恋かもしれない…恋愛偏差値ゼロ 第3部 18
水野透…
かつて、私を好きだった男…
そして、私もまた、あの男を好きだった…
水野透を、好きだった…
大金持ちの御曹司だから、好きだったわけでは、ない…
お金持ちだったから、好きだったわけでは、決して、ない…
水野透は、ひょうきん者…
ひょうきん者に徹して、自らを、道化と化して、周囲の笑いを取る…
そんな、透の姿勢が、好きだった…
大金持ちの子息にも、かかわらず、決して、偉ぶらず、そんな姿勢を貫く、透の姿勢が、好きだった…
この高見ちづるが、おおげさでなく、33歳にもなって、初めて、好きになった男だった…
いや、好きになりかけた男だったというのが、正しい…
33年、生きて、これまで、好きになった男は、いなかった…
ひとりも、いなかった…
これは、別段、私が、異常に、プライドが高かったり、異常に、選り好みが、激しかったわけでも、なんでもない…
ただ、心が、動かなかった…
男のひとを、見て、興味がある男が、いなかった…
周囲に、ひとりもいなかった…
その意味で、透は、初めて、私が、興味を持った男だった…
私、高見ちづるが、初めて、興味を持った男だった…
もちろん、透には、失礼だが、若い時には、透に憧れない…
透を、好きには、ならない…
なぜなら、透は、ひょうきん者…
まるで、お笑い芸人だ…
だから、好きにならない…
誰もが、若ければ、若いほど、ルックスに目が行く…
ルックス=見た目に、目が行く…
正直、透は、見た目は、悪くないが、ひょうきん者で、頼りない…
若ければ、若いほど、見た目が、よく、頼りがいのある男に、目が行くものだ…
たとえ、自分が、ルックスも、頭もよくなく、平凡な女にも、かかわらず、そう思うものだ…
自分には、どう頑張っても、手が届かない相手でも、そう思うものだ…
そして、それは、この高見ちづるも、例外ではない…
例外では、ないのだ(爆笑)…
が、
それは、実は、仮面だった…
透が、ひょうきん者に徹するのは、仮面だった…
実は、透は、愛人の子供だった…
本妻の子供ではない…
透の父、良平は、水野一族だが、傍流出身…
水野本家には、ほど遠い傍流出身だった…
それが、本家のお嬢様である、妻の春子と、結婚した…
良平は、本家に婿養子として、入ったのだ…
その結果、良平は、妻に頭が上がらない…
おそらく、そのせいだろう…
外に女を作り、その結果、透が、生まれた…
一方、良平と、妻の春子の間に、子供はできなかった…
それゆえ、透を、本家で、引き取ることにした…
水野財閥の後継者として、引き取ることにした…
良平は、傍流出身だが、水野一族…
その血を引く、透は、水野本家出身の妻、春子の血を引かずとも、十分に、水野本家の後継者の資格があると、考えたのだろう…
しかしながら、幼い透が、本家に引き取られたことで、透にとっては、環境が激変した…
当たり前のことだ…
それまでの生活とは、一変して、豪邸住まい…
私も一度だけ、訪れたことがあるが、その家の大きさに、驚嘆したものだ…
とても、一般のひとが住む、家の大きさではない…
旅館や、ホテルのような大きさの家…
とてもではないが、個人が住む家とは、思えなかった…
そんな豪邸に、幼い透は、住むことになった…
きっと、それまでは、母親と普通の家に住んでいたに違いない…
それゆえ、当然、馴染めない…
当たり前のことだ…
例えば、この私が、今、突然、あの豪邸に、水野夫妻といっしょに住めと言われても、当惑する…
とてもではないが、いっしょに住めない…
いっしょに住むのは、嫌だ…
33歳の私でも、嫌だ…
それが、まして、子供では、なおさら嫌に違いない…
子供だから、大人と違い、案外、簡単に馴染めるのでは?
