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二匹の鼠  作者: 春夏かなた


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第4話 山道強襲


「もう襲ってきやがったか」


阿茶屋は、山道の先で立ち止まっている護送隊を見つめた。


「行こう、おっちゃん!」


涼音が身を屈め、駆け出そうとする。


だが、その腕を阿茶屋がすかさずつかんだ。


「待て、待て! どこへ行くつもりだ」


「どこって、助けに決まってるだろ!」


涼音は必死な顔で阿茶屋を睨み返した。


「落ち着け。俺たち二人で突っ込んだところで、どうにもならん!」


「同心だろ。見捨てるつもりかよ!」


「……近くの町へ戻って、応援を呼ぶ方が先だ」


「そんなことしてたら、間に合わないよ!」


涼音はつかまれた腕を振りほどこうと、懸命に身をよじった。


だが、阿茶屋の手は離れない。華奢な腕はびくともしなかった。


その時だった。


ガサッ。


すぐ近くの藪が揺れた。


「――っ!」


二人が同時に息を呑む。


茂みの隙間から、火縄銃の砲身がぬっと突き出された。


阿茶屋と涼音は顔を見合わせる。


そして、ゆっくりと後ずさりながら両手を上げた。


茂みを押し分け、鎖帷子を着込んだ男が、火縄銃を構えたまま姿を現す。


「動くな」


「……へへ。参ったね」


阿茶屋は引きつった笑みを浮かべ、その場で足を止めた。


涼音もぎこちなく笑いながら、両手を上げている。


さらに茂みが揺れ、同じ鎖帷子姿の男たちが二人、続けて現れた。


火縄銃の男が、顎で護送隊の方角を示す。


二人は小さく頷くと、護送隊へ向かって走り出した。


男の意識が二人へ向いた、その一瞬だった。


涼音が身を翻し、地面を蹴る。


「おのれ!」


男はすぐさま、火縄銃を涼音の背中へ向け直した。


その横から、阿茶屋が一歩踏み込む。


素早く刀を抜き放つと、銃身を上から叩き落とした。


パァン!


乾いた破裂音が山道に響く。


銃口から白い硝煙が噴き出し、駆けていく涼音の足元で土煙が上がった。





「また追いかけっこかよ……」


小さくなっていく涼音の背中を見送り、阿茶屋はうんざりしたようにぼやいた。


「知るかよ」


男は吐き捨てると、撃ち終えた火縄銃を地面へ放り捨て、腰の刀を抜いた。


阿茶屋も男へ向き直り、刀を正眼に構える。


男もまた、滑らかな動きで正眼に構えた。


その構えには、わずかな隙もない。


「ただの賊じゃねぇな。野武士か」


男は答えず、意味ありげに口元を歪めた。


次の瞬間、地面を蹴って一気に間合いを詰めてくる。


鋭く振り下ろされた刃を、阿茶屋は刀で受け流した。


ギィンッ!


刃がぶつかり、火花が散る。


阿茶屋はそのまま男の懐へ踏み込むと、横薙ぎに胴を払った。


だが――。


ガキンッ!


刃は鎖帷子に阻まれ、硬い金属音を響かせて弾かれた。


男は怯まない。


すぐさま刀を返し、上段から阿茶屋へ振り下ろす。


「こんにゃろ!」


阿茶屋は刀をかざして刃を受け止め、力任せに押し返した。


再び二人の刀が激しくぶつかり合う。


ギンッ、ギィンッ!


甲高い音が、山道に響き渡った。


「そりゃあ!」


男が鋭く切っ先を突き出す。


阿茶屋は半身になってかわすと、すれ違いざまに男の喉元へ刀を突き入れた。


「ぐほっ……」


男の身体から力が抜ける。


阿茶屋が刀を引き抜くと、男は膝から崩れ落ち、そのまま地面へ倒れ伏した。


「ふう……」


阿茶屋は乱れた息を整えながら刀身の血を振り払い、鞘へ収めた。


それから倒れた男へ近づき、傍らに落ちていた刀を拾い上げる。


「……いい刀、持ってやがるな」


柄と刀身を一瞥する。


賊が持つには、上等すぎる代物だった。


だが、今は詳しく調べている暇などない。


阿茶屋は山道の先へ目を向けた。


涼音の姿は、もうどこにも見えない。


「ったく、あのガキは……!」


拾った刀を地面へ放り捨てると、阿茶屋は涼音の後を追って駆け出した。



山道を駆ける阿茶屋の耳に、激しく刃のぶつかり合う音が飛び込んできた。


ガキンッ、ギィンッ!


