恋かもしれない…恋愛偏差値ゼロ 第3部 125
私は、あらためて、この目の前の色っぽい米沢京子を、見た…
たしかに、会社で見たときとは、違う…
色っぽい、米沢京子を見た…
こんな色っぽい米沢京子と前沢が、親しく接しているのを、あの船見さんが、見れば、誤解する…
この米沢京子と、あの前沢が、男女の関係であると、誤解する…
そう、思った…
そして、そう、思っているところで、米倉正造が、
「…でも、あの前沢というひとも、被害者というか…」
と、突然、口を開いた…
「…被害者? …どうして、被害者なんですか?…」
と、私。
「…彼は、M商会の、中途入社で、おまけに、高見さんと、この米沢さんのいる、営業所に、所長として、やって来て、日が浅かったということです…」
「…それが、どうして、被害者なんですか?…」
と、私。
「…彼は、営業所のことを、知りたかったらしい…」
「…どういう意味ですか?…」
「…誰だって、同じだが、初めてやって来た職場で、右も左もわからない…それならば、一番手っ取り早いのが、その職場の古参の社員と仲良くすること…その古参の社員と、仲良くなって、その職場の情報を、その古参社から、教えてもらうことだ…その前沢というひとの不倫相手は、同じ営業所の古参社員だったそうじゃないか?…」
言われてみれば、その通り…
彼女、船見さんは、古参社員だった…
年齢も、私と、同じくらい…
彼女のことは、詳しくは、わからないが、古参社員と言われれば、納得する…
そして、あの前沢が、新任の営業所長として、やって来て、この営業所のことを、知りたいと思い、船見さんと、仲良くなり、その後、男女の関係になったと、言われても、納得する…
だが、それが、すべて、仕事のため…
新任で、赴任した営業所のことを、知るために、結果として、船見さんと、不倫して、その結果、船見さんに、横領の罪を着せられて、逮捕されたのだから、この正造の言うように、被害者と、言えば、被害者…
極端な話、あの前沢は、仕事のために、不倫したわけだからだ…
だから、被害者といえば、被害者…
仕事の被害者だった…
そして、それは、正造も、同じ気持ちだったらしい…
いや、
そうでは、ない…
私も、正造と、同じに、考えた…
同じように、考えたと、いうことだ…
そして、私が、そんなことを、思っていると、目の前の米沢京子が、
「…正造さん…今日は、そんなことを、言うために、私をここへ、呼んだの?…」
と、色っぽく、正造に、聞いた…
まるで、色仕掛けで、正造に、接しているようだった…
が、
正造は、動じなかった…
って、いうか、苦笑した…
いや、
苦笑というより、ふてぶてしい笑いを見せた…
そして、
「…米沢さん…」
と、声をかけた…
「…なに、正造さん?…」
米沢京子が、色っぽく言う…
「…父が、なぜ、アナタを、この高見さんと、同じ営業所に、入社させたか、わかりますか?…」
正造の質問に、米沢京子の顔が、止まったというか…
顔の表情が、なくなったとでも、言えば、いいのか…
なんとも、いえない表情になった…
そして、
「…そんなこと、知らない…」
と、ぶっきらぼうに、答えた…
「…そんなこと、考えたこともない…」
と、吐き捨てた…
その言葉を聞いた、正造は、冷たく、
「…そんなことも、わからない?…」
と、米沢京子に、聞いた…
まるで、米沢京子をからかうように、聞いた…
そして、当然のことながら、米沢京子は、怒った顔になった…
自分が、からかわれたのだから、当然だった…
「…どういう意味?…」
と、怒った顔で、正造に、言った…
おそらくは、米沢京子の本来の気の強さが、出た瞬間だった…
これまで、色っぽく、正造に接していた姿が、ウソのようだった…
まるで、おおげさに言えば、獣が、敵に、襲いかかるように、戦闘的な表情に変わった(苦笑)…
「…米沢さん、アナタは、この高見さんと、真逆なんですよ…」
「えっ? 真逆?…」
「…この高見さんは、小柄…対する、アナタは、大柄…」
「…」
「…さらに言えば、この高見さんは、清楚系…対するアナタは、色っぽい…」
「…それが、どうかしたの?…」
怒った口調で、米沢京子が、正造に聞いた…
「…わかりませんか?…」
正造が、再び、聞く…
「…ええ、わからないわ…」
米沢京子が、開き直って、言った…
「…アナタは、高見さんのアンチテーゼなんですよ…」
「…アンチテーゼ?…」
「…つまりは、高見さんに、すべてが、真逆だから、選ばれた…」
「…どういう意味?…」
「…つまり、高見ちづるあっての、アナタの存在がある…」
「…どういう意味?…」
「…その逆はない…」
「…どういう意味?…」
「…要するに、高見さんあってのアナタ…」
「…どういう意味よ!…」
と、しびれを切らして、米沢京子が、怒鳴った…
「…高見さんが、あの営業所に、配属されたから、アナタが、選ばれた…」