と、考えがちだが、それは、違う…
大人の方が、図々しくなる…
歳を取ったことで、図々しくなる…
それに、比べ、子供の方が、ナイーブ…
ナイーブ=繊細だ…
だから、余計に、難しい…
環境が変わるのは、難しい…
そんなナイーブな子供の透が、環境が、激変した…
あの豪邸に、住むことになった…
その結果、当然、孤立した…
周囲に馴染めなかった…
当たり前のことだ…
そして、子供の透が、周囲の馴染むためにしたことが、道化に徹することだった…
道化=ピエロに徹することだった…
その方が、周囲に馴染みやすいからだ…
幼い透は、本能的にそれを悟り、実践したということだ…
道化に徹することで、周囲に馴染むことは、できたが、透の道化に徹する姿勢は、とりわけ、実父の良平には、不評だった…
なぜなら、透は、次期、水野家当主…
戦前は、日本で、二十大財閥に入る水野財閥の後継者…
それが、道化に徹して、周囲の人間を笑わせるようでは、困ると、思ったのだ…
しかしながら、その一方で、良平は、透に、文句を言うことも、できなかった…
なぜなら、透を、無理やり本家に連れてきて、後継者にしたのは、他ならぬ自分だからだ…
自分=良平だからだ…
だから、文句を言うことができなかった…
良平と、春子の間に、子供がいれば、婚外子の透を、自分の手元に、置く必要がなかったからだ…
ハッキリ言えば、透は、別の人生を歩むことになったからだ…
道化を続ける透を見て、良平は、心が痛んだに違いない…
透を、そう行動せざるを得ない状況に追い込んだ自分を、憎んだに違いない…
が、
なにも、できなかった…
良平は、透に、なにも、できなかった…
しかしながら、そんな透にも、好きな女が、いた…
幼馴染の好きな女が、いた…
その女は、米倉好子…
米倉財閥の米倉平造の娘だ…
米倉平造と、水野良平は、親友だった…
互いに、肝胆相照らす仲だった…
理由は、簡単…
二人は、境遇が、似ていた…
二人とも、お金持ちの一族に生まれたが、傍流…
つまり、本家とは、ほど遠い分家の家に生まれたが、その才能を買われ、本家のお嬢様と、結婚した…
本家の跡取りのお嬢様と結婚した…
つまりは、本来、本家とは、なんの関係もないと思われた傍流の男が、本家を継いだのだ…
その結果、二人は、半端ないプレッシャーにさらされた…
が、
本来、有能な二人…
そのプレッシャーを乗り越え、成功した…
米倉、水野共に、それまでより、数倍大きく成長させた…
そして、その過程で、二人は、知り合った…
二人は、初対面で、意気投合し、互いに、親しくなるにつけ、互いの置かれた環境が、似ていることを、知り、より親しくなった…
その結果、互いの家を行き来することになった…
親しい友人として、互いの家を来訪した…
それゆえ、互いの家族も、親しくなった…
米倉平造の娘、好子と、水野良平の息子、透も、親しくなった…
親同士が、頻繁に、互いの家庭に、行き来したので、その結果、親しくなったのだ…
当然だった…
そして、米倉好子は、美人だった…
この私に似た、美人だった…
私、高見ちづるに、似た美人だった(笑)…
だから、幼い透は、好子に憧れた…
子供でも、大人でも、美人に憧れる気持ちは、同じだ…
っていうか、今、考えれば、幼い透の、周囲に、好子に匹敵するか、あるいは、好子以上の美人が、いなかっただけかも、しれない(笑)…
それは、大人になってみれば、わかる…
わかるのだ…
なぜなら、子供のときより、大人になれば、誰もが、大抵は、視野が広がるからだ…
行動範囲も、広がる…
だから、わかる…
そして、大人よりも、子供の方が、純粋…
言葉は悪いが、純粋で、思い込みが激しい…
だから、余計に、透は、好子さんを好きだったのかも、しれない…
そして、周囲の大人も、そう見ていた可能性が高い…
今の私と同じように、透を見ていた可能性が、高い…
が、
しかしながら、透は、周囲の大人が、思っている以上に、好子さんが、好きだった…
米倉が、その後、経営危機に陥り、倒産寸前にまでなると、率先して、米倉を助けることを提案した…
米倉=好子さんだからだ…
だから、好子さんを、透は、助けたかったのだ…
実は、米倉は、倒産寸前の経営状態であることを、隠して、水野と合併しようとしていた…
水野は、米倉の数倍の規模の企業グループ…
うまく、水野と合併すれば、合併の後、米倉の負債の存在が、明るみになっても、倒産しないと、考えたのだ…
社長である、米倉平造が、米倉の会社を大きくしようとして、あまりにも、無謀に急拡大しようとした、結果だった…
会社は、大きくなったが、借金も、大きくなった結果だった…
その結果、倒産寸前にまで、追い込まれた…
が、
米倉平造は、その事実を受け入れることは、できない…
ことは、平造ひとりの問題ではなかったからだ…
代々続く、米倉の家を潰すわけには、いかなかったからだ…
なにより、自分は、婿養子…
本家に迎えられた分家の婿養子だった…
本家のお嬢様と結婚して、米倉を継いだ…
それを、自分の代で、潰すわけには、いかなかった…
それゆえ、平造は、策を弄した…
盟友の水野良平を騙して、米倉と水野を合併させる…
米倉の負債を隠して、水野と合併させようとした…
が、
その事実に、途中で、良平は、気付いた…
まさか、盟友の平造に騙されるとは、予想もしていなかった良平だが、それ以上に、会社の経営者として、米倉との合併を認めるわけには、いかなかった…
当初の話とは、違うからだ…
合併が、決まったときは、米倉の借金の存在は、知らなかったから、当たり前のことだった…
が、
しかしながら、その決定に、透は、反対した…
なぜなら、合併の撤回は、好子さんを見捨てることになるからだ…
透には、それが、できなかった…
好子さんを、見捨てることが、できなかった…
好子さん=米倉だからだ…
それゆえ、米倉を、見捨てることができなかった…
それゆえ、米倉と水野の合併を破談するにも、反対した…




