第三十八話「春の催し」
新しい出会いから数日、バスケ部では新しい顧問の話題とは別に来る部活動説明会――またの名を部活対応パフォーマンス対決――に向けて熱い話し合いが繰り広げられていた。
そもそも部活動説明会事態は真面目な催しであり、各部活の代表者が新入生の前で自身が所属する部活動の活動説明やアピールポイントを発表し部活動選びの参考にしてもらうという内容だ。しかし、一部の運動部にとっては一種のパフォーマンス大会のようなものになっており、どれだけ目立ち盛り上がる内容のパフォーマンスをするかに掛かっているのだ――主に名誉だけが。
昨年のバスケ部は真面目な先輩たちによりちょっとしたバスケの実演と説明だけで終わっていたが、今年は違う。何より副部長である田中は昨年からこのお祭り騒ぎに参加したくて仕方がなかったらしく、自分たちが三年生になった暁には派手なパフォーマンスで全校生徒の注目になってやるのだと息巻いている。
そして離れたところで関わり合いにならないようにと静かに過ごしていた志真にも声がかかる。
「よし!そんじゃあ今年は斗馬と志真の激熱バトル展開!とかどうよ?」
「どうよ……って、なんだよそれは」
田中からの突然の提案にそもそも話を聞く気も無かった志真は何のことか分からないまま聞き返す。どうやら身長差が一番ある二人がバチバチに戦っている様子を見せれば新入生に対してカッコよさも驚きも両方提供出来るだろうということらしい。意味が分からない。
「練習着だとあんまり映えねーから、制服で1on1とかにしようぜ!制服のままバスケするのってめっちゃカッケーと思うんだよな」
「はい!はい!はい!そんじゃ、オレ夢渡先輩に学ラン着て欲しいっす!!中学の時学ランだったんっスよね?めっちゃ見たい!……んんっ、学ラン対ブレザーとか熱くないっすか」
一人で盛り上がっていたはずの田中に賛同する形で柊人が割りこんでくる。当人の許可も取らずに話を進めていくのは止めていただきたいものだが、周囲の後輩や同級生も頷きはじめてもう断るとは言えない雰囲気になってきている。どうにかならないかと斗馬の顔を伺ってみれば――そうだ、斗馬も運動部の部長として盛り上がること自体は好きなのだ、と思い出す。盛り上がっていく話し合いを止めようともせず笑顔で頷くばかりだ。
「流石に二人だけだと分かりにくいから3on3とかにしてやるのはどうだ?学ラン対ブレザーでチーム分けして……中学の時学ランだった奴らで学ランチームにしよう」
「おお!さっすが斗馬!ナイスアイデア!!まぁ、志真は……中学の時の学ラン着れるよな?他のやつでサイズはいらなかったら斗馬のやつ貸せばいいし、うおー、めっちゃ良い感じのパフォーマンスやれそう!!」
結局のところ志真に拒否権は無いようで、話がトントン拍子に進んでいく。ここまで盛り上がった内容を今更否定するわけにもいかず、折角最後の一年なのだからたまにはこういったお祭り騒ぎに乗っかるのも一興かとため息交じりに承認する。中学時代の学生服はどこに仕舞ったのだったかと考えつつ、中学三年生から1㎝たりとも変わらなかった身長を思えば田中からの無遠慮な物言いに嚙みつくことも出来ないが、どことなく馬鹿にされたような雰囲気だけは察知したので軽くデコピンをお見舞いしておく。
どんな部活動説明会になるのやらと始業式後にすぐ行われるであろう催しに少しだけ心を躍らせるのであった。
部活動説明会の当日、バスケ部のパフォーマンスは会場の熱狂の渦に巻き込んだ。
柊人のプロデュースにより普段のもさ付いた髪形が綺麗にセットされた志真を筆頭に学ランで現れた【チーム学ラン】と圧倒的な身長の斗馬率いる通常の制服を着た【チームブレザー】。斗馬と同じチームにはビジュアル担当だとして柊人も入れられている。顔はもとより整っていたが、身長も170後半まで伸び第二の王子などと呼んでいる人々もいるらしい。
