恋かもしれない…恋愛偏差値ゼロ 第3部 123
そして、遅まきながら、今、その事実に気付いた私は、
「…米沢さん、アナタ、前職は、ひょっとして…」
と、言った…
わざと、言った…
そして、それ以上は、言わなかった…
「…アナタ…失礼だけれど、お水出身では?…」
と、までは、言わなかった(苦笑)…
すると、
すると、だ…
「…あー、もしかして、高見さん、今頃、気付いた?…」
と、私を見て、笑った…
私を見て、目の前で、爆笑した…
が、
その笑いは、不快なものでは、なかった…
むしろ、可愛らしい笑い…
これまで、会社で、見たことのない、お水の笑いだった…
水商売特有の女の笑いだった…
そして、あらためて、彼女の服を見た…
服が、ド派手だった(爆笑)…
私と同じ三十を過ぎた年齢にも関わらず、ミニスカを履き、網タイツを履く、ド派手な格好だった…
私は、その姿を、見て、あらためて、納得した…
彼女が、お水出身に違いないと、納得した…
私が、まじまじと、彼女を見ていると、
「…会社は、辞めてきた…」
と、あっさりと、目の前の彼女は、言った…
「…辞めた?…」
私は、バカのように、彼女、米沢京子の言葉を繰り返した…
「…そうよ…私の役目は、もう、終わったもの…」
「…役目って?…」
「…バカね…アナタを監視することよ…高見ちづる、アナタを、牽制すること…」
「…牽制って?…」
「…私が、いつも、ジロジロ見ていれば、アナタ、なにも、できないでしょ?…それが、牽制…」
思っても、見ないことを、言った…
「…誰もが、赤の他人から、いつも、ジロジロ見られていれば、緊張する…でしょ?…」
彼女、米沢京子が、可愛らしく言う…
私は、言葉もなかった…
たしかに、その通り…
その通りだからだ…
誰もが、他人から、いつも、見られていれば、緊張する…
そして、次に、
…なぜ、見られているか?…
考える…
これが、男や女の間なら、わかる…
なぜなら、大抵は、相手が、気になるから…
異性の相手が、好きで、気になるからだ(笑)…
が、
相手が、同性の場合は、別…
ゲイやレズでもない限り、なんで、見ているか、わからない…
だから、悩む…
見られる理由が、わからないから、悩む…
悩むのだ(苦笑)…
私が、そんなことを、考えていると、正造が、
「…立ち話も、なんだから、どこか、近くの店にでも、入ろう…」
と、言った…
もちろん、私も異論は、なかった…
どうして、米倉正造が、私を待ち伏せしていたのか、知りたい…
なにより、このままでは、消化不良…
わからないことだらけだからだ…
私たちは、すぐに、近くに、店を探して、その店に入った…
店というのは、チェーン店のコーヒー屋…
その方が、話しやすいからだ…
私たち3人は、テーブルに座った…
私の目の前に、正造と、米沢京子…
そして、反対側に、私一人という具合だ…
私たちは、運ばれてきたコーヒーを、一口すすってから、話を再開した…
まず、私は、一体全体、なんで、こんなことになったのか、知りたかった…
なぜ、米沢京子が、私を監視していたのか、それが、知りたかった…
が、
正造が、口を開いたのは、意外な話からだった…
「…リストラというのは、大変だ…」
と、いきなり、話が、水野のリストラに及んだからだ…
私は、それを、黙って、聞いていた…
正造が、一体、なにを、話し出したいのか、知りたかったからだ…
ここで、私が、口を挟んでは、もしかしたら、喋らなく、なってしまうからだ…
だから、黙って、聞いた…
私からは、一切、口を挟まないで、黙って、正造の話を聞いていた…
「…うちの大日産業と、水野の合併と合併の解消…最大の原因は、社風の違いだったが、それだけじゃ、なかった…」
「…それだけじゃ、なかった? それでは、他に、なにが、あるんですか?…」
「…水野の経営ですよ…」
「…水野の経営って?…」
「…水野の経営には、無駄が多い…それが、合併して、うちにも、わかった…」
「…」
「…もちろん、良平おじさまも、透も、わかっていた…しかし、合併解消後、それを、うちの社員から、水野の社員に言われて、頭にきてたらしい…」
「…どうして、頭にきたんですか?…」
「…だって、それは、そうでしょ? 誰もが、自分たちの欠点は、わかっているけれども、それを他人に指摘されるのは、嫌なものです…」
「…」
「…もちろん、それを、直接、良平おじさまや透に、言うものは、誰もいませんが、そんな話は、自然と、二人の耳にも、入ってきます…そして、それが、今回の水野が、行ったリストラの遠因です…」
「…遠因…ですか?…」
「…言葉にすれば、遠い原因とでも、言えば、いいのですか?…今回のリストラに直接関係ないのですが、二人が、今回、リストラを決断する遠因になりました…」
「…」
「…直接のきっかけは、父です…」
「…平造さんですか?…」
「…そうです…」
「…父が、五井グループの女帝…諏訪野和子さんと、会ったのが、きっかけです…」
「…きっかけ?…」
「…そうです…」
「…五井は、米倉や水野と違って、世界中の国と、取引がある…」
「…」
「…サウジアラビアの王室とも、知己がある…」
「…えっ? そんな…王室とも?…」
「…五井ともなれば、そういうものですよ…」
「…」
