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36 想定外

俺は倒れたままじっとしていた。


いや、正確にはじっとしているように見せている。


俺は考えた。


何でこんな空間遮断なんて回りくどい方法を使っているのか?


空間コントロールで宇宙と繋いで吹っ飛ばせば勝てるはずだ。


でも、それをしない。


理由を二つまでに絞ってみた。


一つは補助的に使っているパターンだ。


これは最悪自分と互角、それ以上なら相手の動きを酸欠で抑制する効果を持つので長期戦で効果を発揮すると考えて使っている。


もう一つは相手を制圧して殺さず勝ちたいパターンだ。


確かに敗者は存在を消される。


だが、相手を負かすのに殺す必要はない。行動不能にすればいい。


となると酸欠で身動きできないようにして、腕の一本でも切り落とせば殺さなくとも相手は戦意喪失すると考えてやっている可能性だ。


俺は後者と思った。


理由は戦い方だ。


焦馬や雫は全てスピリットスキルを駆使した攻撃方法…水の玉だったり炎の柱だったりした。


でも、この空間コントロールを使うヤツは違った。


基本は拳だったり、蹴りだったりと己の肉体を駆使した攻撃だ。


つまり、元々スピリットスキル無しでも腕に自信があり、相手を屈服させて勝ちを得ることに慣れている、と考えるとしっくりくる。


だから俺がこのまま動かなければ、相手は俺の状態を確認に来るはずだ。


そして、そこで俺を気絶させたりしてセロに勝利を認めてもらえば…俺を殺さなくても勝つことができる。


問題解決にはならないが、気持ちとして「殺してない」というのは気分的に大きく違う。


さて、俺の考えは当たっているのか?


俺は相手の出方を待つ。


しかし、相手からの攻撃はない。


もしかして窒息「死」狙い!?それだと俺の狙い大外れなんですけど!?


だが、この作戦を実行した時点で一番やってはいけないのは焦ること。


まるで釣り針に掛かる魚を待つようにじっとしていなくてはならない。


まだ何も起きない。


これは…ミスったか!?


かなり呼吸が苦しくなってきた。


頼むから早く攻撃してくれよ!


そんな俺の願いは…あっさりと叶った。


腹部に蹴られたような衝撃を受けた。


思わず声を上げそうになるが我慢する。


もう一撃、今度は右の手のひらを踏みつけられたような衝撃だ。


手が燃えるように痛い!これは骨が砕けているかもしれない!


それでも堪えて少しだけの動きで終わらせる。


どんだけサディスティックなことすんだよ…。俺はマゾじゃねえんだよ…。


まだ、何かするのか?それとも…。


俺の思考は痛みで中断させられた。


今度は俺の左腕が切り飛ばされた!


瞬く間に俺の血が地面を染めていく。


俺は少しだけ止血するために血管に砂を詰め込み、固まるイメージをする。


少しだけ血の流れが減ったものの、もう限界である。


と思ったとき、相手が俺の目の前に姿を現した。


相手はしゃがみ込んで俺を覗き込むような仕草をする。


やはりそうだ。


コイツ…相手を殺さずに勝とうとしている。


用心深く、俺が戦闘不能になるまで近寄らず、勝利できそうだと踏んだから近寄って確認に来たのだ。


しばらく相手はそのまま俺を見ていたが、急に立ち上がり空に向かって何か言っているような仕草をした。


多分セロに自分の勝ちを認めろと叫んでいるんじゃないだろうか?


だとしたら…大きな勘違いをしたな!


この勝負…俺の勝ちだ!


俺は痛い右手をゆっくりと動かす。


どんな能力を持っていたとしても…勝利を確信した瞬間ってのが…一番油断するんだよ!


俺は少し離れたところに砂の槍を生成する。


それを空間コントロールで転移させ、相手の背後ゼロ距離、外さないように体中心に狙いをつける。


これなら相手にも深手を負わせられる!そこからが勝負だ!


