恋かもしれない…恋愛偏差値ゼロ 第3部 33
同時に、考えた…
これって、自分も?
もしかしたら、自分も、こんな表情になる?
もしかしたら、自分も、こんな表情をできる?
考えた…
こんな小悪魔的な表情が、できるか、考えた…
人間は、人形では、ない…
なにを言いたいかと、言えば、生きている…
生きているから、表情ができる…
その都度、違う表情を作ることができる…
だから、いかに、顔が似ていても、表情までは、わからない…
なぜなら、その表情には、内面が出るからだ…
内面=心の内が、出るからだ…
だから、わからない…
私が、好子さんと、同じ表情が、できるか、どうか、わからないと、思った…
思ったのだ…
そして、なにより、その表情は、魅力的だった…
同じ顔を持つ、私も、思わず、見入るほど、魅力的だった…
だから、余計に、思うのだ…
そして、そんな私の考えとは、関係なく、好子さんが、
「…透のヤツ、まだ、私のことが、好きなのかな…」
と、繰り返した…
小悪魔的な笑いで、繰り返した…
「…でも、まあ、本音では、透のヤツも、私のことが、好きとか、どうとか、じゃなくて、気になるんだと、思う…」
「…気になる? どうして、ですか?…」
「…それは、高見さん、つい最近まで、結婚していた、女が、他の男と、噂になれば、誰でも、気になるでしょ? しかも、それが、水野とは、比較にならないほどの、大きな財閥の当主では…」
好子さんが、笑う…
たしかに、好子さんの言うことは、わかる…
誰もが、一度、結婚して、離婚した相手が、どんな相手と、再婚したのか、気になるものだ…
まして、離婚したのが、つい最近となれば、なおさらだ…
しかも、相手は、自分とは、比較にならないほどの大物となれば、なおさらだ…
これが、一般人で、あれば、別れた、夫や、妻が、今度、再婚する相手は、自分より、ルックスが、良かったり、頭が良かったり、お金持ちだったり、するのと、同じ…
もはや、自分が、手の届く相手では、ない…
自分ごときが、どう頑張っても、手の届かない相手…
そんな相手と結婚まで、いかなくとも、噂になるだけで、心乱される…
そんな気持ちではないか?
私は、あの水野透の心の内を思った…
思ったのだ…
すると、好子さんが、笑いながら、
「…でも、闇深い男よ…」
と、いきなり、言った…
「…闇深い男? …誰が、ですか?…」
「…五井家当主、諏訪野伸明…」
「…」
「…背が高くて、イケメン…私の兄の正造もだけれども、負けず劣らずのイケメン…でも、兄の正造よりも、闇が深そう…」
「…闇が、深いって、どういう意味ですか?…」
「…要するに、なにを、考えているか、わからないってこと…」
「…エッ?…」
「…背は、高いし、誰が見ても、イケメン…顔もいい…だけれども、なんとなく、得体のしれないっていうと、失礼だけれども、そんな感じ…」
「…」
「…誰もが、同じだけれでも、いっしょにいて、相手が、なにを考えているか、わかれば、安心する…とりわけ、透は、子供の頃から、知っているから、その点は、安心した…」
「…」
「…でも、もしかして、それが、兄の正造と、伸明さんの違いかも?…」
「…どういう意味ですか?…」
「…米倉と五井の差?…」
「…米倉と五井の差?…」
「…要するに、規模の差…五井に比べれば、米倉なんて、チンケ…だから、闇も、深くない…」
「…どういう意味ですか?…」
「…たぶん、背負っているプレッシャーの違い…企業規模の違い…」
「…」
「…企業規模が、大きければ、大きいほど、プレッシャーが、強くなる…下手な失敗は、できなくなる…なにしろ、従業員が、多過ぎる…その従業員の生活を背負っていると、思えば、なおさら…」
「…」
「…まあ、昨今の企業経営者を見ると、サラリーマン社長が大半だからか、従業員の生活を、考えるどころか、自分が、いかに、長く、社長でいられるか、考えている企業経営者が、多いけれども、やはり、オーナー企業との違いは、そこというか…もちろん、全員に当てはまることじゃないけれども、サラリーマンで、入社して、社長になるのと、最初から、経営者の一族として、生まれて、会社に入るのとでは、違うでしょ? 会社との関わり方が、違う…」
「…」
「…まあ、これは、私が勝手に言っていることだけれども、当たらずといえども遠からずと言ったところじゃないかな…まったく、間違っているとも、思わない…」
好子さんが、言った…
皮肉を言った…
たしかに、昨今の世間の風潮を見ると、当たらずといえども遠からず…
好子さんの言うことは、的外れではない…
どうしても、サラリーマン社長は、地位に固執し過ぎる…
地位に恋々とし過ぎる…
それは、ようやく、その地位に辿り着いたから…
全力を出し切って、社長という、山の頂上に登ったからだろう…
だから、そう簡単に山を下りたくない…
そう簡単に下山したくない…
それと、似ている…
