恋かもしれない…恋愛偏差値ゼロ 第3部 54
が、
たしかに、わかる…
そう言われれば、わかる…
借金まみれとはいえ、米倉を、大日産業をそれまでとは、打って変わって、飛躍的に大きくしたのは、平造の功績…
分家出身の平造の功績だ…
だから、好子さんを押しのけて、自分たち、平造の子供たちが、米倉本家を継いでも、おかしくないと、考えるのは、わかる…
わかるのだ…
「…でも、父にその気は、なかった…」
好子さんが、続けた…
「…私を押しのけて、自分の子供たちを、米倉本家の後継者にするつもりは、微塵もなかった…それが、わかったから、余計に、澄子は、逆上して…」
好子さんが、説明する…
澄子さんは、好子さんより、十歳以上、年上…
きっと平造が、米倉本家に入ったときから、父の平造の立ち位置が、わかっていたに違いない…
そして、それは、おそらく、弟の正造も同じ…
正造は、澄子の一歳年下…
それゆえ、二人とも、平造の立ち位置が、わかっていたに違いない…
が、
二人の違いは、そんな父の平造の立ち位置を受け入れるか、否か?
澄子は、そんな平造の立ち位置に反発し、正造は、受け入れた…
その違いだろう…
「…でも、根本は、違う…」
「…違う? …なにが、違うんですか?…」
「…私が、米倉の正統後継者だから、澄子は、私が、気に入らないんじゃない…」
「…どういうことですか?…」
「…澄子の本音は、私が、嫌い…ただ、それだけ…それだから、自分が、嫌いな、私に米倉を継いでもらいたくない…それだけ…」
好子さんが、吐露する…
そして、それを、聞けば、たしかに、その通り…
その通りだと、思った…
好子さんが、嫌いだから、好子さんが、米倉を継ぐのが、許せない…
理由は、ただ、それだけだ…
好子さんを、好きならば、案外、好子さんが、正統後継者だから、米倉を継ぐことを、簡単に受け入れるかも、しれない…
が、
嫌いだから、受け入れない…
嫌いだから、絶対、受け入れない…
そういうことだ…
「…澄子は、とにかく、私が、嫌いなの…私を認めたくないの…」
好子さんが、吐露する…
「…それは、自分で、言うのも、なんだけれども、私が、美人だからっていうだけじゃない…とにかく、私のやることなすこと、気に入らないの…」
「…」
「…だから、なにが、あっても、反対する…私に対抗する…」
「…」
「…つまり、澄子は、私に対抗するのが、生きがいなの!…あの女の存在意義なの!…」
好子さんが、ぶちまけた…
おそらくは、自分の思いのたけを、すべて、私にぶちまけた…
私は、驚いたが、さも、ありなん…
これこそが、好子さんの偽らざる気持ちであることが、明白だった…
が、
それを、考えれば、疑問がある…
なぜ、これまで、二人は、いっしょに、暮らしていたか?
それが、疑問だ…
なぜなら、そんなに、嫌なら、どちらかが、家を出れば、いいことだからだ…
どちらかが、家を出れば、互いに、顔を合わすことが、なくなる…
だから、どっちかが、家を出れば、いいのではないか?
そう、思った…
そう、思ったのだ…
だから、直球で、
「…ひとつ、お聞きして、いいですか?…」
と、好子さんに、言った…
「…なに、高見さん?…」
「…澄子さんも、好子さんも、そんなに、相手が、嫌いなら、どっちかが、家を出れば…」
私が、言うと、私が、最後まで、言い終わらないうちに、
「…そんなこと、できない!…できるわけない!…」
と、好子さんが、大声で、怒鳴った…
「…私は、米倉の正統後継者…その正統後継者の私が、どうして、家を出なければ、ならないの!…」
好子さんが、怒鳴った…
それから、すぐに、
「…でも、それは、たぶん、澄子も同じ…」
と、声のトーンを落として、続けた…
「…エッ? 同じ?…」
「…そうよ…同じ…」
「…どうして、同じなんですか?…」
「…澄子は、実の父の平造が、米倉を…大日産業を大きくしたのだから、自分たち、平造の子供たちが、米倉の家を出ていく必要は、ないと、思っている…むしろ、出ていくのは、私の方だと、思っている…」
「…」
「…でも、それも、わからないわけじゃない…話としては、わかる…澄子の言い分も、わかる…納得できる…」
「…」
「…でも、兄の正造も、弟の新造も、そんなことは、しない…私に対抗しない…私に対抗するのは、澄子だけ…」
「…」
「…どうして、澄子だけが、私に対抗しようとするのか、わからず、若い頃には、随分、悩んだ…」
「…」
「…そして、その答えが、今は、見つかった…」
「…答えが、見つかった?…」
「…そうよ…見つかった…」
「…で、その答えって、なんですか?…」
「…それは、私も、澄子も、同じ女だから…」
「…エッ?…」
「…同じ女だから、同性だから、余計に対抗心を燃やす…」
「…」
「…正造も、新造も、男だから、対抗心を燃やさない…それが、答え…私が、見つけた答え…」
「…答え…」
「…考えてみて、高見さん…」
「…なにを、考えるんですか?…」
「…同性で、同じ女なら、余計に相手のルックスから、なにから、気になる…これが、男なら、それほど、気にならない…でしょ?…」
「…それは…」
「…同じ女だから、余計に、相手のルックスは、身長は…胸の大きさは、となる…歳が、十歳以上離れていても、つい、自分と比べたくなる…」
「…」
「…その結果、澄子は、ルックスでは、なにひとつ、私に勝てない…頭は、澄子の方が、いいけれども…とりわけ、女は、ルックスにこだわる…そのルックスで、澄子は、私に勝てない…きっと、それが、澄子は、気に入らないんだと、思う…」
それが、好子さんの、澄子さんが、自分を嫌う原因だと、語った…
私は、それは、わかる…
それは、理解できるが、本当に、それだけか?
