恋かもしれない…恋愛偏差値ゼロ 第3部 38
が、
ホントにそうか?
考えた…
仮に、あの米沢京子が、この好子さんの言うように、水野良平の一声で、今の会社に入社できたとしても、私が、同じように、入社できたことを、あの米沢京子は、知る由もないだろう…
いや、
普通は、知らないものだ…
普通は、わからないものだ…
会社の人事部や、あの支店の営業所長ならば、なんらかのことは、知っている可能性は、高い…
水野のトップの指示で、彼女を入社させたと、知っている可能性は、高い…
現実に、あの会社の人事部に命じて、私や米沢京子を入社させたからだ…
が、
当然ながら、いかな人事とて、人事部の全員が、それを、知っているわけではないだろう…
普通、そういうことは、ごく一部の人間に命じて、内密に行うものだからだ…
そうでなければ、その情報が、拡散してしまうからだ…
そして、それが、噂になり、なにかと、弊害になるからだ…
と、
そこまで、考えて、ふと、気付いた…
おかしい?
なにが、おかしいのか?
今、この好子さんは、米沢京子が、透の愛人だと言った…
それが確かならば、果たして、水野良平は、透の愛人の面倒を見るだろうか?
いや、
むしろ、透が、命じて、米沢京子を、今の会社に入社させたのならば、わかる…
なにしろ、自分の愛人だ…
面倒を見ようとするのは、わかる…
が、
もしかしたら?
もしかしたら、透では、ダメなのかも、しれない…
透では、できないのかも、しれない…
透は、まだ三十そこそこ…
三十そこそこの若造だ…
だから、米沢京子を今の会社に入社させるのも、父親の力を借りなければ、ダメなのかも、しれない…
父である、良平の力を借りなければ、人事を動かせないのかも、しれない…
そう、思える…
が、
それは、わかったが、それならば、果たして、あの水野良平は、透の愛人だった女性と、私を同じ部署に配属するだろうか?
同じ営業所に配属させるだろうか?
甚だ疑問だ…
透は、私を好きだった…
父親の良平もそれを、知っている…
それを、知っていて、私と透の愛人だった女を、同じ会社の同じ営業所に配置するだろうか?
あの米沢京子が、私を透が、好きだった女と、知れば、当然、いい気は、しないだろう…
しかも、片思い…
透の片思いだ…
肉体関係もなにもない(苦笑)…
それを、知れば、余計に頭にくるのでは、ないか?
肉体関係があって、好きだったのなら、まだいい…
肉体関係もなにもなく、ただ好きだった…
しかも、まだ、それを、引きずっているとなれば、余計に頭がくるのではないか?
私は、そう、思う…
また、私自身も最初は、透が、好きだった…
透は、お調子者…
常に、ピエロに徹して、周囲の人間を、笑わせるのが、好きだった…
そして、私は、透が、ピエロ=道化師に徹している姿が好きだった…
周囲の空気を読み、周囲を笑わせる…
誰にでも、できることでは、ないからだ…
しかし、それが、仮面であることが、わかった…
いや、
仮面であることは、最初から、わかっている…
いかに、道化師に徹していても、中身まで、道化師の人間は、いないからだ…
頭がおかしくない限り、いないからだ(笑)…
だが、実際に、透が、ピエロの仮面を脱いだとき、落胆した…
率直にいって、差があり過ぎた…
透の素の姿を見たとき、透に感じていた、ときめきというか…
自分を殺して、周囲の人間を笑わせる姿と、冷徹に、物事を語る姿の差が、大きすぎた…
だから、落胆した…
そして、透に、感じていた、私の気持ちも、透から、離れた…
率直にいって、透は、私が、初めて、気になった男だった…
初めて、意識した男だった…
33歳になって、初めて、好きになりかけた男だった(苦笑)…
33歳になるまで、異性にときめいたことも、ない…
異性を意識したことはない私が、初めて、好きになりかけた男だった…
それまで、なぜ、異性を好きにならなかったのか、正直、わからない(苦笑)…
学生時代の仲の良い友人からは、
「…高見は、美人だから、理想が高すぎるのよ…」
と、よく、からかわれたものだ…
しかしながら、自分には、理想もなにも、なかった…
ただ、ときめかないのだ…
どんなイケメンに口説かれても、ときめかないのだ…
真逆に、友人や、知人が、普通に、男と、付き合っているのが、不思議だった…
だから、男と付き合っている友人たちに、聞いたことがある…
「…どうして、付き合い出したの?…」
と、直球で、聞いたことがある…
すると、
「…どうしてと、言われても…」
と、友人たちが、戸惑った…
それから、しばらくして、
「…なんとなくというか…バイト先が、いっしょで、それが、縁で、付き合うようになったとか…」
「…彼に告られて…」
とか、言う言葉が続いた…
「…そんなに、好きだったの?…」
と、またも、直球で、聞いた…
「…いや、好きというか、なんとなく、付き合いだして…」
とか、
「…とりあえず、告られたから、付き合いだして…」
とか、
曖昧な言葉が続いた…
そして、真逆に、その友人たちから、
「…高見は、深く考え過ぎるんだよ…」
