恋かもしれない…恋愛偏差値ゼロ 第3部 11
意味深と言ったのは、話が、いきなり、米沢京子にいったからだ…
「…ボクは、今も言ったように、中途入社…だからかな…つい、会社にいても、中途入社組が、気になってね…」
「…気になる?…」
「…誰でも、そうでしょ? 自分と同じ境遇にある人間に親近感を抱くというか…だから、気になって来る…」
「…」
「…中途入社組と言えば、米沢さんも、そうかな…」
前沢が言う…
実に、意味深な名前が出た…
まさか、ここで、彼女の名前が出るとは、思わなかった…
彼女、米沢京子の名前が出るとは、思わなかった…
そして、そんな驚いた私の表情に、前沢が、気付いた…
「…高見さん…ここで、米沢さんの名前が出たのには、ビックリしたようだね…」
前沢が、言う…
しかしながら、私は、どう答えていいか、わからず、
「…」
と、黙るしか、なかった…
「…ハイ…」
とも、
「…いいえ…」
とも、言わず、黙るしか、なかった…
すると、前沢が、
「…彼女、高見さんを、目の敵にしているよね…」
と、あっさり、言った…
核心をついたというか…
その話を聞いて、
「…もしかしたら、今日は、私にその話をするために、ここに誘った?…」
と、気付いた…
遅まきながら、気付いた…
が、
私は、どうして、いいか、わからず、黙るしか、なかった…
なんと、答えていいか、わからなかったからだ…
ここで、
「…いえ、彼女、米沢さんが、私を目の敵にしているなんて、そんな事実は、ありません…」
と、でも、言えば、いいのかも、しれない…
しかしながら、それは、誰が、聞いても、ウソ…
嘘八百(笑)…
彼女、米沢京子が、私を目の敵にしているのは、同じ、営業所にいる全員が、わかっている…
ただ、誰も、口にしないだけだ…
誰も、面倒ごとには、関わりたくないから、口にしないだけだ…
私は、思った…
思ったのだ…
そして、そんなことを、私が、思っていると、ずばり、前沢が、
「…高見さん…彼女となにか、あったの?…」
と、直球で、聞いた…
これには、内心、苦笑した…
笑うしか、なかった…
だから、思わず、
「…プッ!…」
と、吹き出して、しまった…
失礼ながら、
「…プッ!…」
と、吹き出して、しまった…
これには、前沢も慌てた…
「…な、なんだ? …なにが、おかしい?…」
と、慌てた口調で、言った…
「…だって、前沢さん、そこまで、露骨に、口にするひとは、いませんよ…子供じゃ、ないんだから…」
「…子供じゃない?…」
「…私と彼女が、仲が悪いことは、みんな知ってますよ…でも、誰も、口にしないだけ…それが、大人の対応って、ものですよ…」
私が、言う…
まるで、四十代の前沢より、33歳と年下の私が、威張って言う…
これには、笑えた…
内心、実に笑えた…
すると、前沢も、
「…そうだ…そうだよな…」
と、ひとり、納得したように、愚痴った…
私は、そんな前沢に相槌を打つように、
「…そうですよ…」
と、言った…
「…原因は? …なにか、心当たりはある?…」
前沢が、吹っ切れたように、聞く…
「…ありません…」
「…ない?…」
「…ハイ…ありません…なにより、彼女と会ったのは、この会社に来て、初めて、会いました…」
私が、きっぱり断言すると、
「…そうか…そうだよな…」
と、前沢が、納得するように、呟いた…
だから、私は、
「…どうして、わかるんですか?…」
と、聞いた…
その質問に、前沢は、
「…距離感というか…」
と、曖昧に返答する…
「…距離感?…」
「…そう、距離感…例えば、学生時代の顔見知りだったり、前の会社の同僚だったり、すれば、会話をせずとも、なんとなくわかるものだろ?…」
「…」
「…どこか、親密さが、出るものだ…別に馴れ馴れしくなくとも、見ていれば、なんとなくわかるものだよ…ほら、会社で、男女の同僚同士が、付き合っていて、会社では、内緒にする…でも、付き合っているもの同士なら、どこか、親密さが、出る…それで、周囲の人間は、気付くものだ…」
「…」
「…高見さんと、米沢さんを、見ていると、接点が、おそらく、なにも、ないのが、わかる…たぶん、米沢さんが、一方的に、高見さんを、嫌っているだけ…違うかな?…」
前沢の質問に、私は、黙って、頷いた…
黙って、首を縦に振って、頷いた…
「…やっぱり…」
前沢は、我が意を得たというように、満足そうに、笑った…
私は、それを、見て、
「…理由が、わかりますか?…」
と、直球で聞いた…
聞かざるを得なかった…
「…それは、わからない…」
前沢が、あっさり答える…
「…でも、自分になんの非がなくても、相手から恨まれるのは、よくあることだよ…」
「…よくあること?…」
「…そうだよ…」
「…」
