第3話「手中の熱」
薄暗い岩肌に、荒々しい呼気がぶつかっては反響している。
這うようにしてたどり着いた洞窟の奥で、彼は壁に背を預けたまま苦しげに身を丸めていた。
「……で。あたしは、何をどうすればいいんだい」
水色の髪を無造作に掻き上げ、ディーネは腕を組んで見下ろす。
戦う術ならいくらでも知っているが、これは戦闘でも治療術でもない。
ただ、毒の作用として“異常な生理反応”が起きているだけだ。
「……教えるものか。頼むから、俺から離れろ……」
血が滲むほど唇を噛み締め、彼は掠れた声で拒絶する。
自らの状態を理解しながらも、なお彼女を遠ざけようとするその執着が、ディーネにはひどく歯痒く、苛立たしかった。
「……ほんと、いい加減にしな」
舌打ちと共に手を伸ばし、彼を覆う布地を力任せに引き剥がす。
恥ずかしいけど今はそれどころじゃない。毒の影響範囲を確認するための処置だ。
抵抗する気力すら残っていない彼の身体を露わにすると、ディーネは自らの衣服にも手を掛け、次々と冷たい地面へ放り投げた。
ひんやりとした空気が、素肌を撫でる。
その刺激が、毒による過剰な反応をわずかに観察しやすくする。
「あんたが言わないなら、自分で探り当てるまでさ」
彼に詰め寄り、その間近で反応を確認する。
初めて目にする男の身体に、ディーネは思わず眉をひそめた。
(……これ、普通じゃないよね? リビドリア特有の症状か)
彼女は指先で慎重に触れ、反応の変化を観察するように動かす。
そこには意図も快楽もなく、ただ毒の作用点を探るための試行だけがある。
「っ……ぁ……!」
彼の喉から、抑えきれない反応が漏れる。
それが刺激への反射であることを確認し、ディーネはわずかに目を細めた。
(ちょっと触れただけでこれかい!? でもまだ……)
観察結果を更新するように、指の動きを微調整する。
やがて彼の身体が大きく跳ね、反射的な排出が起きる。
それによって一瞬だけ熱のピークが下がるのを確認し、ディーネは小さく息を吐いた。
だが、症状はまだ終わっていなかった。
「……これじゃ、足りないってのかい……」
額の汗を手の甲で拭う。 一度落ち着いたように見えた熱は、まだ収まる気配がなかった。
自分にできる処置は、もう一つしか残されていなかった。
ディーネはゆっくりと身を起こし、荒い息を繰り返す彼の上にまたがるように腰を下ろしていく。
これは、判断だ。
情でも衝動でもなく、毒の進行を止めるための最終手段。
見下ろす青い瞳には、揺らぎはない。
「……応急処置だよ。文句は後で聞く」




