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恋かもしれない 恋愛偏差値ゼロ 第3部  作者: トモサン


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102/128

恋かもしれない…恋愛偏差値ゼロ 第3部 102

正直、パニックった…


 なにが、なんだか、わからなかった…


 なぜ、前沢が、逮捕されたのか、わからなかった…


 容疑は、収賄容疑…


 会社の金を、横領したと、報道された…


 私は、最初、前沢が、逮捕されたことが、わからなかった…


 ただ、家に、戻って、母が、


 「…このひと、ちづると、同じ会社のひとじゃ…」


 と、言ったから、気付いた…


 母は、なぜ、気付いたのか?


 それは、会社の名前…


 M商会と報道したから…


 M商会なんて、会社の名前…


 率直に言って、ありそうで、ない(笑)…


 だから、わかった…


 母が、そう、言ったから、わかった…


 そして、なにより、逮捕容疑が、収賄…


 要するに、会社の金をちょろまかした(苦笑)…


 一番、わかりやすい…


 また、どこの会社でも。ありがちが容疑だった…


 そして、それを、見た私は、すぐに、思い出した…


 前沢が、出張で、どこかに、行ったことを、思い出した…


 あのときは、そんなこと、露ほども思わなかったが、ホントは、あのときは、警察に捕まっていたのかも、しれない…


 そう、思い直した…


 しかし、これは、本当なんだろうか?


 本当に、前沢が、会社の金を横領したのだろうか?


 疑問だった…


 甚だ、疑問だった…


 今、私が勤める営業所は、前に勤めていた金崎実業と同じ…


 基本は、他社から、製品を買いあげ、それを、自社で、振り分けて、他社に売る…


 いわば、問屋のようなもの…


 流通の中間業者だ…


 それゆえ、当然、金を扱うから、その金をちょろまかすことができる…


 実際にかかったお金を、ごまかして、自分の懐に入れることができる…


 が、


 本当に、前沢が、そんなことを、したのだろうか?


 疑問がある…


 私が見た前沢は、実直な男だった…


 率直に言って、不倫も、収賄も、縁もゆかりもない男だった…


 しかし、船見さんは、前沢と不倫していると言い、いままた、収賄で、逮捕された…


 すると、やはり、これは、事実だろうか?


 ひとは、見かけによらないというか…


 見た目では、わからない…


 おとなしく見える人間が、真面目とは、限らないし、その逆も、またしかり…


 いわゆるヤンキー系でも、仕事に真面目な人間も大勢いる…


 それは、33年生きていれば、誰でも。普通にわかること…


 それが、わからない人間は、普通はいないだろう…


 だが、前沢が、それに当てはまるかと言われれば、答えに窮する…


 私の見た前沢は、とても、そんなことができる人間ではない…


 いや、できる、できないではなく、人間性の問題だ…


 とても、そんなことを、するような人間には、思えなかった…


 そして、そう、考えれば、あの船見さんの告白も、疑わしくなってくる…


 前沢が、ホントに、船見さんと、不倫をしていたのか?


 疑問になる…


 そう、思った…


 そう、思ったのだ…


 

 そして、翌日、会社に出社した…


 M商会の営業所に出社した…


 当たり前だが、パニック…


 営業所は、パニックだった…


 なにしろ、営業所長が、逮捕されたのだ…


 営業所全体が、パニックになって、おかしくはない…


 営業所に勤める人間全員が、パニックになって、おかしくなかった…


 …まさか、あの前沢が、会社の金を横領するなんて…


 営業所では、その話題で、持ち切りだった…


 当たり前だ…


 とりわけ、女の間では、かまびすしかった…


 なにしろ、女は、スキャンダル好き(笑)…


 この手の話題が、大好きだ…


 だから、余計に、かまびすしかった…


 かまびすしい=やかましかった…


 私自身、驚いて、言葉もなかったが、女たちの意見は、辛辣だった…


 いわく、


 「…前沢は、以前から、なにか、怪しいと思っていた…」


 とか、


 「…前沢は、どことなく、陰気なキャラだから、いずれ、なにか、やらかすと思っていた…」


 だとか、そんな具合だ…


 一方、男たちは、それ以上に、


 「…今度、誰が、この営業所の所長として、やって来るのか?…」


 それが、話題の中心だった…


 男たちも、前沢が、会社の金を横領したことに、興味はあるが、それ以上に、誰が、後任の営業所長として、やって来るのか?


 それが、話題の中心だった…


 そして、それが、女との違い…


 男と女との最大の違いだった…


 そして、それは、やはり、サラリーマンだからだろう…


 男は、サラリーマンだからだろう…


 そう、思った…


 男は、女とは、違う…


 なにが、違うかと言えば、大抵の男が、この先も、この営業所に勤めているだろう…


 いや、営業所は変わっても、このM商会に勤めているだろう…


 それゆえ、前沢が、逮捕されたのは、驚きだが、それ以上に、興味があるのは、前沢の後任…


 営業所長として、誰が、やって来るのか?


 それが、問題だった…


 男たちは、誰が、営業所長として、やって来るかで、大げさに言えば、サラリーマン人生が変わるからだ…


 営業所長との相性等で、自分の評価が、変わる可能性がある…


 自分を良く評価してくれれば、いいが、悪く評価されれば、給与やボーナスが下がるし、サラリーマンとしての価値が下がる…


 ハッキリ言えば、今後のポジション…


 昇進等の今後のポジションに関わるからだ…


 それゆえ、どうしても、前沢のことは、どうでもよくなり、今度、誰が、この営業所に、所長として、やって来るか?


