抹茶アイスとわらび餅・黒蜜ときな粉をかけて
黒い小皿に抹茶アイスを盛り付ける。
ざらざらとした質感の楕円形のお皿にアイスを真ん丸く盛り付け、その横にわらび餅を数個のせる。そしてきな粉をぱらぱらと振りかけて、黒蜜はたっぷりと。
「お待ちどおさまです」
お盆に乗せた小皿を配れば、女性陣から歓声があがった。
カウンターの向こうへと戻り、綾もお言葉に甘えて自分も頂く。
提供する側ではあるが、客と一緒に食事やお酒を口にすることもままある。
まずはアイスを一口。
濃い緑色からもわかる抹茶の風味が口に広がった。
黒蜜の甘みがまたよくあって、思わず口元が綻んでしまう。
「ん~、美味しい」
同じく雪音たちも顔を綻ばせていた。
「わらび餅もぷるぷるで美味しいです」
「私はきな粉と黒蜜をかけただけなんですけどね」
糸織の褒め言葉に綾は苦笑いを浮かべて呟いた。
自身も匙ですくってわらび餅を口にする。
仄かな甘さと柔らかさがたまらない。いくつでも食べれてしまいそうだ。
「近頃のコンビニスイーツは侮れない……」
ううーむと思わず唸る。
そう、このわらび餅、実はコンビニスイーツなのだ。
アイスはよくある市販品。抹茶の味が濃いお値段高めのお馴染の品です。
そんな手抜きスイーツだが、品質もさることながら一味も二味もかっているのがその器。
和菓子に映える黒い小皿に朱塗りの木匙。
見栄えというのは大きな影響を与えるようで、まるで老舗茶屋の一品のように高級感を演出してくれている。
きな粉と黒蜜もいい仕事してくれてます。
「人間の世界はすごいですわねぇ」
「本当になんでもあるんだから」
おっとり感心する糸織に、雪音が自分のことのように自慢気に頷く。
そんな雪音は和装ではなくスーツ姿だ。
綺麗めスーツを着用しすらりとしたプロポーションで脚を組むその姿は、美人秘書かモデルにしか見えない。
店内のほとんどの客は和装だが、中には雪音のように明らかに異なる服装の者も稀にいる。
あやかしたちの中には空間を渡り、人間の世界に紛れ込んでいる者もいるらしい。
雪音もそんな一人で時々人間界に遊びに行っているそうだ。
そして綾がこの店で扱う食材は人間界のものを使用している。
綾を保護し、衣食住を保証してくれている羅刹が妖術を使い取り寄せてくれているのだ。
なんと、ネットスーパーが使える。
原理はよくわからないが……。
羅刹自身は人間界に興味はなく自身が出向くことはないのだが、そんな彼が興味を持つものがあった。
それは、酒。
鬼だけあって彼は大の酒好きだった。
そしてあらゆる酒を取り寄せていた。
あきらかにこの世界の世界感にそぐわない洋酒までもが揃っていることに疑問を抱いた綾が質問し、判明した事実だった。
そして「じゃあ食材とかも取り寄せられたり?」という綾の我儘に見事に応えてくれた。感謝しかない。
さて、ここで疑問が沸くだろう。
人間界に渡れ、食べ物も取り寄せられるならば、綾は帰れるのでは?という疑問だ。
当然、綾もそう問うた。
だが彼らが異なる世界を渡る通称“異界渡り”を行うのは妖力を使用しており、他者に使うことはない。
そして妖力など持ちえない綾に対し使用した場合、どうなるかは全く不明。最悪時空の狭間で永劫彷徨うことになる。
一方、物資を取り寄せている転移術においては、理屈上では帰還も可能だ。
しかし転移術の最中、その物体がどうなっているかはこれもまた不明。
元々生物を扱うことを前提にしていない術なので、命を持たぬ状態で届く可能性も否定できないとのこと。
なにそれ、コワイ。
とても「試してください!」という気にはなれず、綾は潔く諦めた。
別に今の生活に不満もないし。




