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恋かもしれない 恋愛偏差値ゼロ 第3部  作者: トモサン


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53/128

恋かもしれない…恋愛偏差値ゼロ 第3部 53

まさに、驚天動地のことを、言った…


 が、


 たしかに、澄子の言うこともわかる…


 大日産業の再建が、難しければ、再建を全うすることなく、大日産業の株を売ればいい…


 大日産業の株を売って、金にすればいい…


 そして、大日産業の経営権を誰かに、譲ればいい…


 そうすれば、再建で悩まなくてすむ…


 大日産業が、この先、倒産しようが、どうしようが、米倉とは、なんの関わりも、なくなるからだ…


 たしかに、それもひとつの方法だろう…


 しかしながら、そんなことは、考えてもみなかった…


 これまで、一度も、考えても、みなかった…


 だから、仰天した…


 仰天したのだ…


 そして、それは、電話の向こう側の好子さんも、同じだった…


 「…澄子のやろうとしていることは、わかる…理解できる…でも、そんなこと、一度も考えたことなかった…米倉が、大日産業を手放すなんて、考えたことなかった…」


 好子さんが、落ち込んだ声で、言う…


 それから、


 「…たしかに、選択肢のひとつかも、しれない…でも、考えたことは、なかった…一度もなかった…」


 と、続けた…


 「…大日産業は、米倉の家業…ちょうど、何百年も続く、老舗と、同じ…そば屋なら、そば屋を、何百年も続けている…それと、同じ…だから、大日産業の株を手放すなんて、考えたことも、なかった…」


 「…」


 「…そんなこと、夢にも、考えたことも、なかったのよ…」


 好子さんが、まるで、吐き出すように、言った…


 あるいは、泣き出すように、言った…


 それは、まるで、好子さんの慟哭だった…


 魂の叫びだった…


 それは、なぜか?


 それは、好子さん=米倉=大日産業だからだろう…


 つまりは、好子さんは、米倉であることが、誇りであり、また、米倉が、大日産業を経営しているのもまた、誇りなのだろう…


 つまりは、好子さんから、米倉も、大日産業も、切り離せないということだ…


 生まれたときから、好子さんは、米倉の正統後継者として、生まれたのだから、これは、ある意味、当然のことかも、しれない…


 老舗のそば屋で、親が、四代目なら、息子が、五代目を継ぐのが、当然だと、周囲から、見られるし、本人も、そう思っている…


 それと、同じなのかも、しれない…


 私は、好子さんの魂の叫びを聞きながら、ふと、思った…


 なにを、思ったか?


 それは、平造のことだった…


 米倉家の前当主の平造のことだった…


 平造は、米倉を…大日産業を飛躍的に大きくして、その結果、莫大な負債を抱えた…


 周囲には、ただ、大日産業が、見る見る、大きくなったように、見えたが、内実は、火の車だった…


 が、


 それを、平造は、巧妙に隠した…


 そして、その負債が、あまりにも、巨大すぎて、にっちもさっちもいかなくなった状態で、盟友の水野良平を騙す形で、大日産業と、水野の合併を持ちかけた…


 水野と合併して、大日産業をなんとか、倒産させずに、いようと、画策したのだ…


 ある意味、子供騙しだが、やはり、うまくいかなかった…


 早々に、大日産業の負債がバレた…


 そして、その責任を取って、平造は、引退した…


 大日産業の経営の一線から、退いた…


 以後、一度も、公の場に現れなかった…


 だから、平造が、今、どうしているか、わからない…


 経営の第一線を退いてから、一度も会ったことも、見たこともなかったからだ…


 だから、どうしているのかと、思った…


 いや、


 どうしているかではない…


 米倉の、大日産業の行く末を、平造が、どう見ているのか?


