恋かもしれない…恋愛偏差値ゼロ 第3部 37
そして、私が、そんなことを、考えていると、突然、好子さんが、
「…その米沢京子ってひと、気が強いでしょ?…」
と、言った…
いきなり、言った…
が、
どうして、いきなり、好子さんが、そんなことを、言うのか、わからなかった…
正直、面食らった…
だから、
「…いきなり、なにを…」
と、当惑して、言った…
すると、目の前の好子さんが、まるで、いたずらっ子のような顔で、
「…透の女の好み…」
と、笑った…
「…透さんの女の好み?…」
「…アイツ、気がちっちゃいでしょ? だから、昔から、強い女が、好きなの…」
「…エッ?…強い女?…」
思わず、絶句した…
まさか、いきなり、そんな話になるとは、思わなかったからだ…
「…きっと、自分にないものだからかな…だから、憧れる…背の低い女が、背が高い男に憧れたり、学歴がないひとが、東大卒の頭のよいひとに憧れたりするのと、同じ…」
「…」
「…たぶん、自分を引っ張っていってくれると、思っているのかも、しれない…あるいは、自分を守ってくれると、思っているのかも、しれない…」
そう言って、実に、楽しそうに、好子さんは、笑った…
私は、それを、聞いて、唖然とした…
自分を引っ張ってくれるというのは、ともかく、自分を守ってくれるなんて、まさか…
透は、真面目で、おとなしげな外観だが、背は高く、そこまで、ひ弱な印象はない…
それゆえ、守ってくれると、いう、好子さんの言葉に、驚いた…
だから、
「…好子さん、いくらなんでも、守ってくれるなんて…」
と、言った…
が、
好子さんは、
「…言い過ぎじゃないわ…」
と、短く答えた…
「…」
「…たぶん、本能的に、自分の実力が、わかっているんだと思う…」
「…実力?…」
「…っていうか、性格かな…」
「…」
「…大げさに言えば、自分の弱さが、わかっている…だから、その弱さを補うために、強い女を求める…」
「…」
「…その証拠に、私も、高見さんも弱くないでしょ?…」
「…」
「…おまけに、自分でいうのも、なんだけれども、私も、高見さんも、ルックスもいい…だから、透は、私を好きだった…高見さんも、同じ…同じ理由…」
好子さんに、そう説明されると、言葉もなかった…
まさか…
まさか、透が、私を好きな理由が、私が、強いからなんて…
そんな理由だとは、思わなかった(苦笑)…
まさに、まさか、だ…
一瞬、好子さんが、私をからかっているのでは?
とも、思ったが、違った…
その証拠に、好子さんは、真面目…
真面目な表情だったからだ…
そして、そんな私の気持ちが、わかったらしく、
「…もちろん、冗談じゃ、ないわ…」
と、好子さんが、言った…
「…透のことは、子供のときから、知っている…」
その言葉が、ダメ出しだった…
有無を言わせぬ、強烈なダメ出しだった…
「…だから、透の女の好みも、知っている…」
好子さんが、笑う…
実に、楽しそうに、笑う…
「…だから、高見さんに、聞いたの? その米沢さんって、きっと、気が強いと、思って…」
その言葉が、すべてだった…
きっと、今日、好子さんが、私に会いたいと、思った理由のすべてだった…
この言葉で、すべてを、納得した…
なぜ、今日、好子さんが、私に会いたかったのか?