俺が槍を放とうとした瞬間、相手は俺の方を見たかと思うと、再びしゃがんだのだ。


なぜ!?


どうしてしゃがんだんだよ!!


…遅かった。


槍を止められなかった。


砂の槍は…相手の頭に突き刺さった。


相手はゆっくり崩れ落ち、伸ばした手が…あるものに触れていた。


それは…俺がポケットに入れていたはずのシエロの首輪だった。


どういうこと…だ?


首輪があそこにあるのは多分、俺の腕を切断したときに服も切断されたので、その時ポケットから出たのだろう。


もしかして、相手もペットを飼っていた…のか?


だとしたら、同じペットを飼ってる者として何か思うところがあったのかもしれない。


しかもこの首輪は、ご丁寧に名前入りの首輪だ。


外から見たらシエロは可愛がられたと思われるだろう。


どんな攻撃でも、どんな作戦でも落とせなかったのに…シエロの首輪で倒せるとは…何とも皮肉な話だな。


立ち上がろうにも立ち上がれない。


相手も全く動かない。


当然か。


相手を動けなくするために、槍は太めにしていた。


そんなものが頭に突き刺さったんだからな。


まさかシエロが俺を守ってくれたのか?


だとしたら守ってくれたというより「情けないな。俺が手助けしないと勝てないとはな」と皮肉を言うために手を出した感じだな。


「よく勝ち残ったね。おめでとう。空、君が勝者だ」


軽い音の拍手をするセロ。


それを聞き俺の頭に一つの言葉が過った。


そうか…終わったんだ…。


もう、辛い思いをしなくていいんだ…。


何だろう…涙も出なければ、悲しさも感じない。


終わった解放感からなのだろうか?


それとも…もう俺の心は…人として、狂ってしまったのかもしれない。


いや、この状況で自分を冷静に分析している時点で…おかしいよな。


「では、二日後に勝者である君の願いを叶えるとしよう」


セロの言葉で我に返った。


「ったく、この場でさっさと叶えろよ…」


俺はスッと立ち上がりセロを睨む。


いつの間にか失った手が戻り、体力も回復していた。


そして…いつの間にか相手の姿は消えていた…。


「空くん『二日間』、ゆっくりと過ごしてほしい」


そう言い残すとセロはいつも通り、姿を消した。


いろいろ言いたいことはあった。


でもこれで、オーチェとの約束を果たせたんだな。


俺は成し遂げた気分で…思わず笑ってしまった。


そう…嬉しくないのに…笑っていたのだった。





「空、寝てるの?」


香織の声で意識が戻る。


「そうか…戻ってきたのか」


どうやら授業は終わったようで、お昼休みになったばかりのようだ。


「体調悪いの?保健室行く?」


心配そうな香織に「大丈夫だ」と返す。


「お昼、食べれそう?」


そういう香織に俺は「腹減ったから食べる」と答えた。


「本当に大丈夫そうね。今朝渡したお弁当、食べてみてよ♪」


全く記憶になかったが、カバンの中を見るとちゃんと弁当用の保冷バッグが入っていた。


弁当箱を取り出し開ける。


「とんかつ…だな」


「そうだよ。空って案外食べるし、買い食いするときも揚げ物食べてるし…好きかなぁと思って」


とんかつ…。


まさか雫の約束がこんな形で果たされるとは思わなかった。


「ど、どうしたの、空!?」


驚く香織。


その意味が一瞬分からなかったが、頬を伝うものがあるのに気がついた。


俺…泣いているんだ。


「そんなに…嫌だった?」


悲しそうに俺を見てくる香織に俺は涙を拭き答えた。


「…嬉しかったからだよ」


俺の言葉に香織が戸惑う。


「えっ!?涙流すほど嬉しいってこと!?」


「そうなる…かな」


きっと香織には意味が分からないかもしれないが、俺にはそれでも良かった。


そう、すべては終わり、これからは誰も消えない。


香織もここにいる。


俺は役目を果たしたのだ。


果たした…か。


そういえば…あることをふと思い出した。


確か香織に「空がやらなきゃいけないことを終えたら…もう一度告白していい?」と言われてたよな。


こういう場合って…俺から告白した方がいいものなのか?