と、言われた…
「…考え過ぎる? …どういうこと?…」
と、私。
「…軽く、付き合えば、いいんだよ…」
と、友人…
「…軽くって?…」
「…単なる暇つぶしって、言うと、言い過ぎだけれども、今、こうして、私たちと付き合っているのと、同じに考えれば、いいんだよ…」
「…」
「…高見は、肩ひじ張り過ぎっていうか…深く、考え過ぎ…別に、男と、付き合っても、結婚するか、どうかなんて、わからないでしょ? 恋愛と結婚は、別っていうか…恋愛の先に、結婚があるとは、限らないでしょ?…」
「…」
「…高見は、美人だから、警戒しているんだと、思う…好きでもない男と付き合って、無理やりホテルに連れ込まれでも、したら、困るとか、そうでしょ?…」
「…それは…」
言葉もなかった…
たしかに、それを、考えたこともある…
だが、それ以上に、好きでもない男と、付き合う女の気持ちが、わからなかった…
好きだから、付き合う…
それが、根底にあるからだ…
だから、男と付き合ったことがない…
33歳の今まで、付き合ったこともない…
そういうことだからだ…
そんな私が、初めて、意識した男が、透だった…
出会いは、偶然…
街中で、雨の日に、私がさす傘が、偶然、透に、ぶつかった…
ぶつかったことに、気付かなかった私は、そのまま、歩いていたが、透が、
「…ぶつかってるよ…」
と、文句を言った…
私は、身長155㎝と、小柄…
対する透は、180㎝近くある…
だから、小柄な私は、透に傘が、ぶつかったことが、わからなかった…
傘がぶつかったことを、指摘された私は、すぐに、
「…すいません…」
と、謝った…
小柄な私は、大柄な透が、怖かったといえば、言い過ぎだが、いきなり、
「…ぶつかったよ…」
と、言われて、どうしていいか、わからなかった…
文字通り、困惑した…
仮に、透が、怒って、私をどこかに、連れ去ろうとしても、小柄な私は、抵抗できないからだ…
だから、恐怖した…
正直、透が、怖かった…
が、
透は、私が、謝ると、すぐに、ニコッと笑って、
「…謝ったのなら、それでいいよ…」
と、言って、
「…じゃ、さよなら…美人の当たり屋さん…」
と、言って、歩き出した…
そして、数日後、透は、当時の私の勤める会社に、顔を出した…
当時、私の勤めていた金崎実業の納入業者として、顔を出した…
再会した…
そして、あの日、私の傘が、透にぶつかったときの印象が、私の心に蘇った…
鮮やかに、蘇った…
きっと、そのせいだろう…
透を、好きになった…
おそらく、ひとを、好きになる、きっかけなんて、そんなものだろう…
日常のほんの些細なことが、きっかけになる…
真逆に、嫌いになる、きっかけも、同じ…
よくあるのが、店に行ったときに、店員に対して、横柄になるタイプ…
基本、相手が、反論しないから、強気な態度に出る…
それを、見て、幻滅するパートナーも、多い…
これは、大半が、女が、男の行動に、幻滅するのだが、稀に、男が、女の行動に、幻滅することもある…
要するに、ちょっとしたことで、相手の本性が出るということだ(苦笑)…
それまで、付き合っていて、気付かなかった本性が、出るということだ…
一方、好子さんも、私と同じ…
32歳の今まで、男と付き合ったことがないと、言った…
が、
好子さんの場合は、私と事情が違う…
米倉のお嬢様である、好子さんは、自分を守るために、あえて、男と付き合わなかった…
変な男と付き合って、米倉の名前を汚すことになれば、大変だからだ…
好子さんは、大金持ちのお嬢様…
おまけに、美人だ…
私同様、身長155㎝程度と小柄だが、美人だ…
それゆえ、男にモテる…
大金持ちで、美人…
当たり前だが、モテモテだ…
だから、余計に、困る…
変な男にひっかかっては、困る…
だから、警戒した…
自分自身、警戒した…
そして、好子さんが、男と、付き合わなかった、もう一つの理由…
血の繋がってない兄の正造が、一計を、案じて、幼い好子さんに、
「…将来、結婚しよう…」
と、囁いたことだ……
実は、これは、好子さんを、守るため…
好子さんの関心を自分に向け、他の男に、目が向かないように、仕向けた…
これも、正造が、イケメンだから、できたことだった…
普通の人間なら、できない…
透なら、できないことだった(苦笑)…
イケメンの正造だから、できたことだった…
イケメンの正造だから、幼い好子さんの心を掴むことが、できたからだ…
そして、そんな正造の思惑通り、好子さんは、大人になっても、正造以外の男に、目をくれなかった…
結果、正造の、思惑通りになった…
好子さんを、守ることが、できた…
そして、私が、そんなことを、考えていると、好子さんが、
「…なにを考えているの?…」
と、言った…
うっすらと、笑みを浮かべながら、言った…
それから、
「…やっぱり、高見さんも、驚いた?…」
と、繰り返して、聞いた…
「…驚いた? なにを、ですか?…」
「…その米沢さんを、高見さんのいる会社に入れたのが、水野のおじさまだと、聞いて…」
と、言った…
ずばり、私の心の中を読み取った…




