恋かもしれない…恋愛偏差値ゼロ 第3部 35
いや、
思いもかけないではない…
これは、当たり前…
当たり前のこと…
米倉よりも、はるかに、規模の大きな五井…
五井が、後ろ盾になれば、米倉の再建は、簡単…
なにより、金を貸してくれるに違いない(笑)…
米倉は、人間で、言えば、病院を退院したばかりのような状態…
まだ、一人では、とても危なっかしくて、歩けない…
カラダが、完全では、ないからだ…
病気から、快復したばかりで、体力が、ないからだ…
それと、同じ…
同じだ…
米倉=大日グループは、まだ完全ではない…
完全に回復していない…
完全に回復するには、お金…
なにより、資金が、必要だろう…
資金援助が、必要だろう…
だから、この米倉好子さんが、諏訪野さんと、結婚するのは、大賛成…
米倉の人間なら、誰でも、願ったり、叶ったりと、思うだろう…
なにしろ、五井だ…
これ以上の、後援者は、いない…
これ以上の後援者=スポンサーは、いないということだ…
五井を後ろ盾にすれば、米倉=大日産業の再建は、容易だと、誰もが、考えるからだ…
だから、そんな五井の援助を受けるためには、米倉のお嬢様である、好子さんが、五井の御曹司と、結婚するのが、一番いい…
五井の若き当主と、結婚するのが、一番いい…
そうなれば、身内…
当主の妻となる…
当主の妻の実家を支援するのなら、誰もが、米倉を資金援助するのを、納得するからだ…
だから、結婚するのが、一番いい…
そして、私が、そんなことを、考えていると、
「…実は、私も、ちょっぴり下心があったのよね…」
と、突然、好子さんが、言った…
「…下心って?…」
と、私。
「…諏訪野さんと、知り合いになって、親しくなれば、もしかしたら、米倉を助けてくれる…資金援助をしてくれるっていう下心…」
好子さんが、笑って告白する…
「…でも、ダメだった…」
「…どうして、ダメだったんですか?…」
「…私を全然、女として、見てくれなかった…」
「…女として、見てくれなかったって?…」
「…高見さんだって、わかるでしょ? 相手が、自分を女として、意識して、見ているか、どうか?…」
「…それは…」
「…誰だって、そう…誰だって、同じ…相手が、自分を女として、意識して、見ているのか、どうかは、相手の態度を見ていれば、わかる…」
「…」
「…でも、後になって、諏訪野さんが、寿さんという恋人がいて、彼女に首ったけだって、聞いてわかった…そんな物凄い美人の恋人が、いるんだから、私なんて、相手にしない理由が、わかった…」
「…」
「…まあ、ぶっちゃけ、失恋よ…失恋…片思いが、破れたってやつ…」
「…でも、それは、好子さんが、一方的に、思っていただけじゃ…」
私が、遠慮がちに言うと、
「…じゃ、高見ちづる…片思いは、恋じゃないって言うの!…」
と、好子さんに、切れられた…
マジで、叱られた…
私は、驚いた…
好子さんが、そんなに、怒るとは、思わなかったからだ…
同時に、
…これって、もしかして、溺れる者は藁をもつかむってやつ…
とも、思った…
率直に言って、好子さんが、全力を尽くしても、諏訪野さんを、落とせるか、どうかは、わからない(苦笑)…
好子さんは、何度も、言うように、美人…
女優の常盤貴子さんの、若い頃を彷彿させる美人だ…
ただ、常盤貴子さんより、小柄…
身長、155㎝と小柄だ…
だが、美人であることは、変わりがない…
だから、五井の御曹司でも、自分なら、落とせると、思ったのかも、しれない(笑)…
実際、好子さんが、心の底から、そう、考えても、おかしくはない…
何度も言うように、好子さんは、小柄だが、美人だからだ…
しかしながら、仮に、五井の御曹司の諏訪野さんと、男女の仲になったとしても、それと、結婚とは、違う…
結婚と、恋愛は別…
いや、
一度や二度、男女の仲になったとしても、それは、恋愛とも、言えない…
ただ、寝ただけだからだ(爆笑)…
それでは、恋愛でも、なんでもないからだ…
だから、自分では、落としたと、思ったとしても、それは、結婚とは、結びつかない…
なにより、好子さんは、米倉のお嬢様…
米倉を背負っている…
つまりは、好子さんと結婚するということは、五井が、米倉の面倒を見ることを、意味する…
となれば、簡単に、結婚できるわけはない…
まして、五井の御曹司という立場なら、女は、簡単に手に入るだろう…
その中で、いかに、美人といえども、米倉好子さんに、簡単に手を出すわけはない…
一度でも、男女の関係になれば、面倒臭い関係になりやすいからだ(爆笑)…
それが、わかっているから、手を出さないに違いない…
が、
好子さんは、おそらく、そんなことは、考えないのだろう…
なぜ、考えないのか?
