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十年後 午前九時三十二分
中庭の木々が風に揺れている。
私は空を見上げた。
今日も青い。
不思議なものだ。
どれほど苦しくても。
空だけは変わらない。
「高城さん」
声がした。
私は振り向く。
白衣の女性が立っていた。
優しい笑顔。
毎日見ている顔。
「そろそろお薬の時間ですよ」
私は頷いた。
その時だった。
ふと違和感を覚える。
お薬。
そうだ。
ここへ来てから毎日飲んでいる。
十年間。
欠かさず。
なぜだろう。
私は少しだけ笑った。
「今日も模範囚ですから」
そう言うと女性は困った顔をした。
「またその話ですか」
「違いましたか」
「違います」
彼女は穏やかに首を振る。
「高城さんは受刑者じゃありません」
私は黙った。
「ここは病院です」
「……」
「ずっと前からそうですよ」
私は空を見上げた。
病院。
そうだっただろうか。
分からない。
もうどちらでもいい気がした。




