恋かもしれない…恋愛偏差値ゼロ 第3部 25
そして、そんなときだった…
思いがけず、彼女が、大声を出した…
「…なに、べちゃくちゃ、くだらないことを、しゃべっているんですか!…」
と、大声を出した…
彼女、米沢京子が、大声を出した…
そして、それは、迫力があった…
私、高見ちづると、違って、迫力があった…
なにしろ、彼女は、大柄…
身長、170㎝近くあるだろう…
おまけに派手なタイプ…
派手なタイプ=ヤンキー系と、言っても、いいかも、しれない…
つまりは、あの米倉涼子のような女が、大声で、怒鳴った…
そういうことだ…
だから、この高見ちづると、違って迫力がある…
その声に、ビビって、これまで、おしゃべりをしながら、掃除をしていた女性社員二人は、ピタッと、おしゃべりを止めた…
あまりの迫力に言葉が出なかったのかも、しれない…
あまりの迫力に圧倒されたのかも、しれない…
あまりの迫力にビビったのは、間違いがない…
彼女たちは、おしゃべりを止め、掃除に専念した…
同時に、私は、脅威に感じた…
この米沢京子が、この私、高見ちづるを敵視しているのは、間違いは、ない…
だから、あらためて、脅威に感じたのだ…
が、
さすがに、私には、なにも言わなかった…
私が、なにか、したわけでは、ないからだ…
だから、なにも、言わなかった…
いや、
言えなかったと、言うのが、正しい…
が、
しかしながら、彼女が、私に向かって、鋭い視線を、向けたのは、わかった…
なぜ、私に向かって、そのような視線を向けたのかは、わからない…
が、
向けたのは、たしかだった…
たしかに、鋭い視線を向けたのは、確かだった…
…触らぬ神に祟りなし…
…くわばら、くわばら…
私は、言いたかったが、なにしろ、彼女が、私を、敵視しているのが、わかる…
私だけではない…
誰の目にも、明らかだ…
それゆえ、彼女が、私を鋭い目で、睨んだとき、彼女に注意された同僚が、彼女が、私に、どう言うか?
興味津々で、見ているのが、わかった…
彼女、米沢京子の反応を見ているのが、わかった…
が、
なにも、しなかった…
この高見ちづるに、なにも、しなかった…
それを、見て、その女性社員たちは、落胆したというか…
明らかに、ガッカリした…
だが、私にしてみれば、御の字というか…
正直、助かった…
私自身は、なにも、ミスをしていないが、
だからと言って、彼女が、私になにか、するかも、しれないからだ…
彼女の腹の虫が、収まらず、彼女の怒りの矛先が、私に向かうことだって、十分、ありえる…
いわば、もらい事故のようなものだが、ありえる…
が、
そんなことは、なかった…
私の考えすぎだった…
私、高見ちづるの考えすぎだった…
そして、一通り、そんなことを、考え終えると、今度は、あの水野透のことを、考えた…
たった今、米沢京子に叱られた女性社員の言っていた、水野財閥の御曹司のことを、考えた…
透が、言った、ビッグプロジェクトって、なんだろうと、考えた…
あの水野透…
透に、関して言えば、最初に、出会ったときと、印象が、だいぶ、変わった…
私が、初めて、透と、出会ったのは、偶然だった…
雨の日に、傘をさして、歩いていたときに、偶然、私の傘が、透に、ぶつかった…
それが、透と、初めて、会ったとき…
私、高見ちづるが、水野透と、初めて、出会ったときだった…
私のさす傘が、透に、ぶつかり、私は、そのことに、気付かなかった…
それに、透は、文句を言ったのだ…
ある意味、当然だった…
「…美人の当たり屋さん…」
と、文句を言ったのだ…
しかも、
透が、あまりにも、ぶっきらぼうに、
「…謝らないの?…」
と、いうものだから、私は、怯えた…
なにしろ、私は、自分のさす傘が、透に、ぶつかったのも、気付かなかった…
だから、謝るも謝らないも、ない…
私が、カラダが、155㎝と小柄だから、大柄な透に、どこかに、連れ込まれるのでは、ないか?
と、恐怖した…
だから、慌てて、
私が、
「…スイマセン…」
と、詫びると、
「…わかれば、いいよ…美人の当たり屋さん…」
と、だけ、言って、去った…
私の前から去った…
つまりは、なにもなかった…
なにも、なかったのだ…
が、
あのときの透のぶっきらぼうな言い方は、忘れない…
いや、
忘れることは、できない…
その後、出会ったのは、なんと、会社…
私が、以前、勤めていた、金崎実業に、取引先の納入業者として、だった…
そして、そのときは、気のいい、青年といか…
軽く、おしゃべりで、気のいい、好青年を演じていた…
つまりは、透と、会うたびに、透は、私に別の顔を見せた…
そういうことだ…
一体、どれが、透の本当の顔なのか?
