恋かもしれない…恋愛偏差値ゼロ 第3部 58
あっという間に、一週間が過ぎた…
私は、あの米沢京子と、新幹線で、熱海に向かった…
と、言いたいところだが、いっしょでは、なかった…
事前に、米沢京子が、
「…人事のひとに、聞いたのだけれども、熱海には、いっしょに、行かなくてもいいって…」
「…えっ?…」
「…熱海のハローワークの一室が、研修所なのだけども、指定した時間までに、行けば、いいって…」
会社の一室で、米沢京子が、私に近付いて、言った…
「…だから、それぞれ、別々に行きましょう…」
米沢京子が提案する…
そして、そう言われると、私は、なにも言えなかった…
正直、東京から熱海に行くのだから、いっしょに行くと思った…
いっしょに、新幹線で、行くと思った…
それが、普通だからだ…
誰が、考えても、普通だからだ…
が、
相手が、嫌なら、仕方がない…
正直、私も、米沢さんと同じ新幹線に乗り、二人並んで、熱海まで行くのは、疲れる…
精神的に疲れる…
だから、本音では、彼女、米沢さんの提案を喜んだ…
いっしょにいたくないからだ…
しかしながら、口では、
「…米沢さんが、それで、いいなら…」
と、消極的に、言った…
これならば、誰かに、なぜ、熱海まで、いっしょに、行かないの?
と、会社の誰かに、聞かれれば、彼女のせいに、できる…
彼女、米沢さんが、
「…別々に行きましょう…」
と、提案したと、言うことが、できるからだ…
あくまで、熱海まで、別々に言ったのは、彼女のせいにできるからだ…
私は、思った…
私は、考えた…
私は、別に、ずるい人間ではない…
なにを言いたいかと、言えば、逃げ道というか…
常に、誰かのせいにする…
自分は、悪くないと言い張る人間ではないと、いうことだ…
が、
しかしながら、明らかに、自分に敵意を持つ、人間の場合は、違う…
どうしても、誰かに、
「…どうして、こんなことになったの?…」
と、聞かれれば、
「…自分は、悪くない…悪いのは、アイツのせいだ…」
と、言い張ることが、できるように考える…
つまりは、常に、逃げ道を用意するということだ…
私は、思った…
私は、考えた…
そして、そんなことを、考えると、つくづく、自分も歳をとったと、思う…
なぜなら、学生時代は、そんなこと、考えも、しなかったからだ…
まあ、学生時代は、社会人と違い、責任を問われる場面も少ない…
だから、そんなことも、考えないのかも、しれない…
まあ、稀には、いつも、ひとのせいにする人間も、身近に、見たことがある…
が、
大抵は、そんな人間は、周囲にまともに、相手にされてなかった…
いつも、ひとのせいにするからだ…
だから、
「…あのひとに、なにを、聞いても、いつも、ひとのせいにする…」
という噂が、周囲に、出回り、誰にも、相手にされてなかった…
が、
私も社会人になると、責任の所在というか…
常に、誰かに、聞かれたときに、どう答えれば、良いか、などと、考えるようになった…
つまりは、仕事では、常に、責任の所在が、問われるからだ…
以前、勤めていた金崎実業も、そうだが、例えば、営業所に、取引先から、電話があるとする…
その電話の内容は、
「…誰々さんは、いる?…」
というもので、電話を受けたものが、
「…いえ、あいにく、今、席を外しています…」
と、言った場合、
「…じゃ、誰々さんに伝えてくれる?…」
と、言われ、
「…ハイ…承知しました…」
と、受ける…
が、
その内容を、席に戻った誰々さんに、伝えない…
すると、後日、そのときに、電話をくれた人物が、
「…この前、おたくの営業所に、電話して、伝えてくれと、言ったんだけれども…」
と、いう話になる…
当然、犯人探しが始まる…
誰が、その電話を受けたのか?
