恋かもしれない…恋愛偏差値ゼロ 第3部 46
同時に、気付いた…
透が、まだ、好子さんを好きだったことに、気付いた…
あらためて、気付いた…
透の好子さんへの、思いは、考えたことが、なかったからだ…
まさに、別れても、好きなひと…
透にとって、好子さんが、そうなんだろう…
これは、やはり、男だからだろうか?
透が、男だからだろうか?
なぜなら、男の方が、ロマンチスト…
女より、ロマンチストだからだ…
昔、母が言っていたが、母が、子供の頃は、テレビの番組で、初恋のひとを探しますという企画があったそうだ…
そして、その番組のコーナーに、出るのは、男が、大半…
女は、ほぼいない(爆笑)…
いかに、男の方が、ロマンチストであることが、わかると、母が笑いながら、言っていた…
男に比べれば、女はリアリスト…
いわゆる、現実主義者だ…
現実主義者だから、いまさら、三十年前、四十年前に好きだった男のことなど、考えもしない…
そういうことだ…
ならば、女は、なぜ、若いときに、恋に憧れるのか?
それは、はしかのようなものだと、母が、言ったことがある…
男は、かからないが、女だけ、かかる、はしかのようなものだと、言ったことがある…
女は、若いときに、恋に憧れ、どんな男と、将来、結婚するのか、夢見る…
が、
それは、若いときだけ…
結婚して、家庭を持ち、子育てに夢中になれば、夢は、もう見ない…
現実だけを見るからだ…
それゆえ、初恋のひとなど、どうでもいい…
きっぱりと、忘れる(爆笑)…
これは、女が、歳をとっても、同じ…
同じだ…
いわゆる、いまさらということ…
五十、六十になって、いまさら、初恋のひとに、会っても、仕方がないということだ…
総括すれば、男は、ロマンチストで、女は、リアリスト…
それが、わかる、もう一つの実例は、お金…
男女ともに、もっとも、わかりやすいのは、お金だ…
成人の男女に、
「…アナタにとって、大金はいくら?…」
と、聞くと、男は、
「…一千万円…」
とか、
「…一億円…」
とか、答えるが、これが、女になると、
「…五十万円…」
とか、
「…百万円…」
に、変わる…
つまり、男は、実際には、手に入らない金額を大金と、思い、真逆に、女は、実際に手に入る金額を、思い浮かべる…
それが、ロマンチストの男と、リアリストの女の違いだ(笑)…
そして、いまさらながら、透は、ロマンチストだと、思った…
別れたばかりの好子さんを忘れないでいる…
おそらく、この調子では、十年後、二十年後、三十年後と、好子さんを忘れないだろう…
好子さんが、別の男と再婚して、子供ができ、孫ができても、変わらないだろう…
が、
おそらく、好子さんは、透のことは、なにも思わないだろう…
いや、
なにも、思わないではない…
ただの幼馴染と、思っているだろう…
だから、透のことは、普段、考えもしない…
一方、透は、と言えば、常に、心の片隅に、好子さんのことがあるに、違いない…
常に好子さんの幸せを考えているに、違いない…
そして、それを、考えたとき、好子さんは、この上なく、幸せだと、思った…
自分の肉親以外に、こんなに愛してくれる男は、存在しないからだ…
おそらく、透は、好子さんが、将来、一文無しになっても、助けるだろう…
手を差し伸べるだろう…
そこに打算はないからだ…
米倉が、金持ちでなくなっても、透の好子さんへの、態度は、変わらないだろう…
普通、そんなことは、ありえない…
誰もが、多かれ少なかれ、打算が生じる…
行動の中に、打算が、生じるものだ…
それがなく、行動する…
見返りもなにもなく、行動する…
それゆえ、おおげさに言えば、無私の愛…
見返りを求めない愛だと、思った…
思ったのだ…
透の発表があったのは、翌日だった…
サウジアラビアで、国家と共同で、開発する…
なにを、開発するか、現時点では、明らかにしなかった…
が、
その発表が、ウソでないのは、駐日のサウジアラビア大使が、同席したので、明らかだった…
今、サウジアラビアは、親日のムハンマド皇太子が、権力を、握っている…
その関係だろうと、テレビやネットでは、解説していた…
しかしながら、世間が、驚いたのは、そのサウジアラビアと、いわば、国家プロジェクトを組むのが、水野であったことだ…
これが、五井ならば、わかる…
あの好子さんと、話題になった諏訪野伸明という若き当主が、率いる五井なら、わかる…
五井は、日本の名門企業…
日本中、誰もが、知っている大企業だ…
その歴史も古い…
三百年や四百年は、あるだろう…
水野もまた、戦前は、日本の二十大財閥に数えられるほどの名門企業だが、五井と比べると、正直、チンケというか…
とても、天下の五井と比べられる存在ではない…
いわば、水野は、日本の隠れた名門企業というか…
知る人ぞ知る、有力企業という立ち位置だからだ…
とても、世間に名の知れた大企業ではない…
だから、驚いた…
水野の発表に驚いた…
そして、それは、会社でも、同じだった…
私の勤務する、会社でも、同じだった…
なにしろ、私の勤務する企業は、水野系列…