恋愛ゲームなら、告白できそうになれば、そういう感じの流れが勝手に来るのだろうが…それはないよな。


さすがに昼休みにいきなり告白できる勇気を持ってはいない。


よし、今日帰りに…こ、告白してみよう…かな。


…全てが終わったんだ。


俺が…自分のために生きても…いいよな。


ここから…やり直して…いいんだよな。


誰も答えてくれない問い。


そんな問いに無理やり答えを出すために…香織に告白をする。


そうでもしなければ…俺は過去の重さに潰されてしまいそうだった…。





午前中とは全く違う意味で午後の授業の記憶はなかった。


告白ってどうやればいいんだ!?


以前、公園で香織といい雰囲気になったときは告白できそうな空気だった。


つまり、もう一度あれを再現すればいい…ということなのか?


どうやって再現すればいいんだ?


あの公園に呼び出すか?


いや、帰りは一緒なのにわざわざ帰った後に公園に呼び出すのか?


それもおかしいだろ?


じゃあ帰り道でいきなり告白すればいいのか?


うーん、何となく違う気もする。


それとも急にどこかにデートに誘うか?


いや、どこに誘うんだよ!


そんな告白できそうなデートスポット知らないぞ!


あぁ…どうしたらいいんだ!


アニメや漫画のように都合のいいシチュエーションがいきなり起きたりしないかなぁ。


例えば誰もいない夕陽の綺麗な教室で香織と二人きりとか、帰りに香織からそれとなく告白してくれていいよ的なサイン出してくるとか…。


…俺、さっきまでグラディオスで死闘を繰り広げてきた強者だよな?


どうして告白するのに苦戦するんだよ!


何かいい作戦はないのか!?


ス、スピリットスキルを使う…か?


いや、どうやって使うんだよ!


光のアート?


空間繋げてオーロラでも見せる?


…違う、それは何かちがう。


スピリットスキル、全然役に立たないじゃん…。


俺は必死に考えた。


持てる知識をフル回転して考えた。


ヤバい…。


これは何の策も思いつかず、放課後が来るよ…。






「か、香織さん、一緒に帰ろうか」


ぎこちない俺を見てあっけにとられている香織。


無理もない。


緊張して「さん」付けで呼んでるし、あえて「一緒に帰ろう」なんて言ったことはない。


自然にしようとすればするほど不自然極まりない。


「どうしたの、空?」


疑問に思うのは当然か。


俺をよく知る幼馴染なら、俺の不自然な行動は見たらすぐに分かるよな。


「い、いや、別に。一緒にか、帰ろうと思って」


大丈夫。


一度いい雰囲気になったことがある間なんだ。


今度も大丈夫だ。


大きく深呼吸をする。


吸って…吐いて…。


もう一度、吸って…吐く。


「…何やってるの?」


「し、深呼吸だよ」


…何だよ、この会話は。


いつものように普通に話せばいい、それだけじゃないか。


思えば思うほど緊張は高まる。


「か、帰ろうか」


「それ、さっきも言ったよ」


くすくすと笑いだす香織。


そ、そんなにおかしいの、俺って…。


うん、おかしいよな。


「何かあるの?今日一日ずっと変だよ、空」


香織は笑うのをやめ、少し心配そうに見てきた。


「い、いや、大丈夫。もう大丈夫」


「ホントに大丈夫?」


どうしよう、真面目に心配されている。


そうだよな。


最近の俺を見ていれば心配もされるか。


夜、公園でへこんでいたり、いきなり夜中メッセージ送りまくったり、今朝は今朝で心ここにあらずだし、午後は変にハイテンションだったろうし…。


情緒不安定に見えるよな…。


「そうだ、気分転換にどこか寄って帰る?」


香織の思わぬ提案に俺は迷うことなく「うん」と返事を返した。


で、どこに行くのだろうか?


