恋かもしれない…恋愛偏差値ゼロ 第3部 5
米倉好子…
初めて、会ったとき、驚愕した…
文字通り、驚愕した…
それまで、出会ったばかりの、米倉正造に、散々、
「…高見さんは、キレイだ…」
とか、
「…高見さんは、可愛い…」
とか、言われ、持ち上げられていた…
それで、当然、私も気分がよくなり、そのよくなった気分のまま、米倉正造が、住む、豪邸を初めて、訪れた…
平民に過ぎない私が、生まれて初めて、お金持ちの家を訪れた…
正直、生まれて初めての経験…
胸が高鳴った…
イケメンの米倉正造に自宅に招かれた…
豪邸の自宅に招かれた…
それだけで、もう胸がドキドキ…
もしかしたら、この米倉正造と、結婚できるかも?…
つい、そう思ってしまう…
女なら、誰もが、そう思ってしまうシチュエーションだったからだ…
が、
米倉正造に、豪邸に招かれ、初めて、米倉好子と会ったとき、そんな思いは、きれいに、吹き飛んだ…
見事なまでに、キレイサッパリ吹き飛んだ…
木っ端微塵に、吹き飛んだ…
なぜなら、米倉好子は、私とよく似たタイプの美人だったからだ…
女優の常盤貴子さんの若かりし頃を彷彿させる、小柄な美人だったからだ…
私は、何度も言うように、女優の常盤貴子さんの若い頃に似ている…
が、
身長が、おそらく160㎝ほどの常盤貴子さんより、5㎝は、低い…
私は、身長155㎝だからだ…
そして、それは、米倉好子さんも、同じ…
私と、同じ、身長155㎝前後…
そして、なにより、顔立ちが似ている…
私と姉妹と呼んでも、おかしくないほど、似ている…
あるいは、遠くても、従妹…
とにかく血縁関係を、思わず、感じるほど、似ている…
だから、驚いた…
驚いたのだ…
それまで、私に会って、散々、
「…高見さんは、キレイ…」
とか、
「…高見さんは、可愛い…」
と、米倉署正造が、面と向かって、思わず歯が浮くようなお世辞を言い、それを、お世辞と思いながらも、つい、真に受けた私だから、余計に驚いた…
なにより、散々、
「…キレイだ…」
とか、
「…可愛い…」
とか、私を持ち上げておいて、その持ち上げた相手の自宅に伺ったら、私そっくりの美人がいた…
これは、一体、どういうこと?
これは、一体、なんの目的で、私を、この家に呼んだ?
と、誰もが、考える…
私の立場なら、当たり前のことだ…
そして、ここで、重要なのは、私が、米倉好子さんと、似ていること…
そして、それは、水野透にとっても、大事なことだった…
なぜなら、今も言ったように、透は、幼いときから、好子さんが、好きだったからだ…
だから、私が、好子さんと似ていることが、重要だった…
だから、代替品…
いわば、透は、好子さんの代わりに、私を好きになった…
後日、感じたことだ…
なぜなら、透は、好子さんを、手に入れることは、できない…
好子さんは、透を、好きでも、なんでもないからだ…
透と、好子さんは、幼馴染…
それは、互いの父親が、親友で、透と、好子さんが、幼いときから、互いの家を行き来していたからだ…
だから、親戚ではないが、それに近い状態…
身近な親戚では、ないが、定期的に会う…
だから、たとえ、血の繋がりが、あろうとなかろうと、互いに親近感が、沸くからだ…
これは、誰もが、同じ…
同じだ…
たとえ、好きだとか、嫌いだとか、いう感情は、置いておいても、誰もが、幼いときから、見知った人間には、親近感が、沸くものだ…
それは、会社が、代表的な例…
なぜ、会社が、代表的な例なのか?
それは、普通は、新卒で、会社に入社する年齢は、高卒なら、18歳…
大卒なら、22歳…
一年浪人して、大学に入った者は、23歳…
その年齢で、会社の人間と知り合う…
そして、昨今、どこの会社でも、あるが、リストラが、行われたとする…
すると、どうだ?
会社を辞めれば、大抵は、その会社のひとと付き合わなくなるのが、大半だからだ…
むしろ、学生時代の人間とは、付き合いが続く場合が、多い…
それは、どうしても、学生時代は、上下関係がなく、フラットな関係に比べ、会社は、上下関係が、存在することも、大きい…
ぶっちゃけ、会社の人間関係は、学生時代の人間関係と比べ、対等ではないからだ…
課長や部長に、代表される役職に想定されるように、対等ではない…
平社員と、課長では、対等な関係ではないからだ…
だから、それも、互いに対等な人間関係だった学生時代に比べ、会社を辞めた後も、付き合いを続けない理由のひとつでも、あるだろう…
が、
それよりも、むしろ、学生時代は、子供の頃から、見知った間柄というのが、大きいと思う…
歳を取って、知り合った人間には、無意識の内に、警戒感といっては、大げさだが、どんな人間か、考えるものだ…
子供のときとは、違って、考えるものだ…
だから、壁と言うと、大げさだが、どうしても、子供の頃から、見知った人間に比べ、距離感ができる…
距離感ができる=親しくなれない…
むろん、全員とまでは、言わないが、その傾向が、強い人間が、多いのではないか?
