恋かもしれない…恋愛偏差値ゼロ 第3部 50
それから、店を出て、良平と、当たり障りのない、世間話をして、別れた…
別れ際に、良平は、私に深く、頭を下げて、
「…では、高見さん、よろしくお願いします…」
と、言った…
だから、私は、良平以上に、深く、頭を下げた…
そして、
「…わかりました…」
と、答えた…
正直、ほかに、返事が、見つからなかった…
だから、そう言うしか、なかったからだ…
私は、カフェから、出て、街を歩き出した良平の後ろ姿を、頭を下げて、見守った…
頭を上げれば、私の視界から、良平が、消えているはずだと、思えるほど、長い時間、頭を下げたままの姿勢で、いた…
それゆえ、ようやく、頭を上げたときは、良平の姿は、なかった…
影も形もなかった…
きっと、良平は、近くに、クルマを待たせているのだろう…
ここは、駅前だが、良平は、電車の切符の買い方が、わからないと、さっき、告げたばかりだったからだ…
いくら、プライベートとは、いえ、世間に名の知れた、大きな会社のオーナー社長が、ひとりで歩いて、自宅に帰るとは、思えない…
まったく、思えない(笑)…
が、
もしかしたら、それは、私の幻想?…
なぜなら、私は、お金持ちを知らないからだ…
だから、お金持ちの普段の行動形態がわからない…
それゆえ、持ち上げる…
私のような一般人とは、違うんだと、勝手に、持ち上げるからだ…
私は、半年ちょっと前に、米倉正造と、出会ってから、生まれて初めて、お金持ちと知り合った…
が、
それは、知り合っただけ…
彼ら、彼女らと、二十四時間、三百六十五日、いっしょにいたわけではない…
だから、彼ら、彼女らの生活の一部を、少しばかり、垣間見ただけ…
彼ら、彼女らの生活の一部に、ちょっぴり触れただけだからだ…
それゆえ、彼ら、彼女らが、どんな日常を送っているのかは、知る由もない…
だから、今、良平が、私の前から、消えて、おそらく、近くに、送迎のクルマを待たせていると、考えたのは、単なる、私の想像に過ぎない…
実は、ホントは、電車に乗るべく、駅に歩いていったかも、しれないからだ…
そして、そう考えながらも、さすがに、それは、あるまいと、思った…
なぜなら、さっき、電車の切符の買い方が、わからないと、言ったじゃないか?
まさか、その言葉にウソはあるまい、と、再び、考えた…
そして、そんなことを、少しばかり、考えたが、すぐに考えることを、やめた…
そんなことを、考えても、仕方がないからだ…
まして、答えもわからない…
そんなくだらないことに、時間をかけても、時間の無駄だからだ…
そして、そんなことは、もう考えるのは、止めにした…
すると、今度は、なぜ、良平が、私に会いに来たのか?
考えた…
額面通りに受け取れば、透を止めるため…
しかし、本当にそうなのだろうか?