犯人探しが、始まる…
その結果、電話を受けた人物がわかる…
伝言を伝えなかった、犯人が、わかる…
たわいもないことだが、これが、繰り返されると、その人間は、会社で、信用を、得られなくなる…
最悪、誰からも、相手にされなくなる…
そんな実例を見たことがあるからだろうか?
私も、会社に入り、社会人になってから、用心するようになった…
それが、大きい…
まあ、これは、会社に入る前…
学生時代も、同じかも、しれない…
学生時代も、似たようなものかも、しれない…
「…誰々に、お金を貸したけれども、ちっとも、返してくれない…」
とか、
「…誰々に、本やCDを貸したけれども、返してくれない…」
いうことがあると、当然、噂になる…
そして、そういう人間は、本人は、たいして、気にしないが、当然、周囲のものは、誰も、相手にしなくなる…
当たり前のことだ…
私も若いときは、ただ、そういう人間を相手にしなくなっただけだが、歳をとってくると、その人間の背景が気になって来る…
背景というのは、その人間が、どんな家庭で、育ったか?
ハッキリ言えば、貧乏な家庭に育ったのでは?
と、考えてしまう…
なぜなら、友人から、借りた、金やモノを返さないのは、ホントは、自分が、それが、欲しいのだけれども、お金がないから、買えなくて、友人に借りるからだ…
そして、それを、返さないのは、自分のモノにしたいからに、他ならないからだ…
似たような実例は、会社に入ってからも、見たことがある…
私が、まだ、金崎実業に、新卒で、入社した頃の話だ…
会社の男性の先輩社員が、飲みに行くと、いつも、必ず、その先輩社員についていって、おごってもらう女子社員がいた…
その女子社員は、失礼だが、美人でも、なんでもない、普通の女子…
つまりは、いつも、おごってくれる男の先輩社員が、狙っているわけでも、なんでもなかった…
にもかかわらず、いつも、おごってもらっていた…
そんな女子社員を見た、他の社員が、陰で、
「…きっと、アイツは、家が貧乏なんだよ…」
と、言った悪口を聞いたことがある…
私は、まだ、当時、会社に入ったばかりの二十代前半だから、そんなことは、考えたことも、なかった…
って、いうより、それまで、周囲にそんな人間がいなかったことが、大きい…
だから、そんなこと、考えたこともなかった…
「…アイツは、自分では、一切、金を出さないくせに、誰かが、おごってくれるというと、必ず、ついていく…しかも、おごってくれた人間の悪口もしょっちゅうだ…」
当時の会社の同僚が呆れたように、言った…
私は、それを、思い出した…
そして、当時は、まだ、大学を出たばかりだったので、まだ大学時代の友人と付き合っていたから、その友人に、
「…実は、会社にこんな女のひとがいて…」
と、いう話をしたことがある…
別に、深い意味はなく、ただの雑談で、だ…
すると、それを、聞いた友人が、意味ありげに笑った…
私は、それを、見て、
「…なにが、おかしいの?…」
と、聞くと、友人が、
「…そのひとに、誰かが、オマエ、家が貧乏だろ? だから、いっつも、誰かにおごってもらうときだけ、ホイホイついて行くんだろ、とでも、言えば、どうなるかな?…」
と、言って笑った…
私は、それを、聞いて、絶句した…
これまで、一度も考えたことがないことだったからだ…
彼女は、続けて、
「…きっと、図星だろうから、なにも言わなくなるか、必死になって、反論するかの、どっちかだと、思うよ…」
と、笑いながら、言った…
「…でも、きっと、近所のひとには、図星だと、思う…大抵は、近所のひとは、どんな生活をしているのか、知っているひとが、大半だから…」
彼女の話を聞いて、その通りだと、思った…
まさに、その通りだと、思った…
そして、今、振り返ると、そんな経験をして、私も、少しは、大人になったのだと、思う…
少しは、成長したのだと、思う…
正直、会社に入ってからは、これまでの人生で、見たことも、ないひとに、会ったことが、ある…