納得した(笑)…
それゆえ、
「…今日、好子さんが、私に会いたかったのは、これが、理由だったんですね…」
と、聞いた…
「…私の会社に、米沢さんが、本当に、いるのか、確かめたかった…」
私は、笑いながら、聞いた…
真面目な顔をするのは、マズい…
冗談でも、言うように、笑いながら、聞くのが、一番…
とっさに、そう思ったからだ…
なぜなら、好子さんが、透を、どう思っているのか、わからないからだ…
なにより、好子さんは、透と、数か月前まで、夫婦だった…
透と、結婚していたのだ…
だから、透を、どう思っているのか、わからない…
なにより、二人が、離婚した理由は、別に、憎みあって、別れたわけでも、なんでもないからだ…
二人の結婚は、政略結婚…
米倉と、水野が、合併するための、政略結婚だった…
米倉のお嬢様である、好子さんと、水野のお坊ちゃまである、透が、結婚することで、両社の合併の象徴になる…
それが、結婚の理由だったからだ…
米倉も、水野も、オーナー企業…
オーナー一族が、自社の株の大半を持ち、社長を務める会社…
だから、互いの企業が、合併するのには、そのトップの一族同士が、婚姻関係を結ぶのが、一番良い…
そういうことだ…
そして、透と、好子さんの別れた原因は、米倉と水野の社風が合わなかったこと…
結婚と同じで、違う社風の会社が、いっしょになって、やっていくのは、難しい…
人間で言えば、ちょうど、性格がまったく合わない者同士が結婚したのと、同じだからだ(笑)…
だから、難しい…
米倉の前当主の平造は、それが、わかっていたのだが、米倉=大日グループは、借金まみれで、このままでは、倒産してしまうのが、わかっていたから、盟友の水野グループ当主の水野良平を騙して、合併を決断させた…
が、
当然、うまいかない…
社風が、あまりにも、違うから、当然だった…
米倉=大日グループは、イケイケの社風…
それゆえ、短期間に、米倉は、急成長、急拡大した…
平造の代で、米倉は、急速に大きくなった…
しかしながら、水野は、真逆…
米倉と真逆の慎重な社風だった…
米倉と違い、戦前から、日本で、二十大財閥に数えられるほど、大きな財閥だったことが、大きい…
それゆえ、急速な改革は、難しい…
ゆえに、そんな両社が、合併しても、遅かれ早かれ、破綻するのは、誰の目にも、明らかだった…
そして、両社の合併の軋轢が、至る所に、表面化した…
そんな最中に、偶然、米倉=大日産業の関連会社が、エネルギー関連の先物取引で、以前、買ったものが、ロシア・ウクライナ戦争を契機に、大幅に価格が高騰…
それで、米倉の抱えた借金が、帳消しになった…
それを、きっかけに、それ幸いと、米倉と水野は、合併を破棄したわけだ…
米倉が、水野を頼らなくても、やっていけると、判断して、合併を解消したわけだ…
つまりは、米倉と水野の合併は、短期間だった…
そして、それは、同時に、米倉好子さんと、水野透の結婚も、短期間だということ…
米倉と水野の合併が、破談になった時点で、二人は、離婚したからだ…
そして、短期間で別れたということは、互いに憎みあって別れたということでは、ないということだ…
どうしても、長年、結婚して、別れた夫婦は、互いに、憎みあって別れる場合が、多い…
互いのいいところも、悪いところも、すべて、見ているからだ…
しかしながら、この好子さんと透のように、短い期間で、離婚すると、それもない…
互いのいいところも、悪いところも、知る時間が、なかったからだ…
透と、好子さんは、幼馴染みで、子供の頃から、知っているが、それと、夫婦になるのとは、違う…
夫婦になって、いっしょに、暮らすのは、違う…
まだ、互いのいいところも、悪いところも、見ていないところが、多いに違いない…
それゆえ、別れても、たぶん、憎みあっていない…
だから、私が、ここで、透のことを、悪く言うことは、できない…
好子さんが、本音では、透のことを、どう思っているのか、わからないからだ…
だから、笑いながら、冗談っぽく、好子さんに、接するのが、一番だと、思った…
一番、無難な方法だと、思ったのだ…
そして、そんなことを、考えて、好子さんと、接していると、
「…たしかに、それもある…」
と、好子さんが、至極、真面目な表情で、答えた…
「…高見さんに、米沢京子というひとのことを、聞きたかった…それもある…」
「…それもある?…」
「…でも、それだけじゃない…」
「…どういうことですか?…」
「…その米沢京子を、誰が、高見さんのいる会社に入れたか?…」
「…誰が、米沢さんを、私のいる会社に入れたって? どういう意味ですか?…」
「…これは、ホントは、言っていいか、どうか、わからないけれども…」
好子さんが、思わせぶりに、言う…
いや、
思わせぶりではなく、ホントに、迷っているようだった…
私は、
「…」
と、黙って、好子さんの次の言葉を待った…
そして、迷った挙句、しばらくして、
「…水野のおじさまなの…」
と、好子さんが、告げた…
「…エッ?…」
実に、意外な名前が出た…
ここで、水野良平の名前が出るとは、思わなかった…
水野財閥当主の名前が出るとは、思わなかった…
「…高見さん、驚いたようね…」
好子さんが、私の反応を見て、言った…
実に、面白そうに、言った…
が、
私は、それどころでは、なかった…
なぜなら、ここで、水野良平の名前が出たからだ…
あの水野良平ならば、あの米沢京子を、私と、同じ会社に入社させるのは、簡単…
なぜなら、私の勤める会社は、水野グループの企業だからだ…
だから、水野グループのトップの力で、簡単に入社させることができた…
水野のトップの一声で、入社させることが、できたろう…
なにより、私が、そう…
私、高見ちづるが、そうだからだ…
水野グループのトップの力で、今の会社に入社できたからだ…
…だから?…
…ひょっとして、あの米沢京子は、それを、知って、私が、自分と同じく、水野良平の力で、入社したから、私を目の敵にした?
そう、思った…
そう、気付いた?…