なぜなら、私にそんな力は、まるでないからだ…
だから、
…試されている?…
…もしかしたら、試されている?…
とも、思った…
今回も、そうだが、良平は、私が、好きだと、告げた…
妻の春子も、私を、気に入っていると、言った…
が、
これは、以前も、聞いた…
私によく似た好子さんではなく、私と透が、結婚すれば、よかったと、以前にも、言っていた…
が、
それが、本音か否か、わからない…
単にお世辞…
単なるリッピサービスの恐れもある…
だから、そんな冗談を真に受けては、バカな目に遭う…
痛い目に遭う…
そんな冗談を真に受けて、透と、よい関係になり、
「…私、透さんと、結婚したいんです…」
と、でも、言えば、
…この女、お世辞と現実の区別がつかないのか?…
と、唖然とする可能性が高いからだ(笑)…
以前、勤めていた、金崎実業でも、大言壮語を繰り返す女性がいた…
自分が、まったくの平凡な容姿で、学歴も、おそらくは、家柄も、まったくの平凡にも、かかわらず、いかに、自分が、優れているか、力説していた…
社内では、誰もが、彼女を、内心、笑っていたに違いないが、当然、本人は、気付いていない…
会社を退職して、夫と、子供たちと、いっしょに、歩いている姿を、一度、見かけたが、夫は、誰が、見ても、ガテン系…
肉体労働者系だった…
私は、別にガテン系を悪く言うわけでは、まったくないが、普段から、いかに、自分が、優れているか、豪語する女が、ガテン系の男と結婚は、しまい…
つまりは、言っていることと、やっていることが、まるで、違う(爆笑)…
誰もが、それが、わかっている…
それゆえ、陰で、笑われているのだが、誰もが、多かれ少なかれ、彼女のような部分はある…
つまりは、誰も、自分が、自分を評価するほど、自分を評価しないということだ…
だから、下手なお世辞も、真に受ける…
これは、私も、例外ではない…
良平も、その妻の春子も、私を気に入っていると、言ってくれているが、それは、おそらく、本気で言っているわけではない…
いや、
あるいは、本気で言っているかも、しれないが、さりとて、私が、ホントに、透と、結婚したいと、言い出せば、仰天するに違いない…
なぜなら、そんなことは、絶対、ありえない前提で、言っているからだ…
「…高見さんのように、キレイで、しっかりした方に、うちの透と、結婚してもらえれば…」
と、言われ、実際に、その通りになったとする…
そうなれば、
「…家柄が、違う…」
とか、
「…透には、もっと別の女性を…」
と、なるに、決まっている…
つまりは、ならない前提で、話している…
透と、私が、絶対、結婚しない前提で、話しているからだ…
だから、
「…高見さんのような、しっかりした女性と、透が、結婚してくれれば…」
と、なる…
ありえないことを、前提に話しているからだ…
だから、それを、真に受けてはいけない…
決して、真に受けては、いけない…
私は、そう自分自身、肝に銘じた…
そう、自分自身を戒めた…
さもなければ、真に受ける…
お世辞を真に受けるからだ…
そして、そんなことを、考えながら、家に、戻った…
家に帰ると、いつものように、お風呂に入った…
私は、きれい好き…
自分で、言うのも、おかしいが、子供の頃は、病的なまでに、きれい好きだった…
それが、大人になり、子供の頃から、比べれば、そのきれい好きも、病的なほどでは、なくなった…
これは、誰でも、同じ…
同じだ…
子供の頃には、神経質だったものも、大抵は、大人になれば、それほどでも、なくなる…
それは、どうしてだか、考えると、それは、やはり、感覚が異なってくると、いうか…
それほど、潔癖でなくても、いいか、となってくる…
ゆえに、以前ほど、潔癖ではなくなってくる…
あるいは、それが、大人になるということかも、しれない…
要するに、世間に合わせるというか…
それほど、潔癖だと、自分も疲れてくる…
会社で、仕事をして、家に帰っても、これまでのように、病的なまでに、きれい好きだと、部屋の掃除から、なにから、しなければ、ならなくなるのだが、それが、疲れているから、やりたくなくなってくる…
だから、きれい好きでは、なくなってくる…
他人様のことは、わからないが、私は、そう…
私、高見ちづるは、そうだった…
だから、歳をとり、以前ほど、きれい好きでは、なくなった…
が、
きれい好きであることは、変わらない…
だから、会社から、家に帰ると、いつも、真っ先にお風呂に入る…
外で、汗をかいたまま、家にいるのは、嫌だからだ…
だから、お清めではないが、お風呂に入り、汗をとる…
それで、すっきりするからだ…
私は、湯船に浸かりながら、いつものように、考え事をした…
正直、この湯船に浸かっていると、気分が、安らぐ…
心の底から、ホッとする…
だから、だろうか?
のんびりと、考え事をするには、最適…
最適だ…
それゆえ、私は、透のことを、考えた…
考えたのだ…
透は、なぜ、サウジアラビアと組んで、大きなプロジェクトをやろうとしているのか?
考えたのだ…
会社でも、そして、父親の良平も、それは、諏訪野伸明氏に対抗するため…
別れた妻の好子さんが、噂になった、五井家の若き当主の諏訪野伸明氏に対抗するためと、言っていた…
しかし、本当にそうなのだろうか?
