恋かもしれない…恋愛偏差値ゼロ 第3部 45
まさに、まさか?
まさか、だ…
こちらが、思いもしないこと…
こちらが、考えもしないことを、言った…
だから、私が、
「…」
と、絶句していると、
「…どう、驚いた?…オレの勘、当たっているでしょ?…」
と、聞いてきた…
「…どうして、そう思うんですか?…」
「…だって、高見さん、好子と似ているでしょ? 瓜二つとまでは、言えないまでも、姉妹と言っても、おかしくないほど、似ている…」
「…それが、どうかしましたか?…」
「…だから、きっと、好子が、澄子にいじめられているのを、見て、高見さん…自分が、イジメられている気持ちになったんじゃ、ないのかと、思って…」
仰天のことを、言った…
しかし、たしかに、そう言われれば、わかる…
なぜ、透が、私が、澄子さんを、嫌いだと、考えたわけは、わかる…
でも、私は、そんなことは、考えなかった…
これっぽっちも考えなかった…
ただ、不快…
澄子さんが、好子さんを、イジメている姿を見ているのが、不快だった…
それだけだ…
ただ、それだけだ…
透が、言うことは、わかるが、そこまでは、考えなかった…
そして、それを、考えたとき、つくづく、いろんな考え方があると、思った…
透が、そう言うことは、わかるが、私は、これっぽっちも、そんなことを、考えたことがなかったからだ…
「…どう、当たっている?…」
透が、電話の向こう側から、軽く、調子良く、聞く…
私は、間髪入れずに、
「…いいえ、当たってません…」
と、答えた…
「…ウソ?…」
「…ウソじゃ、ありません…」
「…どうして? そう、思ったんじゃないの?…」
「…私は、好子さんじゃ、ありません…だから、どんなに好子さんと似ているとしても、好子さんじゃ、ないから、そんな気持ちになれません…」
私が、きつく、言うと、
「…そうなんだ…」
と、透の口調が、トーンダウンした…
「…そうです…」
「…オレは、てっきり…」
「…透さんが、そう言う気持ちは、わかりますが、私にそんな気持ちはありません…」
「…そうなんだ?…」
「…ただ、澄子さんが、好子さんを、イジメているのを見て、不快な気分になっただけです…」
「…そうなんだ…」
「…そうです…」
「…でも、オレは、見たことがないんだよ…」
「…エッ?…」
「…ウソかと、思うかも、しれないが、澄子が、好子をイジメているのを、見たことがないんだ…」
「…ウソ?…」
「…ホント…でも、理由は、わかっている…」
「…どんな理由ですか?…」
「…オレが、水野の御曹司だからだよ…」
「…それが、なにか?…」
「…オレが、子供の頃から、好子を好きだったのは、澄子も知っている…だから、オレの前では、好子をイジメない…」
「…どうして、イジメないんですか?…」
「…自分の印象が悪くなるのを恐れているんだろ? なんてったって、オレは、水野の御曹司だ…自分で言うのも、おかしいが、将来、水野グループを率いる人間だ…その前で、オレの好きな女をイジメれば、自分のマイナスにしか、ならない…そういうことだ…」
「…でも、澄子さんが、好子さんをイジメているのは、透さんも知って…」
「…見るのと、聞くのとは、違うだろ?…」
「…どういうことですか?…」
「…直接、澄子が、好子をイジメる姿を見るのと、誰かから、聞いたのとは、違う…」
「…」
「…澄子は、オレの前で、自分の不利になることは、決してしない…アイツは、そういう女だ…計算高い女だ…」
その言葉で、以前、澄子さんの夫の直一さんの言った言葉を思い出した…
たしか、そのときも、似たような言葉を言っていた…
もちろん、計算高いという言葉ではない…
だが、似たような言葉…
勘が鋭いとか…
周囲の空気を読むのが、うまいとか…
とにかく、機を見るに敏…
立ち回りが、うまいということだ…
要するに、抜け目がない(苦笑)…
透は、将来の水野グループのトップ…
そのトップの前で、そのトップが、好きな女をイジメるのは、不利…
自分にとって、悪い情報を与えるだけだからだ…
そして、そこまで、考えたとき、澄子さんが、透に、好子さんの情報を与えたことに、納得した…
権力者にうまく取り入ろうとしている…
水野という権力者に、うまく取り入ろうと、している…
そういうことだからだ…
だから、好子さんの情報を透に教えたのだろう…
私は、思った…
思ったのだ…
そして、ようやく、そのことが、わかると、まるで、質問の答え合わせをするように、
