恋かもしれない…恋愛偏差値ゼロ 第3部 105
そして、そんな顛末を知ったのは、あの正造から…
米倉正造からだった…
電話で、知った…
正造から、電話があったのだ…
すべての顛末を知った私は、動転した…
まさか?
まさか、ここでも、私が、透と、結婚することになっている?…
なぜか、透のお嫁さん候補になっている?…
それが、驚いた…
驚いたのだ…
そして、
そして、だ…
もっとも、驚いたこと…
米倉が、水野にスパイを潜り込ませているように、水野もまた、米倉にスパイを潜り込ませていると言った…
が、
誰がスパイか、わからない…
だが、正造が、誰が、スパイか、明かした…
自分が、スパイだと、明かした!…
それが、衝撃だった!…
思いもよらない衝撃だった!…
「…正造さんが、水野のスパイ?…」
私は、絶句した…
まさか、そんな?…
そんな、米倉家の人間が、水野のスパイなんて?…
わけが、わからなかった…
正造は、米倉家の人間…
まぎれもなく、米倉家の人間だ…
米倉平造の血を分けた息子だ…
それが、なぜ?
それが、どうして?
私が、あまりの告白に絶句していると、
「…スパイと言うと、大げさですが、さすがに、父は、やり過ぎた…水野良平を立腹させるようなことを、し過ぎた…」
「…良平さんを、怒らせること? なんですか? それ?…」
「…高見さんのことですよ…」
「…私のこと?…」
「…高見さん、M商会で、サンドバック状態だったでしょ?…」
「…サンドバッグ状態って?…」
「…米沢京子という女や、船見さんという女性は、言うに及ばす、高見さん、M商会で、居心地が悪かったでしょ?…」
「…それは…」
「…会社に限らず、学校でも、なんでも、クラスや職場の雰囲気は、一部の人間が作るものです…」
「…どういうことですか?…」
「…M商会で、高見さんのいる職場で、高見さんを、米沢さんや、船見さんが、敵視している…そんなことが、わかると、他の誰もが、引く…」
「…引く?…」
「…高見さんと積極的に、関わろうと、誰もしなくなる…結果的に高見さんが、孤立する…」
「…」
「…ボクも、そのことを、チラッと小耳に挟んだから、熱海にいる父のところに行って、直接、文句を言いに行こうと思っていたんです…高見さんと、熱海の駅で、お会いしましたよね…」
正造が、言う…
私は、その言葉で、正造と、熱海の駅で、会ったことを、思い出した…
あのときは、なぜ、正造と、熱海の駅で会ったのか、わからなかった…
おそらくは、父の平造に会いに行くであろうことは、推測できたが、一体、どんな用事で、平造に会いに行くのか?
それが、さっぱりわからなかったからだ…
これは、当たり前…
当たり前のことだった…
いくら、なんでも、正造が、どんな用事で、父の平造に会いに行ったのか?
わかるわけが、なかったからだ…
そして、私が、そんなことを、考えていると、
「…プロレスですよ…」
と、いきなり、正造が、電話口で、言った…
「…プロレス? どういうことですか?…」
「…米倉平造と、水野良平の関係です…」
「…二人の関係のなにが、プロレスなんですか?…」
「…シナリオ通りというか…互いに、言葉は、悪いが、じゃれあっている…」
「…じゃれあっている?…」
「…そうです…」
「…なにが、じゃれあっているんですか?…」
「…二人とも、根底では、信頼しあっている…」
「…信頼しあっている…」
「…そうです…」
「…でも…」
「…要するに、信頼は、しあっているから、今回のように、互いに相手のことを、色々、やっても、どこまで、やるか…線を引いている…」
「…線を引いている…」
「…さっき、プロレスと言いましたが、プロレスで、相手を殴っても、本気ではない…当然、手加減を加えている…でも、それが、本気で、殴れば、相手も、怒るでしょ?…」
「…それは…」
「…つまり、そういうことです…」
「…そういうことって?…」
「…父の平造が、今回、高見さんにちょっかいを出し過ぎた…それを知った水野良平は、激怒した…それゆえ、父に、やり過ぎたと、言いたかったんです…」
「…」
「…言葉は、悪いが、プロレスの範囲を超えている…プロレスではなく、本気で、相手に殴りかかろうとしている…」
「…」
「…だから、父を止めようとしたんです…」
電話の向こう側から、正造が、言った…
私は、考えた…
少し、考えた…
たしかに、正造の言うことは、わかる…
理屈に合っている…
だが、
なにか、おかしい…
正造の言うことは、おかしい…
なにが、おかしいか?
