恋かもしれない…恋愛偏差値ゼロ 第3部 114
そして、あらためて、正造の狙いを考えた…
やはり、それは、水野良平の怒りを鎮めるため…
水野と、米倉の関係の修復を狙ったものだろう…
そう、考えた…
平造は、やり過ぎた…
下手をすれば、水野が、窮地に陥るかも、しれない…
それほどの大きなことを、やり過ぎた…
単純にひとを介して、透を、サウジアラビア政府の関係者と、会わせただけだが、それが、結果的に、水野を窮地に追い込ませるかも、しれない…
そんな危険を作ったとも。言える…
それゆえ、正造は、動いた…
とりあえず、会社に出社しないで、行方をくらましている透に、好子さんから、電話をさせた…
その方が、透も、話しやすいと思ったのかも、しれない…
男同士の方が、話しやすい場合もあるし、男と女の方が、話しやすい場合もある…
今回の場合は、好子さんの方が、適任と考えたのかも、しれない…
互いに結婚して、離婚したが、結婚した期間は、わずか、半年…
しかも、二人とも、憎みあって離婚したわけでも、なんでもないからだ…
だから、互いにしこりはない…
感情のもつれはない…
それゆえ、適任と、考えたのかも、しれない…
なにより、透は、幼いときから、好子さんに、憧れていた…
いかに、結婚して、離婚しても、その感情が、消えることはないだろう…
それに、何度も、繰り返すが、二人の結婚期間は、わずか、半年…
半年間、結婚していただけ…
それゆえ、憎みあうほど、関係が、悪化するとは、考えにくい…
結婚して、憎みあって、別れるのは、もっと、長い間、結婚期間があった場合…
どうして、こんなひとと結婚したんだろ?
と、お互いが、考えるほど、憎みあって、別れる(爆笑)…
結婚が、長いだけに、互いの悪いところを、それこそ、嫌というほど、見たからだろう…
それゆえ、憎みあう…
もはや、見方を変えれば、喜劇だ…
当人たちは、悲劇かも、しれないが、傍から見れば、喜劇だ…
あれほど、好き合って結婚したのが、憎しみ会って、別れる…
これが、喜劇でなくて、なんだと言うのか?
私は、思った…
私は、考えた…
そして、私が、そんなことを、思っていると、
「…バカよね…」
と、電話の向こう側から、好子さんが、呆れたように、笑った…
「…バカよね…ホント、バカ…」
と、笑う…
「…バカ? どうして、バカなんですか?…」
「…だって、自分の会社の大きさが、わからないなんて、バカでしょ?…」
「…」
「…水野は、米倉から、比べれば、大きい…3倍は、大きい…」
「…」
「…でも、五井から、すれば、全然、小さい…比較にならないほど、小さい…」
「…五井?…」
「…そう、五井よ…」
「…どうして、ここで、五井の名前が出るんですか?…」
「…仕掛けたのが、五井だからよ…」
「…えっ?…」
「…五井が、透が、サウジアラビア政府と、共同で、事業をやると言ったことを、仕掛けたのよ…」
「…でも、それは、好子さんのお父様の紹介じゃ…」
「…父じゃないわ…」
「…ウソ? 私は、好子さんのお父様だと、聞いて…」
「…誰に、聞いたの?…」
この質問に、私は、答えて、いいか、わからなかった…
だから、
「…」
と、黙った…
が、
好子さんが、咎めるような口調で、
「…答えなさい…高見ちづる…」
と、言うものだから、少し悩んだが、呆気なく、
「…水野さんです…」
と、白状した…
「…良平おじ様?…」
「…そうです…」
すると、だ…
「…おじ様…ずるーい…」
と、笑った…
実に、楽しそうに、笑った…
私は、呆気に取られた…
ズルいって、一体、なにが、ズルいんだろ?
わけが、わからなかったからだ…
それゆえ、
「…ズルいって、なにが、ズルいんですか?…」
と、聞いた…
聞かざるを得なかった…
「…父は、平造は、たしかに、透を、そそのかしたかも、しれないけれども、父の背後には、五井が、いるわ…」
「…五井がいる?…」
「…そうよ…父は、頼まれただけ…」
「…ウソ?…」
「…ホント…」
「…」
「…それを、おじ様が、知らないわけは、ないのに、高見さんに、父が、単独で、透を、そそのかしたなんて…だから、ずるいと、言ったの…」
私は、それを、聞いて、納得した…
なぜ、良平が、平造に、怒らなかったのか?
納得した…
透を、そそのかしたのは、たしかに、平造だが、平造の背後には、五井が、いる…
それを、良平は、知っているから、平造に対して、怒らなかった…
怒りを見せなかったのだと、納得した…
しかし、なぜ?
なぜ、五井なんだろ?
なぜ、ここで、五井の名前が出てきたんだろ?
