表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あやかし居酒屋「酔」  作者:
◆・◆ お品書き ◆・◆

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
7/28

お出汁しみしみ味しみおでん 2


「寒っ」


今日はそんな言葉を口にしながら暖簾をくぐるお客さまが多い。

自身の身体を抱きしめるように足を踏み入れ、店内の温かさにほっと表情を緩ませる彼らをいつもの言葉で迎え入れる。


「いらっしゃいませ」


にこやかな笑顔で温かいおしぼりと熱いお茶を差し出した。



やはり人間でなかろうと寒いものは寒いようだ。


一部のあやかしたちは微塵も苦にしてなさそうだが、店内の温かさにほっと表情を寛げている姿に今日のメニューを温かいものにして良かったと唇の端がほのかに上がる。



「寒いですわね。わたくし、寒いのはあまり得意でなくて……」


熱燗(あつかん)を口にした糸織が困り顔でそう零す。


酒精にか、ほんのりと目尻を染める姿がたいへん色っぽい。


お寒いのならその胸元をお閉めになった方が…………そんなことを思った綾はそっと口を閉じた。

あれは閉めないのではない、閉まらないのだ。布地を押しやる二つの塊によって。


思わず自らの慎ましい胸元へ、そっと視線を落とした綾だった。


あれと比べちゃだめよ、私。


ふるふると頭を振る綾の前で、雪音がトマトに(はし)を入れながら首を傾げて水色の美しい髪をさらりと揺らした。

そしてさも不思議そうな顔で言った。


「そぉ?私はこれぐらいなら全然平気」


でしょうね。


店内に無言の声がハモった。


なにせ雪音は雪女なのだ。

そりゃあ寒さにもめっぽう強いだろう。


ガラリと引き戸が開く音が響いた。

それに伴い外気が一瞬店内へと流れ込む。同時に弾んだ声も。


「綾ちゃん!」


聞こえた声とその姿に、綾の顔に笑顔が浮かぶ。


「お帰りなさい。(そう)くんに羅刹さん」


蒼と呼ばれた6つ、7つぐらいの子供がたたたっとカウンターへと駆け寄ってくる。居酒屋には些か相応しくない幼子だが、誰もそれを気にする者は居なかった。

そしてその後に続く偉丈夫(いじょうぶ)の姿。


「ただいま!」と元気よく返し、よじ登るようにして椅子へと腰かけた子供の隣、「ああ」と静かに腰を降ろした男は寡黙に応えた。


彼は鬼の統領にして、綾を保護してくれた大恩人でもある羅刹だ。


鬼といっても、よく節分に見かけるお面のように赤や青の異形の姿ではない。


しっかりとした体躯に、整った相貌(そうぼう)。九十九のような美しさとは違う、やや強面だが(おとこ)らしさを集めたような男性的な魅力に溢れた容姿。

つまりはもの凄く男前な美形である。


ただ一つだけ、その正体を知らしめるのは額に生えた一本の角の存在だった。


そして蒼の頭にも小振りな二本の角が覗いている。


「お腹空いた!」


「外は寒かったでしょう?今日はおでんだよ」


「おでん!?わぁーい!!」


蓋を開けて中が見えるようにしてやれば、蒼が椅子の上に膝立ちになって中身を覗き込む。


「お酒は何にします?」


「冷で」


羅刹に冷酒を差し出したところで、蒼が元気よく手を挙げた。

どうやら食べたいものが決まったようだ。


「ぼく大根とコンニャク、それから卵と牛すじと……それなに?」


「ウィンナーよ。蒼くんの好きなお肉」


「じゃーそれも!」


ことりと器を置けば、ハフハフしながらも食べはじめる。


「おいしい」の言葉に笑みを浮かべつつ羅刹を見た。


「羅刹さんはどうします?一通り全部とりますか?」


「ああ」


頷かれ、綾が取り出したのはどんぶりだ。


ザルという言葉では追いつかないほど酒に強い羅刹だが、体内にどれだけでも取り込めるのは酒だけでなく食物も同じ。


「追加で欲しいのがあったら言ってください」


山盛りのどんぶりを差し出しつつ笑ってそう声をかける。


大量に作ったおでんダネは、無事に全部なくなることだろう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