つい、考えてしまうが、おそらく、どれも、本当の顔なんだろう…
本当の姿なんだろう…
よく、アイツは、表と裏の顔が違うと、言われる人間が、老若男女ともにいるが、たとえ、表の顔で、あろうと、裏の顔で、あろうと、その顔が、そのひとの顔であることは、変わりはない…
顔=性格であることは、変わりはない…
それゆえ、ホントもウソもない…
どちらも、ホントの顔だからだ…
ただ、相手によって、見せる顔が違う…
それだけのことに過ぎない(笑)…
透が、初めて、私に会ったときは、街中だった…
しかも、プライベート…
だから、ぶっきらぼうな態度で、接した…
そして、次に会ったときは、会社だった…
透は、金崎実業に、商品を納入する業者として、やって来た…
要するに、パブリック…
だから、愛想が、いい…
そういうことだ…
自分が、働く会社で、しかも、取引先の企業にやって来るのに、ぶっきらぼうな態度の人間はいない…
そういうことだ…
それゆえ、私が、透に会ったときは、それぞれ、立場が、違う…
プライベートとパブリック…
公での姿と、私生活の姿というわけだ…
だから、透の違う面を見たということだろう…
それだけのことだ…
それゆえ、ホントは、透が、どんな性格をしているのか、わからない…
ホントは、目立ちたがり屋かも、しれない…
なぜなら、彼女が言うには、
「…ビッグプロジェクト…」
と、言って、世間の目を引こうとした…
水野グループの御曹司として、世間の目を引こうとするのは、わかる…
立場上、どうしても、世間から、目立つことを、しなければ、いけないからだ…
が、
単に目立ちたがり屋なのかも、しれない…
その可能性もある…
もしかしたら、目立つのが、好き…
注目されるのが、好きなのかも、しれない…
そして、意外なことだが、この注目されるという行為…
これと、個人の能力や、ルックスとは、関係ない…
要するに、ただ、目立ちたい人間が、世の中には、いるものだ…
普通に、考えて、目立つというのは、他人より頭が、良かったり、ルックスが良かったりするものだが、それがなくても、ただ目立ちたい、周囲に注目されたい人間は、いるものだ…
しかし、透の場合は、立場上、目立たなければ、ならないと、思っているかもしれないから、それは、当てはまらない…
が、
おそらくは、それ以外に、私が、知らない透の顔があるに違いない…
そして、その顔を、あの好子さんは、知っているのかも、しれない…
透と、結婚していた米倉好子さんは、知っているのかも、しれない…
いや、
透だけではない…
好子さんの、血の繋がってない、兄の正造や、やはり、血が繋がってない弟の新造さんも、知っているのかも、しれない…
私は、思った…
思ったのだ…
そして、そんなことを、思いながら、掃除をしていると、いつのまにか、一つの場所を熱心に拭いているだけになった…
そして、それを、見て、
「…なにを、しているの? 高見さん?…」
と、いきなり、大声で、あの米沢京子が、私を怒鳴った…
大声で、私を怒鳴ったのだ…
私が、初めて、米沢京子に叱られた瞬間だった…
その声で、私のカラダが、ビクッと反応した…
自分でも、驚くほど、ビクッと反応した…
米沢京子は、次いで、
「…高見さん…ひとつの場所を、熱心に、拭きすぎてますよ…なにか、考えごとでも、していたの?…」
と、私の心の中を、見透かすように、言った…
…図星!…
…図星だった!…
しかしながら、それを、認めるわけには、いかない…
いや、
認めた方が、有利…
誰が、見ても、考え事をしていた…
だから、動作が、留まっていた…
ひとつ場所から、動かなかった…
足は、動かさず、手だけ、動かしていたからだ…
それゆえ、なにか、考え事をしていたのは、誰の目にも、明らかだったからだ…
「…スイマセン…ちょっと、考え事を…」
と、慌てて、言った…
ここは、素直に、自分の非を認めた方が、得策と、思ったからだ…
だから、言った…
素直に言った…
すると、だ…
それを、聞いた米沢京子が、
「…まさか、高見さんも、今、言っていた、水野の御曹司と、結婚したいなんて、思っているんじゃ、ないでしょうね…」
と、いきなり、言った…
私の心の中を見透かすように、言った…