考えた…
なぜなら、水野と五井では、良平が、さきほど、カフェで、私に言ったように、蟻と象ぐらい、企業規模が、違うからだ…
まさか、それを、水野の御曹司である、透が、知らないわけでも、あるまい…
はっきり言えば、どうあがいても、勝てない相手…
水野では、勝てない相手だからだ…
水野では、どうあがいても、五井には、勝てないからだ…
そして、透…
水野の御曹司の透だ…
透と、五井の若き当主、諏訪野伸明と比べても、そう…
比べても、同じだ…
諏訪野伸明氏は、長身のイケメン…
それに、比べ、透は、背が高いが、それほど、イケメンではない…
決して、ルックスが悪いというわけでは、ないが、イケメンと呼べるレベルではない…
だからだろうか?
決して、勝てない相手と張り合おうとする…
そして、そんなことを、考えたとき、ずっと以前、学生時代に、バイトした会社での出来事を思い出した…
その会社では、入社したての高卒の男のコが、将来、出世するんだと、意気込んでいた…
そして、その男のコを後押しする、女性もいた…
要するに、その男のコを好きなんだろう…
「…アンタも頑張れば、将来、課長になれる…」
と、アドバイスを送っていた…
しかしながら、その男のコは、私の目から見ても、とても、将来出世するような人間ではなかった…
誰が、見ても、頭が良くない…
ただ、手が早く、仕事の飲み込みが、早いから、周りから、重宝されるだけの人間だったからだ…
だから、正直、出世なんて、とても、無理…
しかしながら、当人は、まったくわからなかった…
自分では、心の底から、出世できると、思っていた…
あるいは、透も、それと、似ているのかも、しれない…
もしかしたら、サウジアラビアと組んで、大きなプロジェクトをやれば、五井に対抗できると、考えているのかも、しれない…
が、
しかし、透は、そこまで、バカなのだろうか?
そこまで、愚かなのだろうか?
考えた…
さっきの高卒の男のコの例で、言えば、私は、当時、なぜ、そこまで、その男のコが、出世にこだわるのか?
わからなかった…
しかし、その会社のバイトを辞め、少しして、わかった…
要するに、頭で、勝てないからだと、悟った…
ハッキリ言えば、学歴で、大卒の人間に勝てない…
ならば、仕事でと、なる…
仕事では、大卒の人間に負けないとなる…
が、
それは、単純作業だから…
単純作業だから、大卒も高卒も、関係ない…
飲み込みが早く、手が早ければ、いい…
それだけだからだ…
そして、その男のコには、残酷だが、どう見ても、そのコが、将来、出世するのは、難しそうだった…
私も、当時、大学に男友達がいたが、その男のコとは、失礼だが、頭が、違った…
話しているのを、見て、頭がまったく、違った…
だから、無理だと、思った…
そして、当時を思い出したとき、
…そんなことも、わからないの?…
と、その男のコに言いたくなった…
そんなこととは、周囲の人間を見て、大卒と高卒とでは、簡単に違いがわかると、いう事実だ…
話を聞いていれば、自然とわかる…
知性といえば、おおげさだが、違いがわかる…
そして、同じ大卒の中でも、それは、同じ…
やはり、明確に差がある…
よい大学と、そうでない大学を出た人間の差がある…
それが、わからないの?
と、言いたくなるのだ…
そして、なにより、出世した人間で、高卒は、少なかった…
だから、出世する人間は、少ない…
出世する人間は、稀…
可哀そうだだが、とても、その男のコが、将来出世するとは、思えなかった…
透も、また、それと同じだろうか?
その高卒の男のコと、同じで、水野が、サウジアラビアと組んで、国家プロジェクトに関わるような仕事をすれば、五井に対抗できると、考えているのだろうか?
そんなに、単純に考えているのだろうか?
それとも…
それは、私の思い過ごし?…
透には、なにか、別の目的が、あるのだろうか?
考えた…
考え続けた…




