恋かもしれない…恋愛偏差値ゼロ 第3部 106
「良平さんの怒りは、収まらない?…」
「…それは、そうでしょ? 下手をすれば、水野が、どうなるか、わからない…そんなビッグプロジェクトを、父が、透をそそのかして、やらせたんです…失敗に終われば、大変なことになる…」
「…」
「…だから、要は、それを、うまく着地させることです…」
「…着地させること…」
「…そうです…」
「…それは、一体、どうやって…」
私が、言いかけているにも、かかわらず、正造が、勝手に電話を、切った…
ガチャと、電話を切った…
私は、思わず、
「…正造さん!…」
と、叫んだが、後の祭り…
電話は、切られた後だった…
私は、恨めし気に、電話を見て、
「…正造のヤツ!…」
と、呟いた…
いつもながら、私が、話している最中に、電話を切る…
その行為が、許せなかった…
実に、許せなかった…
「…まったく、アイツは…」
と、気が付けば、声を出していた…
自分の部屋で、声を出して、米倉正造を、罵っていた…
しかも、
しかも、だ…
アイツ呼ばわりしていた(爆笑)…
それほど、親しくないにも、かかわらず、米倉正造を、アイツ呼ばわりしていた…
それって、どうなの?
心の中で、自分自身に突っ込んだ…
米倉正造は、大日産業の取締役…
一度、倒産しかけたとはいえ、上場企業の取締役…
大金持ちのボンボンだ…
片や、私…
私、高見ちづる…
私は、平凡な家庭に生まれた娘…
お金持ちでも、なんでもない…
そのお金持ちでも、なんでもない娘が、大金持ちのボンボンと対等…
いや、
どう見ても、自分の方が上…
上から目線で、正造に接している(苦笑)…
これは、おかしい…
いくらなんでも、おかしい…
私は、思った…
私は、考えた…
いつのまにか、私は、調子に乗っていた!
そう、気付いた…
おそまきながら、気付いた…
いつのまにか、私と正造を、対等に見ていた…
いや、
対等どころか、下に見ていた…
そう、気付いたのだ…
これは、いくらなんでも、おかしい…
おかし過ぎる…
そう、気付いた…
よく、ドラマや、現実でも、男女が、一回寝ただけで、恋人面、夫婦面する、場面があるが、私は、まだ正造と寝ていない…
それどころか、キスすら、していない…
にも、かかわらず、女房面…
あるいは、恋人面している…
これは、まさに、バカな女…
バカな女の見本だ…
バカな、勘違い女の見本だ…
私は、思った…
今さらながら、思った…
そして、それに、気付くと、正造と、距離を置こうと、思った…
正造と、会わなかろうと、思った…
いや、それを、言えば、今もまだ会っていない…
ときどき、電話をするだけ…
電話をするだけの仲だ…
しかし、それも、止めようと、思った…
正造とこれ以上、繋がっていても、正造と、私が、結婚できるわけではない…
これは、昔で言えば、身分違いの恋…
現実には、ありえない恋だからだ…
いや、恋か、どうか、わからない…
ただ、私が、正造に気を許しているのは、確か…
これは、否定のできないことだからだ…
しかし、
しかし、だ…
これ以上、正造に、関わってはいけない…
これ以上、正造に関わっては、婚期が、遠のく(苦笑)…
所詮、正造とは、結婚はできない…
にもかかわらず、このまま、ズルズルと正造と付き合っていては、私の結婚が、遠のく(涙)…
それが、わかる…
嫌でも、わかる…
そして、これ以上、結婚が、遠のけば、私の価値が、失われる…
女の価値は、若さ…
若さだと、断言したものがいる…
あるいは、喝破したものがいる…
これは、事実…
まぎれもない、事実だ…
たしかに、私は、他人様から、女優の常盤貴子さんの若いときに、似ていると、よく言われる…
女優の常盤貴子さんを小柄にした美人と、よく言われている…
が、
その美人の賞味期限も、年齢で決まる(苦笑)…
私は、まだ、33歳だが、これが、倍の年齢の六十代になったら、美人と周囲の人間は、私をチヤホヤしてくれない(笑)…
せいぜい、40歳まで…
いや、
これは、私の願望か…
せいぜいが、ここ数年…
35、6歳までか?
