恋かもしれない…恋愛偏差値ゼロ 第3部 122
話を若干、前に戻そう…
水野グループの再編のことだ…
水野グループの再編は、決定事項…
すでに、上層部の中では、決定事項だった…
しかし、問題は、そのタイミング…
いつ、それを、やるのか、タイミングが、難しい…
なにしろ、日本は、皆、横並び…
自分一人だけ、目立つのを、嫌う…
いわゆる、日本は、空気を読む文化(笑)…
それゆえ、自分だけ、ひとと、違うことを、することが、できない…
あるいは、難しい…
そして、これは、個人も、そうだが、企業も、また、同じ…
それゆえ、リストラも、同業他社が、行って、初めて、自分の会社もと、なる…
だから、水野も、同業他社が、リストラを行うのを、辛抱強く待っていたが、他の会社は、どこも、リストラはしない…
だから、待った…
リストラをする機会を、待った…
その中で、リストラを決行したのは、偶然…
たまたま、米倉平造が、サウジアラビア政府とお偉いさんと知り合いになり、日本にいる、サウジアラビアの駐日大使とも、知り合いになり、それで、一芝居打ったというわけだ…
つまりは、透の背後に、米倉平造が、いたわけだ…
なにしろ、透は、三十歳そこそこの若造…
能力は、いざしらず、人脈がない…
ビジネスを行うのに、大切なことは、人脈…
要するに、ひととの繋がりだ…
三十歳そこそこの透には、それが、ない…
当たり前のことだ…
会社に入り、さまざまなひとと出会って、人脈を広げる…
それが、ビジネスの基本だからだ…
それが、若い透には、できない…
まあ、若いのだから、仕方がない…
透が、それを、父の良平にも、言わなかったのは、計画が漏れるのを、恐れたため…
一人でも、多くのひとが、知るところとなれば、計画が漏れる可能性が高いから…
それゆえ、父の良平にも、知らせなかった…
当たり前だが、ひとの口に戸は立てられない…
それになりより、
「…これは、秘密だから、誰にも、言っちゃ、ダメ!…」
と、言われる話ほど、誰もが、ひとに話したがる(爆笑)…
「…ここだけの話だけれど…」
と、言いながら、話したがる…
誰もが、そういうものだからだ(笑)…
それゆえ、透は、平造の指示を受けて、駐日のサウジアラビア大使と組んで、一芝居打ったと、いうわけだ…
そして、それが、わかると、透の評判が、上がった…
水野グループの次期後継者にふさわしいと、評価が上がった…
そして、問題なのは、ここ…
水野良平が、盟友の米倉平造に頭が上がらなくなったことだった…
いや、
頭が上がらないというのは、言い過ぎ…
米倉平造に借りを作ったとでも、言えば、いいのだろうか?
少なくとも、平造に、文句は言えなくなった…
率直に言って、水野透と、米倉好子の結婚と離婚は、二人の間にしこりが残った…
互いの後継者同士が、結婚して、短期間で、離婚したのは、平造と良平の間にしこりが、残った…
それは、米倉=大日産業と、水野との合併と、合併の解消以上に、しこりが、残った…
会社の合併は、社風の違いや、事業の違いで、頓挫したが、結婚は、それ以上のしこりとなった…
会社より、個人というか…
お互いの、目に入れても痛くないほど、溺愛した後継者同士の結婚と離婚の方が、感情的なしこりが、大きいからだ…
それが、今回の件で、解消された…
が、
ことは、そう単純ではない…
平造も、良平も、善人ではない…
善人=聖人君子ではない…
それが、象徴されるのは、あの米沢京子…
彼女の存在だ…
私を忌み嫌った彼女の存在だ…
彼女、米沢京子は、平造の主催する米倉報公会のメンバーだったが、同時に、水野良平にも、情報を流していた…
私の情報を流していた…
それが、わかったのは、偶然…
実に、偶然だった…
あの後、米倉正造が、わざわざ、私の元にやって来たのだ…
会社帰りの私の元にやって来たのだ…
私が、トボトボと歩く、M商会からの帰り道に、私を待ち構えていたのだ…
私が、歩いていると、私に声をかけるでもなく、いきなり、ポンと背後から、私の肩を叩いた…
私は、驚いた…
実に、驚いた…
声をかけられるのも、驚くが、それ以上に驚いた…
路上を歩いていて、いきなり、誰かに肩を叩かれることなど、普通は、ないからだ…
