恋かもしれない…恋愛偏差値ゼロ 第3部 108
それから、私は、良平といっしょに、近くの店に入った…
近くのスタバに入った…
店に入ると、実に、良平が、ホッとした顔をした…
物凄く、くつろいだ顔になった…
私は、それを、見て、
「…会長、なんだか、物凄く、ホッとした顔をしていますよ…」
と、告げた…
私が、それを、指摘すると、
「…わかりますか?…」
と、だけ、呟いた…
「…最近、色々あって…」
と、続けたが、あえて、私は、なにも、言わなかった…
なにが、あったか、わかっていたからだ(苦笑)…
透のこと…
前沢のことなど、大げさに、言えば、激震だらけ…
水野グループは、内部で、揺れに揺れているのでは、ないか?
そう、思った…
それゆえ、その心労が、表情に出ていると、見るのは、早計か…
だが、私は、そう、見た…
そう、見たのだ…
しかしながら、それを、口にするわけには、いかない…
それゆえ、
「…会長も、色々ご苦労があって、大変ですね…」
と、だけ、言った…
実に、当たり障りのない言葉を言った…
その方が、無難だからだ(笑)…
これは、正直、ズルいが、なにも、相手の顔色が、変わるかも、しれないことを、言う必要は、ないからだ…
だが、そうではなかったのかも、しれない…
なぜなら、
「…高見さんにも、色々、ご迷惑をおかけして、本当に、申し訳ない…」
と、いきなり、良平が、私に頭を下げたからだ…
そして、良平は、頭を、下げたまま、
「…実は、高見さんを、私のグループ会社に、入れたことが、透が、激怒した理由のひとつだった…」
と、思いがけない告白をした…
私は、唖然とした…
なにより、この言葉は、想定外…
実に、想定外だったからだ…
顔を上げた、良平は、
「…それが、今回の引き金だった…」
と、続けた…
「…今回の引き金って?…」
「…透が、サウジアラビア政府と、いっしょに、なにやら、大きなプロジェクトを立ち上げると、言い出したことです…」
良平が、意外なことを、言う…
「…どうして、私を今の会社に入れたことと、透さんが、サウジアラビア政府と、共同で、ビッグプロジェクトをやろうとするのが、関係があるんでしょうか?…」
私は、聞いた…
当たり前のことだ…
それを聞いて、すかさず、良平が、
「…私が、いや、私たち夫婦が、透を、信用していないからです…」
と、告白した…
「…透さんを、信用してないって?…どういうことですか?…」
「…要するに、子供…まだ、よちよち歩きの子供だと、見ている…」
「…」
「…高見さんのこともそう…私が、自分のグループ会社に高見さんを、入社させて、高見さんを、監視している…透の、将来のお嫁さん候補として、ふさわしいか、否か、見ている…それが、透にバレた…」
「…」
「…それが、きっかけで、透は、激怒して、サウジアラビア政府と、水野が、共同で、プロジェクトをするなんて、大きなことを、言い出した…要するに、オレは、もう子供じゃない!…オレの実力を見せてやる! と、意気込んだのです…」
良平が、告白した…
実に、意外な告白をした…
まさに、想定外…
想定外の言葉だった…
まさか、この良平と春子が、私を監視していたことが、透が、サウジアラビア政府と、共同で、ビッグプロジェクトを立ち上げる…その引き金になったなんて、夢にも思わなかったからだ…
私は、絶句した…
絶句して、なんと言っていいか、わからなかった…
それゆえ、正直に、
「…まさか、そんなことが…」
と、だけ、言った…
「…まさか、そんなことが、きっかけで…」
と、続けたが、さすがに、それ以上は、言えなかった…
さすがに、それ以上、言っては、マズいと思った…
まさか、透が、サウジアラビア政府と、共同で、なにやら、大きなことを、始めるきっかけが、私だったとは、思わなかったからだ…
夢にも、思わなかったからだ…
それゆえ、言葉に詰まった…
なんて言っていいか、言葉に詰まった…
さすがに、なんと言っていいか、言葉が、見つからなかった…
そして、それを見た、良平が、
「…高見さん…コーヒーを飲まないと、冷めてしまいますよ…」
と、言ってくれた…
おそらく、私に気を使ったのだろう…
私が、言葉に詰まったのを見て、気を使ったのだろう…
私は、良平の言葉の通りにした…
「…それでは、頂きます…」
と、言って、目の前の注文したコーヒーを飲んだ…
苦かった…
いつもと、同じ味だが、今日は、いつもにも、まして、苦く感じた…
正直、聞きたくない話を聞いた…
それが、原因だった…
私が、なにか、したわけではない…
私が、透に、なにか、したわけではない…
しかしながら、自分が、原因と聞くと、なんて言っていいか、わからなかった…
なんて、言って、いいか、わからない…
実に、複雑な気分だった…
まさか、騒動の発端が、私にあった…
私、高見ちづるにあったなんて、夢にも、思わなかったからだ…
そして、私が、そんなふうに、考えていると、
「…これは、私も悪かった…」
と、良平が、ポツリと言った…
「…私も、悪かった…透を、子供扱いし過ぎた…」
「…」
「…透も、もう大人…三十を過ぎた立派な大人だ…それゆえ、会社では、しかるべくポストを与えているが、それも、親の七光…社内では、そう見られている…まあ、事実、その通りなんだが…」
