恋かもしれない…恋愛偏差値ゼロ 第3部 126
米沢京子は、血相を変えていた…
血相を変えて、再び、
「…ウソ!…」
と、大声で、怒鳴った…
その声に、店内にいた他のお客様が、振り返って、私たちを、見るほどだった…
が、
肝心の米沢京子は、そんな視線は、まったく、気にしなかった…
「…ウソ!…ウソよ!…」
と、繰り返した…
それから、私を見て、
「…どうして、この女が!…」
と、怒鳴った…
私は、なにが、なんだか、わからなかった…
どうして、この米沢京子に罵倒されるのか、わからなかった…
「…一体、どうして、この女が!…」
と、繰り返した…
繰り返して、私を罵倒した…
私は、どうして、いいか、わからなかった…
目の前で、明らかに、私を罵倒しているにも、かかわらず、どうして、いいか、わからなかった…
が、
正造が、
「…みっともないですよ…」
と、静かに、言った…
「…みっともない?…」
と、米沢京子。
「…そうです…」
と、正造は、言って、すでに、冷めたコーヒーを飲んだ…
そして、そんな正造を、見て、米沢京子は、落ち着いたというか…
冷静になった…
なにより、自分が、この店で、怒鳴ったのを、恥ずかしく思ったのかも、しれない…
この米沢京子は、お水…
そんな人間が、店で、怒鳴るのが、いかに、恥ずかしいか、熟知しているからだ…
また、隣にいる、正造が、落ち着いていたのが、よかったのかも、しれない…
相手が、怒鳴るから、自分も、それに、応じて、怒鳴り返す…
それが、大半だが、それでは、お互いに、ヒートアップしてしまう…
互いに、怒鳴り合いになってしまう…
それゆえ、相手が、血相を変えて、怒鳴ったら、自分は、真逆に、冷静で、いる方が、良い…
その方が、相手も、いずれ、怒鳴らなくなる…
相手が、冷静なのに、自分だけ、熱く、怒鳴っていても、仕方がないからだ…
だから、怒鳴らなくなる…
冷静になる…
そして、その通り、米沢京子は、冷静になった…
明らかに、冷静になった…
そして、それを見て、隣の米倉正造が、
「…父は、すべてを、見抜いていますよ…」
と、口を開いた…
明らかに、私ではなく、米沢京子に、言った…
「…見抜いている?…」
と、米沢京子。
「…ええ…」
と、正造が、反応する…
「…たぶん、米沢さんが、気付いていないだけです…」
「…ウソ?…」
「…ホントです…」
「…でなければ、父は…米倉平造は、大日産業をあそこまで、大きくできませんよ…当然、父は、ひとを見る目があります…」
「…」
「…アナタが、良平おじさまに、通じていることも、知っていたし、おそらく、その良平おじさまも、アナタのことが、よくわかっていた…」
「…私のことを、わかっていた…私のなにを、わかっていたと言うの?…」
「…全部ですよ…」
「…全部?…」
「…アナタが、裏切ることも、良平おじさまに、通じることも、です…」
「…」
「…アナタのお父様も、同じだったんです…」
「…同じ?…」
「…父を裏切った…」
「…ウソ?…」
「…ホントです…」
「…だったら、なぜ、私を援助したの?…」
「…アナタが、美人で、才能があるからですよ…」
「…美人で、才能があるって?…」
「…仮に、今、目の前に、勉強ができて、このまま、行けば、東大や京大に行ける成績の子供がいると、します…でも、お金が、なければ、進学は、できない…だったら、バイトをすれば、いいと、言うかも、しれませんが、バイトをすれば、勉強をする時間が、ありません。また仮に、時間があっても、バイトで、疲れて、勉強どころではなくなる…」
「…」
「…つまり、もったいない…東大や京大に行ける頭脳があるにもかかわらず、お金がないから、行けない…それでは、実に、もったいない…それと、同じ…それでは、頭の良さを生かせない…自分の才能を生かせない…」
「…」
「…父は、米沢さんの才能を惜しんだんです…」
「…惜しんだ?…」
「…そうです…」
「…でも、父が、平造さんを、裏切ったとうのは、今、初めて、聞きました…」
「…そうですか?…」
「…ハイ…」
「…でも、事実です…」
「…」
「…だから、もしかしたら、アナタも、裏切ると、思っていた…最初から、思っていた…血は、裏切れないからです…」
「…血は、裏切れない?…」
「…そうです…」
「…」
「…それに、あの前沢という男の不倫していた相手というのは、アナタのお姉さんでしょ?…」
「…えっ?…」
私と、米沢京子は、同時に、素っ頓狂な声を上げた…
「…カラダつきが、そっくりだと、言ってましたよ…それに、色っぽさも…」
言われてみれば、その通り…
その通りだった…
二人とも、大柄…
167、8㎝は、ある大柄で、スタイルの良い体形…
おまけに、色っぽい…
ただ、顔が違う…
この米沢京子は、美人だが、あの船見さんは、美人では、ない…
こう言っては、失礼だが、顔立ちは、平凡…
平凡だ…
だから、気付かなかった…
さっぱり、気付かなかった(苦笑)…
が、
それを、この米沢京子は、否定した…
「…それは、違う…」
と、否定した…
「…違う? なにが、違うんですか?…」
「…船見さんと、私の関係…」
「…どう違うんですか?…」
「…姉じゃない…従姉…従姉…」
「…従姉…」
「…たぶん…だから、体形が似ている…カラダ付きが、似ている…」
だからか?