話題にならないはずが、なかった…
ただし、水野系列といっても、末端…
だから、話題になったといっても、たいしたことはない…
なにしろ、記者会見をした、水野の御曹司の透の姿など、誰も見たことがない…
おそらく、私を除いて、誰一人、見たことがないだろう(苦笑)…
透は、水野グループの頂点にいる人間だ…
私たち下々の人間とは、違う…
ただ、実際に会うと、軽いというか…
とても、歴史ある企業の御曹司には、見えない…
が、
そんなものかもしれない…
誰もが、生まれや肩書で、ひとを見る…
ひとを、判断する…
それを、見て、偉いか、偉くないか、判断する…
そして、例えば、透のように、人間が、軽い人間には、
「…あのひとは、誰にも、平等に接する…」
とか、
「…すごい生まれのひとなのに、全然、偉ぶらない…」
とか、言う…
実際には、ただ、人間が、軽いだけなのだが、決して、そんなふうには、言わない…
内心、思っても、決して、口にしない…
相手が、お偉いさんだからだ…
世の中、そんなものだ(爆笑)…
そして、私が、そんなふうに、透のことを、考えていると、
社内で、
「…しかし、驚いたね…あんな、凄い発表をするとは…まさか、うちが…水野が、こんなすごい発表をするとは、思わなかった…」
と、いうオジサンが、言う声が聞こえた…
しかし、その一方で、
「…しかし、大丈夫かな…うちなんかで…」
と、将来を危惧する声も、別のオジサンから、上がった…
「…大丈夫って、なにが、大丈夫なの?…」
と、最初のオジサン…
「…身の程を知るっていうか…身の丈にあったことをすれば、いいが、あまりにも、自分の実力より、大きなことを、すれば、失敗する可能性があるんじゃ、ないかな…」
「…」
「…そうなれば、水野グループなんて、簡単に吹き飛んでしまうかも、しれない…」
「…そんな…」
「…そんなも、こんなもない…なにしろ、今の時代、なにがあるか、誰にもわからない…現に、あの日産だって、どうなるか、誰にも、わからないじゃないか…」
そう最初のオジサンが、言うと、社内が、シーンとした…
誰も、なにも、言わなかった…
いや、
唯一、女子社員が、
「…まさか、あの水野の御曹司…別れた、米倉のお嬢様が、五井の御曹司と会っていた記事を見て、それに、触発されたというか…それに、対抗して、こんなことを、発表したわけじゃないでしょうね…」
と、呟いた…
…エッ?…
…対抗?…
驚いた…
私にそんな発想は、まったく、なかったからだ…
だから、
「…対抗って?…」
思わず、呟いた…
すると、発言をした女性社員が、私を見て、
「…きっと、五井に対抗するつもりよ…」
と、断言した…
「…サウジアラビアで、国家プロジェクトをいっしょにして、話題になり、別れた米倉のお嬢様を、見返そうとしているのよ…」
「…そんな…」
「…きっと、五井が、できないプロジェクトを、水野が、やるんだと、あの米倉のお嬢様に、言いたいんだと、思う…」
「…そんなことが、原因なんて…」
「…高見さんが、そう言うのは、わかる…でも、男なんて、そんなものよ…」
「…そんなもの?…」
「…そうよ…男なんて、そんなものよ…どんな凄いことをしても、その原動力は、案外、バカバカしいことだったりする…今のように、自分と別れた女を見返そうとしたりするのが、原動力だったりする…高見さんだって、これまで、男と付き合って、わかっているでしょ?…」
ここで、まさか、これまで、私が、男と一度も付き合ったことはないなどと、言えなかった…
とてもではないが、言えなかった(笑)…
だから、曖昧に、
「…ええ…」
と、答えた…
「…でも、そんな単純な動機で、こんな大きなことを…」
と、別の女子社員が呟いた…
「…そのプロジェクトが、失敗すれば、もしかしたら、水野グループが、傾くかも、しれない、そんな大事業を、そんな、単純な動機で…」
と、続けると、誰もなにも、言わなかった…
たしかに、その通り…
その通りだからだ…
すると、それまで、沈黙していた女子社員が、一言、
「…勝算があるんでしょ?…」
と、呟いた…
同じ部屋にいる全員が、その女子社員を見た…
その女子社員は、あの米沢京子だった…
「…勝算?…」
と、別の女性社員…
「…だって、失敗すれば、水野がコケる…危なくなるような、博打のようなことは、しないでしょ?…」
と、これも、当たり前のことを、言った…
「…水野のトップなんだから、当然、社員の生活だって、かかっている…もし、それが、わかってなかったら、トップの資格がないでしょ?…」
彼女、米沢京子の正論に、誰もなにも、言えなかった…
いや、
唯一、営業所長の前沢が、
「…昼休みは、これで、終わり…みんな仕事を始めよう…」
と、手を叩いて、言って、雑談が終わった…
ちょうど、午後の一時になったのだ…
前沢の言う通り、午後の仕事を始める時間だった…
そして、その日は、それで終わりだった…
が、
頭の中は、透のことで、いっぱいだった…
正直、透は、頼りない…
だから、不安でいっぱいだった…
透の将来…
そして、水野の将来で、いっぱいだった…




