恋かもしれない…恋愛偏差値ゼロ 第3部 44
深まったのだ…
だから、直接、
「…失礼ですが、透さんは、今日、どうして、私に電話を…」
と、聞いた…
当たり前のことだ…
「…好子が、高見さんに、会ったと思ってね…」
「…それが、一体?…」
「…アイツは、今も言ったように、スポンサー探しに忙しい…」
「…それは、わかりました…でも、それが、私と一体、なんの関係が…」
「…おおありさ…」
「…おおあり…」
「…アイツは、水野から、お金を引き出そうとしているのさ…」
「…ウソ!…」
思わず、口に出してしまった…
だって、そうだろう…
米倉と水野は、つい最近、合併が、破談したばかり…
別れたばかりだ…
それが、水野にスポンサーになってくれとは、あまりに、虫がよすぎる…
自分勝手すぎる…
そう、思ったからだ…
「…ウソじゃない、ホント…」
間髪入れずに、透が、電話の向こう側から、言った…
「…一番、いいやすい相手だからだよ…」
「…いいやすい相手?…」
「…頼みやすい相手ともいえる…」
「…」
「…だから、合併は、破談したが、金は、貸してもらいたい…誰だって、こんな都合のいい話は、ないと、思うし、本人もわかっているが、昔から、知っているから、誰よりも頼りやすいし、誰よりも、言いやすい…」
「…」
「…ホント、ひとをバカにしているというか…世の中をなめ切っているというか…」
「…」
たしかに、その通りなら、透の言う通りだろう…
ホントなら、こんなに、ひとをバカにした話は、ないし、なにより、世の中をなめ切っている…
あまりに、自分勝手…
自分に都合よく考え過ぎているからだ…
が、
本当にそうか?
あの好子さんが、本当に、透に、そう言ったのか?
ふと、気付いた…
たしかに、好子さんと、透とは、幼馴染…
おまけに、つい最近まで、結婚していた…
だから、ある意味、これ以上ないほど、親しい…
それゆえ、金を貸してくれと、頼みやすい…
が、
これは、個人ではない…
米倉と水野の企業同士の問題…
個人の問題では、金を貸してくれと言っても、普通は、多くても、百万や、二百万に過ぎないだろう…
しかしながら、米倉や水野は、お金持ちだから、これが、一億や二億に跳ね上がるかも、しれない…
だが、それが、限度だろう…
が、
企業同士となると、桁が違う…
すぐに何十億や、何百億の融資となるだろう…
いかに、トップ同士親しくても、とても、簡単に貸すことが、できる金額ではない…
だから、本当にそうか?
あの好子さんが、そう言ったのか?
疑問だった…
好子さんは、常識人…
そんな自分勝手なことを、言い出すような人間には、見えないからだ…
あるいは、いかに、常識人でも、企業のこととなると、違うのかも、しれない…
いや、
常識人でも、追い詰められれば、違うのかも、しれない…
これは、誰だって、同じ…
追い詰められれば、行動が変わる…
エッ? あのひとが、こんなことを?…
と、思うような行動をするからだ…
それゆえ、
「…好子さんが、そんなことを…」
と、呟いた…
つい、口にしてしまった…
途端に、間髪入れずに、
「…いや、まだ、好子から、直接聞いてはいない…」
と、透が、答えた…
「…エッ? だったら、どうして?…」
「…好子の周辺から、聞こえてきたんだ…ハッキリ言えば、米倉の関係者から、聞こえてきたんだ…」
それで、合点がいった…
この透は、まだ、好子さんから、直接聞いたのでは、ない…
直接、言われたのではないかも、しれないが、周囲の人間から、聞こえてきた声を聞いたのだろう…
なにしろ、この透と、好子さんは、幼馴染…
親同士が、まるで、親戚のように、親しかったというから、案外、好子さん以外の米倉の人間から、聞いたのかも、しれない…
私は、そう思った…
そう、思ったのだ…
すると、だ…
透が、笑いながら、
「…高見さん、誰から、聞いたのか? オレに聞かないの?…」
と、からかうように、言った…
私は、
「…」
と、絶句した…
そんなことを、普通、聞く人間は、いないし、たとえ、聞いたところで、誰もが、答えないだろう…
守秘義務といえば、おおげさだが、普通は、教えないものだ…
教えれば、私が、その人間に、問い詰める可能性があるからだ…
いや、私以外でも、同じような状況になったら、教えた人間に、直接、問い詰めかねない…
マスコミでいえば、取材源を明らかにするようなものだからだ…