それが、謎だった…
それが、わからなかった…
だから、聞いた…
なぜ、五井なのか、聞いた…
「…なぜ、五井なんですか?…」
と、直球で、聞いた…
すると、答えは、簡単だった…
実に、呆気なかった…
「…五井が、水野を目の敵にしているからよ…」
「…目の敵?…」
「…五井の女帝が、良平おじ様の奥様の春子おば様を、目の敵しているからよ…」
それを、聞いて、思い出した…
たしか、以前、新造さんが、言っていたことを、思い出した…
この好子さんの弟の新造さんが、言っていたことを、思い出した…
たしか、五井の女帝と、水野の奥様は、昔、若い頃に、同じ男を取り合って、それ以来、犬猿の仲だと、言っていたことを、思い出した(爆笑)…
そして、私が、そんなことを、思い出していると、
「…五井の女帝…諏訪野和子が、今回の首謀者よ…」
と、好子さんが、告げた…
「…首謀者?…」
「…そう、首謀者よ…今回、透に、サウジアラビア政府と、共同で、水野が、事業をやろうと言い出す、きっかけを作った首謀者よ…」
「…」
「…五井の女帝の諏訪野和子と、水野の春子おばさまは、天敵…財界で、知らない者は、誰もいないわ…」
「…」
「…それで、ちょうど、私が、米倉の…大日産業の今後のことを、五井の若き当主、諏訪野伸明氏に相談していたことが、公になって噂になったときに、五井の女帝も、透に接近した…」
「…透さんに、接近…ですか?…」
「…いわゆる、功名心というか…別れた奥さんの私が、五井の当主に、接近して、いい仲になろうとしているのに、アナタは…と言った…水野も大きいけれども、世間的には、微妙…知る人ぞ知る企業という感じ…だから、サウジアラビア政府と、共同で、大きなことを、やれば、世間の注目を浴びると、けしかけた…」
「…けしかけた?…」
「…そう、けしかけた…言葉を変えれば、罠にかけた…」
「…罠…ですか?…」
「…そう、罠よ…水野に、そんな体力はない…そんな金はない…サウジアラビア政府と、共同で、そんな大きなプロジェクトを推進すれば、下手をすれば、水野が、倒れる…」
「…でも、透さんは、水野のトップじゃない…トップは、透さんのお父様でしょ? だから、透さんが、なにを言おうと、決めるのは、お父様じゃ…」
「…それは、たしかに、そう…高見さんの言う通り…」
「…だったら、問題ないんじゃ…透さんに、決定権は、ないわけだから…」
「…それは、違う…」
「…違う? なにが、違うんですか?…」
「…透が、駐日サウジアラビア大使と共同で、記者会見を開いた…水野が、サウジアラビア政府と共同で、事業をすると、断言した…それを、撤回すれば、水野の名前に、傷がつく…なにより、透は、水野の次期後継者…その後継者の経歴に、傷が、つく…」
「…」
「…そして、たぶん、五井の女帝は、それを、狙ったのよ…」
「…どういうことですか?…」
「…いかに、水野が、頑張っても、そんな大事業、水野にできるわけはない…それを、わかっていて、透に、そんな話を持ちかけた…つまり、最初から、そんな大事業ゆえに、水野が、途中で、撤回することが、わかっていた…それが、狙い…」
「…それは、どういうことですか?…」
「…つまり、透に、恥をかかせる…水野に恥をかかせる…それが、狙い…」
「…ウソ?…」
「…ホント…」
「…」
「…周囲は、五井の女帝の狙いが、わかったから、激怒した…とりわけ、春子おばさまは、怒髪冠を衝く怒りで…」
「…」
「…春子おばさまと、五井の女帝の諏訪野和子さんは、犬猿の仲…それだから、五井が、水野の顔に泥を塗るつもりだと、おばさまは、激怒して…」
そうか…
それで、わかった…
あの水野良平が、米倉平造に、怒ってない理由が、あらためて、わかった…
あくまで、平造は、仲介者…
本命は、諏訪野和子というわけだ…
それが、わかっているから、良平は、怒らなかった…
そんな当たり前のことを、再認識した…
そして、私が、そんなことを、考えていると、
「…高見さん…」
と、好子さんが、言った…
「…ハイ…なんでしょうか?…」
「…高見さん…透が好き?…」
いきなり、好子さんが、言った…
私は、驚いた…
同時に、なんて、答えていいか、わからなかった…
それゆえ、
「…」
と、答えなかった…
いや、
答えられなかった…
すると、好子さんが、追い打ちをかけた…
「…答えて、高見ちづる…」
と、追い打ちをかけた…
それゆえ、困った…
どう、答えて、いいか、わからなかった…
すると、好子さんが、
「…透は、高見さんが、好き…」
と、言った…
「…たぶん、私より、高見さんが、好き…」
と、断言した…
それから、
「…それも、私が、透と、離婚した原因のひとつ…」
と、告白した…




