恋かもしれない…恋愛偏差値ゼロ 第3部 13
そして、私が、そんなことを、考えていると、
「…そろそろ出ようか?…」
と、前沢が、言った…
いきなり、言った…
話が尽きたのだろう…
あるいは、
私に話したい、もしくは、聞きたいことは、すべて聞いたのだろう…
おそらく、聞きたいこととは、米沢京子のこと…
私と、米沢京子の関係に違いなかった…
なぜ、米沢京子が、私を嫌うのか?
私に、米沢京子に嫌われる理由があるのか?
それが、知りたかったに違いない…
だから、それが、わかった時点で、終了…
今日の会見は、終了なのだろう…
あるいは、ずばり、
今後、この会社でやっていけるのか?
水野グループの、この会社でやっていけるのか?
それが、聞きたかったに違いない…
実際、会社は、わかりやすい例えで言うと、学校と同じ…
会社=職場は、学校のクラスと同じ…
同じだ…
そこに、どんな人間が、いるのか?
行ってみなければ、わからない…
ずばり、会社や学校は、選べても、クラスや、職場の同僚は、選ぶことができないからだ…
会社や学校は、有名な会社だったり、偏差値の高い学校だったりすることで、選ぶことが、できる…
自分が、複数、会社や学校を受かった場合は、その中で、一番世間的な評価が、高い会社や学校を選ぶからだ…
だが、実際は、会社は勤めてみなければ、わからないし、学校は、通学してみなければ、わからない…
どんな人間たちと、いっしょにやるか、わからないからだ…
気の合う人間たちが、大勢いれば、いいが、それは、行ってみなければ、わからない…
入社、入学してみなければ、わからない…
どんなに世間の評価が高い会社だったり、偏差値が高い大学だったりしても、気の合う同僚や、気の合う友人が、できなければ、会社でも、学校でも、楽しくないからだ…
そして、それは、行って見なければ、わからない…
実際に、通勤、通学してみなければ、わからない…
そして、それが、困る…
実に、困る…
なぜなら、大抵の人間は、嫌でも、すぐに、辞めるわけには、いかないからだ(笑)…
会社の職場や、学校のクラスに一歩足を踏み入れて、
「…これは、とんでもないところに来てしまった!…」
と、嘆いても、誰もが、すぐに、辞めるわけには、いかないからだ…
会社が、有名企業であれば、両親や、親しい友人から、
「…あんな有名な会社を辞めるのは、もったいない…」
と、言われるし、偏差値の高い大学でも、同じことを、言われるに、決まっている…
また、大学は、会社と違って、すでに、入学金や、授業料を払っている…
当然のことながら、入学して、すぐに辞めても、入学金や、授業料を返しては、くれない…
だから、余計に、辞めるのが、難しくなる…
翌年、他の別の大学に進学したとしても、当たり前だが、他の別の大学の入学金や、授業料を払わねば、ならないからだ…
要するに、金が必要となるからだ…
だから、悩む…
たぶん、会社を辞めるよりも、悩む…
会社を辞めるのには、金がかからないからだ…
だから、大学を辞めるのは、会社を辞めるよりも、悩む…
そして、そんな悩みを両親や、友人、知人に吐露しても、わかる人間には、わかるが、わからない人間には、わからない…
さきほど、前沢が言ったことと、同じ…
バカの壁ではないが、わからない人間には、なにを言っても、わからないからだ…
話が、若干長くなったが、いつものことだ(苦笑)…
要するに、この前沢が、私が、今度の会社で、やっていけるのか?
聞きたかったのだろう…
それが、一番、聞きたかったのだろう…
私が、入社した営業所のトップとして、当たり前のことだった…
今度、中途入社したひとは、この会社で、やっていけるのか?
一番、気になるからだ…
そして、私が、
「…たぶん、大丈夫…」
と、いうようなことを、言うと、前沢も、それに、同意した…
私の会社での態度を見て、なんとかなると、思ったのだろう…
誰でも、そうだが、なんとか、やっていけるか、どうかは、傍から、見れば、わかるものだ…
まして、転職して、一か月弱…
営業所長として、私を見ていて、
「…なんとかなる…」
と、思ったのだろう…
あの米沢京子の件を除いては…
彼女の件を除いては、なんとか、なるだろうと、思ったのだろう…
そして、それは、同じ…
当事者の私も同じ意見だった…
この会社で、なんとか、やっていけそうだと、思っていたところだった…
そして、それは、こんなことを、言っては、なんだが、会社に一歩足を踏み入れれば、わかることだった…
自分が、その会社=職場で、やっていけるか、否かは、最初に、その職場に一歩足を踏み入れた時点で、わかることだった…
なぜなら、その職場の雰囲気が、自分に馴染めるかどうかは、その職場に、一歩足を踏み入れれば、大抵は、わかることだからだ…
よほど、愚かでない限り、大抵の人間は、わかることだからだ…
だから、私はやっていける…
大丈夫、やっていけると、思った…
思ったのだ…
そして、私が、そんなことを、考えていると、
「…しかし、高見さんのような美人とは、仕事ではなくて、プライベートで、会いたいものだな…」
と、前沢が、言った…
もちろん、冗談だ…
そして、これが、プライベートでなく、仕事の延長であることは、その言葉から明らかだった…
要するに、私が、今後、この会社で、やっていけるのか?