続いて、男たちの怒号が響く。


阿茶屋は足を止め、前方の木々の隙間へ目を凝らした。


(ちっ、囲まれちまったか)


先ほど別れた護送隊が、山道の前後を襲撃者に塞がれ、追い詰められている。


それも無理はない。


襲撃者たちは甲冑や鎖帷子で身を固め、刀や槍ばかりか火縄銃まで携えている。


それに対して、護送隊の男たちは旅装束に刀一本。まともにぶつかって、勝負になるはずがなかった。


「ちっ……どうするかね」


阿茶屋は額に浮かんだ汗を拭い、周囲を見回した。


山道の脇には、鬱蒼とした茂みが広がっている。


「……よし」


身を低くすると、阿茶屋は茂みの中へ踏み入った。


枝葉を揺らさぬよう慎重に進み、少しずつ護送隊との距離を詰めていく。


やがて、茂みの隙間から山道の様子がはっきりと見えるところまでたどり着いた。


「ぐあっ!」


護衛の男たちが一人、また一人と刀を奪われ、地面へ組み伏せられていく。


逃げ出した馬子たちも武装した男たちに捕まり、千両箱を積んだ駄馬のそばへ連れ戻されていた。


「……」


阿茶屋は茂みの陰に身を潜めた。


刀の鞘へ手を添えたまま、息を殺して様子をうかがう。


「おっちゃん」


不意に、すぐ耳元で声がした。


「うわっ……!」


阿茶屋は飛び上がりそうになる身体をこらえ、慌てて横を向いた。


すぐ隣に、涼音が何食わぬ顔でしゃがみ込んでいる。


「お前……なんでこんなところに」


「しっ」


涼音は阿茶屋の唇へ人差し指を押し当て、声を上げるのを制した。


それから茂みの奥を指し示す。


「こっちだよ」


涼音は声を潜めて告げると、木々の間を縫うように進み始めた。


阿茶屋は呆れたように息を吐き、身をかがめてその後を追った。


              

やがて涼音が足を止め、草むらの中へ身を沈めた。


追いついた阿茶屋も隣にしゃがみ込み、茂みの隙間から山道を見つめる。


上月と眞田が背中を合わせ、群がる襲撃者たちに立ち向かっていた。


「はっ!」


正面から突き出された槍の穂先を、上月が刀で払いのける。


その横から別の男が斬りかかるが、眞田がすかさず刃を受け止めた。


ガキンッ!


眞田は力任せに刀を押し返し、男を後ろへよろめかせる。


だが、息をつく暇もない。


今度は別の男が、眞田の背後から斬りかかった。


「眞田!」


上月が身体を翻し、その刃を横から弾く。


二人は互いの背を守りながら、次々と迫る襲撃者を退けていた。


しかし、一人を押し返せば、空いたところへすぐに別の男が踏み込んでくる。


二人を囲む輪は、少しずつ狭まっていた。


上月の肩が大きく上下している。


眞田の額から流れた血は、すでに片目を赤く濡らしていた。


それでも二人は刀を下ろさない。


「……あの二人、もうもたないよ」


涼音は小さく拳を握り、食い入るように戦いを見つめていた。


刀や槍の切っ先が、じりじりと二人へ迫っていく。


「ああ」


阿茶屋は低く答え、鯉口を切った。


「お前はここに引っ込んでろ」


そう告げて、飛び出そうと腰を浮かせる。


その時だった。


「いつまで手こずってやがる」


苛立ちを含んだ声が、山道へ飛んだ。


襲撃者たちが左右へ分かれ、道を空ける。


その間を、血に濡れた刀を下げた男が、ゆっくりと歩いてきた。


「あいつ……」


涼音が息を呑んだ。


「どうした?」


阿茶屋は動きを止め、涼音を振り返る。


「あいつ、倉沼の屋敷にいた侍だ」


「倉沼?」


阿茶屋の片眉が上がった。


「間違いないよ。おいら、あいつに一度捕まりかけたんだから」


涼音の顔から、いつもの笑みが消えていた。


「待て、待て。倉沼様といったら、都の中枢にいるお人だぞ。なんでお前が知ってる?」


「倉沼には黒い噂があってね。ちょいと調べてたのさ」


「じゃあ、手配書に記してあったお前が忍び込んだ屋敷ってぇのは……」


「そうだよ。倉沼の屋敷さ」


「……おい、ガキ。お前、一体何者なんだ」


涼音は真っすぐに阿茶屋を見返した。


「おいらは隠密さ」


「隠密だと?」


阿茶屋は目を見開き、隣にいる少女をまじまじと見つめた。





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