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第二十二話「変化」

 あれから、さらに二人の距離は縮まっていた。

 優海からの距離は変わらないものの、志真から優海へと近づいていくことが増えたのだ。少し苦手なことがあれば迷いながらも優海を見上げ、小さく助けを求めるその姿は実に愛らしい。


「この間なんてね、ファミレスに行ったら頼んだサラダにトマトが乗っていたんだけど、少し悩んだ末に上目遣いでトマト好き?なんて聞いてくるものだから本当に可愛くて可愛くて……今までは出てきたとしても我慢して自分で食べてたのに僕に食べて欲しいって言ってくれるようになったんだよ?これは紛れも無い進展だよね」


 休み時間、いつものように同じクラスの廉也へ話しかける口が止まらない。それもそのはず、今優海は幸せ街道を走っている最中なのだから。

 優海の話を相変わらず呆れた目で聞きながらも、実際のところ廉也から見ても志真の態度が変化しているのは一目瞭然なので本当に進展があったのかと感心する部分も多かった。


「んじゃ、付き合えそうなのか?確かに夢渡の最近の様子からすると優海のことだいぶ意識しててもおかしくねーけど」

「廉也。そんな簡単に付き合えたら僕は苦労しないよ。あくまでこれは志真を幸せにするための大きな一歩を踏み出したところであって、僕と付き合うことで志真が幸せになれると思わせるにはまだまだ足りないんだよ」


 にこやかに語っていた優海の表情が消え、真顔でつらつらと語り始める。志真のことを神格化しているところがある優海ではあるが、改めて聞くと病的なほどの感情を抱えていると思わざるを得ない。

 友人として幸せであれば廉也から特別どうこうという感情はないが、今の優海の様子を見ている限り杞憂であろう。

 

 だが、その優海にとっても一つ計算外なことが起き始めていた。

 志真の優海に対する態度が変わったことにより、優海の機嫌が最高潮に良いのが原因というか一因ではあるのだが、今まで以上に優海の学校内での人気が上がり続けているのだ。

 本人からすれば迷惑極まりないと言ったところだが、志真の変化を受けて常に笑顔でいる優海がさらに笑顔を増しそれを見た周囲が一層優海に熱をあげるという好循環といえば好循環だが、受ける側からすれば悪循環が起こっているのだ。

 当然、優海もその現状は把握しており程よく周囲とは距離を置きつつ生活をしているものの、下級生は関わることが少ないからよく分かっていないのか、はたまた無鉄砲なのか、優海が引いている線を気にすることなく踏み越えてくる。


 先日も下駄箱に手紙が入っていたり、呼び出しを一日二回受けたり、昼休みなどには優海を一目見ようと教室まで押しかける始末だ。適当にあしらっているもののそろそろ優海も我慢の限界だろう。

 というよりは志真との幸せな時間を邪魔されても適当にあしらえているのは志真との関係性が改善されたことにより優海の機嫌がとてつもなく良いからであって、通常時であれば排除されていてもおかしくはない。


「んで、今日も手紙もらってたけど行くのか?」

「あぁ、一年の子だっけ。今時手紙で呼び出しって不思議だよね、風情があって良いとは思うけど。今日は志真と一緒に帰る日だしさっさと行ってさっさと終わらせてくるよ。こういうので志真が嫉妬とかして僕のことを意識してくれれば良いんだけど……そこまでの感情はまだ抱いてくれないみたいだからね」


 朝、下駄箱に入っていた手紙を眺めながら優海は考える。

 この紙切れを見つけた時、当然志真もそこにはいたわけだが相変わらずモテるんだな、なんて軽く笑いながら流されてしまった。あろうことか放課後の呼び出しであれば終わるまで待っているからゆっくり話してくれば良いなどと言われる始末だ。