 その話題が、主流になった…


 そして、さまざまな男たちが、いろいろなひとの名前を挙げた…


 しかしながら、それを、そばで、聞いていた私は、チンプンカンプン…


 誰一人、知っている人間は、いなかった(苦笑)…


 なにしろ、この会社に転職して、まだ、一か月弱…


 この営業所以外に、知っているM商会の人間は、誰一人いない…


 だから、男たちの口から、さまざまな人物の名前が挙がっても、誰一人、知らなかった…


 それゆえ、つまらないというか…


 この営業所の中で、私だけ、部外者気分だった…


 それを、象徴したのが、なにより、私が、ほぼ一週間ぶりに、出社して、


 「…高見さん…風邪で、入院したんだって…大丈夫だった?…」


 と、誰一人、言ってくれないことだった…


 なにしろ、前沢が、逮捕されたことで、営業所内は、てんやわんや…


 私の入院が、話題になることどころではない…


 しかしながら、それは、わかっているが、それでも、この営業所内で、誰一人、私に、


 「…高見さん…大丈夫だった?…」


 と、聞いてくれないのは、痛かったというか…


 心底、寂しかった…


 これでは、まるで、転校生…


 小学生や、中学生で、学校に、転校してきたような気分だった…


 私は、この営業所で、ひとりぼっち…


 実に、ひとりぼっちの気分だった…


 が、


 しかし、それは、あの米沢京子も、同じ…


 同じだった…


 元々、彼女は、この営業所の誰とも、つるまない…


 だから、ひとりぼっち…


 ひとりぼっちだった…


 それゆえ、彼女を見ると、安心した…


 私同様ひとりぼっちの彼女を見て、安心した…


 彼女にシンパシーすら、感じた…


 まさか、私を憎んでいる彼女に、シンパシーを感じるなんて、思わなかった…


 これには、自分自身、驚いた…


 そして、もう一人…


 もう一人は、船見さん…


 彼女が、気になった…


 なにしろ、船見さんは、逮捕された前沢と、不倫している…


 それゆえ、彼女が、どんな態度を取るのか、知りたかった…


 が、


 彼女は、休みだった…


 会社を休んでいた…


 だから、彼女が、どんな態度を取るのか、知りたかったが、それは、わからずじまいだった…


 だが、当然、前沢の逮捕を知れば、慌てたはず…


 ただし、それが、どんな態度に出るのか?


 知りたかった…


 そういうことだ…


 

 そして、朝、私が、出社したときは、営業所の中は、そんな感じだったが、それでも、仕事の時間になると、誰もが、皆、仕事を始めた…


 前沢のことは、気になるが、それと、仕事とは、別…


 なにより、外回りに、営業に出る社員は、いるし、営業所内に、頻繁に仕事の電話がかかってくる…


 それゆえ、仕事をしないわけには、いかなかった…


 たとえ、前沢のことは、気になっても、仕事をしないわけには、いかなかった…


 そして、その日は、まだ、お昼休みも、会社が、終わって、会社を去るときも、前沢のことを、多少は、話す社員が、いたが、翌日は、もう、いなかった…


 きれいさっぱり、前沢の話は、しなかった…


 私は、それを、見て、


 …随分、冷たいな…


 とも、思ったが、世の中、そんなものかも、しれないとも、思った…


 以前、勤めていた金崎実業でも、そうだったが、男でも、女でも、会社を辞めるものが、それなりにいて、それこそ、その人間が、辞める当初は、誰もが、


 「…ウソ! あのひと、辞めるの?…」


 とか、


 「…辞めて、今度は、どこの会社に行くんだろ?…」


 とか、話題になったが、それも、やはり、数日…


 せいぜい、二日、三日で、そのひとの話題は、終わり…


 誰も口にしなくなる…


 まるで、そんなひと、最初から、いなかったかのように、そのひとの話題を誰も、しなくなる…


 だが、まあ、世の中、そんなものかも、しれない…


 仮に、これが、夫婦でも、別れた当初は、相手のことを、思うかも、しれないが、いずれ、忘れるというか…


 思い出さなくなる(笑)…


 それこそ、まるで、そんなことが、なかったかのように、次の相手を見つけようとする…


 世の中、そんなひとが、大勢いる…


 だから、それを、考えれば、普通と言うか…


 このM商会で、誰も、前沢の話をしなくなったのも、おかしくないのかも、しれない…


 そして、なにより、仮に、前沢の話を誰かが、したくても、誰も、前沢の話をしなければ、自分から、前沢の話をするのは、しにくい…


 そういうことだ…


 これは、変な話、アイドルと同じ…


 昨今は、推し活といって、自分が、好きなアイドルを熱心に推す動きが、顕著だが、これもまた、前沢の話と同じで、自分が、それまで、熱心に推していたアイドルが、人気が、なくなって、自分だけが、そのアイドルを熱心に推すのは、なんとなく、恥ずかしいというか…


 そんな気持ちになる…


 結果、自分も、他のファン同様、そのアイドルを推すのを、やめる…


 そういうことだ…


 要するに、横並び…


 周りに倣って、自分だけ、突出しない…


 自分だけ、他の人間と違う行動をしないということだ…


 私は、思った…


 私は、考えた…


 そして、前沢の話題は、もはや、社内で、誰も、しなくなったが、それとは、別に、船見さん…


 前沢と不倫していると、私に告白した船見さん…


 彼女もまた、会社に来なくなった…


 これは、一体、どういうことか?


 謎が、深まった…


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