それを、営業所長として、私に聞きたい…
それは、誰が、見ても、仕事だからだ…
賃金は出ないが、仕事だからだ…
なにより、これが、仕事の一環だと、わかるのは、この場所…
営業所長の前沢と、私が、密会している、この場所だ…
駅前のカフェ…
同じく、同じ駅前にある営業所から、近い場所…
私と前沢が、密会しているのは、会社の誰に見られるか、わからない場所だ…
例えば、不倫をしていれば、こんな場所は、絶対に選ばない(笑)…
すぐに、会社の同僚に見つかる危険があるからだ…
それを、会社の誰かに、見つかるのが、承知で、近くのカフェで、会う…
つまりは、会社の誰に見られても、平気…
やましいところが、なにもない…
それは、仕事の一環だから…
誰かに、聞かれても、そう堂々と、証言できるから…
だから、この駅前のカフェで、私に会った…
そういうことだろう…
私は、考えた…
私が、そんなことを、考えていると、前沢が、レジで、お金を払った…
私が、前沢に、
「…自分の分は自分で払います…」
と、言うと、
「…誘ったのは、ボクだから…」
と、言って、全額を払った…
正直、たいした金額ではないが、即座に、
「…ありがとうございます…」
と、頭を下げた…
たいした金額ではないから、私でも、容易に払うことができる金額だが、ここで、私が、強引に、
「…そんなわけには、いきません…自分の分は、自分で払います…」
と、でも、言えば、前沢の機嫌を損なうと、思ったのだ…
あるいは、
前沢の面子を潰すと思ったのだ…
これが、例えば、数万円の金額ならば、そうは、いかないが、たかだか、数百円…
そんな金額を強引に、自分が払うということで、前沢の面子を潰しかねないと、思ったのだ…
会計を済ますと、
「…じゃ、今日は、これで…誘って、すまなかった…」
と、前沢は、言って、私を置いて、歩き出した…
店を出てから、私を振り返ることなく、歩き出した…
会談は、終わったのだ…
面接は、終了したのだ…
それを、実感する出来事だった…
前沢が、私を一度も振り返ることなく、歩いていたのが、余計にそれを、実感させた…
あるいは、私に好意を持ったり、私に下心があれば、こうは、いかない…
どうしても、私を振り返り、声をかける…
「…どうしたの? 高見さん?…行かないの?…」
と、でも、言って声をかけるだろう…
それを、しないのは、私に未練がないから…
私に未練=下心がないからだ…
あるいは、自分有利に考えれば、ここで、そんなことを、すれば、誰か、会社の同僚に、見られる危険があるからとも言える…
が、
そもそも、私に好意があれば、二人だけで、いるときに、わかる…
私に好意=下心があれば、わかる…
そういうものだ(笑)…
それが、わからないのは、よほどの鈍感か、国宝級の空気を読めない人間(笑)…
男でも、女でも、自分を好きな男女がいれば、誰でも、わかるものだ…
そして、その好きに下心があるか?
誰にも、わかるものだ…
下心がない好き…
つまりは、ひととして、好きだということ…
そこに男女の愛情、ぶっちゃけ、セックスは入らないということだ(爆笑)…
私は、前沢の後ろ姿を見ながら、そんなことを、思った…
そんなことを、考えた…
そして、そんなことを、考えながら、家路に向かった…
正直、家路に向かいながら、
…疲れる…
と、思った…
…人間関係に疲れる…
と、あらためて、思った…
あの米沢京子が、なぜ、私を毛嫌いしているのか?
それは、わからない…
しかし、彼女の件を除いても、疲れる…
新しい職場に慣れるのは、疲れる…
人間関係に疲れる…
昔、なにげにテレビを見ていたとき、さる大手スーパーに勤めていた男性が、
「…会社を辞めるのは、みんな人間関係…」
と、笑って言っていたが、今、それを、思い出した…
私自身、前の会社を辞めたのは、人間関係…
前の会社、金崎実業を辞めたのは、人間関係が、原因だった…
正直、人間関係が、悪化して、居づらくなったのが、原因だった…
だから、昔、なにげにテレビで、見た、大手スーパーに勤めていた男性の発言は、私にも、当てはまっていたわけだ…
私、高見ちづるにも、当てはまっていたわけだ…
今さらながら、思った…
今さらながら、気付いた…
自分自身のことに、気付いた…
そして、今さらながら、自分の無鉄砲さに気付いた…
高見ちづる、33歳…
もうすぐ、34歳になる…
正直、とりたてて、特技もなにもない…
身長は、155㎝と小柄だが、美人と周囲の人間に呼ばれ、チヤホヤされて生きてきたのは、事実…
事実だ…
しかしながら、その美人も、そろそろ限界か?
若い女のコには、負ける(苦笑)…
会社で、大卒の新入社員を見ても、
「…正直、若いな…」
と、思う…
同時に、自分の歳を感じる…
自分の年齢を感じる(苦笑)…
そんな中年に近くなった、なんの取り柄もない私が、よく転職の決断をしたと、思う…
今さらながら、自分で、自分に驚く…
なんの取り柄もない、中年にさしかかった女が、転職を決断したことに、驚く…
そんな勇気が、自分にあったことに、驚く…
あるいは、
自分が、そんな無謀な性格だったなんて…
後先考えない、無茶な性格だったなんて…
…そんな…
自分自身に驚く…
驚くのだ(爆笑)…