「…どういう意味よ!…」
と、またも、怒鳴った…
「…つまりは、失礼ながら、高見さんが、いなければ、米沢さんは、選ばれない…」
「…どういう意味よ!…」
と、怒鳴り続けた…
「…米倉平造に選ばれないという意味です…」
「…どうして、選ばれないんですか?…」
と、私。
「…彼女、米沢京子は、高見さんあっての、彼女なんです…」
「…私あっての…ですか?…」
「…今も言ったように、彼女、米沢さんは、高見さんと、すべてが、真逆…だから、選ばれた…」
「…だから、選ばれた?…」
「…それゆえ、高見さんあっての米沢さん…」
「…どうして、私なんですか?…」
と、私は、聞いた…
率直に言って、意味がわからなかった…
正造の説明で、この米沢京子が、私と真逆だと、いうことは、わかった…
いや、
あらためて、気付いた…
だが、どうして、私なのか、わからなかった…
どうして、私が、中心なのか、わからなかった…
「…まずは、高見さんの反応ですよ…」
「…私の反応?…」
「…自分と、真逆のタイプの美人が、目の前に現れて、高見さんが、どういう反応を示すか?…」
「…どういうことですか?…」
「…その反応が、見たかった…」
「…私の反応が、見たかった?…」
「…そうです…」
「…」
「…おまけに、この米沢さんは、まるで、高見さんに、敵対するように、いつも、ジロジロ睨んでいる…」
「…」
「…そんな状況で、高見さんが、どういう反応を見せるのか、興味があった…」
「…」
「…あるいは、意地悪をした…」
「…意地悪?…」
と、私。
「…ただし、意地悪した相手は、高見さんでは、ない…」
「…私じゃない? だったら、誰に、意地悪を?…」
「…水野のおじさまです…水野グループ総帥、水野良平です…」
「…ウソ!…」
「…ホントです…」
「…私に意地悪をするのが、どうして、良平さんに、意地悪をしたことになるんですか?…」
「…それは、さっきも言った、高見さんが、良平おじさまのお気に入りだからですよ…透のお嫁さん候補だからですよ…」
「…ウソ?…」
「…ホントです…」
「…つまり、高見さんに、意地悪をすることは、良平おじさまに、嫌がらせをしているも、同然…なにしろ、高見さんは、良平おじさまのお気に入り…そのお気に入りの人間に、誰かが、意地悪をすれば、当然、良平おじさまも、嬉しくは、ない…頭に来る…」
私は、その言葉を、聞いて、以前、良平と会ったときに、
「…高見さんの置かれた状況は、わかります…」
と、言った、良平の言葉を思い出した…
あのときは、あの言葉の意味を、深く考えなかったが、あの良平は、あのときに、すでに、私の置かれた状況を、報告を受けていたということだ…
いや、
別の言い方をすれば、私は、良平に監視されていたということだ…
おそらくは、透のお嫁さんに、ふさわしい女かどうか、監視していたと、いうことだ…
そして、それが、わかると、複雑と言うか…
なんて、言って、いいか、わからない気持ちになった…
私が、透のお嫁さん候補?
そんな夢みたいな話が、あるのか?
という気持ちが、一つ…
そして、もう一つは、私の結婚相手が、あの透だということ…
決して、嫌いではないが、実際に結婚相手と、考えると、微妙…
なんとも、微妙な相手だった(苦笑)…
透は、大金持ちのボンボン…
そんなボンボンと結婚できるかも、しれないなんて、まさに、夢のよう…
だから、その点では、嬉しいが、私は、透と、知り合って、透という男を、知っている…
だから、微妙…
結婚相手として、微妙だ(苦笑)…
これが、全然知らないで、透と、結婚するのなら、いい…
ただのお金持ちのボンボンと結婚できたと、なる…
しかし、私は、その前に、透と、知り合った…
以前、勤めていた金崎実業で、知り合った…
そのときに、取引先の納入業者として、知り合った…
つまり、そのときに、素の透を、見ている…
金持ちのボンボンとしてでは、ない、素の透を、見ている…
だから、微妙…
結婚相手としては、微妙だ…
透は、決して、悪い男ではない…
しかし、だからといって、透と、結婚するとなると、微妙…
実に、微妙だった…
そして、そんな私の心の内側が、私の表情に出ていたのだろう…
目の前の正造が、
「…高見さん、なんとも、言えない表情をしていますね…」
と、笑った…
実に、楽しそうに笑った…
私は頭に来た…
なぜ、頭に来たのか?
それは、私の心の内を、見抜かれたからだ…
だから、頭に来た…
実に、頭に来た…
それに、なにより、私の心の内を見抜いたのが、この正造だということが、余計に、頭に来た…
この米倉正造に、見抜かれたのだと、いうことが、余計に、頭に来た…
だから、私は、
「…正造さん、アナタ…」
と、怒鳴りたかった…
が、
その前に、
「…ウソ!…」
と、大声で、正造の隣にいた、米沢京子が、怒鳴った…
私は、唖然として、米沢京子を見た…
見たのだ…