俺は香織の後を追うように学校を後にした。





香織が連れてきたのは大きな本屋さんであった。


ここは帰り道から少し逸れるのだが、俺もたまに帰りに寄る。


ネットで買うのもいいのだが、実物を見たり、自分の知らない本にも出合えるのが好きで、たまに来るのだ。


例のオーチェ似の女性のグラビアを買ったのもここだったりする。


「空ってどこか旅行してみたいとか思ったことはないの?」


唐突な質問に俺は考えた。


インドア派の俺は旅行なんて考えたことはなかった。


たまに行く家族旅行…まあ、近場の温泉やら観光地やら程度には行くのだが、自ら行ってみたい場所は特になかった。


「ごめん、特にないかな」


素直に答える。


すると香織は旅行雑誌のコーナーで立ち止まり、ある雑誌を手に取り、俺に見せてきた。


「私はここに行ってみたいと思ってるんだ」


その雑誌には大きく「スペイン」と書かれていた。


そういえば以前、香織は海外に行ってみたいとは言っていた気がする。


その時も確かスペインで…。


スペインで…。


「あのね、私、スペインの…」


(私、スペインのサクラダファミリア、行ってみたの)


頭の中で声が聞こえた。


香織の声…とは少し違う。


ただ「少し」違うだけで、それはなぜか香織の言葉に思えた。


「サクラダファミリア…か?」


俺の言葉に香織はきょとんとしていた。


「あれ、話したっけ?私、サクラダファミリア行きたいって」


いや、そんな話、初めて…聞いた…はず。


(思いを継ぎ、みんなで協力して完成を目指すって素敵じゃない?)


「そう、サクラダファミリア見たいのよ。あれって」


「思いを継ぎ…みんなで協力して完成を目指す…」


俺は独り言のようにつぶやいた。


「…それも話したっけ?」


香織は少し恥ずかしそうに愛想笑いをした。


いや、そんなこと話してくれてない。


じゃあ…今の声は…何だったんだ?


(あなたと二人で…行っちゃおうかな)


再び聞こえる声。


誰の声…なんだ?


香織…じゃない…はずなのに…。


「あ…うん。なんかごめんね。私だけ盛り上がったようになっちゃって」


気まずそうに謝る香織に俺は「そんなことはないよ」と慌てて否定した。


「そのうち、行こうか」


思わず言った言葉に香織が「へっ!?」と変な声を出した。


俺、何かまずいことでも言ったかな?


少し考えてみる。


そのうち行こうか…。


香織と…二人で…旅行!?


意味が分かると俺は顔が熱くなってしまった。


「そ、空、一緒に行ってくれる…の?」


思わず降ってきた告白タイミング。


心の準備が出来てない俺は「か、考えておくよ」と答える。


そこはそんなセリフじゃないだろ、俺!!!!


今の、どう見ても告白チャンスだろ!!!


バカだよ…俺って本当にバカだよ…。


しかし、俺の落胆とは逆に嬉しそうな香織。


「か、考えておいてね!」


満面の笑みで俺に返す。


これは…良かったの…か?


女心は本当に分からない。


女心を読めるスピリットスキルってのないのかなぁ…。


あるなら今すぐ欲しいんですけど…。


それにしても…あの声は何だったのだろうか?


香織じゃない…はずなのに、香織の思っていることと同じだった。


以前聞いたことがあって、香織も忘れていて…俺が何となく覚えていた…のか?


俺は不安を抱えたまま、香織と本屋を後にした。


それにしてもあの声は…一体何だったのだろうか?


気にはなったが…それよりも、だ。


俺…本当に告白なんてできるのかな…。


もう、自信なくなってきたよ…。


これって実は…グラディオスより大変なのかもしれない。


グラディオスすら修行して挑んだんだ。


告白だって…。


誰か…告白の修行方法を教えてくれ…。

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