恋かもしれない…恋愛偏差値ゼロ 第3部 107
良平は、会社に入らずに、会社の近くにいた…
おそらくは、用心していたのだろう…
私の勤めるM商会は、水野グループとはいえ、言葉は、悪いが、末端の会社…
その証拠に、私の住む家から、数駅離れただけの、私の住む駅からすれば、数倍大きな駅の前にある雑居ビルの一室に間借りしている、小さな営業所…
水野グループとはいえ、それを、知らないものも、いるだろう…
それぐらい、小さな営業所…
だが、それでも、もしかしたら、中には、水野良平の顔を知っているものも、いるかも、しれない…
それを、良平は、恐れたのだろう…
水野良平は、水野グループ会長…
あまりテレビに出ることは、ないが、それでも、良平の息子の透と、好子さんが、結婚したときに、テレビに出た…
大物の財界人だからだ…
なにより、今の時代、ネットで、検索すれば、良平のような有名人は、たやすく、画像を見つけることができる…
どんな顔をしているか、知ることが、できる…
だから、本人だとバレる可能性が高い…
それが、わかっているから、会社にも顔を出さなかったのだろう…
私のいるM商会の営業所に顔を出せば、何事かと、なる…
まさか、水野グループの総帥が、わざわざ、顔を見せるなんて、営業所の誰も、考えても、いないからだ…
いわゆる、顔バレ…
それを、避けるために、わざと、会社の近くで、私を待っていた…
営業所のある雑居ビルの前ではなく、少し離れた場所で、待っていた…
それも、これも、顔バレを防ぐため…
そのためだ…
私は、
「…高見さん…」
と、路上で、いきなり、良平に声をかけられて、ビックリした…
が、
すぐに、良平だと、気付いた…
この前も、こうして、私を待ち伏せして、私に、声をかけてきたからだ…
だから、もう、声を覚えていた(苦笑)…
なにより、路上で、いきなり、声をかけられることなど、普通は、あるものでは、ないからだ…
だから、余計に、その声を覚えていた…
もう、何度も経験があるから、覚えていた(苦笑)…
それゆえ、私は、声のする方向を急いで、振り返り、水野良平の姿を確認すると、
「…ご無沙汰しています…」
と、頭を下げた…
十分に、腰を折って、頭を下げた…
そして、そんな態度を取りながら、内心、
…これでは、まるで、秘書…
…水野良平の秘書のようだ…
と、思った…
同時に、考えた…
いや、
気付いた…
逮捕された船見さん…
彼女のことを、考えた…
ハッキリ言って、顔はあまりよくないが、スタイル抜群の長身の女性…
彼女のような女性が、秘書に、似合っていると、思った…
いや、
それを、言えば、あの米沢京子も同じ…
船見さんと、同じ、スタイルのよい、長身の美人…
だが、なぜか、彼女のことは、忘れていた…
それは、なぜか?
それは、やはり、船見さんが、横領で、逮捕されたからだろう…
不倫相手の前沢を陥れるために、わざと会社の金を使い込み、前沢に罪を着せたからだろう…
それゆえ、彼女のインパクトが強かった…
そういうことだろう…
そして、それを、思えば、私のように、背の低いちんちくりん(涙)な女より、船見さんのように、背が高く、スタイルの良い女の方が、秘書が、似合うと思った…
なぜか、水野良平に頭を下げながら、思った…
そんなことを、思った(苦笑)…
私が、丁寧に頭を下げると、良平が、
「…高見さん…体調は、どうですか?…」
と、実に、心配そうに、私に声をかけてきた…
私は、頭を上げながら、
「…おかげさまで、全快しました…会長のおかげです…」
と、言った…
良平は、
「…いや、そんなことは…」
と、戸惑って、言って、それから、
「…とにかく、良かった…」
と、続けた…
私は、その姿を、見て、違和感があった…
なぜか、他人行儀というか…
私に距離を置いて、接しているからだ…
私が、それを、考えていると、
「…今度の件では、高見さんに、ご迷惑をおかけしました…」
と、いきなり、良平が、私に頭を下げた…
「…とりわけ、前沢君の不倫に、高見さんを、巻き込んでしまった…」
と、忸怩たる声色で、告げた…
私は、その言葉で、あらためて、この良平が、前沢を通じて、私を監視していたことを、思い出した…
きっと、良平は、それが、私にバレたことが、気まずかったのだろう…
そう、思った…
まさか、私自身、良平に監視されているとは、夢にも、思わなかった…
そして、それ以上に、良平が、私を息子の透のお嫁さん候補と、真剣に考えていることに、驚いた…
