恋かもしれない…恋愛偏差値ゼロ 第3部 104
えっ?
船見さんが、平造の手の者?
ちょっと、待って!
平造に、関係したのは、米沢京子では、なかったの?
そう、言いたい…
が、
それは、フェイク…
あくまで、フェイク…
陽動作戦と言うか…
わざと、彼女を、私に敵対させることで、周囲の耳目を引いた…
周囲の人間の関心が、私と米沢京子に、注がれるからだ…
それゆえ、米沢京子は、本命ではなかった…
本命は、船見さんだった…
船見さんこそ、平造のスパイだった…
平造は、わざと、私の所属する営業所に、数か月前に、米沢京子を入社させた…
事前に、私が、どの営業所に、所属するか、水野に送り込んだ米倉のスパイから、情報を得ていたらしい…
らしいというのは、それが、誰から情報を得ていたのか?
それを、後に教えてくれた正造も、知らなかったからだ…
ただ、平造には、良平の行動が、読めたらしい…
なにしろ、二人は、盟友だ…
互いに、気心は、通じているし、相手が、なにをするのか、大体は、わかる…
二人の能力に大差はない…
ただ差があるのは、会社の規模…
水野は、米倉の3倍の大きさ…
しかし、それは、二人が、継いだ会社の大きさに当初から、差があるから…
決して、経営者としての二人の能力に差があるわけでは、なかった…
つまりは、スタート地点の差…
米倉と水野は、そもそも最初から、企業規模が、違う…
それゆえ、いくら頑張っても、米倉が、水野に追いつくのは、難しかった…
そういうことだ…
今現在の米倉と水野の差も、そこから、来ている…
二人とも、同じくらい優秀だからこそ、米倉と、水野が、二人の努力で、二人が、会社を継いだときからしたら、比べ物にならないくらい大きくなったが、そもそも最初から、規模が違うのだから、その差は、埋められなかったということだ…
話を最初に戻そう…
船見さんこそ、米倉平造が、この営業所に、送り込んだスパイだった…
彼女、船見さんこそ、米倉報公会の関係者だった…
平造に、なんらかの形で、恩を受けた人間だった…
船見さんは、会社の金を横領したが、それは、そもそも、前沢を罠にはめるものだった…
いや、
前沢ではない…
誰か、平造を裏切ったものに、罪を着せるため…
そのためだった…
平造が、水野にもぐりこませた、米倉のスパイは、それなりに、多くいるらしい…
らしいと、言うのは、私に、それを告げた正造も、その全容は、掴めていないそうだ…
そもそも、米倉報公会というのは、以前も、書いたが、米倉が、大日産業を創業したのは、戦前…
明治時代だ…
米倉と同じく、水野もまた、戦前は、日本で、二十大財閥の中に入る名門企業だが、米倉の経営する大日産業は、それには、はるかに、及ばなかった…
戦前もまた、現在と同じく、水野の後塵を拝していた…
が、
しかしながら、日本の二十大財閥に入る水野には、遠く及ばないが、米倉の経営する大日産業もまた、財閥のひとつだった…
それゆえ、戦後の財閥解体で、大日産業は、バラバラになった…
しかしながら、アメリカとソ連の仲が、戦後、急速に悪くなり、冷戦が勃発すると、アメリカの対日政策が、一変…
財閥の締め付けも、緩くなった…
それゆえ、今現在の、三井グループや三菱グループのように、米倉の経営する、大日グループも再び結集しようとした…
が、
できなかった…
再結集しようとしても、戦後、大日産業から、独立した、元の企業たち…
この企業たちの株が、値上がりして、もはや大日産業も、手が出せなかった…
要するに、子会社…
あるいは、関連会社にすることができなかった…
大日産業から、独立した元の子会社たちの株価が、高すぎたからだ…
それゆえ、会社は、再び結集することが、できずとも、元の大日産業の子会社たちの代表は、集まることができる…
いわば、懇親会のような形で、集まることが、できる…
それが、米倉報公会…
戦前、大日産業=米倉に縁があったものたちが、集まる懇親会だった…
株価が、高くなって、会社としては、再び結集することは、できなくても、ひとは集まることが、できる…
それゆえ、戦前、米倉=大日産業に縁があったものたちが、定期的に集う…
それが、米倉報公会の原型だった…
が、
それを、平造が、発展させた…
いわゆる、困ったひとたちに、援助した…
平造が、知り合った、金銭的に、困窮して、高校や大学に進学できないものたちを、援助した…
いわゆる、奨学金のように、援助した…
それを、加えた…
米倉報公会に、加えた…
もっとも、金銭的に、平造が、援助したといっても、誰でも、援助したわけではない…
頭がいいにも、関わらず、大学に行けないものが、大半だが、それ以外にも、自分が、気に入ったものなら、援助した…
これは当たり前だった…
いくら頭が良くても、性格が悪いものに、援助する人間は、普通はいない…
いくら、金銭的に、困窮していても、誰が見ても、性格に難がある人間に、手を指し伸べるひとは、いない…
これも、当たり前のことだ…
米倉平造は、いわば、福祉事業のようなことをして、自分の子飼いの人間を増やした…
当初、平造は、自分の子飼いのひとたちを増やすために、金銭的に、困窮した子供たちを援助したつもりは、なかったに違いない…
平造は、以前、大日産業に勤めていた関係者の子弟を、援助した…
経済的に、困窮していることを、聞いたからだ…
だが、それをしている間に、米倉平造は、困窮しているひとたちに、援助するという噂が広がり、いつのまにか、大日産業の関係者の枠を通り越して、金銭的に、困窮する子弟たちを援助することになった…