なにか、ほかに、理由が、あるのでは、ないか?
そう、思った…
そう、思ったが、さすがに、口に出せなかった…
そして、私が、そう思っていると、好子さんが、
「…とにかく、澄子は、私が、嫌いなのよ!…」
と、電話の向こう側から、大声で、怒鳴った…
「…だから、私も澄子が、嫌い…大嫌い!…」
と、大声で、続けた…
そして、それが、最後だった…
後は、世間話というか…
一転して、たわいもない話をして、電話を切った…
そして、電話を切り際に、
「…そうだ…高見さん…」
と、好子さんが、言って、意外な提案をした…
「…高見さん…そんなに、父のことが、気になるなら、熱海に行ってみればいい…」
と、言った…
仰天の提案をした…
「…熱海へ?…」
思わず、絶句した…
「…そうよ…」
好子さんが、短く、言う…
「…高見さんが、そんなに父のことが、気になるなら、直接、熱海に足を運んで、父に会うべきよ…」
「…平造さんに?…」
「…父に、会って、直接、話を聞くべきよ…でしょ?…」
そう、言われると、言葉もなかった…
たしかに、その通り…
その通りだが、それは、できないというか…
私には、関係ないという気持ちが強かった…
たしかに、興味は、ある…
平造が、なにを考えていたか、興味は、ある…
が、
私は、部外者というか…
米倉とは、なんの関係もない…
そんな私が、平造に会って、これまで、平造が、どんな気持ちで、米倉を継ぎ、どうしたかったか?
直接、問いただしても、話をしてくれるとは、思えなかった…
なにしろ、私は、部外者なのだから、当たり前だった…
部外者の私に、平造が、いくらなんでも、そんな話をするとは、思えなかったからだ…
だから、
「…そんな、私なんて…」
と、言った…
が、
好子さんが、
「…いえ、きっと、父は、高見さんに、会いたがっているわ…」
と、意外なことを、言った…
「…私に会いたがっている? どうして、ですか?…」
「…それは…」
「…それは?…」
「…それは、父に会って、みれば、わかる…」
と、実に、意味深なことを、言った…
「…わかるって?…」
言いながら、好子さんが、なぜ、そんなことを、言うのか、わからなかった…
まさか、平造が、私を好きなわけでは、あるまい…
平造は、女好きだと、聞いているが、私に対して、変な言動をしたことは、一度もないし、平造から、いわゆる、セクハラまがいの言動を受けたことは、一度もない…
それどころか、いやらしい目で、見られたことも、一度もない…
男が、女を好き…
あるいは、
女が、男を好き…
そんなときは、大抵は、見ていれば、わかるものだ…
そして、その好きが、ただ、好きか?
あるいは、下心があるか、否か、わかるものだ…
ハッキリ言えば、その男や女と寝たいと思う感情があるかないか、わかるものだ…
そして、さらに言えば、それが、単なる遊びか?
それとも、それが、結婚に結びつくような真剣なものか、どうか、わかるものだ…
そして、私には、平造からは、そのどれもが、感じられなかった…
まあ、親子ほど、歳が離れているから、結婚はないが、私に対して、変な下心を、感じたこともなかった…
もっと言えば、平造が、そもそも、私に関心があるようには、見えなかった…
しかしながら、それが、私に会いたいとは?
意味不明…
実に、意味不明な言葉だった…