私が、驚いて、振り返ると、米倉正造の姿があった…
「…しょ、正造さん…」
私は、驚いた…
文字通り、ビックリ仰天した…
そして、それ以上に、ビックリ仰天したのは、隣に、米沢京子がいたことだった…
私の天敵、米沢京子がいたことだった…
米沢京子は、私をジッと見つめていた…
この米沢京子は、さっきまで、私と同じオフィスにいた…
M商会の営業所にいた…
が、
彼女は、私以上に、会社に馴染まない…
いや、
そもそも、会社に馴染もうとしていなかった…
なぜだか、知らないが、馴染もうと、していなかったのだ…
彼女は、私を見て、ニヤリと笑った…
それから、米倉正造を見て、
「…彼女が、正造さんのいいひと?…」
と、からかうように、言った…
しかも、
しかも、だ…
その言い方が、妙に、艶っぽいというか…
甘えたような、言い方…
まるで、水商売の女のような言い方だった…
会社では、見たことも、聞いたこともない言い方だった…
まるで、別人の言い方だった…
正造は、なにも、言わなかった…
ただ、笑っていた…
米沢京子は、
「…でも、悔しい…」
と、続けた…
「…正造さんに、そんなに気に入られるなんて…」
とも、続けた…
甘ったるい声で、続けた…
しかし、正造は、なにも、言わなかった…
ただ、黙って、微笑んでいた…
一方、私はと、言えば、呆気に取られていた…
ただただ、呆気に取られて、言葉もなかった…
まさか、正造が、米沢京子と、いっしょに、私の前に現れるとは、夢にも、思ってなかったからだ…
だから、呆気に取られて、言葉もなかった…
ただ、唯一、言えたのは、
「…アナタたち、知り合い…」
と、言う言葉だけだった…
いや、
そうではない…
そう、言ってから、この米沢京子は、米倉報公会出身…
それゆえ、二人が、知り合いでも、おかしくはない…
私が、驚いたのは、二人が、知り合いということではなく、二人が、親密な知り合いだと、いうことだった…
それが、驚きだったのだ…
そして、そして、だ…
なにより、この米沢京子が、米倉正造と、いっしょにいるときは、会社での姿と別人というか…
妙に、色っぽかった…
妙になまめかしいとまでは、言わないが、色っぽかった…
元々、この米沢京子は、色っぽい…
この米沢京子は、私と真逆…
私、高見ちづると真逆…
なにが、真逆なのか?
私は、自分で言うのも、なんだが、爽やか系…
女優の常盤貴子さんを、一回り小柄にしたルックス…
身長、155㎝足らずだからだ…
それが、この米沢京子は、身長が、高く、165㎝を超える…
おそらく、身長は、167㎝か、168㎝…
だから、私とは、真逆…
身長、155㎝と小柄な私とは、真逆だ…
さらに、色っぽさ…
何度も言うように、この米沢京子は、色っぽい…
ちょうど、芸能人で言えば、飯島直子さんの若い頃のよう…
なんとなく、色っぽいのだ…
それゆえ、色っぽさのまるでない私とは、真逆…
この点でも、真逆だった…
しかも、
しかも、だ…
この米沢京子は、いつもにも、まして、色っぽかった…
もちろん、着ている私服が派手ということもある…
が、
それだけではない…
表情が、色っぽいのだ…
これでは、まるで、お水…
水商売の女だ…
私は、思った…
思ったのだ…
と、同時に、気付いた…
今、気付いた…
この米沢京子は、お水出身?…
ホステスやキャバクラ出身では、ないかと、気付いたのだ…
そして、それならば、わかる…
なにが、わかるのか?
彼女、米沢京子が、会社の誰とも、親しくしなかった理由が、わかる…
男女を問わず、会社の誰とも、親しくしなかった理由が、わかる…
親しくするには、どうしても、自分のことを話さなければ、ならなくなる…
相手のことも、聞くが、自分のことも、話さなければ、ならなくなる…
おそらく、それが、困るのだろう…
仮に、水商売をしていたとなると、それを話すわけには、いかない…
うまく、前職をごまかす必要がある…
どこかで、会社員をしていたと、ごまかす必要がある…
それが、困るのだろう…
だから、誰とも話さなかった…
仕事以外の話を一切しなかった…
それが、真相だろう…
会社の誰とも、話さなかった真相だろう…
それが、今、気付いた…
遅まきながら、今、気付いた…




