恋かもしれない…恋愛偏差値ゼロ 第3部 48
だから、正直、目が点になった…
まさに、まさか、だ…
この目の前の水野グループの総帥と、会社の女性社員が、同じことを、言うとは、思わなかったからだ…
それゆえ、
「…ウソでしょ?…」
という言葉が、つい、私の口から出た…
思いがけず、口から、出てしまった…
「…ウソ? …なにが、ウソなんですか?…」
良平が、呆気に取られた表情で、聞く…
私は、さすがに、戸惑った…
言っていいものか、どうか、わからなかったからだ…
私が、言おうか、どうか、戸惑っているのを、察して、
「…どうぞ、おっしゃって下さい…」
と、良平が、勧めた…
私は、少し迷ったが、すぐに、
「…同じなんです…」
と、口を開いた…
「…同じ? …なにが、同じなんですか?…」
「…今、社長がおっしゃったことと、会社で、女性社員が、言ったことと…」
「…エッ? 同じ…」
「…透さんが、サウジアラビアと組んで、そんな大きなプロジェクトをするのは、五井の総帥、諏訪野伸明さんに、対抗するためじゃないかと、話していたんです…社長もご承知のように、好子さんが、諏訪野さんといっしょにいるところを、写真に撮られて、記事になりましたから…」
「…」
「…でも、そんなバカなと、私は、内心、思っていました…ですが、社長が、今、彼女たちと、同じことを、おっしゃって…」
私が、言うと、目の前の良平は、唖然とした…
唖然とした表情で、私を見た…
それから、
「…やはり、女はすごい…」
と、一言、漏らした…
「…ボクには、わからなかった…」
「…わからなかった?…」
「…ハイ…わからなかった…」
「…では、どうして、わかったんですか?…」
「…妻です…」
「…奥様?…」
「…そうです…」
良平が、実に、複雑そうな表情で、言った…
いや、
複雑そうというか…
なんとも言えない表情というのが、正しいのかも、しれない…
なぜなら、良平は、婿養子…
妻の春子に頭が、上がらない…
その妻に言われて、わかったというのは、なんとも、言えなかったのかも、しれない…
透は、妻の春子の息子ではない…
透は、良平が、外で、愛人との間に、作った子供…
だから、本来は、水野家を継げる立場ではない…
が、
良平と春子の間に子供がいないので、透を、養子にした…
養子にして、将来、水野を継ぐ立場にしたからだ…
その養子が、別れた妻のスキャンダルに対抗して、サウジアラビアと組んで、国家プロジェクトに参加する…
どう見ても、水野の身の丈を超えている…
下手をすれば、水野が、どうなるか、わからない…
そんな博打のようなことをする、原動力が、別れた妻に対抗するためだとしたら、なんとも、言えない…
バカバカしくて、なんとも言えないからだ…
そして、私が、そんなことを、考えていると、
「…嫉妬かも、しれない…」
と、ポツリと良平が、呟いた…
「…嫉妬?…」
「…男の嫉妬は、たちが悪い…」
「…」
「…諏訪野伸明氏は、長身で、イケメンです…それが、いけなかった…」
「…どうして、いけなかったんですか?…」
「…透では、勝てない…」
「…勝てない?…」
「…だから、余計に、大きなことを、しようとする…身の丈を超えた、大きなことを、やろうとする…少しでも、自分を大きく見せるため…諏訪野氏に対抗するためです…」
「…」
「…まったく、バカな男です…これが、他人ならば、笑って、おしまいですが、自分の息子となると、そうもいかない…」
良平が、ため息をつく。
「…まさか、こんなことに、水野を…会社を巻き込むとは…」
そう、言って、再び、ため息をついた…
私は、どうして、いいか、わからなかった…
良平を慰めることは、できる…
が、
話が、大きすぎる…
あまりにも、大きすぎる…
だから、下手なことは、言えない…
「…社長も、大変ですね…」
と、言うことは、できるが、それでは、他人事というか…
単なる慰めの言葉でしか、ないからだ…
誰でも、言える言葉だからだ…
だから、その言葉を発することは、できるが、それでは、冷たいというか…
良平に、寄り添っているとは、思えないからだ…
だから、言葉が見つからない…
どう、良平を慰めていいか、見つからなかった…
だから、
「…」
と、黙った…
「…」
と、なにも、言わなかった…
が、
真逆に、良平は、それが、不思議だったようだ…
「…失礼ですが、高見さんは、なにも、おっしゃらないんですね…」
「…エッ?…」
「…普通なら、社長も大変ですねとか、言うものです…」
良平が、言う…
当たり前のことを、言う…
だから、私が、そう言わないのが、不思議なのだろう…
当たり前のことだ…
私は、そう言われて、
「…社長のおっしゃることは、わかります…」
と、返した…
「…でも、そんなことを、言っても、仕方がないでしょ?…」
「…仕方がない?…」
「…だって、すでに、起こってしまったことを、アレコレ言っても、仕方がないでしょ? 問題は、これから、どうするかです…」
私が、言うと、良平が、呆気に取られた表情になった…
呆気に、取られた表情で、まじまじと、私を見た…
それから、一言、
「…春子が、気に入るはずだ…」
と、呟いた…
「…エッ?…」
「…すでに、起こってしまったことではなく、これから、どうするかを、考える…春子と同じです…」
「…奥様と同じ…」
「…ハイ…」
これには、どう答えていいか、わからなかった…
私が、水野の総帥の奥様と、同じだと、言われて、どう答えて、いいか、わからなかった…
「…光栄です…そんな奥様と、いっしょにして頂けるなんて…」
と、言えば、良いのだが…
しかし、私は、すでに、春子を知っている…
どんな女性か、知っている…
一言で言えば、猛女…
とてつもなく、強い女だ…
その証拠に、この目の前の良平は、春子に頭が上がらない…
そんな猛女に私が、似ていると、言われて、どう答えていいか、わからなかった…
これは、誉め言葉なんだろうか?
それとも、
けなされているのだろうか?
正直、それも、わからなかった(苦笑)…
わからなかったのだ(笑)…
そして、そんなことを、考えていると、さらに、良平が、
「…春子が、気に入るはずだ…」
と、繰り返した…
「…春子は、好子さんではなく、高見さんと、透が、結婚すれば、いいと、言っていた…」
「…ウソ?…」
「…ホントです…」
良平が、真顔で、言う…
「…高見さんのことを、春子は、気に入っていて…」
良平が、続けた…
私は、唖然としたが、すぐに、
「…社長、それは、奥様が、私のような平民と交流が、ないからでは…」
と、言った…
「…平民?…」
「…奥様は、きっと、お金持ちのひととしか、交流がないんじゃ、ありませんか?…」
「…どうして、そう思われるんですか?…」
「…いえ、私のような平凡な人間を言うことを、評価されるなんて…きっと、周囲にお金持ちばかりだから、そんなことを、言う人間が、いないだけかと…」
「…お金持ちうんぬんは、関係ありません…」
「…関係ない?…」
「…そうです…関係ありません…」
「…」
「…要は、同じように、考えられるか、否かです…高見さんは、妻と、同じ…同じように、考える…だから、妻は、高見さんを、評価するんです…」
「…私を評価する…」
「…ハイ…だから、今日も…」
「…今日も、なんですか?…」
「…高見さんに、聞いてみなさいと…」
「…どういうことですか?…」
「…透を、どうするか、高見さんに、聞いてみろと…」
「…私に、聞いてみろ…ですか?…」
「…そうです…」
良平が、真顔で、言った…
どうみても、本気で、言った…