「…どう、わかった?…」
と、透が、聞いてきた…
「…ハイ…わかりました…」
と、間髪入れずに答えた…
が、
まだ、なぜ、透が、私に電話をかけてきたのか、わからない…
私は、その理由を、考えた…
すると、ひとつの答えが、浮かんだ…
もしかして…
もしかして…
私の頭の中に、浮かんだ答えを、たしかめるべく、透に、聞いてみることにした…
「…透さん、ひとつ、聞いていいですか?…」
「…なに?…」
「…今日、私に電話をかけてきた目的です…」
「…目的?…」
「…今、私に電話をかけてきたのは、好子さんに、澄子さんに、気をつけろと、言いたいのでしょ?…」
「…」
「…私を通じて、私と好子さんが、どんな話をしていたのか、知りたい…たぶん、それもあるでしょう…でも、本当の目的は、好子さんに、警告したいのでしょ? 澄子さんに、気をつけろと…」
「…」
「…別れても、好子さんのことを、お好きなんですね…」
私が、言うと、透が、
「…」
と、黙った。
しかも、長時間…
びっくりするほど、長時間、黙った…
こちらが、思わず、
「…透さん、聞いてますか?…」
と、言いたいほど、長い間、黙った…
それほど、長い時間、黙った…
思わず、私が、
「…透さん、聞いてますか?…」
と、言いかける直前に、電話の向こう側から、
「…そりゃ、そうだよ…」
と、いう声が聞こえてきた…
「…好子のことは、ずっと前から、好きだった…子供の頃から、ずっと、好きだった…それは、別れても、同じ…好子が、この後、誰と結婚しようが、好子を好きなことは、たぶん、一生、変わらない…」
「…」
「…だったら、なんで、別れたんだと、聞きたいだろうが、こればかりは、しょうがない…」
「…しょうがない? …どうして、しょうがないんですか?…」
「…よく世間であるだろ? 友達同士なら、楽しいし、気も合う…でも、夫婦になると、違う…ダメ…」
「…どうして、ダメなんですか?…」
「…友達は、友情…夫婦は、愛情…似て非なるものだ…」
「…」
「…互いに求めるものが、違う…だから、オレは、好子に女を求めるが、好子は、オレを男として、見ない…単なる幼馴染として、見る…そういうことだ…」
「…」
「…だから、別れた…いや、別れざるを得なかった…これは、家は、関係ない…水野も、米倉も、関係ない…」
「…」
「…でも、好きなのは、変わらない…別れても変わらない…」
「…」
「…たしかに、今、高見さんに電話を、かけたのは、澄子に用心しろと、好子に伝えるためだ…いくらなんでも、今日、好子が、誰と、どこで、会うのか、筒抜けなのは、用心しなさ過ぎだ…少しは、身内を含めて、用心しろ、と、言いたかったんだ…」
「…」
「…まさか、こうも簡単に、高見さんに、気付かれるとは、思わなかった…」
「…偶然です…」
「…偶然?…」
「…そうです…」
「…偶然でも、当たれば、たいしたものだ…」
透が言う…
「…親父も、お袋も、アンタを好きな理由がわかる…」
「…エッ?…」
「…親父も、お袋も、アンタが、お気に入りだ…まだ、オレと結婚させようと、思っている…」
「…ウソ?…」
「…ウソじゃない!…」
なんて、答えていいか、わからなかった…
答えようが、なかったからだ…
なにしろ、私と透とは、身分が、違い過ぎる…
江戸時代で言えば、大名と、水飲み百姓ぐらい、身分が、違う…
とても、結婚なんて、考えることは、できない…
だから、
「…そんな…」
と、呟いた…
「…そんな夢みたいな…」
私が、言うと、
「…大丈夫だ…」
と、透が、答えた…
「…大丈夫って?…」
「…オレにその気はない…」
「…」
「…好子と別れたばっかりで、さすがに、好子そっくりの女と結婚するのは、ごめんだ…」
「…」
「…だから、安心していい…」
…安心?…
…なにに、安心するのか?…
透が、私を口説かないことに、安心しろと、言うのか(苦笑)?
考えた…
が、
そんなことを、考えて、答えが出ない間に、
「…じゃ、これで…」
と、透が、言った…
「…とにかく、今度、高見さんが、好子に会ったときに、行動には、気をつけるように、言ってくれ…とくに、身内には…」
と、言って、電話を切った…
こちらが、声を挟む間もなく、電話が切れた…
これには、頭に来た…
正直、むかっ腹が立った…
が、
後の祭り…
すでに、電話は、切れた…
私はただ、この怒りをぶちまけるすべが、ないことに、落胆した…




