恋かもしれない…恋愛偏差値ゼロ 第3部 41
好子さんの口から出た言葉は、予想通りだった…
あまりにも、予想通りだった…
だから、呆気なさ過ぎた…
それゆえ、実は、私は、騙されているのかも?
もしかしたら、好子さんの仕掛けた罠にはまったのかも?
とも、思った…
好子さんが、なぜ、私に罠を仕掛けるのか?
わからない…
が、
こうまで、簡単に、私が、思った通りの展開になると、真逆に疑いたくなる…
真逆に、疑いたくなってくるのだ…
そして、そんなことを、考えていると、
「…どう? 高見さん、お願いできる?…」
と、笑いながら、好子さんが、言ってきた…
が、
その目は、笑ってなかった…
真剣だった…
笑いも、こわばっていた…
だから、言葉を換えれば、好子さんの切実さを表していた…
どうしても、透が、なにをするか?
知りたい…
でも、自分では、聞けない…
そんなもどかしさを表していた…
そして、それに、気付くと、
「…いいですよ…」
と、私は、答えた…
自分でも、ビックリするほど、あっさりと、答えた…
「…困ったときは、お互い様です…」
と、まで、調子良く続けた…
まるで、
…これが、自分の言ったことか?…
…ウソ!…
とでも、言いたくなった…
自分のことなのに、自分で、驚いた…
もうひとりの自分がいて、その自分が、勝手に、調子よく言っている…
そんな感じだった(笑)…
そして、私の返答を聞くと、
「…ホント!…助かる!…」
と、好子さんが、声を上げて喜んだ…
その好子さんの声が、少しばかり、大きすぎたのだろう…
店中の人間といえば、おおげさだが、店内にいた大半の人間が、私たちを、見た…
そして、おそらく、驚いたに違いない…
同じ顔をした二人が、話している…
しかも、美人…
自分で、言うのも、おかしいが、美人だ…
今の好子さんの声で、きっと、同じ店内に、美人の姉妹がいることが、バレたに違いなかった(苦笑)…
いや、
美人の姉妹ではない…
好子さんのルックス…
どこかで、見たことがあるとでも、思ったのだろうか?
至る所で、ヒソヒソと、囁き合う姿が、見て取れた…
なんといっても、好子さんは、有名人…
米倉家のお嬢様だ…
つい先日まで、水野のお坊ちゃまである、透との結婚と離婚で、世間を賑わせた…
そのときに、当然、好子さんの姿が映る…
その結果、美人と評判になった…
当然、世間はまだ、それを、覚えている…
それゆえ、今、好子さんの正体に気付いたものも、この店のお客様の中にいるかも、しれない…
そして、それは、私同様、好子さんも、同じだったようだ…
「…高見さん…そのカフェオレ、飲み終わったら、店を出ましょう…」
と、好子さんは、素早く言って、すぐさま、自分のカフェオレを飲み干した…
私もまた、同じ…
好子さんと、同じく、急いで、自分のカフェオレを飲み干した…
そして、私が、自分のカフェオレを飲み干したのを、見て、
「…高見さん…出ましょう…」
と、言って、好子さんが、席を立った…
それを、見て、私も同じく、席を立った…
会計は、好子さんが、
「…私が誘ったから…」
と、言って、払った…
ホントは、ここで、私が、
「…いえ、自分の分は、自分で払います…」
と、言えば、いいのだが、言わなかった…
言えば、好子さんのプライドを傷つける気がしたからだ…
もし、私が、そんなことを、言えば、
「…私が、そんなはした金を払えないとでも、思っているの?…」
と、逆切れしそうな予感が、したからだ…
だから、言わなかった…
黙って、好子さんに、おごってもらうことにした…
店を出ると、
「…じゃ、高見さん、これで…」
と、私に挨拶して、好子さんは、歩き出した…
言葉は、悪いが、用事が済めば、私に用はないと言った感じだった…
が、
悪意はない…
しいて言えば、自分勝手…
相手のことなど、お構いなしに、自分の意見を優先する…
あるいは、自分の行動を優先する…
が、
それで、良いのかも、しれない…
なにしろ、好子さんは、米倉家のお嬢様…
大金持ちのお嬢様だ…
だから、行動が、自分勝手になっても、仕方がない…
さらに、好子さんは、美人…
生まれながらに、子供の頃から、男たちにちやほやされて、生きてきたろう…
これでは、自分勝手にならないはずはない…
当たり前のことだった…
そして、私は、今日、そんな好子さんに、会社帰りに振り回されただけだった…
お金持ちの道楽?に、振り回されただけだった…
が、
嫌な気はしなかった…
それは、なぜか?
