろう…
一度会っただけで、誰もが、好きになる、魅力があったのだろう…
そして、秀吉にも、当然のことながら、金があった…
つまりは、金と人柄で、他人を夢中にさせたということだ…
角栄と同じだ…
私は、今、目の前の平造の言葉を、聞いて、考えた…
考えたのだ…
そして、そんなことを、考えていると、当然のことながら、平造の持つ金について、考えた…
これも、当然のことながら、私が、想像するより、はるかに、多くのお金を持っているのだろう…
米倉の経営する大日産業は、倒産寸前だった…
が、
それは、あくまで、大日産業が、倒産寸前にまで、追い詰められただけ…
米倉家とは、関係がないのかも、しれない…
いわゆる、資本と経営の分離ではないが、会社には、金がないが、それを、経営する一族には、金がある…
つまりは、会社の財産と、個人の財産を完全に分離しているからだ…
もちろん、これは、個人経営の中小企業では、無理…
できない…
どうしても、会社の規模が、小さければ、会社の財産=経営者の財産となってしまう…
資本と経営の分離ができていないからだ…
なにより、大日産業のように、大きくなれば、大日産業の赤字を、もはや、個人レベルで、返すことは、不可能となる…
何百億円あるいは、何千億円という巨額の赤字だろう…
そんな巨額の赤字を経営者個人の財産で、補うことは、普通に考えて、誰にも、できないからだ…
だから、平造は、大日産業が、倒産寸前にまで、追い詰められても、財産は、そのままだったのかも、しれない…
大日産業の経営状態と、個人の財産は、まったくの、別物だったのかも、しれない…
そう、私は、思った…
そう、私は、考えた…
そして、それを、考えたとき、あらためて、私の隣にいる、米沢京子のことを、考えた…
彼女の正体について、考えた…
彼女、米沢京子は、間違いなく、平造と通じている…
私の勤め出した水野系列のM商会の人事部に、私といっしょに、熱海で、研修をすることを、命じられた…
が、
彼女、米沢京子は、実は、それは、私をM商会の人事の研修を名目にして、呼び出すことを、知っていたに違いない…
そうでなければ、平然と、平造の元に、私を連れてゆくはずがない…
すでに、彼女は、平造が、何者か、知っているに違いないからだ…
まさか、平造をM商会の人事の人間だと、思っているわけでは、あるまい…
まさか、そんなことは、あるまい…
私は、つい、そんなことを、考えながら、隣にいる、米沢京子に目を、向けた…
その視線に、平造は、気付いた…
「…高見さん、彼女の正体が、知りたいらしいね…」
平造が、面白そうに、私に聞いた…
私は、
「…ハイ…」
と、言いたかったが、止めた…
それでは、露骨過ぎると思ったからだ…
だから、私は、ただ、コクンと首を縦に振って、頷いた…
それを、見た平造が、
「…娘だよ…」
と、あっさり言った…
「…えっ、お嬢さん?…」
「…そうだ…」
平造が、断言する…
が、
米沢京子が、即座に否定した…
「…そんな…私なんかを、娘扱いして頂いて…」
と、言った…
明らかに、謙遜して、言った…
だから、私は、つい、
「…娘じゃない?…」
と、言ってしまった…
つい、口走って、しまった…
すると、米沢京子が、頷いた…
「…娘では、ありません…」
と、言った…
「…ですが、米倉さんに、娘並みに、扱って頂きました…」
「…娘並みって?…」
「…大学に、進学等で、お金が、必要だったときに、米倉さんが、学費を出して、頂いて…」
米沢京子が、告白する…
すると、間髪入れずに、
「…たいしたことじゃない…」
と、平造が、言った…
「…別にたいしたことじゃない…知人のお嬢さんで、その知人が、亡くなって、お嬢さんが、大学に進学するにあたって、金が必要なんだが、その金が用意できないと、人づてに、聞いてね…それで、少しばかり、援助した…私にも、それぐらいのことは、できたからね…」
「…いえ、少しばかりでは、ありません…生活費も、援助して頂いて…」
「…たいしたことじゃない…私には、少しばかり、金があった…そのお金をどう使おうが、私の自由だ…」
平造が、笑って言う…
私は、目の前の、そんな平造を見て、ふと、脳裏に浮かんだ…
米倉報公会の名前が、脳裏に浮かんだ…
あの米倉報公会は、たしか、戦前、すでに、財閥だった米倉=大日産業が、戦後のGHQの財閥解体で、大日産業が、解体されて、バラバラになった…
それを、戦後、復活させたのが、米倉報公会…
要するに、戦後、一度、解体された大日産業の、グループ会社が、再び、集まった…
が、
戦前と違い、表立って、結集できなかった…
その理由は、株価にあった…
戦前と、違い、すでに、独立した、かつての、大日産業配下の企業の株が、高騰して、大日産業は、かつての配下の会社の株を買うことが、できなくなった…
つまり、資本関係で、提携等が、できなくなった…
それゆえ、精神的にというか…
あくまで、有志の集まりで、戦前の大日産業のグループ各社が集まった…
それが、米倉報公会…
つまり、米倉を助ける集まりというわけだ…
そして、今、なぜ、この米沢京子を、平造が、学費等を援助した話から、米倉報公会を思い出したか?…
それは、要するに、困った人間を助けるということ…
おそらくは、米倉の家訓というか…困った人間に、手を差し伸べる伝統というか…
家風のようなものがあるのではないか?
ふと、気付いた…
なぜなら、そうでなければ、米倉報公会というものは、存在しないからだ…
戦前、大日産業のグループ会社でも、戦後は、独立して、資本関係がなくなった…
にもかかわらず、再び結集しようというのは、やはり、なにかしら、恩とか、魅力がある場合が、多い…
もちろん、打算もあるかも、しれない…
やはり、一社よりも、二社、三社と、集まった方が、色々有利だからだ…
が、
やはり、集まった理由の根本は、米倉が、好きなのだろう…
米倉の元に、再び、結集したいのだろう…
そして、その根本というか根底には、鎌倉時代の武士の行動原理ではないが、御恩と奉公の関係があるのでは、ないか?…
つまりは、幕府のために動くのだから、領地を頂きたい…
あるいは、自分の領地を保障してもらいたいと、思う…
それと、同じだ…
誰かのために、動くから、その誰かが、自分のために、動いてくれる…
それが、行動の基本原理だからだ…
おそらく、米倉も、それと同じ…
同じ、行動原理で、動いているのかも、しれない…
つまりは、身近に、困ったひとがいる…
だから、助けるという行動原理だ…
もちろん、助けるのは、誰でも、いいというわけではない…
ハッキリ言えば、助けるに値する人間しか、助けないだろう…
神様ではないのだから、誰でも、助けるわけではない…
自分が、好きな人間だったり、かつて、自分が、世話になった人間なら、助けるだろう…
それ以外の…例えば、知り合いでも、性格が悪かったり、ずるかったり、する人間は、当然、助けないだろう…
つまりは、助けるに値する人間しか、助けないだろう…
至極、当たり前のことだ(苦笑)…
だから、きっと、この米沢京子の父親は、米倉家…いや、大日産業のお偉いさんか、あるいは、取引先のお偉いさんだったのではないか?
私は、思った…
私は、考えた…




