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恋かもしれない 恋愛偏差値ゼロ 第3部  作者: トモサン


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56/128

恋かもしれない…恋愛偏差値ゼロ 第3部 56

熱海出張を命じられたのは、それから、まもなくだった…


 「…エッ? 熱海出張ですか?…」


 偶然というか…


 話が、できすぎていると、思った…


 つい、先日、好子さんから、


 「…ぜひ、熱海に行って、父に会ってみて…」


 と、言われたばかりだったからだ…


 だから、これは、もしかしたら、水野良平の差し金かなとも、思った…


 米倉平造の盟友、水野良平の差し金かなとも、思った…


 なにしろ、いま、私の勤める会社は、水野グループで、水野良平の紹介で、入社したからだ…


 が、


 さすがに、それは。考え過ぎというか…


 平造に騙された良平が、いまだに、平造と付き合いがあるとは、思えなかった…


 そして、それは、あの好子さんも、同じ…


 同じだった…


 あの好子さんは、水野良平を子供の頃から知っていると、言った…


 しかしながら、米倉と水野の合併が、解消になってから、水野良平と好子さんが、付き合いがあるとは、思えなかった…


 付き合いがあれば、好子さんが、良平に頼んで、私に熱海行きを命じることが、可能かも、しれないが、さすがに、付き合いがあるとは、思えない…


 なにしろ、米倉と水野の合併の解消は、事実上、けんか別れのようなものだったからだ…


 だから、会社同士が、けんか別れした後で、事実上の両社のトップ同士が、いまだに、関係があるとは、考えづらいからだ…


 だから、好子さんが、良平に、この熱海行を頼んだとは、思えなかった…


 営業所長の前沢が、


 「…で、熱海の行くメンバーだが…」


 と、私に行った…


 「…あの米沢さんと、行ってくれないか?…」


 と、前沢が、言った…


 実に、言いにくそうに、言った…


 私と米沢さんの関係がわかっているからだ…


 私と米沢さんが、バチバチの関係であることが、わかっているからだ…


 だから、


 「…なぜ、彼女と、いっしょに?…」


 とか、


 「…どうして、彼女と、いっしょに?…」


 とか、言いたかったが、その前に、前沢が、


 「…二人とも、この営業所に入って、まもない…だから、研修の意味もあって…」


 と、言った…


 そして、そう言われると、なんと言っていいか、わからなかった…


 私は、まだ、この会社に入社して、一か月弱…


 かの米沢さんも、また、私が、入社する、ちょっと前…


 たしか、三か月か、そこら前に、この会社に入社したばかりだと、言った…


 だから、二人とも、新人…


 この営業所では、新人だ…


 それゆえ、


 「…研修…」


 と、言われると、行かざるを得ない…


 断ることなど、できない…


 まして、私も、米沢さんも、まだ、新人だから、この営業所に、馴染んでいるとは、お世辞にも、いえない…


 なにより、戦力になっているかと、問われれば、


 …微妙…


 実に、微妙だからだ(苦笑)…


 まだ、入社して、まもないから、ひとに、教わることが、多い…


 だから、とてもではないが、戦力とは、呼べない…


 会社もまだ、入社まもないから、そんなものかと、大目に見ている…


 そんな状況で、とてもではないが、前沢の要求を断ることなど、できない…


 だから、私は、


 「…それって、新人研修ですか?…」


 と、だけ、聞いた…


 断ることなど、とてもできないから、ただ、研修の中身を知りたかったからだ…


 私の質問に、前沢が、


 「…うん…まあ、そんなものだ…」


 と、曖昧に、言葉を濁した…


 そして、それ以上は、言わなかった…


 それは、私もまた、同じ…


 同じく、それ以上は、聞かなかった…


 おそらく、聞いても、前沢は、答えないだろう…


 なにを言っても、答えないだろう…


 私が、これ以上、聞けば、押し問答になりかねないからだ…


 だから、なにも、言わなかった…


 これ以上、なにも、言わなかった…


 ただ、


 「…米沢さんは、どうなんですか?…」


 と、だけ、聞いた…


 「…どうと、言うと?…」


 「…彼女も、行くんですか? 承知しているんですか?…」


 「…それは、会社の命令だから…」


 前沢が、言う…


 「…言われれば、断る選択肢は、ないだろう…」


 当たり前のことを、言った…


 そして、そう言われると、私も頷かざるを得なかった…


 まさか、三十路を過ぎた女が、堂々と、


 「…嫌です…」


 なんて、言えるはずが、ないからだ…


 二十歳やそこらの女じゃ、ないんだ…


 すでに、社会人として、十数年、会社員をやっていた…


 金崎実業で、大学を卒業以来、33歳まで、働いていた…


 それゆえ、会社は、違うが、会社員のルールといえば、大げさだが、しきたりというか…


 上が、すでに、決定していることに、抗っても、どうにも、ならないことが、わかっているからだ…


 それゆえ、文句を言っても、仕方がないことが、わかっているからだ…


 そして、それは、彼女も、同じだろう…


 彼女、米沢京子も、また、同じだろう…


 彼女、米沢京子もまた、私と同じぐらいの年齢…


 すでに、三十歳を超えている…


 だから、社会のルールというか…


 会社のルールが、わかっている…


 それゆえ、逆らっても、仕方がないことが、わかっているからだ…


 私は、ただ、


 「…わかりました…」


 と、だけ、言った…


 これ以上の言葉は、無用…


 無用だからだ…


 「…それで、研修の日時は?…」


 「…早速だが、来週早々に頼む…」


 「…来週ですか?…」


 「…そうだ…」


 内心、早いとは、思ったが、口に出せなかった…


 会社の命令なら、口を出せなかった…


 そして、つくづく、自分は、平凡な社会人だと、思った…


 なぜ、思ったのか?