「…その顔は、納得いってないようだね…」
「…」
「…ボクも、もう四十代だ…さまざまな人間を見ている…さまざまな職場を経験している…」
「…」
「…一番、ありがちなのが、大学を出て、新卒で、会社に入社して、同じ年齢の高卒のひとが、大卒に嫌がらせをするケースだ…」
「…エッ? …嫌がらせ?…」
「…そう、嫌がらせだ…それまで、会ったことも、見たこともない同年齢の大卒に対して、同じ年齢の高卒の人間が、嫌がらせをする…」
「…どうして、嫌がらせを?…」
「…悔しいんだろ…」
「…悔しい?…」
「…自分と同じ年齢でも、大学を出ているから、自分と違って、将来、出世すると、大卒を思っている…だから、悔しくて、仕方がない…」
「…」
「…要するに、嫉妬だ…自分が、大学を出ていないから、悔しくて、仕方がない…それだけだ…」
「…」
「…でも、愚かだと思うよ…」
「…どうして、愚かだと、思うんですか?…」
「…だって、出世する人間を見て、ごらん…大抵、大卒だし…なにより、当時、ボクの目から見ても、年齢に関わらず、大卒か、高卒か、簡単に、わかったよ…だから、ボクの目から見ても、高卒のひとは、将来出世が、難しいと、思ったよ…」
「…」
「…でも、それが、わからないのが、高卒と、言っちゃ、悪いが、頭が、悪いんだな…この歳になって、そう思うよ…」
「…どうして、そう思うんですか?…」
「…だって、高卒か、大卒か、見て、わからない…出世する人間を見れば、その人間の学歴は、なんとなくわかるし、それを、見れば、自分が、将来、この会社で、出世できるか、否か、簡単にわかると思うじゃ、ないか?…」
「…それは…」
「…それが、わからないのが、頭が悪い証拠…例えば、大卒は、偏差値60の高校を出て、高卒は、偏差値40の高校を出ている…でも、社会に出て、会社に入れば、そんなことは、関係がない…仕事に学歴は、関係ない…自分なら、簡単に、逆転可能だと、思う…そう、心の底から、信じている…」
「…」
「…最近、そんなふうに、思ってね…歳のせいかな…」
前沢は、笑った…
恥ずかしそうに、笑った…
「…つまり、話が、長くなったが、自分に非がなくても、他人に恨まれることは、ありがちだと、言いたいんだ…それに…」
「…それに、なんですか?…」
「…こう言っては、なんだが、高見さんは、美人だ…だから、米沢さんの怒りを買ったのかも、しれない…」
「…どうして、美人が?…」
「…美人は、敵を作りやすい…とりわけ、同性に、敵を作りやすい…これは、説明しなくても、わかるでしょ?…」
「…それは…」
と、言って、それ以上、言わなかった…
たしかに、過去、私も33年生きてきて、一方的に、私を憎んだ相手も、一人や二人ではない…
そして、私を一方的に、憎んだ相手は、同性…
同性の女だった…
私が、彼女たちに、なにかを、したのではない…
が、
彼女たちは、ただ、私を目の敵にした…
私が、美人だからだ…
だから、人並みのルックスしか、もたない彼女たちは、悔しくて、仕方がない…
それが、理由だろう…
自分にないものを、私が、持っている…
だから、悔しくて仕方がない…
そういうことだろう…
これと、同じケースが、キムタクこと、木村拓哉の事例だ…
中学生や高校生に過ぎないキムタクを地元の不良連中が、イジメるべく、駅で、待ち構えていたという…
要するに、イケメンで、ジャニーズに入っているキムタクが、羨ましくて、仕方がないのだ…
自分が、持っていないルックスを持っているキムタクが、羨ましくて仕方がないのだ…
これと、同じだ…
男も女も、同じ…
同じく、自分にないものを、持っている人間に嫉妬する…
その結果、一部の人間が、暴走する…
そういうことだ…
私は思った…
思ったのだ…
そして、私が、そんなことを、考えていると、前沢が、
「…しかし、おかしいな…」
と、独り言のように、呟いた…
「…おかしい? …なにが、おかしいんですか?…」
「…米沢さんのことだ…」
「…米沢さんのこと? 米沢さんの、なにが、おかしいんですか?…」
「…米沢さんは、高見さんと、タイプは、違うが、美人だ…だから、自分が、美人だから、美人に嫉妬する理由はないと、思うんだが…」
前沢が、首をひねる…
が、
私は、前沢の意見に同調しなかった…
「…それは、違います…」
「…どう、違うの?…」
「…美人は、美人を憎むことが、多いんです…」
「…どうして、多いの?…」
「…自分が、美人だから、他の美人が、許せない…」
「…美人が、許せない? どういうこと?…」
「…学校のクラスでも、会社の職場でも、美人は、一人だけでいい…他に、美人が、いれば、その美人が、チヤホヤされる…それが、許せないんです…」
私は、言った…
勇んで、言った…