考えた…
たしかに、正造の言うことは、わかる…
理屈に合う…
だが、なにかが、おかしい…
それは、おそらく…
私は、答えがわかると、すぐに、正造に、
「…正造さん…」
と、言った…
「…なんですか?…」
「…私に言ってないことが、あるでしょ?…」
「…言ってないことって?…」
「…正造さん、アナタの本当の目的ですよ…」
「…本当の目的?…」
「…そうです…アナタの本当の目的…それは、好子さんを守るためでしょ?…」
「…高見さん、また、それですか? 今言った話の中で、どこが、好子を守るためなんですか?…」
「…米倉が、水野と決定的に対立しないこと…」
「…」
「…それが、正造さん、アナタが、父親の平造さんを、止めに行った本当の理由でしょ?…」
「…」
「…そして、なにより、父の平造さんが、そそのかして、透さんに、サウジアラビア政府と、共同で、なにやら、大きなことを、やらかそうとしている…下手をすれば、大赤字…水野グループの存続が、危うくなる…それほどの大博打を仕掛けたことが、良平さんに、知られたことでしょ?…」
「…」
「…当然、良平さんは、大激怒…下手をすれば、米倉になにを、するのか、見当がつかない…最悪、米倉を潰しにかかるかも、しれない…それを、正造さんは、恐れているんでしょ?…」
「…」
「…もし、そうなれば、正造さんの大切な妹の好子さんも、路頭に迷うかも、しれない…そんな最悪の事態を避けたいだけでしょ?…」
「…」
「…正造さん…もっと、自分に素直になりなさい…アナタの行動の原点は、好子さん…好子さんを、守るため…それが、唯一の行動基準…でしょ?…」
「…」
「…アナタが、どうごまかそうと、それは、隠せませんよ…」
私は、言った…
強く、言った…
すると、だ…
やはりと言うか…
正造が、黙り込んだ…
「…」
と、黙り込んだ…
だから、私は、さらに、追い打ちをかけた…
「…正造さん、そんなに、好子さんが、好きなら、好子さんと、結婚してください…どうせ、血は。繋がってないのだから…兄妹と言っても、結婚できるでしょ?…」
「…」
「…自分の気持ちに素直にならなくちゃ、いけませんよ…好子さんだって、私より、たしか、一つ年下でしたっけ…だから、今、32歳ですか…いつまでも、結婚を待たせていては、好子さんが、可哀そうですよ…」
「…ボクは、好子と結婚は、しませんよ…」
「…どうして、ですか? どうして、好子さんと、結婚しないんですか?…」
「…好子は、米倉の正統後継者です…好子には、しかるべき、相手と、結婚して、もらいたい…」
「…それは、もしかしたら、五井の諏訪野さんですか?…」
「…えっ? 諏訪野さん?…」
「…そうです…」
「…どうして、高見さんが、諏訪野さんを知っているんですか?…」
「…それは、たまたま…」
「…たまたま?…」
「…好子さんが、言ってました…正造さんと、諏訪野さんって、飲み友達なんでしょ?…」
「…ハイ…」
「…その縁で、好子さんを、諏訪野さんに、売り込んだら、どうですか? 好子さんは、美人だから、諏訪野さんも、断らないでしょ?…」
「…美人うんぬんは、関係ありませんよ…」
「…関係ない?…」
「…どんな美人だって、性格が、悪く、わざと、嫌味を連発するような女と、結婚したい男は、いませんよ…」
「…わざと、嫌味を連発? それって、もしかして、私のことですか?…」
「…いえ、一般論です…」
「…一般論?…」
「…それとも、高見さん、ご自分のことだと、思ったんですか?…」
「…」
「…もし、自分のことだと、思ったのなら、それは、高見さんの言動に問題があるんじゃ…」
正造が、笑った…
電話の向こう側で失笑した…
私は、頭に来たが、後の祭り…
自分でも、皮肉を言い過ぎたと、思った…
さすがに、正造に、皮肉を言い過ぎたと、思った…
私が、そう思っていると、
「…では、今日は、これで…」
と、言って、正造が電話を、切ろうとした…
私は、慌てて、
「…正造さん、これで、今回の件は、終わりですか?…」
と、聞いた…
船見さんと、前沢さんのことで、一件落着かと、思ったからだ…
が、
正造は、違った…
「…全然、終わってませんよ…」
と、いう不機嫌な声が聞こえてきた…
「…終わってない?…」
「…そうです…」
「…なにが、終わってないんですか?…」
「…透が、水野と、サウジアラビア政府と共同で、なにやら、プロジェクトを行うと、言った件…」
忘れていた…
たしかに、それが、あった…
下手をすれば、水野の存続に関わるかもしれないビッグプロジェクト…
平造が、ひとを介して、透を、そそのかしたビッグプロジェクトだ…
なにをやろうとするのか、さっぱりわからないが、巨額のお金がかかるのだけは、わかる…
水野の身の丈を超えたビッグプロジェクト…
失敗すれば、間違いなく、水野の致命傷…
下手をすれば、水野が、倒産しても、おかしくはない…
サウジアラビア政府と、共同で、ビッグプロジェクトを行うなんて、そもそも、水野の身の丈を超えている…
それが、できるのは、三井や三菱、それに、五井ぐらいだ…
私は、それを、思い出した…
思い出したのだ…
「…その後始末をしなければ、なりません…」
「…後始末?…」
「…そうです…」
正造が、断言する…
「…そして、それを、うまくやらなければ、水野良平の怒りは、収まらない…」
正造が、続けた…