 それは、あの好子さんや、水野透(とおる)たちと知りあったから…


 いまどきの言葉で、言えば、上級国問の彼ら、彼女らと、知り合ったからだ…


 彼ら、彼女らは、命じる側…


 私たちに、アレコレと、命じる側の人間…


 そして、私は、命じられる側の人間だからだ…


 私は、思った…


 私は、考えた…


 そして、それを、思えば、怖いのは、私も、命じる側の人間だと、自分を錯覚することだ…


 私が、あの好子さんや、透(とおる)と、いった、命じる側の人間と、知り合ったことで、いつのまにか、自分自身を、誤解して、自分もまた、命じる側の人間になったと、錯覚してしまうことだ…


 私自身、平凡で、なんの取り柄もないにも、かかわらず、自分自身もまた、上級国民と錯覚してしまうことだ…


 上級国民の好子さんや、透(とおる)と、知り合ったことで、自分自身もまた、上級国民になったかのように、錯覚してしまうことだ…


 私は、今、営業所長の前沢に、熱海の研修を命じられたが、それが、嫌なら、透(とおる)に、連絡して、熱海行きを取り消して、もらいたいと、連絡する…


 透(とおる)は、水野グループの御曹司…


 同じ水野グループの子会社、あるいは、孫会社に過ぎない、この会社の人事をひっくり返すなど、造作もないことだろう…


 もしかしたら、そんな、連絡をしてしまうかも、しれない…


 いや、


 そんな連絡をして、しまいかねない…


 それほど、調子に乗りかねない…


 そんな自分が、一方にいる…


 そして、そんな自分を叱る、もうひとりの自分が、いる…


 それゆえ、まだ、そんな自分を叱る、もうひとりの自分が、いるうちは、いい…


 が、


 やがて、もっと調子に乗り、自分を叱る、もう一人の自分が、いなくなってしまう…


 それが、怖い…


 怖いと思った…


 いつのまにか、自分も、上級国民の仲間入りをしてしまう…


 自分自身が、まったくの平凡な人間にも、かかわらず、上級国民の好子さんや、透(とおる)と知り合っただけで、自分もまた上級国民になったかのように、誤解してしまう…


 それが、怖い…


 怖いのだ…


 人間は、平等では、ない…


 生まれつき、違う…


 顔も、身長も、頭の中身も、違う…


 さらに、いえば、生まれも違う…


 最初から、お金持ちの家に生まれるか?


 あるいは、


 普通の家に生まれるか?


 差がある…


 つまりは、平等ではないということだ…


 それが、まるで、すべての人間に、違いがないように、教える…


 それは、戦後民主主義の教育の間違いだと、誰かが、言ったことを、聞いたことが、ある…


 言われてみれば、たしかに、そうかも、しれない…


 たしかに、その通りかも、しれない…


 そもそも、お金持ちと、普通に生まれた人間とは、歩むべき人生が違うからだ…


 私のような平凡人と、好子さんや、透(とおる)のような金持ちとは、歩むべき人生が、違うからだ…


 私が、近い将来、結婚して、会社を辞め、専業主婦になり、子供を産む…


 そして、子供の、手がかからなくなったら、近所のスーパーにパートに出て、家計を助ける…


 それが、私の生きる道…


 私の歩む人生だ…


 しかしながら、好子さんは、そんな人生を歩むまい…


 私と、好子さんは、外見が、姉妹レベルで、似ているが、さりとて、大金持ちの好子さんが、結婚して、スーパーにパートに出るなんて、ことは、ありえないからだ…


 だから、誤解しちゃ、ダメ…


 調子に乗っては、ダメだと、肝に銘じた…


 自分自身に、固く命じた…


 自分自身に、強く命じた…


 人間は、平等ではない…


 私は、上級国民ではない…


 いかに、上級国民と知り合っても、私自身は、上級国民ではないし、自分が、将来、上級国民の仲間入りするわけでもない…


 そう、強く、自分自身に言い聞かせた…


 なにより、学生時代の友人たちではないが、いずれは、私も、好子さんや、透(とおる)とは、会うこともなくなるだろう…


 今は、偶然、知り合って、連絡を取り合う仲だが、そんなことは、今だけ…


 今だけのことに、過ぎない…


 おそらくは、2年も経たないうちに、連絡を取り合うこともなくなるだろう…


 そもそも、彼ら、彼女らとは、私が、住む世界が、違うのだから、当然のことだ…


 私は、思った…


 私は、考えた…


 だから、調子に乗っては、いけない…


 だから、誤解しては、いけないと、思った…


 考えた…


 そして、そんなことを、考えながら、自分の席に戻った…


 今、私が勤めるM商会の営業所の自分の席に戻った…


 …来週は、熱海に行かなくてはならない…


 そう、強く、心の中で、思った…


 米沢さんと、いっしょに行かなければ、ならないと、思った…


 それから、米沢さんは、どうしたんだろ?


 と、思って、営業所内の彼女の席を見た…


 いなかった…


 彼女の姿を探して、見ると、さっきまで、私のいた席にいた…


 所長の前沢の前にいた…


 私同様、研修のことを、話しているのだろう…


 彼女が、神妙な表情で、聞いていた…


 私は、それを、見て、不安を覚えた…


 いや、


 不安を覚えないわけはない…


 なにしろ、彼女は、私を目の敵にしている…


 なぜか、わからないが、目の敵にしている…


 そんな人間と二人で、熱海に行くのだ…


 不安を覚えないわけはなかった…


 当たり前だった…


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