また、どうしても、会社は、利害関係が、多い…
嫌でも、そこで、生きていなければ、いけないから、うまくやろうとする…
極端な話、自分を殺して、うまくやろうとする…
だから、会社を辞めれば、今さら、うまくやろうとは、思わない…
会社を辞めれば、付き合う必要がないからだ…
これが、大きい…
そして、ある人間が、言ったが、会社で、仲がいい、気が合う人間はいるが、それは、友達とは、違うと言っていた…
もしかしたら、その表現が、会社の人間関係の本質をついているのでは、ないか?
あくまで、会社にいるから、付き合う…
会社がなければ、付き合わない…
言葉は悪いが、会社という存在が、土台にあり、その土台が、なくなれば、付き合わないということだからだ…
散々、長く語ったが、つまりは、子供の頃から、見知っている人間の方が、誰でも、親しみが、沸くということだ…
だから、水野透は、米倉好子が、余計に好きだったとも、言える…
米倉好子が、美人だから、透が、好きだったということも、あるけれども、やはり、子供の頃から、見知っていたのが、大きいと思う…
そして、やはり、こう言っては、なんだが、水野透の周囲に、他に、美人が、いなかったのだとも、思う(苦笑)…
これは、私自身経験があるが、普通の学生生活を送っていたり、普通の会社生活を送っていたら、誰もが、美人やイケメンと出会う可能性は、低い…
毎日、同じバスや電車に乗り、通学、通勤をする…
それでは、学校や会社に行っても、出会う人間は、いつも、いっしょだからだ…
だから、代わり映えしない…
いつも、同じ人間たち…
しかしながら、この私は、学生時代、接客業に携わったことがある…
この経験が、生きた…
後に、得難い体験になった…
接客業といっても、簡単に言えば、客商売…
スーパーやコンビニで、レジ打ちをしたに過ぎない…
だが、レジ打ちをすることで、たくさんのお客さんと接することができる…
学校や会社といった閉じた世界から、見れば、少しは、開いた世界を見ることが、できる…
開いた世界と言えば、大げさだが、学校や会社で会う人間とは、数が、違うからだ…
スーパーで言えば、一日で、数千人は、見ることができる…
となれば、当然、美男美女に会う確率が、高い(苦笑)…
私は、至ってノーマルな人間だが、それでも、
「…なんて、キレイなひと!…」
と、驚嘆した若い女性を何度か、見たことがある…
ノーマルと言ったのは、私が、別段、女性を好きでも嫌いでもないこと…
普通に、男と結婚したいと思っている、平凡な女に過ぎないからだ…
そんな私から、見ても、ときどき、
「…なんて、キレイなひと!…」
とか、
「…なんて、可愛いひと!…」
と、思う若い女性を何度か、見たことがある…
そして、それを、見て、つくづく、自分は、井の中の蛙というか…
自分の知っている世界は、狭いと感じた…
なぜなら、それまで、私の知っている世界では、私が、一番…
私が一番、キレイで、可愛かったから…
おおげさでなく、そうだった(笑)…
それは、ちょうど、わかりやすい例えで、言えば、田舎の神童…
田舎だから、その小さな世界では、一番、頭がいい…
だから、神童…
とんでもなく、頭がいいと、周囲から、褒められる…
それと、似ている…
要するに、井の中の蛙…
自分の属する狭い世界では、自分が、一番…
自分が、一番、キレイだった…
が、
それが、スーパーで、レジ打ちを経験しただけで、簡単に打ちのめされた…
現実を知ったということだ…
だから、おそらく、水野透は、そんな経験がなかった…
身近に、米倉好子さんを超える美人が、いなかった…
そういうことだろう…
あるいは、仮に、美人に出会っても、好子さんと同レベル…
大差がないレベル…
だから、心が、動かなかったのかも、しれない…
好子さんの他に、好きな女が、できなかったのかも、しれない…
今では、そう思う…
そう、思うのだ…
だから、水野透は、米倉好子さんを好きだった…
が、
好子さんは、透を、好きではなかった…
あるいは、だから、余計に、透は、好子さんを、好きだったのかも、しれない…
自分を、好子さんが、好きではないから、余計に、好きだったのかも、しれない…
変な話だが、好子さんが、透を、好きなら、透もまた、好子さんを、それほど、好きではなかったかも、しれない…
なぜなら、簡単に、好子さんが、手に入るから…
透が、好子さんを、好きで、好子さんも、透が、好き…
これでは、簡単過ぎるからだ…
好子さんが、手に入らないから、余計に、好子さんを好きになる…
あるいは、
好子さんを、欲しくなる…
そういうことだからだ…
変な話、例えば、ポルシェやフェラーリのような高級車を買うのと、似ている…
高級車は、簡単には、手に入らない…
価格が、高過ぎるからだ…
だから、誰もが、手に入らない…
それゆえ、余計に欲しくなる…
が、
それでも、一部のお金持ちは、簡単に手に入る…
お金を持っているからだ…
しかしながら、簡単に手に入れば、執着心は、少ないだろう…
望めば、簡単に手に入る…
それでは、その高級車に固執しない…
それと、似ている…
手に入らないから、余計に、欲しくなる…
水野透にとって、米倉好子は、たぶん、そんな存在だった…