これが、真逆に、オーナー一族から、社長になれば、すでに、最初から、社長になるのが、決まっているので、社長の座に、着くまでの、行程が、違う…
仮に、ある程度、歳をとって、社長の座に着いたとしても、それは、最初から、修行期間だと、周囲に見られているから、違う…
サラリーマン社長のように、社長になれるか、どうか、わからないのではなく、最初から、社長になるのが、わかっているからだ…
だから、違う…
そして、その差が、社長に着いたときの差となる…
その地位に辿り着くまでの道のりが、大変であれば、あるほど、ようやく辿り着いた、その地位に固執するからだ…
私は、思った…
私は、考えた…
そして、そんなことを、考えながら、どうして、いきなり、好子さんは、兄の正造と、五井の御曹司を比べたのか、考えた…
いきなり、ここで、正造の名前が出た理由が、わからなかったからだ…
だから、私は、
「…好子さん、ひとつ、お聞きしていいですか?…」
と、聞いた…
「…なに、高見さん?…」
「…どうして、いきなり、正造さんの名前が、ここで、出たんですか?…」
私は、聞いた…
直球で、聞いた…
すると、だ…
好子さんが、驚いた表情をした…
驚いて、唖然とした表情をした…
それから、落ち着いた動作で、カフェオレを一口飲んで、
「…それは、そうよね…」
と、呟いた…
それから、
「…似ているのよ…」
と、ボソッと、呟いた…
「…似ている? …誰が、ですか?…」
「…兄の正造と、五井の御曹司、諏訪野伸明さんと…」
「…似ている? …どんなところが?…」
「…ずばり、イケメンなところ…」
好子さんが、真顔で、言うので、私は、思わず、プッと、吹き出しそうになった…
「…イケメンなところですか?…」
私は、笑って言った…
いや、
笑わずには、いられなかった…
すると、私が、笑ったのを見て、
「…笑ったわね…高見ちづる!…」
と、好子さんが、怒った…
「…ここは、笑うところじゃない!…」
好子さんが、激怒した…
私は、そんな好子さんを見て、マズいと、思った…
好子さんを、怒らせては、マズいと思った…
だから、慌てて、
「…申し訳ありません…」
と、頭を下げた…
笑った顔から、一転、真顔になって、謝った…
それで、ようやく、好子さんの怒りが、収まった…
「…わかれば、よろしい…」
好子さんが、真顔で、言う…
が、
すぐに、
「…プッ!…」
と、吹き出した…
それから、ケラケラ笑いながら、
「…高見さんが、言うのは、わかる…」
と、笑った…
それまでとは、一転して、実に、楽しそうに、笑った…
「…でも、事実は、事実よ…」
笑いながら、言う…
「…事実…」
「…そうよ…事実…二人は、似ているのよ…いわば、人間のタイプが似ているというか…顔は、違うけれど、キャラが似ている…なにより、なにを考えているか、わからないところが、似ている…」
「…なにを、考えているか、わからないところですか?…」
私は、またも、笑いだしそうになったが、我慢した…
まさか、またも、笑い出すわけには、いかなかったからだ…
だから、必死になって、我慢した(苦笑)…
「…だって、兄の正造も、諏訪野さんも、共に、企業のトップ…オーナー一族…それが、周囲から、なにを考えているか、容易に、誰からも、わかるようじゃ、困るでしょ?…」
「…それは…」
「…でしょ?…」
「…ハイ…」
「…つまり、そういうこと…」
好子さんが、笑って、まとめた…
「…たぶん、二人とも、持って生まれたキャラと立場ね…それが、二人の性格を作っている…」
「…性格…」
「…容易に他人から、自分の考えを読み取れないようにする性格…」
「…」
「…たぶん、二人とも、物凄く、用心深いんだと、思う…あるいは、小心者…臆病者…」
「…どうして、臆病者なんですか?…」
「…他人に、自分が、なにを考えているか、知られるのが、怖いんでしょ…だから…」
「…」
「…でも、二人を比べれば、諏訪野さんの方が、闇が深い…兄の正造よりも、闇が、深い…なにを、考えているか、わからない…」
「…」
「…でも、それも、企業規模の違いと、考えれば、わかる…米倉と、五井とじゃ、比較にならない…まるで、比べられない…」
「…」
「…だから、わかる…」
好子さんが、言う…
自分自身を、納得させるように、言う…
そして、そんな好子さんを見て、
…もしかしたら?…
…もしかしたら、わざと、その諏訪野さんと、話題になった?…
…あの水野透を、刺激するために、話題にしたと、思った…
思ったのだ…
なぜなら、この好子さんは、あの水野透を、子供の頃から、知っている…
幼馴染だから、子供の頃から、知っている…
だから、好子さんが、諏訪野さんと、話題になれば、あの透が、反応するのが、わかっているからだ…
透の性格がわかっているからだ…
だから、そう、思った…
だから、そう、考えた…