それは、私が、好子さんを、嫌いではないからだろう…
それに、尽きる…
嫌いな人間に頼み事をされれば、それが、どんなに簡単なことでも、嫌なものだ…
だが、好子さんは、それに当てはまらない…
金持ちの道楽?とは、思わないが、好子さんに振り回されても、いいと、思った…
そして、それを、考えると、ふと、透のことを、思った…
好子さんに、頼まれて、これから、接触する、水野透のことを、考えた…
透は、お金持ちだが、好子さんと、違って、自分勝手ではない…
それは、透が、愛人の子供だから…
水野家当主、水野良平が、外に作った子供だからだ…
だから、本来、水野財閥の後継者になる人物ではない…
それが、なれたのは、水野良平に、正式な子供がいないから…
妻の春子との間に、子供がいないからだ…
それゆえ、良平は、透を、引き取った…
自分の後継者にするためだ…
水野は、戦前から、続く名門企業…
戦前は、日本で、二十大財閥に数えられた名門企業だ…
以来、水野一族が、経営を担っている…
が、
良平は、水野一族の分家出身…
本来は、本家を継ぐ人間ではない…
しかしながら、その能力を買われ、本家のお嬢様である、春子と結婚した…
その結果、分家出身の良平が、本家に婿入りした…
だから、良平は、水野のトップであるが、事実上の水野のトップは、妻の春子…
良平は、妻の春子に頭が上がらない…
そして、そんな環境の本家に、透は、もらわれた…
だから、立場が弱い…
父親の良平の立場が、悪いからだ…
子供ながら、それに気付いたのだろう…
それゆえ、大金持ちの跡取り息子になったにも、かかわらず、周囲に気を遣うようになった…
そして、それが、好子さんとの、違い…
透と、好子さんとの違いだ…
同じ大金持ちの子供に生まれても、育った環境の違いだ…
そして、そこまで、考えると、もしかしたら、透と、好子さんの離婚の原因は、ここにも、あるのかも? と、思った…
生粋のお嬢様の好子さんと、一般家庭から、大金持ちの跡取り息子になった透…
二人とも、大金持ち子供だが、いわば、生まれつき、大金持ちの子供に生まれたのか?
あるいは、途中から、大金持ちの子供になったのか?
で、生まれ育った環境が、違ってくる…
それゆえ、結婚しても、それが、出るのかも、しれない…
生粋のお嬢様である、好子さんと、子供の頃に、大金持ちの家庭にもらわれた透…
その違いが、結婚して、いっしょに、生活を始めるにあたって、出たのかも、しれない…
さまざまな意見の違いが、出たのかも、しれない…
生まれ育った環境が、違えば、まずは、お金の使い方が、違う…
例えば、クルマを買うにしても、一千万のクルマを買うのか?
それとも、百万円のクルマを買うのか?
その違いだ…
これは、生活全般に及ぶ…
片方が、高いと思う買い物でも、もう片方は、普通と思う…
衣服ひとつ買うのでも、十万円出すか?
それとも、五千円出すか?
その違いだ…
そして、当然のことながら、衝突する…
一方は、そんなものに、高い金を出すな!
と、言い、
もう一方は、そんな安物を着れば、恥ずかしい!