金崎実業に、入って、これまで、見たことのない、ひとを、何人か、見たことがある…
もちろん、全員が、金崎実業の人間ではない…
取引先の人間もいた…
が、
皆、学生時代には、会ったことのない人物がいた…
正直、最初は、驚いたし、
…どうして、こんなひとが?…
と、考えたことがある…
そして、考えた答えは、学歴だ…
率直に言って、学生時代に、そんな人間に、会ったことがなかったのは、私自身が、会ったことのない、学歴を持つ、ひとが、多かった…
もちろん、これは、偶然かも、しれない…
が、
私が会ったことのある、以前、勤めていた、金崎実業で、他人に、おごってもらっていてばかりいるにも、かかわらず、陰で、そのひとの悪口も、平然と言っている人間は、学歴が、低かった…
また、学生時代、ひとから、借りたモノや金を返さない人間も、勉強ができなかったものが、大半だった…
もちろん、例外はある…
勉強ができても、誰が見ても、性格の悪い人間もいた…
が、
やはりというか…
ひとの悪口ばかり、言っていたり、ひとから、借りた、モノや金を返さないひとは、学歴が低いひとや、勉強のできないひとが、多かった…
世の中、そういうものなのかも、しれない…
これを、読んだ人間の中で、
「…それは、差別だ…」
とか、
「…そんなことは、ない…」
という人間がいるならば、それは、ただ、そういうひとが、身近にいないからだろう…
もし、ウソでなく、本気で、そう言っているならば、ただ、そういった経験がないからだろう…
どうしても、経験がなければ、誰もが、実感しない…
当たり前のことだ…
ずっと、以前、フェイスブックの創業者が、
「…ボクは、ひとを採用するときに、最低でも、会社を2社は、経験した人間でないと、採用しない…あるいは、同じ会社なら、最低でも、2つの職場を経験した人間でないと、採用しない…」
と、言ったのを、ネットで、読んだことがある…
その真意は、要するに、経験が、欲しいのだろう…
会社に入って、ずっと同じ職場で、同じメンバーで、仕事をしていれば、経験が少ないからだ…
ひとつの職場しか、知らない…
あるいは、
ひとつの会社しか、知らない…
それでは、その人間の視野が狭くなる…
どうしても、
「…会社なんて、こんなもの…」
と、考えたとき、その知っている会社が、ひとつしか、知らなかったり、同じ職場にずっといたりすると、視野が、狭くなる…
フェイスブックの創業者は、それを、嫌ったのだろう…
考えてみれば、誰にも、わかるものだ…
視野が、狭ければ、どうしても、想像力も、狭くなりがちだ…
例えば、今、私が、言ったように、会社で、いつも、他人の悪口を、言いながらも、その人間に、おごってもらう女が、いたと、言っても、すぐに、
「…いる、いる、そういう女…」
と、言って、すぐに、話が、できる…
話が、合う(笑)…
会社や、職場を、いくつか、経験していれば、さまざまな人間を見るから、私が、言ったような人間を見ることがあるからだ…
私が、学生時代から、会社に入って、少しは、視野が、広がったと、思ったのは、今、考えれば、そういう経験をしたからだと、思う…
そんな経験をしなければ、
「…この世の中に、ホントに、そんなひと、いるの?…」
と、なるからだ…
世の中には、色々なひとがいる…
良い人も、悪いひとも、いる…
そんな当たり前のことが、わかった…
金崎実業に入って、わかった…
そして、私は、ひとり、新幹線で、熱海に向かいながら、車内で、そんなことを、考えた…
ぼんやりと、窓の外を眺めながら、そんなことを、考えた…
そして、考えている間に、あっという間に時間が過ぎた…
東京から、熱海までは、時間に、して一時間…
あっという間に、着くからだ…
私は、新幹線が、熱海に着いたので、新幹線から、降りた…
同時に、新幹線から、降りた乗客の中に、見知った人物がいた…
私が、知っている人物がいた…
それは、米倉正造だった…