副部長である田中がマイクを握り、部活の説明はほどほどに三対三の戦いを実況することで盛り上がりは最高潮に達した。斗馬ともう一人のセンターである二年生の佐藤による迫力のマッチアップに飛び交うボール。そして極めつけは志真対柊人の一対一。
一年前の戦いを思い出すような競り合いに少しだけ志真の口角が上がる。当時、敵対心をむき出しにして噛みついては返り討ちにあった柊人だが、バスケの実力はこの一年で確かに上達していた。どちらも一歩も引かない激しい攻防に歓声が大きくなっていく。
「お前、強くなったなぁ」
時間からして最後の攻防、僅かに空いた柊人のディフェンスを潜り抜け志真がつぶやく。ぶつかった体も、もう吹き飛ばされることは無い。見開かれる柊人の瞳と伸ばした手は僅かにボールへと届かず、志真の手から放たれたボールはゴールへと吸い込まれた。沸き上がる歓声に田中の締めの言葉が続く。全員で挨拶をして次の部活へとその場を引き継ぐが、これだけ盛り上がったのだから大成功と言って差し支えないだろう。
「あーーー!!!また夢渡先輩に勝てなかったあああ!!」
体育館を後にした柊人がひときわ大きな声で叫ぶ。その表情は本気で悔しい気持ちが滲みながらも笑顔だ。実のところ和解、というよりは一方的に柊人が志真を追いかけ始めてからも柊人は時々志真に勝負を挑んでいた。最初の方こそは何もできないまま負けていたが徐々に付いていけるようになり、最近では何本かに1本は勝てるようにもなっていた。しかし勝率自体はまだまだ志真の方が高く、負けるたびにこうして気持ちを発散させているのだ。
可愛い後輩である柊人がこうして変わりなく挑み続けていることを志真は喜ばしく思っているし、何より大切にしたいと思っていた。変わらない、と言えば志真に対して相変わらず好意を表し続けているのだが、それについては可愛い後輩の域を出ないためあっさりとフラれ続け、あまりの脈のなさに優海さえも最近ではあまりべたべたとくっついていなければ放置することが多いくらいだ。
「おーい、まだ中で説明会やってるんだから静かにな」
「うぉっ晴っちじゃん。すんませーん!」
新しくバスケ部の顧問になった榊が様子を見に来たのか、叫んでいた柊人に注意する。どうやら柊人のクラスの副担任になったらしく返す返事は軽い。
志真はというと、屋上での出会いから時々腕をジッと見つめられる為、多少の居心地の悪さを感じながらも榊の善意によるものだとも理解しているのでへらりと笑っては怪訝な顔を返されている。どうやら微笑んでいるのが伝わっていないようだ、とは隣で見ていた斗馬にあとから聞いて己の表情筋の弱さを恨んだものである。
何はともあれ、部活の一大イベントも無事終了しこれからは本格的な大会に向けた練習の詰めが始まるのだと思うと同時に、県大会を目指すレギュラーメンバーの姿を見ると未だに自身の過去を思い出し少しばかり胸が苦しくなる。
それでも昨年やその前に比べれば随分と改善したものだが、心の傷――空白と言うべきだろうか――とうものを直すのには本当に時間が掛かるのだと改めて実感する。少しずつ確かに治ってきているし、榊の視線を意識してか腕の傷自体も減っている傾向にある。
今でも父親からの言葉は胸に重くのしかかっているが、少しずつ自信を認め肯定することが出来るようになってきたと思う。そして、その隣には必ずと言っていいほど優海の姿があった。
この期間だけは少しだけ距離が遠くなる優海に何故か寂しさを覚えるが、この寂しさの理由を志真はまだ知らない。