 いつかはーー自分だけを見て欲しいなどと、少しなりとも独占欲を見せてくれればーー優海としても心の奥底に渦巻くドス黒い感情を露わにすることが出来るというのに。



 放課後、優海は手紙で指定された空き教室へと来ていた。途中志真とすれ違い、ごゆっくりなどと声をかけられてしまった為早々に終わらせてしまいたい。あまりに長引くとあの後輩も聞きつけて志真の元へと来てしまう。


 扉を開け、教室へと入ると一年生の女子生徒が待っていた。いつものパターンだ。

 音に気が付いたのか優海の方へと振り返った彼女は優海の顔を見るとすぐにその頬を赤く染めた。

 待たせてごめん、などと声をかければすぐさま首を横に振り小さく俯く。顔はおそらく愛らしいのだろう、その小さく震えながら頬を染めて優海を見上げる姿はきっと一定の人間には庇護欲を掻き立てられ、とても好感度が高く見えるのだと思う、

 優海にとってはその対象が志真ではないというだけで全て一律で背景のような何かにしか見えてはいないのだが。


「その、突然呼び出してしまってすみません。わ、私っ!優海先輩のことが好きです!その……もし今付き合っている人がいなければ、私と付き合ってください!」


 意を決して振り絞った声に優海の感情は動かない。すぐさま返答をすると要らぬ不和を生んでしまうというのが今までの経験から得た答え、と一呼吸を置いて答える。


「ごめんね。僕は君のこともよく知らないし、今は誰とも付き合うつもりはないんだ」

「そ、そうですか。じゃ、じゃあ!連絡先だけでも交換……してもらえませんか?今は無理でも、これから私のことを知ってもらって、その、それからとか」

「そういうのも断ってるんだ。あまり連絡とか取れなくなってしまうから。ごめんね」


 今までも連絡先だけでも教えて欲しいと名乗り出る人たちは多くいたが、優海はその全てを断っていた。そもそも連絡自体あまり見ないというのは半分は本当だ。志真からの連絡以外は基本的にすぐに返す必要がないと思っている為通知が溜まっていることもよくある。

 一番の理由はその他大勢の連絡で志真からの連絡が埋もれて反応が遅れようものなら絶望しかねないからだ。その為一律で連絡先の交換も断っているのだ。



 話はこれで終わりだろうかと、別れの挨拶をして教室を出ようとしたところで扉が開かなくなっていることに気が付く。鍵自体は内側からも開けられるはずのため、開かないということは外側から物理的に塞がれていると考えるのが正しいだろう。

 ここは空き教室とはいえ半ば備品置き場のようになっているため窓も塞がれており、廊下へ出る手段はない。どうしたものかと後ろにいるはずの女子生徒を振り返れば、すぐ後ろにまで迫ってきていた。

 

「先輩、なんで私じゃダメなんですか?連絡先だけでも交換してくれたら……こんなことしなくて済んだのに」

「困るよ。人を待たせてるんだ」

「その人って、夢渡先輩のことですよね?待たせておけば良いじゃないですかあんな人!優海先輩にくっつくだけの人なんて……優海先輩はあの人に利用されてるんですよ!最近なんて優海先輩になんでもかんでも頼って気を引きたいだけに決まってます!」


 このタイプか。と脳内ですぐさま彼女に対するラベルを張り替える。時折、志真に大して異様な嫉妬を見せる自称優海のことを心配している人間が現れるのだ。同級生たちに存在するこのタイプは一年をかけて消えていったーー消していったともいうーーはずだが、バスケ部の後輩が現れてからこう言った手合いの対処をしていなかったと自身の準備不足に反省をする。

 このタイプはいずれ志真に対して害を与える存在になることは、去年の同級生たちからして分かっていることである。早めに潰すに限るか、と向き直れば彼女は携帯の画面を優海へと見せてきた。


「ここに写ってるの誰だかわかりますよね?夢渡先輩に手を出されたくなければ……私と付き合ってください」


 彼女が見せてきた画面には教室で待っている志真が映し出されていた。


 嗚呼、本当にイライラする。これだから志真以外の人間は好きではないのだ。

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