スパイスカレー・彩り野菜の素揚げ添え 2
あまり食欲がないと言っていた雪音だが、スパイスの香りにつられたのか順調にスプーンを進めている。むしろ失恋で今日一日食欲がなかったこともあって、空腹を思い出したのかもしれない。
「ルーだけかと思ったらお肉も入っているのね。すっごいホロホロだわ」
「やっぱり旨みは大切ですから」
すっかり繊維がほぐれた状態のお肉。
後添え野菜を際立たせるためにカレーは具材が蕩けるほど煮込んでほぼルーだけにしか見えない状態だ。それでもじっくり煮込んだ野菜とお肉の旨みがしっかりと溶け込んでいる。
野菜の旨みも大事だが、動物系の食材が入ることによってググっと旨みと満足感が増すと綾は思っている。
満足してくれている様子に思わず口元に笑みが浮かんだ。
作りてとして喜んでもらえるのはなによりのご褒美だ。
ましてやこのカレーは辛いもの好き雪音のために作ったもの。
元々今日は店を訪れると聞いていたし、頑張って煮込んだ甲斐があった。
雪音の破局は残念だが、少しでも彼女が元気を取り戻してくれたのならよかった。
……破局の理由が予想外すぎるけど。
あやかしならではの理由に、思わず乾いた笑いが浮かんだ。
人もあやかしも色々と大変らしい。
「ふん、くだらぬの」
ようやく和んできた場に、そんな言葉を零したのは銀髪の美人だった。
白い着物がよく似あう絶世の美貌を持つ声の主は、美人は美人でもまごうことなく男性だ。
銀髪から覗く二つの耳と、背に揺れるふさふさの尻尾を持つ妖狐で、名を九十九という。
妖狐の一族は美しい姿を持つ者ほど妖力が高く、その所為もあってか九本もの尻尾を持つ彼は……自らの美しさに誇りを持つ、ちょっぴりナルシストな御仁だ。
ご自慢のふさふさ尻尾が場所をとるので、混んでる時は「端にいけ」と追いやられたりする。
「体よく振る理由にされただけではないのか?」
「なんですって~?」
「本気で好いておれば簡単に袖になどされるものか。例えば我のような美しさがあれば、相手は簡単に骨抜きじゃ」
はらりと髪を払いつつ宣う九十九に雪音がいきり立つ。
別に珍しいことではなかった。
雪音と九十九は顔を会わせるとくだらない言い争いをはじめることはよくあるし、じゃれ合う程度のものなら綾も客も特に取り合うこともない。
むしろ「似たモノ同士だよな、コイツら」というのが一同の感想だ。
あと「実は仲良しだろ」というのも。
見た目もクールビューティー同士どことなく似通っている。
ある意味ケンカップルのようだ。
本人たちには禁句だが。
……が、本日の雪音は失恋後の傷心なのだ。
パンパンッと綾は二人を止めるように手を叩いた。
傷ついているときは普段平気なことが堪えたりする。これ以上言い争いを続けさせるつもりはなかった。
腰に手を当てて九十九を見据える。
「九十九さん?雪音さんが泣いてたのを見ましたよね?傷ついてる女性にその言動は美しくないと思いますけど」
「う、美しくない?!」
「ええ、紳士的じゃありません」
ねぇ?と糸織をはじめ女性客へと目をやれば、頷いて援護してくれる皆さん。
ガーン!!と衝撃を受ける九十九は一瞬で黙った。
彼を黙らせるのに「美しくない」の言葉はとっても有効なのです。
「こ、小娘っ!今日は甘味はないのか?」
項垂れた状態から顔を上げた九十九の言葉に「一応ありますけど?」と首を傾げれば「よし」と頷かれた。
「ならば雪女に甘味を。心優しい我が奢ってやろうではないか」
「えー?雪音さんだけぇー?」
「一人だけ贔屓ぃ?それってぇ……」
「え、ええいっ!わかっておるわ!娘、おなご全員に甘味をやるとよい。そなたも食してよいぞ」
甘味で名誉を挽回しようと必死な九十九に周囲の女性客たちがここぞとばかりにブーイングをあげ、それに「これで良いのだろう?!」と全員に甘味を奢ることに。
妖狐一族のトップでもある彼は、あやかしの中でも格上の存在らしいのだが……。
非常にわかりやすく転がされております。
それでいいのか九尾様。
「「「ありがとーございまーす!!」」」
華やいだ声でにっこりお礼を告げる女性陣。
女性はいつだって強かなのです。