自分が、美人だから、自分に自信があるから?…
それもあるだろう…
しかしながら、それは、おそらく、自分のことだから…
自分のことだから、甘く考える…
自分に有利に考える…
そういうことだろう…
もちろん、好子さんは、バカではない…
だから、本気で、五井の御曹司をどうにか、できるとは、思っていないに違いない…
が、
少しは、本気で、思ったに違いない…
少しは、本気で、どうにかなるかもと、思ったに違いない…
それは、なぜなら、今、冗談でも、口にしたから…
冗談でも、どうにか、なるかも、しれないと、口にしたからだ…
そして、その口調には、明らかに、真剣な感じが入っていた…
だからだ…
たしかに、好子さんの立場なら、五井の御曹司と、結婚するのが、一番いい…
米倉を救うには、一番、いい方法…
一番、いい選択肢だ…
が、
当然、五井の御曹司の立場から、見れば、好子さんの目論見は、見え見え…
いや、
五井の御曹司に限らず、傍から、見れば、好子さんの目論見は、見え見え…
そして、そんなことが、わからないのは、好子さんが、当事者であることもさることながら、それほど、好子さんは、米倉のことを、気にかけているということだろう…
米倉=大日産業のことを、気にかけていることだろう…
私は、思った…
私は、考えた…
そして、私が、そんなことを、考えていると、好子さんが、
「…だからかな…」
と、突然、言った…
「…なにが、だからなんですか?…」
「…私が、諏訪野さんにアプローチをかけたこと…」
「…どういうことですか?…」
「…私は、言葉には、していない…ただ、諏訪野さんに、米倉のことを、相談しただけ…でも、言葉には、しなくても、私の態度に出たのかも…私が、言葉にしなくても、諏訪野さんと、結婚できればと、考えていることが、態度に出たのかも、しれない…だから、週刊誌に撮られた…」
「…」
「…きっと、私の思いが、見え見えだから、週刊誌に撮られたのかも、しれない…」
好子さんが、笑った…
苦笑した…
そして、
「…その週刊誌に撮られたせいで、ネットが、沸騰したわ…」
と、続けた…
「…エッ?…」
「…米倉のお嬢様…必死だな、とか、下心見え見え、だとか、ありとあらゆる罵詈雑言が、書き連ねてあった…正直、落ち込んだわ…」
「…ネットに…ですか?…」
「…しかも、それが、真実…まるっきりのウソじゃないのが、痛い…」
好子さんが、苦笑する…
「…昔は、ネットに書き込むのは、便所の落書きといっしょだと、誰かが、言っていたらしい…」
「…便所の落書き?…」
「…要するに、悪口…昔は、便所=トイレに、悪口が書いてあったらしいわ…例えば、男便所なら、あの女なら、いつでもヤレるとか、その女の自宅の固定電話の電話番号といっしょに…」
「…ウソ?…」
「…ホント…ネットが、普及する前は、そんなだったらしい…でも、ネットが、普及し出したら、そんな落書きが、一気になくなった…」
「…どうして、なくなったんですか?…」
「…便所の代わりに、ネットに書き込むようになったから…その方が、広がりやすいでしょ?…」
「…」
「…だから、便所の書き込みはなくなった…つまりは、ネットの書き込みは、便所の落書きといっしょ…便所の落書きの代わりということ…」
好子さんが、言う…
仰天のことを、言う…
私は、ビックリした…
文字通り、ビックリした…
そんなことは、考えたこともないから、ビックリした…
が、
好子さんに、言われて、もっともだとも、思った…
なにが、もっとも、だというのは、要するに、誰かの悪口を、どこに、書くかと、いうこと…
誰もが、嫌いな人間の悪口を言いたい…
だから、周囲に、嫌いな人間の悪口を言う…
そして、それが、現在なら、ネットに書き込むが、昔なら、そうは、いかない…
ネットが、ないからだ…
だから、どこか、ネットの代わりになる、場所に、書き込まなければ、ならない…
そして、それを、周囲に拡散しなければ、ならない…
そして、その場所が、当時は、便所だったのだろう…
便所は、誰もが、使うから、誰もが、目にしやすい=拡散しやすい…
まして、男便所なら、女の悪口を書くには、最適…
たしかに、今、好子さんが、言ったように、
「…あの女は、いつでも、ヤラセてくれる…」
とでも、書いて、家の固定電話の番号を書けば、その女の自宅に、面白半分で、電話をかける男が、いっぱいいるだろう…
それを、狙ってのことだろう…
しかし、そこまで、考えて、ハタと、気付いた…
一体、誰が、男便所に悪口を、書くのか、考えたのだ…
その女を嫌いな男なら、納得できる…
男が、男便所に、落書きするのは、納得できる…
しかしながら、女の場合は、どうだ?
嫌いな女の悪口を男便所に、書くことは、できないからだ…
それに、気付いた私は、
「…好子さん、ちょっと、聞いていいですか?…」
と、言った…
「…なに、高見さん?…」
「…嫌いな女の悪口を書きこむのは、男の場合は、男便所ですが、女の場合は、どうするんですか?…」
私が、聞くと、好子さんは、あっけに取られた表情をした…
それから、笑いながら、
「…男も女も、いっしょよ…」
と、言った…
「…どういう意味ですか?…」
「…嫌いな女の悪口を書きこむのは、男も女も、いっしょ…」
「…いっしょ?…」
「…だって、嫌いな女の悪口を、女便所に書き込んでも、面白くも、なんともないでしょ? だから、男便所に書き込むのは、男だと、思う…きっと、女が、知り合いの男にでも、頼んで、書いてもらっていると、思う…そうでなければ、女が、堂々と、男便所に入れるわけないでしょ?…」
あっけらかんと、好子さんが、説明する…
私は、その説明を聞いて、納得したが、同時に、自分自身の愚かさに、気付いた…
自分自身の未熟さに気付いた…
なぜなら、そんな簡単なことを、この好子さんに、教えてもらったから…
世間知らずのお嬢様と、思われた、好子さんに、一般人の私が、教えられている…
これでは、逆…
ホントは、私が、好子さんに、教える立場…
一般人の私が、世間知らずの好子さんに、教える立場だからだ…
だから、逆…
立場が、逆…
そして、それに、気付くと、落ち込んだ…
あまりに、愚かな、自分自身に、落ち込んだ(涙)…