「…諏訪野和子が、どうして、父に、サウジアラビアの王室との繋がりを話したのかは、わからない…ただ、それで、在日のサウジアラビア駐日大使とも、親しくなり、一芝居打ってもらった…水野が、サウジアラビア政府と、共同で、ビッグプロジェクトをすると、発表することに、協力して、もらった…そして、ビッグプロジェクトを名目にして、水野グループのリストラに着手した…本来の目的に着手した…」
「…透さんは、どうして、父の良平さんに、事前に、相談しなかったんですか?…」
「…相談? …そんなことを、すれば、外に漏れる心配があります…」
「…」
「…二人の間でも、いつかは、リストラは、やらなければ、ならない…そんな共通認識がありました…でも、簡単には、できない…世間の目があるからです…それが、今回、父から、透に助け舟を出した…サウジアラビア政府と組んで、ビッグプロジェクトをやると、それを名目にして、水野グループのリストラをやればいいと、アイデアを出した…水野グループのリストラを後押しした…」
「…平造さんが?…」
「…そうです…」
「…でも、平造さんは、透さんを憎んで…」
「…たしかに、好子と結婚して、短期間で、離婚したことに、父は、不満を、持っていました…ただ、当たり前ですが、父は、子供じゃない…」
「…子供じゃないって、どういうことですか?…」
「…離婚は、仕方がないということです…」
「…」
「…もちろん、もう少し、長く結婚生活を続けていて、欲しかったということは、あります…でも、二人の性格が合わなければ、仕方がない…結婚生活は、他人が、どうのこうの、口を挟めるものじゃ、ありませんから…当然、父も、そのことは、理解しています…」
「…」
「…それに、透にしても、好子と結婚できたことに、嬉しさはあっても、後悔は、ない…」
「…後悔は、ないって、どういうことですか?…」
「…透は、好子に、子供の頃から、憧れてました…だから、好子と結婚できて、嬉しかった…でも、うまくいかなかった…いざ、結婚したら、ダメだった…でも、結婚できたのだから、離婚しても、後悔は、ない…そういう意味です…」
「…そういう意味?…」
「…そうです…そして、父もそのあたりの事情は、大人ですから、よくわかっています…ただ、やはり、モヤモヤというか、納得のできないことでも、ありました…」
「…」
「…だから、父は、良平おじさまに、イタズラをした…」
「…イタズラ?…」
「…彼女ですよ…」
「…えっ?…」
「…この米沢京子さんですよ…」
「…どういう意味ですか?…」
「…彼女に、わざと、高見さんに、敵対させた…高見さんは、良平おじさまに、気に入られている…透と、結婚させたいと、思っている…その高見さんに、わざと、ちょっかいを出した…」
「…そんな…」
「…それに、なにより、この米沢さんを、高見さんと、同じ、営業所に、入れたことです…」
「…どういう意味ですか?…」
「…高見さんと、同じ、営業所に、配属するというのは、水野グループの人事部の人間しか、できません…ですが、父は、その人事部の人間に、頼んで、事前に高見さんと、同じ営業所に、彼女、米沢さんを、配属した…つまりは、父は、米倉平造は、依然として、水野グループに影響力を持っているということです…」
「…影響力…」
「…水野グループは、当然、水野一族が、支配するグループ…だが、なぜか、そこに、部外者の米倉平造の影響力が、及んでいる…これは、水野良平にとっては、恐怖でしか、ない…」
「…恐怖?…」
「…だって、そうでしょ? 自分の会社にも、かかわらず、自分以外の人間の影響力がある…経営者にとっては、こんなに、怖い話は、ない…」
「…」
「…もっとも、それが、父の狙いでした…」
「…お父様の狙い?…」
「…そうです…何度も、繰り返しますが、透と、好子の離婚は、当事者同士の問題だから、誰も、口を挟めない…もちろん、父も、です…ですが、やはり、納得ができない部分もある…納得ができない感情もある…でも、面と向かって、それを、口にすることは、できない…行動することも、できない…だから…」
「…だから、嫌がらせをした? …わざと、この米沢さんを、私と同じ営業所に配属して、自分でも、水野の人事を、動かせるのだと、誇示した?…」
「…そういうことです…でも、やりすぎては、いない…」
「…どういうことですか?…」
「…以前、高見さんに、言ったでしょ?…」
「…なにを、おっしゃったんですか?…」
「…父の米倉平造と、水野良平の関係は、プロレスだと…」
「…」
「…プロレス…つまり、あらかじめ、勝敗は、どうか、わかりませんが、どこまで、やっていいか、筋書きは、決まっている…要するに、ここまでは、やっていい…これ以上は、ダメ…その線引きです…」
「…線引き?…」
「…そうです…その線を越えようとしたとボクは、見たから、ボクは、父を諫めようと、熱海に行った…あのとき、高見さんに、会いましたね…」
「…ハイ…」
「…それに、米沢さんにも…」
「…ハイ…お会いました…」
米沢京子が、言う…
「…でも、あのとき、ビックリしたでしょ?…」
「…ビックリした?…どうして?…」
「…だって、アナタ…良平おじさまにも、通じているから…」
正造が、言う…
その瞬間、米沢京子の顔が、引きつった…