そう、言われれば、わかる…
そう、言われれば、理解できる…
なにが、理解できるのか?
それは、距離間…
いかに、仲が良くなくても、姉妹ならば、同じ営業所の同じ部署に勤めていれば、馴れ馴れしいというか…
つい、互いに、距離の近さというか…
親密感が、出る…
傍から見ていて、なんとなく、親しいことが、わかる…
が、
従姉ならば、それが、ない可能性がある…
従姉ならば、それが、なくても、おかしくはない…
なぜなら、従姉は、姉妹ではないのだから、当然、いっしょに暮していないに違いない…
それゆえ、それほど、親しくない可能性も高い…
誰もが、そうだが、従姉がいても、親しい従姉と、親しくない従姉がいるものだ…
だから、それを、考えれば、この米沢京子と、あの船見さんは、従姉でも、あまり親しくなかったのでは?
私は、そう、見た…
私は、そう、睨んだ…
そして、そこまで、考えたとき、
…だからか?…
と、気付いた…
この米沢京子が、色仕掛けで、あの前沢に近付いた…
それを、見て、あの船見さんは、余計に、頭に来た可能性がある…
自分と男女の関係のある男に、別の女が、色仕掛けで、寄って来るのを、見るのも、頭に来るが、それが、自分と、血が繋がった従姉で、あれば、余計に頭に来るかも、しれない…
なにしろ、従姉だから、昔から、知っているだろう…
それが、自分と不倫している男に、手を出せば、余計に頭に来る…
知らない相手なら、まだいい…
しかし、自分が、不倫している男に、自分の知っている従姉が、手を出せば、余計に頭に来るに違いない…
私は、思った…
そして、だから、頭にきて、彼女、船見さんは、あの前沢さんをはめた…
自分が、会社の金を横領して、その罪を、前沢さんに、着せた…
前沢さんが、この米沢京子に手を出したのが、許せなかったのだろう…
知らない仲ではない…
自分と血が繋がった従姉に手を出したのが、許せなかったのだろう…
しかし、前沢は、仕事…
あくまで、仕事のために、船見さんと、男女の関係になった…
あらためて、それを、思い出した…
なぜなら、以前、会社の同僚たちと、ランチをしていたときに、
「…前沢さんって、ホントに船見さんと、不倫をしていたのかな?…」
と、同僚の女子社員が、言っていたことを、思い出したからだ…
私も、あのときは、それを、聞いて、たしかに、二人を見て、とても、男女の関係には、見えないと、感じたものだ…
しかしながら、あの前沢が、船見さんに近付いたのは、単に営業所のことを、知るためだと、わかれば、納得する…
つまりは、船見さんには、悪いが、前沢が、船見さんに近付いたのは、色恋のためでは、なく、会社のため…
新任で赴任した営業所の人間関係やら、なにやらを知りたいから、船見さんに近付いた…
そのため、親密さはない…
それゆえ、二人が、付き合っているようには、見えなかった…
そう、思った…
そう、思ったのだ…




