第4話「覚悟の痛み」
薄暗い岩の空洞。肌を刺すような冷気など、今の二人には全く感じられなかった。
ディーネは、荒く息を吐きながら蹲る彼の腰に跨ったまま、小さく震える己の膝を睨みつけていた。
(どうして、あたしがこんなことを……)
込み上げるのは、理不尽な事態に対する純粋な怒りだった。
自分を庇ってこんな目に遭ったこの大馬鹿者にも腹が立つ。
放っておけば死ぬ。
それは分かっている。
こんな旅の始まりで終わられるのは気に入らない。
せっかく面白くなりそうだったのに。
――だから助ける。
ただそれだけの話だ。
そう思っていた。
なのに。
すべてを曝け出し、今まさに男の熱を受け止めようとしているこの瞬間になると、経験したことのない居心地の悪さが胸の奥を掻き回した。
「……ほんと、どこまでも世話の焼ける男だね」
吐き捨てるように呟く。
ここで逃げれば終わりだ。
なら、やるしかない。
ディーネは深く息を吸い込むと、限界まで熱を放つ彼の芯へと狙いを定め、一気に腰を沈め込んだ。
「ッ――ぁぁっ!」
体を真っ二つに裂かれるような鋭い痛みに、ディーネは大きく顔を歪めた。
無意識に彼の広い肩にすがりつき、爪が食い込むほど強く握りしめる。
その悲鳴に近い声に反応したのか、毒に侵され朦朧としていた男の目に、一瞬だけ理性の光が宿った。
「ディ、ネ……だめだ、俺は……お前を、傷つけ……っ」
かすれた声で彼女を突き放そうとする太い腕。その期に及んでまだ己を案じる不器用さに、ディーネの怒りが再燃する。
「黙りな! 今さら引き返せるかよ……ッ」
彼女は痛みに震える足に力を込め、逃げようとする彼の腰を両手でガッチリと押さえつけた。
その必死さに応えるように、彼の腕が彼女の背中を折れんばかりの力で抱きしめ返す。
「……すまない、俺の命……お前に、預ける……っ」
「……当たり前さ。今さら死なれちゃ困るんだよ」
気丈な言葉をぶつけながらも、彼女の瞳からは生理的な涙がひとすじ零れ落ちていた。
男の本能が毒に急かされるように、下から荒々しく突き上げ始める。激しい痛みが走るたび、ディーネは奥歯を噛み締め、彼の首筋にしがみついた。
薄暗い洞窟が更なる湿気で満たされた頃――命を繋ぎ止めるための必死の行為で、彼の熱は少しずつ落ち着きを取り戻し始めた。
それを感じながら、ディーネは小さく息を吐いた。
助かった。
そのはずだった。
なのに胸の奥が妙にざわつく。
疲れのせいだろうか。
それとも毒花の花粉を少し吸ったのか。
理由は、分からない。
分からないまま、彼女はその違和感から目を逸らした。