しかしながら、それでは、若い二十代の男から、見たら、十分にオバサンだ…
決して、私を女として見ては、くれないだろう(苦笑)…
だから、これ以上、米倉正造に関わっては、いけないと、思った…
これ以上、ズルズルと、米倉正造と、付き合っては、いけないと、思った…
付き合いが、続けば、どうしても、期待する…
自分は、口では、否定するが、心の底では、もしかしたら、正造と、結婚できるかも、と、期待する…
それが、怖い…
自分でも、怖い…
だから、会わないに、限る…
これ以上、正造には、会わないに、限る…
会えば、正造との結婚を期待する…
だから、会わないに、限る…
会わずに、どこか、別の男を探すに限る…
別の結婚相手を探すに、限る(苦笑)…
そう、思った…
そう、思ったのだ…
それから、私は、何事もなかったように、M商会に復帰した…
会社に通勤した…
「…ご迷惑をおかけしました…」
と、詫びた…
今度、やって来た営業所長に詫びた…
が、
反応がなかったというか、薄かった…
正直、私になんの興味もない様子だった…
私は、落胆したが、反面、これでいいと、思った…
水野良平が、この先、私をどう扱うかは、わからない…
今度、来た営業所長もまた、私の監視を続けるのかは、わからない…
が、
今、見た、今度の営業所長の様子では、それは、なさそうだった…
私を監視して、水野良平に、報告することは、なさそうだった…
なにより、私に、関心がなさそうだった…
それは、見ていれば、わかる…
私に興味があるか、ないか?…
見ていれば、わかる…
きっと、水野良平は、今回の件で、コリゴリしたのだろう…
なにしろ、私を監視していた、前の所長の前沢は、船見さんと、不倫の挙句、警察沙汰になった…
結局、前沢の横領の疑惑は、晴れたが、代わりに、それを、仕掛けた、船見さんが、逮捕された…
これは、痛手…
水野良平にとって、痛手だったに違いない…
なにしろ、水野本体ではないが、水野グループの会社の営業所で、横領騒ぎがあって、それが、世間に知られたのは、イメージダウンだからだ…
率直に言って、企業の横領は、ありふれている…
銀行を見れば、わかるが、ありふれている…
が、
その原因が、私だとしたら、その原因を作ったのは、良平…
まがうことなく、良平だからだ…
良平が、私をこの営業所に、入れたから、こんなゴタゴタが、起こった…
私を、この営業所に入れなければ、こんなゴタゴタは、起きなかった…
が、
まさか、良平は、船見さんが、米倉報公会の人間だとは、思わなかったのだろう…
いや、
そもそも、良平は、船見さんを、知らなかっただろう…
まさか、水野グループの総帥が、子会社の末端の営業所のメンバーが、どんな人間が、いるか、把握していたとは、思えないからだ…
きっと、良平は、後から、真実を知っただろう…
平造の息子の正造から、真実を聞いて、驚愕しただろう…
まさか、私と同じ営業所に、米倉報公会のメンバーがいて、その人間が、私に嫉妬して、それが。原因で、前沢を陥れたとは、夢にも、思わなかっただろう…
真相を、聞いて、絶句したに違いない…
それより、なにより、自分の会社に米倉報公会のメンバーが、いることに、驚いたかも、しれない…
いかに、平造と、昵懇の間柄とはいえ、平造の息のかかった人間が、自分のグループ会社にいたのは、驚きだったろう…
例え、自社に害を与えていなくても、米倉報公会のメンバーならば、平造の指示があれば、水野にいても、平造の指示に従うだろう…
それは、おおげさに言えば、日本の自衛隊に、いても、他国からの指示があれば、その指示に従う…
要するに反乱軍…
指示を受けていても、本来は、別のところから、指示を受け、その指示に従う可能性が、高い…
そして、それを、考えれば、恐怖しかないからだ…
水野の場合は、軍隊ではないのだから、戦争をして、内部で、反乱が起きるようなことは、起きないだろうが、情報が、米倉に筒抜けになる可能性が大…
それは、やはり、恐怖以外の何物でもない…
いかに、良平が、平造と昵懇の間柄とはいえ、互いに隠しておきたいことは、あるからだ…
なにより、水野の会社員で、ありながら、本当は、米倉に忠誠を誓っている会社員が、いるとしたら、それは、良平にとって、恐怖でしかないからだ…
最悪、水野の持つ、極秘情報を、米倉に知られることになる…
米倉=平造に知られることになる…
それは、恐怖でしか、ないからだ…
だから、良平は、今回、新しく、私のいる営業所に所長として、やって来た人間に、私のことを、言わなかった可能性が高い…
私、高見ちづるの監視を命じなかった可能性が高い…
それが、わかるのは、何度も言うように、今度やって来た営業所長の私に関する関心だ…
誰が、どう見ても、私に関心があるようには、見えない…
それゆえ、私を監視していないだろう…
私は、思った…
私は、考えた…
そして、
そして、だ…
営業所長も変わり、船見さんも、いなくなった…
米沢京子は、相変わらず、同じ営業所にいたが、私に関わることは、なかった…
それより、なにより、正造が、指摘した…
サンドバック状態と言う言葉…
この営業所で、私に対する風当たりというか…
なんとなく、居づらい雰囲気が、少しは、改善されてきた…
これまで、私自身は、入院するまで、実感は、なかったが、この営業所の雰囲気になれないことで、私自身に大きなプレッシャーが、かかっていたのだろう…
それが、カラダに現れた…
たかだか、風邪が悪化した…
そういうことだろう…
たかだか、風邪を引いただけだが、それが、肺炎になりかけた…
これは、職場のプレッシャーで、心身が喪失して、本来は、風邪を引いただけなのに、予想外に悪化した…
つまりは、プレッシャーで、心もカラダも弱っていた…
そんな状況で、風邪を引いたから、悪化した…
悪化して、肺炎になりかけたということだ…
そういうことだ…
そして、それが、少しは、緩和された気がした…
職場の雰囲気には、正直にいって、まだ慣れなかったが、それでも、以前から、比べれば、少しは、よくなった…
これは、主に、慣れの問題…
私も、以前に比べれば、この職場に、少しは、馴染んで来たということだ…
そして、そんなふうに、月日が流れたと思いけや、違った…
違ったというのは、ある日、一人の男が、私の帰りを待って、会社の前で、待っていたからだ…
その男は、良平…
水野グループ総帥の水野良平だった…




