3/9
五月十七日 午後四時三十八分
高城家本邸の裏手には古い車庫がある。
戦前に建てられた煉瓦造りの建物だ。
葬儀の最中、誰も近づかない。
私はそこで叔父の車を見つめていた。
黒い高級セダン。
今夜、叔父は市内のホテルへ向かう。
葬儀後の親族会議があるからだ。
私は数日前から準備を進めていた。
ブレーキホース。
少しだけ傷を入れる。
すぐには切れない。
だが高速道路に入れば。
あるいは山道の下り坂なら。
十分だ。
事故になる。
誰も疑わない。
警察も保険会社も。
全て不運な事故として処理するだろう。
私は工具を片付けた。
完璧だった。
十年間考え続けた末の結論だ。
失敗するはずがない。




