恋かもしれない…恋愛偏差値ゼロ 第3部 52
米倉澄子…
好子さんの姉…
好子さんの血の繋がらない姉…
そして、正造の実の姉でもある…
澄子さんは、好子さんが、嫌い…
いつでも、好子さんを、イジメていた…
それゆえ、考えてみれば、好子さんに従うわけはない…
おそらくは、米倉が、負債で身動きひとつできないときは、諦めたに違いないが、状況が変わった…
負債がなくなった…
米倉の置かれた状況が、好転したのだ…
それゆえ、これ幸いと動き出したに違いない…
事実、透は、
「…澄子には、気をつけろ!…」
と、私に警告した…
澄子が、水野に米倉の情報を流していたのだろう…
だから、
「…澄子には、気をつけろ!…」
と、警告した…
おそらく透は、まだ好子さんが、好きだからだろう…
それゆえ、私に、
「…澄子には気をつけろ!…」
と、好子さんに、言ってくれと、透は、言った…
たぶん、自分で、好子さんに、連絡するのは、気まずいのだろう…
あるいは、透が、気まずくなくても、好子さんが、気まずいと考えているのかも、しれない…
別れた夫婦が、互いに連絡を取るのは、やはり、難しいのかも、しれない…
それゆえ、私に連絡した…
そういうことだろう…
そして、それを、思うと、私は、好子さんに連絡をしなければ、ならないと、思い出した…
せっかく、透が、私に、好子さんに、
「…澄子には、気をつけろ!…」
と、アドバイスしてくれたにも、かかわらず、放置していたからだ…
連絡を怠っていたからだ…
だから、好子さんに、連絡をしなければ、ならないと、考えた…
が、
正直、億劫というか…
気が進まない感じだった…
なにしろ、今、現在、その好子さんが、諏訪野さんと接触した記事が、目の前にあり、しかも、また澄子さんのことを、書く記事もある…
米倉の内紛の記事が、目の前にある…
その過程で、私が、好子さんに、澄子さんのことを、連絡するのは、下手をすれば、私が、米倉の争いに巻き込まれるのでは?
そんな予感が、したからだ…
米倉の人間でも、なんでもない、私、高見ちづるが、巻き込まれる予感がしたからだ…
いや、
正確には、私も米倉の人間…
米倉の血を引いていると、以前、新造さんが、言った…
好子さんの弟の新造さんが、言った…
私の先祖が、米倉の人間であると、言った…
たしか、私の祖父のそのまた祖父が、米倉の人間であると、言った…
米倉の一族であると、言った…
それだからだろう…
先祖が、同じだからだろう…
だから、私と好子さんが、似ているのだろう…
私と好子さんが、姉妹と呼んでも、おかしくないレベルで、似ているのだろう…
薄まっているとは、いえ、カラダの中に、同じ血が流れているから、似ているのだろう…
同じ遺伝子が、流れているのだろう…
私は、思った…
私は、考えた…
が、
しかしながら、今現在、私と米倉は、なんの関係もない…
父も母も米倉とは、なんの関係もない…
なにしろ、新造さんに、言われて、初めて、私が、米倉一族と知ったぐらいだ…
それゆえ、私の家族と、米倉は、なんの関係もない…
だから、私が、米倉の内紛に、巻き込まれるはずがない…
そんなはずはない…
私は、思った…
強く思った…
そう、半ば、強引に、自分に言い聞かせて、好子さんに、連絡した…
半ば、自分自身に言い聞かせて、好子さんに、スマホで、連絡した…
そう、強く自分に言い聞かせなければ、連絡ができない…
そんな強迫観念があった…
ホントは、米倉の一族でもない、私が、そんなことを、思うのは、おかしいのかも、しれないが、変な脅迫観念があった…
電話をすると、すぐに、好子さんが、出た…
「…もし、もし…」
と、出た…
私は、すぐに、
「…好子さん…米倉好子さんですか? …高見…高見ちづるです…」
と、言った…
すると、電話口から、すぐに、
「…高見さん?…」
という、好子さんの驚いた声が、電話の向こう側から、聞こえてきた…
「…ハイ…高見です…」
「…スマホの画面に高見さんの名前が、出たから、わかったけれど…」
好子さんが、呟く…
「…実は、この前、透さんから、連絡があって…」
「…透から、電話? 高見さんに?…」
電話の向こう側の好子さんが、驚いた様子だった…
それは、そうだろう…
私と透は、親しい間柄でも、なんでもない…
それなのに、私に透から、連絡があったと言ったので、驚いたのだろう…
私は、ただ、
「…ハイ…」
と返事した…
すると、
「…そう…」
と、小さく、返事した…
私に透から、連絡があったのが、意外だったのだろう…
それゆえ、返事が、小さいのだと、思った…
私は、
「…今、大丈夫ですか?…」
と、聞いた…
最初に、聞くのを忘れていたからだ…
「…大丈夫…安心して…」
好子さんが、返す…
「…それより、高見さん…透が、なんて…」
「…澄子さんに、気をつけろと…」
「…エッ?…」
「…この前、連絡があって、ぜひ、私の口から、好子さんに、伝えてくれと…」
「…」
「…きっと、好子さんが、心配なんだと、思います…」
「…私を心配?…」
「…そうです…」
私が、言うと、
「…」
と、好子さんが、沈黙した…
おそらく、なんて反応していいか、わからなかったのだろう…
すぐに、反応がなかった…
ようやく、反応が、あったときには、開口一番、
「…バカなヤツ、そんなこと、言われなくても、わかっているわよ…」
と、笑った…
続けて、
「…そんなに、私のことが、好きなら、離婚しなかったら、よかったのに…」
と、言って、笑った…
私は、なんと言って、いいか、わからなかった…
まさか、元の夫婦の間に割って入るわけには、いかないからだ…
昔から、夫婦喧嘩は、犬も食わないというではないか?