だから、
「…聞いたところで、教えてくれないでしょ?…」
と、私は、言った…
わざと、冷淡に言った…
「…いや、教えるよ…ほかならぬ、高見さんの頼みだ…」
電話の向こう側から、透が、軽い調子で言う…
それゆえ、私も、
「…誰ですか?…」
と、聞いた…
透の誘いに乗ったのだ…
「…澄子さ…」
「…澄子?…」
その名前は、聞いたことがある…
その名前は、たしか…
私が、考え込んでいると、
「…好子の姉だよ…」
と、あっさり、透が、言った…
私は、それで、思い出した…
澄子さんのことを、思い出した…
あの澄子さんは、好子さんの天敵…
いつも、好子さんをイジメていた…
私が、以前、米倉の家を訪れたとき、なぜ、澄子さんが、自分の妹の好子さんを、イジメているのか、わからなかった…
が、
今、考えれば、わかる…
あの澄子さんは、知っていたのだ…
好子さんが、米倉の正統後継者であることを、知っていたのだ…
だから、悔しくて、仕方がない…
自分は、同じ米倉であるが、正統後継者でも、なんでもない…
ただ、米倉の一族であるだけ…
いわば、傍流…
最初から、好子さんとは、違う…
身分が違う…
それが、わかっているから、余計に悔しくて、仕方がなかったのだ…
さらに言えば、好子さんは、美人…
小柄だが、美人だ…
私と同じく、若い頃の女優の常盤貴子さんを、小柄にした感じの美人だ…
あの澄子さんも、好子さんと同じく、小柄だが、美人ではなかった…
ルックスは、悪くは、ないが、美人と呼べるほどでは、なかった…
しいて言えば、平凡…
平凡な容姿の持ち主だった…
だから、余計に悔しいのかも、しれない…
同じ家に、住み、自分は、平凡なルックスで、妹は、美人…
おまけに、妹は、将来、米倉を継ぐことが、決まっている…
自分は、部外者…
最初から、なんの関係もない…
同じ姉妹だが、最初から、立ち位置が違う…
それが、悔しくて、仕方がないのだ…
これが、また、好子さんが、他人ならば、違ったのかも、しれない…
が、
あまりに、身近…
姉妹だから、いっしょに暮らしている…
だから、悔しさも、一層増すのかも、しれない…
なんの関係もない、赤の他人より、一層、悔しさも、増すのかもしれない…
いわば、近親憎悪…
本当の姉妹ではないのだが、薄いとはいえ、同じ米倉の血が流れているのだから、なぜ、自分は、美人に生まれなかったのか?
正統後継者に生まれなかったのか?
それを、考えると悔しくて、仕方がないのだ…
私は、そう、気付いた…
あの澄子さんは、たしか、正造の一つ上…
正造と、母が、同じ姉妹だと、聞いた…
だから、父は、同じ…
同じ平造だ…
米倉家前当主だ…
平造は、傍流出身…
米倉一族であるが、分家出身…
それが、本家のお嬢様と、結婚して、米倉本家を継いだ…
そして、その本家のお嬢様である、平造の妻になった女性の、連れ子が、好子さんだった…
だから、好子さんは、米倉本家の血を継いでいる、ただひとりの人間…
それゆえ、正統後継者…
米倉の正統後継者だった…
そして、正造や、澄子さんと、好子さんは、年齢が、十歳以上、離れている…
だから、最初から、澄子さんは、自分の立ち位置がわかっていた…
だから、余計に悔しくて仕方が、なかったのだろう…
それゆえ、幼い好子さんを、イジメた…
そういうことだろう…
私は、今、それを、思い出した…
透の言葉で、すっかり、忘れていた、澄子さんのことを、思い出した…
そして、私が、ようやく、澄子さんのことを、思い出すと、
「…思い出した? …高見さん?…」
と、電話の向こう側から、確かめるように、言った…
私は、ただ、
「…ハイ…」
と、言った…
たしかに、思い出したが、それは、いい思い出ではない…
ハッキリ言えば、悪い思い出…
嫌な思い出だ…
目の前で、イジメを見ている…
それは、誰もが、気持ちのよいものでは、ないからだ…
すると、私の思いが、わかったのか、
「…なんだか、微妙だな…」
と、透が、言った…
「…微妙? どういう意味ですか?…」
「…澄子のことだ…高見さん、澄子のことを、嫌いだろ?…」
「…どうして、そう思うんですか?…」
「…澄子は、好子をイジメていた…きっと、それを、高見さんが、見て、自分が、イジメられている気分になるんじゃないかと、思って…」
透が、言った…
思いもかけないことを、言った…