 知りたかったからだ…


 それゆえ、


 「…お父様は…」


 と、つい、口に出して、しまった…


 「…お父様?…」


 「…平造さんは、今、どこに…」


 私は、聞いた…


 「…父は、熱海にいます…」


 「…熱海?…」


 実に、意外な場所だった…


 「…熱海の別荘に籠っています…」


 「…別荘に、籠っている?…」


 「…ええ…」


 好子さんが、短く言う…


 しかし、その短い言葉に、万感の思いが、こもっているというか…


 なんとも、複雑な感情が、こもっていると、思った…


 「…お父様は、なんと…」


 「…なんとって?…」


 「…今の米倉を、大日産業の様子をどう御覧になっているのか?…」


 私が、聞くと、好子さんは、


 「…」


 と、沈黙した…


 なんて、答えていいか、わからなかったのかも、しれない…


 だから、私は、待った…


 好子さんが、口を開くまで、待った…


 辛抱強く待った…


 それから、ようやく、


 「…父は、なにも、言わない…」


 と、小さく言った…


 「…なにも、言わない…どうして、なにも、言わないんですか?…」


 「…父にとっては、終わったことなの…」


 「…終わったこと?…」


 「…父は、全力で、米倉を、大日産業を、大きくした…同時に、借金まみれにした…それで、終わり…自分の役割は、終わったと考えているの…」


 「…」


 「…父の役割は、米倉を私に渡すこと…米倉を私に託すこと…米倉の正統後継者の私に託すことだから…」


 好子さんが、言う…


 まるで、血を吐くように、言う…


 平造の役割は、好子さんの言う通り…


 米倉を、大日産業を好子さんに、託すこと…


 米倉家の分家出身の平造が、本家のお嬢様と、結婚して、米倉を継いだ…


 そして、その本家のお嬢様には、すでに、前の夫との間に、子供がいた…


 それが、好子さん…


 米倉好子さんだ…


 だから、好子さんは、兄の正造や、弟の新造さん、そして、姉の澄子さんとは、血の繋がりが、ない…


 他の三人は、皆、平造の息子や娘だからだ…


 だから、血が繋がっていない…


 好子さんだけが、米倉本家の血が繋がった、ただ、一人の正統後継者…


 他の三人は、好子さんとは、母親も違う…


 好子さんの母親こそ、米倉家本家の正統後継者だからだ…


 だから、好子さんには、米倉の正統後継者の血が流れている…


 米倉本家の血が流れている…


 それゆえ、好子さんは、おおげさに言えば、天皇陛下と同じ…


 綿々と、米倉本家の血を継ぐ、ただひとりの人間だからだ…


 その好子さんに、米倉を、大日産業を継がせるのが、平造の役割…


 分家出身の平造の役割だった…


 そして、その役割を、平造は、全うしたということだ…


 正直、好子さんに、米倉を渡すまでに、平造は、米倉をそれまでとは、まったく違う、大きな企業グループに育てあげたが、その代償というか…


 内実は、借金まみれで、終わった…


 が、


 それも、水野を騙す形で、水野との合併の道筋をつけた時点で、自分の役割は、終わったと、思ったに違いない…


 現実に、この先、平造の出る幕は、なかった…


 いかに、米倉を大きくしようが、内実は、借金まみれでは、この先、どうしたら、よいか、わからないからだ…


 それゆえ、水野との合併の道筋をつけた時点で、引退…


 経営の一線から、退いた…


 私は、今、それを、考えた…


 が、


 残されたのは、平造の息子や、娘たち…


 本来なら、平造同様、本家の血を継ぐ、好子さんを、守る立場、あるいは、補佐する立場にいながらも、それぞれの立ち位置が、違う…


 正造は、父の平造同様、好子さんを、守ろうとしている…


 そして、それは、正造の弟の新造さんも、同じだろう…


 新造さんは、好子さんを慕っている…


 なにか、ことが、あれば、兄の正造同様、好子さんを、守る側に立つだろう…


 となると、問題は、澄子さんだ…


 澄子さんは、ことごとく、好子さんと、対立するだろう…


 澄子さんは、好子さんの足を引っ張るだろう…


 現実に、今も、好子さんは、澄子さんは、米倉の持つ、大日産業の株を手放そうとしていると、言ったではないか?


 なぜか、平造の子供の中で、澄子さんだけが、好子さんと、対立する…


 これは、一体、どうして?


 これは、一体、なぜ?


 考えてみれば、謎だった…


 なぜ、平造の子供たちの中で、澄子さんだけが、好子さんと対立するのか?


 なぜ、澄子さんだけが、好子さんの足を引っ張ろうとするのか?


 それが、謎だった…


 考えれば、考えるほど、謎だった…


 兄弟の中で、なぜ、澄子さんだけが、好子さんの足を引っ張ろうとしているのか?


 それが、謎だった…


 そして、私が、そんなことを、考えていると、


 「…どうしたの? 高見さん、黙って…」


 と、好子さんが、聞いてきた…


 私は、その質問に、正直に、答えていいか、悩んだが、ハッキリ、言うことにした…


 「…あの…澄子さん、ひとつ、お聞きして、いいですか?…」


 「…なに?…」


 「…澄子さんのことです…」


 「…澄子が、どうしたの?…」


 「…いえ、兄弟の中で、どうして、澄子さんだけが、好子さんと対立するのかと、思って…」


 私が、正直に言うと、好子さんが、


 「…」


 と、絶句した…


 絶句して、しばらく、なにも、言わなかった…


 だから、私は、待った…


 好子さんが、口を開くのを、待った…


 そして、しばらく経って、好子さんが、口を開くと、


 「…たしかに、謎よね…」


 と、言って、笑った…


 「…高見さんの言うことは、わかる…兄弟の中で、澄子だけが、私に逆らう…私と対立する…」


 「…」


 「…どうして、澄子だけが、私に逆らうのか? たしかに、謎よね…」


 「…」


 「…たぶん、それは…」


 「…それは、なんですか?…」


 「…たぶん、それは、父の立ち位置…」


 「…お父様の立ち位置?…」


 「…父は、平造は、私に米倉を継がせるべく、大日産業を大きくした…少しでも、大きくして、私に大日産業を、米倉を、渡そうとした…でも、澄子は、それが、気に入らないの…」


 「…どうして、気に入らないんですか?…」


 「…大日産業を大きくしたのは、父の、平造の実績なんだから、父の後継者に、私では、なく、自分たち…平造の子供たちが、米倉の後継者になれば、いいと、考えているの…」


 好子さんが、またも、仰天のことを言った…


 それまで、考えてもいないことを、言った…


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