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第9話「秘める心」

「志真なら今週いっぱいは委員会でいないぞ」

 昼休み、たまには昼食を一緒に食べようと誘いに行ったところ扉の前ですれ違った斗馬にそう声をかけられた。

 志真の友人である斗馬に認識されていることにも驚いたが委員会の話を志真から聞かされていなかった事実に少しだけテンションが下がる。図書委員だから順番に当番が回ってくるのは当たり前なのだが、その周期までは把握していなかった。

「そうなんだ。教えてくれてありがとう」

 斗馬へ軽くお礼を返し、重たい足取りで教室へと戻る。図書室へ行ってもいいが流石に教えてもらっていない委員会の時にまでいくのは気が引ける。決して迷惑をかけたいわけではないし、むしろ志真にとって無害な友人枠をまずは強固なものにしなければ心を開いてもらえないからこそ疑問を抱かせるわけにもいかないのだ。

「あれ、フラれたんだ?」

 自分の席へ戻ると廉也からそんな縁起でもない言葉が飛んできた。今すぐ襟元を掴んで揺さぶりたい衝動に駆られるが、そんな様子が志真に伝わる可能性を考えて踏みとどまる。代わりにニヤついた廉也の頬をひっぱり上下左右へと動かしておいた。

「変なこと言わないでくれるかな。委員会で教室にいなかっただけだよ」

「いたたた、悪かったって。あー、そういえば図書委員だっけ?じゃあ帰りも一緒に帰れないな」

 少し赤くなった頬を撫でながら廉也がそう呟く。その通りだ。図書委員ということは当然放課後にも当番があるというわけで。小さくため息を吐いたところで携帯に志真からメッセージが届いた。案の定委員会で帰りは一緒に帰れないという内容だ。

 改めて突きつけられる事実に肩が下がるが、志真の中で優海と帰ることが断りを入れるほどの日常になっているとわかり少しだけ頬が緩んだ。

 それもそのはずで志真と再開してから2ヶ月が過ぎもうすぐ夏休みが始まる頃だ。そんなに長い期間一緒に帰っていれば当然日課にもなるだろう。

 口角を上げながらメッセージを返す優海に廉也は相変わらず呆れた表情だが、突然思い出したと言わんばかりに声を上げた。

「急になに」

 志真とのやりとりの最中に水を差された優海は眉をひそめながら廉也へ返す。

「いや、夢渡ってさ結構モテる?」

 唐突な問いかけに何を今更とすぐさま肯定する。今でこそ無気力で大人しめな雰囲気を漂わせているが中学生時代は文武両道な運動部で明るく人当たりのいい性格だった。誰にでも優しいし身長こそ低めであるがそれすらも愛嬌になっていたレベルだ。

 実際、中学生の頃には何人かに告白されたという話も聞いている。もちろん本人の口からではないが。

「逆になんでモテないと思うの?あんなにかっこよくて可愛くて魅力的な人間がモテないわけないでしょ。というかなんで急に志真の話?もしかして志真のこと狙ってる……としたら僕は廉也のことを容赦無く叩き潰すしかないんだけど」

「怖いこと言うのやめてくんねぇかな。お前が言うと洒落になんねーんだわ。てか、夢渡についてはお前のフィルター通ってるからそう見えるだけじゃねって思ってたんだけどさ、陰キャでもやっぱ優しいとモテるもんなんかな」

 昼食の菓子パンを齧りながら話す廉也に続きを催促する。廉也が志真を狙っているかどうかは置いておいて、なぜ廉也がそう思ったのかには純粋に気になるところである。

「この前、先週くらいだったかなー夢渡が女子と歩いてるところ見てさ……」


 その日は移動教室があり、優海はよくあることだが女子に話しかけられていたため廉也は一人で教室に戻る途中のことだった。渡り廊下からふと下を見下ろした時に何やら荷物を運んでいる志真と女子生徒を見かけたのだ。