すでに、別れたから、透と、好子さんは、夫婦ではないが、それでも、私が、二人の間に入ることでは、なかったからだ…
私が、そう、思っていると、
「…透のヤツ、よっぽど、私が、心配なのね…それとも、いまだに、私に惚れてる?…」
と、言って、笑った…
私は、やはり、なんと言っていいか、わからなかった…
「…澄子のことは、いつも、警戒しているわよ…あの女…米倉の借金が、なくなったことで、米倉の今後のことに、口を挟んで…」
「…口を挟む?…」
「…そうよ…夫の直一さんが、大日産業の取締役だから、直一さんを使って、大日産業の再建のイニシアチブを握ろうとしているの…」
「…イニシアチブって?…」
「…主導権よ…主導権…」
「…主導権?…」
「…そうよ…再建の主導権…それも、あって、私は、手っ取り早く、五井の援助を得ようとして、諏訪野さんに、また会ったの…」
好子さんが、意外なことを、言った…
「…大日産業の再建は、一筋縄では、いかない…もちろん、澄子も、米倉一族だから、米倉のことを、思って、再建に口を出すのは、わかる…でも、澄子の意見を採用して、澄子に再建の主導権を握られれば、いつのまにか、澄子が、米倉を乗っ取るというか…脇役に過ぎない澄子が、米倉の主役になりかねない…」
「…」
「…だから、私は、それを、阻止しなくちゃ、いけない…私が、米倉を継ぐ人間…私こそ、米倉の正統後継者よ…それをあの女が、しゃしゃり出て…」
「…」
「…直一さんを使って、社内誘導というか…私や兄の正造の考える再建プランとは、違う再建プランを推し進めようとしている…」
「…違う、再建プラン…」
「…そうよ…私たちとは、違う再建プラン…」
「…それは、どういう…」
「…詳細は、高見さんとはいえ、話せないけれども、私たちは、私も、兄の正造も、米倉の自主性を一番に考えてる…」
「…自主性…」
「…提携や合併した相手の言いなりにならないこと…水野との合併だって、父が、昔から、水野のおじさまと親しくしていたから、合併しても、おじさまが、米倉に配慮してくれると、思ったから、合併したの…」
「…そうだったんですか?…」
「…そうだったのよ…それまで、見ず知らずの相手なら、配慮なんて、してくれないでしょ? なんてったって、米倉の方が、立場が、弱いのだから…」
「…」
「…でも、やはりダメね…」
「…ダメ?…」
「…現実は、甘くない…水野のおじさまも米倉に配慮はしてくれたんでしょうけれども、やはり、ビジネスは、弱肉強食…なまじ、弱い米倉に、おじさまが、配慮したことで、余計に、おかしくなって…」
「…おかしく…」
「…だって、米倉と水野との合併といっても、内実は、米倉の救済合併だったでしょ? 米倉は、借金まみれだったから…それなのに、おじさまが、米倉に気を使うものだから、余計に、水野の現場が、怒り出して…」
好子さんが、意外なことを、言った…
これまで、聞いたことのない合併の内実を明かした…
「…それで、ギクシャクしたところに、米倉が、これ幸いと、借金を返すことができたから、合併を取り消しただけ…」
好子さんが、合併が、破談した内幕を語る…
「…でも、米倉は、フラフラ…人間で言えば、病み上がりの状態…とてもではないけれども、一人では、生きてゆけない…誰か、水野に代わる、援助者を見つけなければ、ならない…」
「…」
「…でも、自主性は、譲れない…なんとも、自分に都合のいい話だけれども、援助してくれた相手の言いなりには、なりたくない…でも、澄子は…」
「…澄子さんは…」
「…相手の言いなりになっても、いい…なんなら、私たち一族の持つ、株を手放して、大日産業の経営から手を引いていいと、考えているの…」
仰天のことを、言った…