と、言い出すに違いない…
それで、ケンカになる…
そんなケースが、多いに違いない…
私は、店から、出て、歩き出す好子さんの小柄な背中を見ながら、そう思った…
そう、考えた…
そして、私は、ひとりで、帰途に着いた…
家に帰ると、今日は、ホントに疲れたと、思った…
肉体的な疲れではない…
精神的な疲れだ…
またも、米倉と水野に翻弄されるかも?
と、思って、精神的に疲れた…
私は、水野でも、米倉でも、なんでもない…
なのに、なぜ、私が、巻き込まれるのか?
誰かに、聞きたくなる(笑)…
あるいは、
神様に聞きたくなる(笑)…
いや、私は、米倉…
米倉一族の血を引いていると、以前、新造さんが、言っていた…
好子さんの腹違いの弟である、新造さんが、以前、私に言っていた…
私の祖父の祖父あたりが、米倉の一族であると、言っていた…
それゆえ、私は、米倉の血を引いている…
だから、米倉の正統後継者の好子さんと、顔が、似ていると、言っていた…
私は、それを、思い出した…
今、思い出した…
が、
それは、ごく薄く血が繋がっているだけ…
我が家は、サラリーマンの家庭で、米倉とは、なんの関係もない…
米倉と違って、お金持ちでも、なんでもない…
ただの平凡な家庭だ…
私自身、これまで、33年生きてきて、お金持ちと接したことは、一度もなかった…
好子さんや、透に会うまで、お金持ちと接したことが、一度もなかった…
彼らと接して、初めて、お金持ちと接した…
が、
私は、羨ましくも、なんとも、ない…
これは、強がりとか、言うのではない…
最初から、私と彼らとは、なんの関係もないからだ…
私が、いくら頑張っても、米倉や水野の一族と結婚できるはずもない…
金持ちは、金持ち同士で、結婚するものだからだ…
これが、ウソと思うなら、ネットで、検索してみれば、わかる…
トヨタ会長の豊田章男氏の息子は、出光興産の一族の娘と結婚した…
金持ちは金持ち同士、結婚する…
生まれも環境も似た者同士、その方が、気があうに違いない…
そして、これは、学歴も同じ…
例えば、早稲田や慶応を出て、偏差値40前後の高校を出たものと、結婚しても、話が合わない…
最初は、相手のルックスや相手の頭の良さに惹かれて、結婚しても、結婚生活が、続けば、話が合わないことに、気付く…
もしも、早稲田や、慶応に通うものが、身近にいなければ、自分の身近な偏差値の高い高校出身と、偏差値の低い高校出身のもの同士が、結婚したと、考えれば、いい…
当然、うまくいかないだろう…
これは、差別でもなんでもない…
年収も学歴も、自分と似たものと結婚すれば、互いの違いが、少ないから、うまくいく確率が高いからだ…
もちろん、互いの性格もある…
ヤンキーはヤンキー同士…
おとなしいものは、おとなしいもの同士結婚した方が、うまくいく場合が多い…
互いが、似た者同士だからだ…
だから、うまくいく確率が高い…
そして、そんなことを、考えながら、ならば、なぜ、私は、結婚できないのか?
考えた…
そこまで、考えて、なぜ、自分は、結婚できないのか?
考えた…
もしや、評論家になっている?
他人のあらを探すことはできるが、いざ、自分がやると、うまくいかない…
そういうことだろうか?
考えた…
なぜか、好子さんや、透のことから、そんなことを考えた…
だから、ダメなのかも?
だから、自分は、結婚できないのかも?
と、考えた…
評論家になりすぎて、あれこれ考えすぎる…
だから、結婚できないのかも?
と、悩んだ…
これでは、藪蛇…
好子さんや、透のことから、なぜ、私が結婚できないか?
に、話題が移った…
そして、これは、不都合…
自分に不都合な話題だった…
だから、藪蛇だった(苦笑)…