 特に気にしているわけではないが、やはり友人が毎日のように話していると自然と目に入ってくるもので仲良さそうに話している二人を少しだけ追いかけて見ていると明らかに女子の方が志真を意識した反応をしていた。

 荷物を運び終えて扉を閉める際に思わず手が触れて照れたり、明らかに志真と比べて志真の方を見る回数が多い。廉也はこの特徴を持つ人間を間近でよく見ているため自然と重なってしまい、恐らくあの女子は志真に気があるんだろうなとなんとなく察してしまった。

 その後教室の前ですれ違った時にはすでに女子は他の女子と一緒に話をしていたが、通りすがりに聞こえただけでも志真と一緒に行動をできたことを喜んで報告しているような内容だった為確定だろう。当の志真はなんとも思っていない顔をしていたが。


「ってことがあって。そのうち告白でもし始めるんじゃねーのかなって雰囲気だったし。ああ言う真面目そうなタイプの女子には優しさが受けんのかな」

「志真と同じクラスの高橋さんでしょ。黒髪で一つ縛りの」

「えっ……名前は知らんけど確かに一つ縛りだった気がする。おま、お前……本当に怖いからなそれ」

 廉也の話を聞き終えた優海はごく当たり前のようにそう告げる。あまりにも自然に名前を出すものだから本気で怖くなり廉也は体を縮こめて腕をさすった。

「志真に近付く人間のことは知っておかないと、ね。だけどその子の恋が実ることはないんじゃないかな」

「なんで?いい感じの雰囲気だったし悪くないと思うけど」

 少し考えながらもはっきりと告げる優海に廉也は首を傾げる。確かに志真は恋愛に興味が無さそうな態度をしているが思い返してみてもあの時の女子ーー高橋さんーーが告白をしたら断ることはあまり無さそうな雰囲気もある。真面目そうで廉也からみればお似合いの二人だ。

「志真が恋愛に興味ないっていうか、今は興味持つどころじゃないっていうのもあるけど、そもそも志真ってうっすら女の子のこと苦手だからね」

「というと?」

「志真はそんなに気にしてなかったけど小学生の頃は女の子たちに嫌がらせされてたし、今考えればあれも好きが転じてってやつなんだろうけど。中学では友達だと思ってた女子に無理やり迫られてから暫く女子のこと避けてたみたいだし……ほら志真って誰にでも優しいから自分だけ大事にされたって勘違いしちゃう変な奴が時々出てくるんだよね」

「……それ、自己紹介してる?っぃだっ!!」

 一度飲み込もうと思ったが、流石に飛び出てしまった。これを飲み込むのは流石の廉也でも難しかった。言い終わった瞬間に目から光が消えた優海から盛大なデコピンを一発もらい、机に突っ伏していると上から少しだけ落ち込んだ声が降ってきた。

「僕は身勝手に告白するようなやつらとは違うし、嫌がらせもしないよ。志真が志真でいられるだけで嬉しいし、でも傷付いたり悲しんだりすることがあれば守ってあげたいって思う。最終地点として……両思いになれたら、それは、嬉しい。けど今はこの気持ちは志真にとって負担になるし僕だって志真に嫌われたくないからね。まずは志真が志真のことを好きになって許せるようになってから話はそれからだよ」

 いつもあれだけ志真への愛を溢れ出させておきながら絶対に恋愛的なアプローチはしないことに疑問を抱いていたが、そう言うことかと合点がいく。何も考えずに絡み続けているわけではないのか。

 通常の友人としての愛情表現かと問われると疑問が残るところではあるが優海なりに悩んでいるのだろう。

「じゃあさ、夢渡が別の誰かと付き合って幸せになるんだとしたらどうすんの」

 ふと疑問に思ったことを問いかけてみる。志真の幸せを願うのならばそういった形もあり得るだろう。


「そんな未来はありえないよ」

 そういった優海の顔は笑顔にも関わらず鳥肌が立つほどに冷たかった。

 この感情は隠した方がいいだろうと本能で確信してしまうほどに。

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