たしかに、私が、自分で言うのも、なんだが、良平に好かれているのは、わかっていた…
これは、誰でも、同じ…
同じだ…
相手が、自分を好きか、嫌いか、相手の態度を見れば、わかる…
仮に、好きなような態度をとっていても、本音では、嫌いな場合もあるものだが、それは、やはり、態度を見れば、わかる…
どこか、ちょっとした仕草でわかるからだ…
相手が、気付かないところで、嫌悪の表情を浮かべているとか(笑)…
もっと、わかりやすい例で、言えば、そのひとのいないところで、そのひとの悪口を、言っているからだ(爆笑)…
だから、簡単にわかる…
そして、それを、眼前の水野良平に当てはめれば、ことごとく当てはまらない…
私を心の底から、好きだと、わかる…
そして、それゆえ、私も良平が、好きだった…
もちろん、この好きに変な下心はない…
ただ、誰もがそうだが、自分を好きなひとは、そのひとを好きなものだ…
例外は、恋愛(苦笑)…
いくら、相手が、自分を好きでいてくれても、
「…このひとは、ちょっと…」
と、いうことが、あるからだ…
そして、下心…
これは、男女ともにだが、相手のルックスや、お金が目当てなのが、見え見えの場合は、引く(苦笑)…
これは、誰もが、同じだろう…
私とて、例外ではない…
私のカラダ目当てに男が、寄ってくれば、引くだろう…
いや、
それは、ないか?
なにしろ、私は、身長が、155㎝と、小柄…
カラダ目当てなら、あの船見さんのような女に限る…
長身で、スタイルの良い女に限る…
胸も、お尻も、大きな女に限る…
あらためて、思った…
思ったのだ…
そして、私が、そんなバカなことを、考えていると、
「…高見さん、お時間は、ありますか?…」
と、良平が、丁寧な口調で、私に聞いてきた…
「…少し、高見さんと、お話したいのですが…」
良平が、続ける…
すでに、予想した言葉を続ける…
この水野良平を見た、瞬間、私に、用事があって、私を待ち伏せしているのは、わかっていた(苦笑)…
そもそも、用事が、なければ、私を待ち伏せているわけがない…
当たり前のことだ…
なにより、私を待ち伏せしているのは、水野良平…
水野グループ総帥…
私の勤務するM商会の親会社のトップ…
最初から、私に断る選択肢など、あろうはずがなかった…
それゆえ、
「…ハイ…」
と、頷いた…
すると、その途端、良平の顔が、和んだ…
「…良かった…」
と、しみじみ、呟いた…
私は、それを、見て、まるで、私に、告白した、高校生の男のコのようだと、思った…
高校生が、好きな女のコに、
「…今度の日曜日、暇? よかったら、ボクといっしょに…」
と、いうやつだ(笑)…
それで、相手の女のコが、
「…うん、いいよ…」
と、頷けば、まるで、天にも昇るような、嬉しそうな顔をする…
それと、似ている…
それゆえ、良平には、悪いが、つい、クスリと、笑ってしまった…
そして、それを、見た良平が、
「…なにが、おかしいんですか?…」
と、真顔で、聞いた…
それを、聞いた私は、躊躇なく、
「…だって、会長ったら、まるで、好きな女のコに、告白する高校生の男のコのようですよ…」
と、笑った…
それを、聞いて、良平が、唖然とした…
「…高校生の男のコ?…」
唖然とした表情で、呟く…
「…そうですよ…」
私が、笑って、言うと、
「…そうですか? まさか、高見さんに、そう見られているとは、思いませんでした…」
と、顔を赤くした…
途端に、なぜか、私も居心地が、悪くなった…
まさか、父親と同世代の男に恋をするわけはないが、相手が、私を女として、意識しているのであれば、こちらも、反射的に、相手を、男として、意識してしまう…
当たり前のことだ…
年齢は、関係なく、つい、意識してしまう…
そして、そんな私の心の内が、良平にバレるのは、マズい(苦笑)…
それゆえ、すばやく、話題を変えた…
慌てて、話題を変えた…
「…そんなことより、会長…立ち話もなんですから、お話があるのでしたら、場所を変えて…」
と、言った…
良平もまた、その言葉を待っていたようだ…
「…わかしました…どこか、近くの店に入りましょう…」
良平が、ホッとした表情で言う…
私も、そんな良平を見て、ホッとした…
こんな路上で、三十過ぎの女と、六十過ぎの男が、モジモジしていては、困る(爆笑)…
高校生の男女ではないのだ…
だから、ホッとした…
実に、ホッとした…
まさか、これが、恋の始まり?
そんなこと、あろうはずも、なかった(爆笑)…




