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第6話 何で我、こんな事しとるんじゃあ! ~鎧の騎士王ジール視点~




 今までの宝物庫番は、宝物庫内の掃除を通して瘴気を一時的にでも払う事が仕事となっていたが、それはそれ以上をする能力がなかったからだ。


 呪物の言葉を聞く事ができ、呪物を浄化する事に成功した。

 そんなこの男に求められるのは、宝物庫内の問題の根本的な解決――つまりは浄化を進めていく事……なのだが。


「うん。これでよし。それにしても、最初こそゆっくりと休暇をと思ってたけど、今まで仕事に追われていた落差で、なんだかとても暇なんだよなぁ」


 言いながら、ルシェドが昨日磨いた宝物の一つ、カウチに腰を下ろし息を吐く。


<やる事ならあるだろ、この倉庫内の清掃だ>

「十年もあるのにあまり急ぐのもなぁ」

<この宝物庫内の瘴気の影響は、既に国内にも広がっている。早く瘴気を払わなければ、実害が強くなるぞ>

「まさか。こんな部屋一つをどうにかしたところで、国内の問題が解決できる訳ないでしょ。大丈夫だよ、国内の問題は、今は宰相閣下や王族が対処しているし、今後もしていくよ」


 国の問題からは距離を置く。

 それが俺のこの休暇だもん。

 こんな所からじゃあ何もできないしね。


 ルシェドは、軽い口調でそう言った。

 我の言葉なんてまるで信じていない。


 まぁ、信じようが信じまいが、我には関係のない事か。


「あ、そうだ。せっかくだし、今までの仕事に変わる暇つぶしを探そうかな。例えば、趣味とか」


 なんか変な事を言い出した。


 <おいルシェド、その宝物、我が戻しておく>

「え? あぁありがとう」

<ここは地下だ、体が冷える。これでも使っておけ>

「ひざ掛け。ありがとう」

<喉が渇いているだろう。ランチョンマットに茶器と湯と茶葉と砂時計を求めよ。出来合いの物より、我が淹れた方が幾らか美味い>

「ジールが淹れてくれるの? 嬉しいな」


 ルシェドがはにかむように笑い、「じゃあお願いしてみようかな」なんて言う。


 我は一度、寝室に向かった。

 すると、既に先程我が言った通り、茶器と湯と茶葉と砂時計が用意されていて――。


 何をしておるんだ我は!

 我は我自身に内心で大きな喝を入れた。


 我は騎士王だ。

 馬で地を駆け、剣を握った王。

 献身などされる事が当たり前であって、何故我があいつの面倒を見てやらねばならぬ。


 そう思うのだが。


<ここ四日、ずっとそうだ。どうにも手出しをせぬ・放っておくという事ができぬ>


 我は呪物ではなくなった。

 呪物に記されていた、『憎悪の騎士王』。

 その言葉のままの形で魂を鎧に繋ぎ留められていた我は、その呪縛から解放され、新たに別の名を付けられた。


 ――『おもてなしの騎士王』。


 呪物は、その縛りに相応しい魂を閉じ込める事で完成する。

 他者を呪う物になる。

 それは、今こそ廃れてしまい噂程度の話しか伝わっていないようだが、我の生きていた時代には誰もが知るような事だった。


 が、その呪縛から解き放たれた後も、刻まれた言葉によって己が変質してしまうとは、思いもよらない事だった。



 こんなの、我じゃない。

 少なくとも我の騎士王としての威厳が損なわれる!


 あぁなのに、なぜこの体はこうも簡単に茶の準備などしているのか。

 そういえば昔、妻に好いてもらうために妻の好きな紅茶をうまく淹れてやるべく、幾度か練習をしたものだが、その時の事を体が覚えているのかっ。


 あの時の努力と研鑽が、まさかこんな形で仇になるとは――。


<ほら、できたぞ>

「おっ、ありがとう。……んっ、美味しい。すごいな、ジールは」


 ……この男、褒める事は上手い。

 宰相補佐だったと言ったか。

 おそらくこうして今までも、数多の人間を褒め、誑し込み、うまく使っていたのだろう。


 どこかこそばゆい気持ちを無視して、そう思った時だ。

 宝物庫の重い扉が、ギギギッと押し開かれた。


「おーい、ルシェド、生きてるか?!」

「生きてるよ、シルヴァ。それにしても、初日はあれ程恐る恐るだったのに、何だか今日は元気だね?」

「この宝物庫のいわくなんて、今はどうでもいい! それよりも聞いたかよ!  西の森の大瘴気が急に晴れたらしいぞ――って」


 入ってきた筋骨隆々の男が、我を見つけた。

 目が合った。

 瞬間。


「ぎゃあぁぁぁーっ!!」


 情けない悲鳴を上げた後、白目を剥いて倒れてしまった。

 それに気が付かないルシェドは、怪訝そうな顔で首を傾げる。


「俺はこの宝物庫に軟禁されてるんだよ? 外の事なんて知る筈ないじゃないか」


 そして、やっと床に倒れた男を認めてキョトンとし、一言。


「っていうか、何で床に寝てるんだ? 眠いならちゃんとベッドで寝ろよ。流石のお前でも風邪引くぞ」


 ――いや、どう考えても我の恐ろしい姿を見て、恐怖で気を失っただけだろうが。


 まったくこの男ときたら、変な奴だ。

 呪物を浄化できるだけの観察眼と知識、他者に寄り添う心を持ちながら、こんな事にも気付かない。


 我は再び、今日何度目か分からない深いため息を吐いた。



お読みいただき、ありがとうございます!

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本作は、カクヨムで先行投稿している作品です。

キリのいいところなので一旦完結設定にさせていただきましたが、またストックが溜まり次第、こちらにも掲載を再開します。

続きを待ってくださる方は、是非ブックマークはそのままでお待ちください!


ルシェドが次に磨く呪物は……呪いの鏡!

なんと女の子も登場します。

次回から始まる第二章も、どうぞよろしくお願いいたします!



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