「…」
「…たかだが、三十ちょっとで、水野の取締役が、できるわけはない…率直に言って、透は、お飾り…お飾りに過ぎない…社内にも、社外でも、水野の次の社長は、透だと、わかるように、取締役にしている…誰もが、わかることだ…でも、それが、本人は、不満だったのだろう…」
「…」
「…それに、つけ込まれた…」
「…つけ込まれた?…」
「…平造のヤツ…透が、私のウィークポイントだと、見抜いていた…」
「…」
「…それで、透を、そそのかして…まさか、平造が、そこまで、やるとは、思わなかった…」
「…」
「…平造が、好子さんと、透が、離婚したことに、そんなに腹を立てているとは、夢にも、思わなかった…」
「…」
「…まさに、想定外…想定外の出来事だった…」
「…」
「…私もバカだった…平造の気持ちに気付かなかった…」
「…」
「…平造が、そこまで、好子さんを、大事にしているとは、思わなかった…」
良平が、吐露した…
結局は、騒動の原因は、好子さん…
私そっくりの米倉好子さんだ…
好子さんと、結婚した透が、離婚したのが、平造は、許せなかった…
好子さんは、米倉本家の血を引く、ただ一人の米倉の正統後継者…
その好子さんを、傷物にしたのが、許せなかった…
傷物と言うのは、言葉は、古いが、それでも、言いたいことは、同じ…
要するに、×をつけたわけだ…
おそらくは、好子さん、自身は、そんなに、気にしていないだろう…
事実、透と、離婚してから、好子さんと、何度か、電話で、話したが、透との離婚を後悔しているようには、見えなかった…
ただ、周りは、違う…
好子さんの周囲の人間は、違う…
好子さんの血の繋がらない父である、平造は、好子さんを溺愛していた…
それゆえ、本人以上に、透が、好子さんと、離婚したことが、許せないのだろう…
あるいは、それは、平造が、透を、子供の頃から、知っているせいも、あるかも、しれない…
最初から、知らなかったのなら、まだ、いい…
なまじ、子供の頃から、知っているから、厄介…
余計に、頭に来るのだろう…
それまで、接したことのない、人間なら、仕方がない、となる…
どんな人間か、わからなかったからだ…
だが、知っていれば、違う…
どうして、そんなことを、した?
と、なる…
そういうことだ…
私は、思った…
私は、考えた…
すると、
「…誤算だった…」
と、目の前の良平が、言った…
「…誤算?…」
「…そうです…平造が、好子さんを目の中に入れても、痛くないほど、溺愛していたのは、わかっていた…そして、その好子さんを、透が、子供の頃から、憧れていたことも…」
「…」
「…それゆえ、好子さんと、透
が、結婚したときは、平造も、喜んだ…なにより、好子さんは、米倉の正統後継者…米倉本家の血を引く、ただ一人の人間…その好子さんが、透と、結婚することで、米倉と、水野が、結びつく…経営が、傾いた米倉を水野が、救うことになる…平造は、万々歳だった…)
「…」
「…でも、ダメだった…米倉と水野では。社風が、真逆だった…米倉は、社風が、イケイケドンドン…それで、平造は、米倉を、大日産業を大きくした…対する、我が、水野は、基本的に、慎重…だから、合併しても、うまくいくはずがなかった…それを、平造も、わかっているはずなのに…」
「…」
「…だが、それでも、平造は、好子さんと、透が、離婚したのは、納得できないのかも、しれない…米倉と水野の合併が、ご破算になっても、二人が、離婚する必要は、ないと、思っていたのかも、しれない…」
良平が、一方的に、話し続ける…
私は、それを、黙って、聞いていた…
きっと、良平は、この思いを、周囲に打ち明けることが、できないのでは?
と、思った…
どうしても、会社で、偉くなると、周囲から、孤立する…
良平は、水野のトップ…
周囲に、良平に意見できるものなど、いないに違いない…
その点、私は、部外者…
だから、安心して、愚痴をこぼすことも、できる…
そう、思った…
が、
よく考えると、違う…
なぜなら、私は、今、M商会に勤務している…
M商会は、水野グループ…
良平は、水野グループ会長だ…
だから、私が、良平と関係なくはない…
しかしながら、実感としては、なにも、関係がない…
なにしろ、水野グループのトップと言えば、私にとっては、雲の上のひとだ…
そんな人物と、自分が、今、いっしょにいるのが、よくわからない(爆笑)…
相手の肩書は、わかる…
でも、いっしょにいれば、その肩書も忘れてしまう…
そして、これは、たぶん、良平も同じ…
同じに違いない…
私を水野グループの社員とは、決して見ていない…
単なる話し相手にしか、見ていないに違いない…
それゆえ、安心して、自分の感情を晒すことが、できる…
まさか、私が、水野本社に行って、社員の前で、この良平が、今と同じように、できるとは、決して、思えない…
私と良平の関係が、誰にも、知られていないから、できるのだ…
私は、あらためて、思った…
そして、それを、思えば、これも、また、不倫?
私は、独身だが、良平は、妻帯者…
見る者によっては、良平が、私と不倫をしているように、見える…
そう、思った…
そう、思ったのだ…