つまりは、大日産業の関係者に限らず、自分の私財から、子供たちを援助した…
それが、米倉報公会に、加わった…
つまりは、形は、変わったが、以前として、米倉報公会は、大日産業=米倉に恩を受けたひとたちで、出来上がっていた…
そして、それに当てはまるのが、米沢京子だが、船見さんも、同じだった…
米倉報公会のメンバーだった…
平造に恩を受けたものだった…
そして、
そして、だ…
前沢だ…
前沢の役割だ…
前沢は、良平の手先だった…
いや、
直接の手先ではない…
が、
前沢の役割は、ただ、ひとつ…
それは、私を監視することだった…
この私、高見ちづるを監視することだった…
どんな人間か、見極めることだった…
それが、図らずも、露呈したのは、私、高見ちづるが、水野記念病院に運ばれたとき…
あのとき、良平は、私を、将来、透のお嫁さんになるかも、しれない女性と語った…
私は、あの言葉を聞いたとき、驚愕した…
まさか?…
まさか、そんな?…
そんなことを、本気で、考えたことは、一度もなかったからだ…
私。高見ちづるが、水野財閥の後継者と、結婚するなんて、そんな大層なことは、考えたことは、なかったからだ…
が、
良平は違った…
良平は、私をそう、評価しなかった…
将来の透のお嫁さん候補と判断した…
それゆえ、監視した…
私に、水野グループの会社を紹介して、私を良平の手の届くところに、置いた…
そして、私をどんな人間か、監視した…
水野グループの会社で働かせれば、私が、普段、どんな行動を取るか、知ることができる…
それが、良平の狙いだった…
良平が、私を水野グループの会社で、働かせた狙いだった…
そして、
そして、だ…
良平の背後には、あの春子がいる…
良平が、決して、頭が上がらない妻の春子がいる…
私は、自分で言うのも、恥ずかしいが、なぜか、春子にも、気に入られていた…
それゆえ、良平の行動には、当然、妻の春子の意向があったと考えるのが、自然だった…
春子もまた、私を透のお嫁さん候補として、考えていた…
だから、良平の行動を後押しした…
話を元に戻そう…
前沢は、私を逐一監視して、良平に報告していたが、誤算が、あった…
誤算というのは、船見さんのことに、他ならない…
船見さんと、前沢さんが、不倫していたのは、フェイクでも、なんでもなく、事実だった…
どうして、二人が、そんな関係になったのかは、わからない…
いや、
そもそも、男女の仲は、わからない…
街中を、歩いていても、どう見ても、不似合いなカップルは、至るところに、いるものだ…
いわゆる、美女と野獣ではないが、不釣り合いなカップルは、至るところにいる…
イケメンと、普通の女…
美女と、平凡な容姿の男…
ヤンキー系と、真面目な男女…
などだ…
だから、どうして、船見さんと、前沢さんが、不倫をしたのかは、わからない…
それは、おそらく本人たちに聞いても、わからないかも、しれない…
いわゆる、相性の問題…
これは、カラダの相性もそうだが、それ以上に、心の相性というか…
要するに、気が合わなければ、誰もが、嫌だからだ…
前沢と船見さんは、気が合った…
そういうことだろう…
前沢と船見さんの間になにが、あったかは、わからない…
普通に考えれば、別れ話だろう…
前沢は、妻子持ち…
船見さんと、結婚するには、奥さんと別れるしか、方法がない…
船見さんは、前沢を陥れるために、会社の金を横領した…
そうすれば、その罪を前沢になすりつけることが、できるからだ…
だが、なぜ、そんなことを、したのか?
それは、前沢の役割が、私の監視だから…
この私、高見ちづるの監視だから…
それが、理由だった…
要するに、嫉妬…
船見さんの、私に対する嫉妬だった…
前沢が、私をどうして、監視しているのか?
当然、船見さんは、前沢に聞くだろう…
その結果は、私、高見ちづるが、水野グループ総帥の息子である、透のお嫁さん候補として、見ていること…
それゆえ、私が、普段、どんな行動をしているのか、知りたい…
それを、見て、良平に伝えてもらいたい…
それを、聞いて、船見さんは、激怒した…
なぜなら、彼女もまた、米倉報公会の人間…
平造に恩を受けた一人だ…
そして、米倉の後継者、米倉好子さんは、水野の後継者、水野透と、結婚して、半年も経たずに、離婚した…
そして、今、その米倉好子さんと、ルックスが、瓜二つに近い、私が、透のお嫁さん候補…
当然、船見さんは。私と好子さんの関係を、知らない…
私と米倉家の関係も知らない…
ただ、私と好子さんが、姉妹レベルで、ルックスが似ているのを知っているだけ…
きっと、それが、許せなかったのかも、しれない…
なぜ、許せなかったのか?
それは、おそらく、船見さんから、見れば、ただ私が、好子さんに、似ているから、水野透と、結婚するかも、しれない…
それが、許せなかったのだ…
要するに、嫉妬…
私に対する嫉妬だ…
そして、その嫉妬の延長で、前沢を陥れた…
不倫関係にある、前沢を陥れた…
男女の関係だ…
船見さんと、前沢の間で、怨恨もあったのだろう…
怨恨=トラブルもあったのだろう…
結果的に、私の監視役と知った前沢を、船見さんは、陥れた…
あるいは、私に対する報復…
米倉報公会の一員として、米倉家に恩を持つ人間として、好子さんの後釜として、好子さんそっくりの私が、透と、結婚するのが、許せない…
そういうことかも、しれなかった…




