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33 思い出

俺は今、何を見ているのだろうか?


いや、見せられているのだろうか?


一言で言えば、公園で幼い子がケンカをしている。


生意気そうな悪ガキ三人組と華奢な顔立ちの整った男の子。


その傍に女の子が泣いていた。


悪ガキたちの一人が不似合いなうさぎの人形を持っていた。


何となく察しはつく。


多分あの人形は女の子のもので、悪ガキが取り上げて、華奢な男の子が女の子のために取り返そうと…している?


ん?何となく覚えがある感じだが…。


そんな俺の思考とは関係なく繰り広げられるケンカ。


一方的な展開であった。


華奢な男の子はやられたい放題。


誰が見ても悪ガキ三人組の圧勝と思えた。


そりゃあ当然だよな。多勢に無勢だ。


しかし、華奢な男の子は奇策に出た。


急に背を向け走り、悪ガキたちと距離を取るとジャングルジムに逃げ込んだのだ。


すぐに三人組が追いかけるが、華奢な男の子は三人組が入っているのを確認すると、スルッとジャングルジムを抜け出す。


その行動に慌てて戻ろうとする三人組のうち二人の尻に華奢な男の子は蹴りを入れた。


二人はジャングルジムのパイプで頭を打つと痛みと驚きで泣き出した。


思わず俺は「おぉ、やるじゃん」と声に出す。


いきなり二人やられたことに驚いたのか、無傷の悪ガキは手に持っていた人形を投げ捨てて叫ぶ。


「こんな人形いらねぇよ!」


捨て台詞と共に三人の悪ガキどもは去って行った。


子供とは思えないほど頭がいいな。


感心していると華奢な男の子は人形を拾い上げると申し訳なさそうに女の子に手渡した。


「ごめん、汚れちゃった…」


女の子は必死に涙を手で拭い小さく「ありがと…」と言った。


実に微笑ましい展開だ。これで女の子は男の子に恋心を…。


「空こそ…大丈夫?」


思わず「えっ!?」と声が出る。


結構大きな声だったが、子供たちには聞こえていない。


「…あの男の子…俺…なのか?」


違う!俺はあんな顔じゃない!


幼い時の写真は見たことがあるが、あんなに整った顔立ちではない!


てことは相手の女の子は香織…なのか?


いや、香織って幼い頃から整った、将来美人になりそうな顔だった…気がする。


しかし、この女の子はそんなことはない。普通の顔立ちで…香織に似てない…よな?


でも…この話って雫のサポーターだったカエルが話してくれた内容と同じ…というか俺の記憶が違うのか?


俺が負けて謝って人形を返してもらった記憶があるのだが…。


俺の困惑とは関係なく、二人は手を繋いでその場を去って行った。


取り残された俺は…どうすればいいんだよ…。


「こんなものまで見るようになったのか…」


聞き覚えのある声がしたので振り返る。


「心の…友」


「どうやら…君は空間コントロールを使えない…いや、使いたくないんだね」


目の前の子供たちのことで混乱している俺に更なる混乱を重ねてくるのはやめてくれ!


俺が空間コントロールを使いたくないだって!?


違う!使いたいんだ!


そうしないと負けるじゃないか!


「いいや、君は空間コントロールを使うことを本能的に拒んでいるんだ」


相変わらず俺の心を読んでくるな。それだけで嫌な気分になる。


だが、顔のない心の友から表情を読み取ることはできないが、声はとても悲しそうだった。


「このままだと君は死んでしまう。だが、君はまた…時間を戻してしまうんだろうね」


どういうことだ?「戻す」じゃなく「戻してしまう?」なのか?


それじゃあまるで俺が無意識で時間を戻してる…ってか、今までもそうか。


意識して時間を戻せるなら…ここまで苦労しなかったしな。


「そう。無意識なんだよ。それも…絶対に勝つためにやっていることなんだ」


「絶対に勝つって…まあ、知らずに戦うよりは知って戦う方が勝率は…」


「そういうことではないんだがね…」


どういうことだ?


勝つまでコンティニューできるゲームのようなものってことじゃないのか!?


「ゲームか。もしかしたらそうなのかもしれないね。いや、そうだったらいいんだけどね…」


「そうだな。これはゲーム…じゃないよな」


焦馬を消し、雫も消したこの世界をゲームと言うことは俺にはできない。


もし、これをゲームとか思い始めたら…俺は相当サイコパスだよ。


「そこではないんだけどね。ただ、理由はどうであれ、空くんはまた戻ることになる」


また戻るのか。


また…戻る…のか。


気が重い。


心の友はそんな俺にさらに言葉を重ねる。


「早く勝たないと…時間がないよ」


随分とおかしなことを言うヤツだ。


過去に戻るのに時間がない?


むしろ時間が増えたように思えるんだけど…。


「詳しくは言えないけど、相手を倒そうと思わない限り、空くんはこの時間を何度も繰り返すだけだよ」


言いたいことだけ言うと心の友は消えていった。


「ホント、アイツは何者なんだよ…」


それにしても「繰り返す」か。


そういえば焦馬の時も戻ったし、シエロの時も戻った。


あれは戻ったあと、上手く行ったから繰り返しにならなかった、と考えるべきなのか?


となると、心の友の言うことも筋が通るのか。


でも、それって知ってる知識で当てはめるなら、ゲームの主人公だったりするんだよな。


ただ…主人公ならあまりにも酷い話の主人公だ。


焦馬や雫を消して生き残って…今度はもしかしたら…香織を消すことになるかもしれない。


仮に俺のやっていることに物語性があるとしたら…。


俺は何をさせられているのだろうか?


そういえばどこかの偉人が「事実というものは存在しない、存在するのは解釈だけ」とか言ってたけど…俺が勝手にいろいろ思っているだけ…なのか?


ん?俺、そんな言葉どこで知ったんだっけ?


偉人の言葉で知ってるとしたら…「撃っていいのは撃たれる覚悟のある奴だけ」とか「落ちこぼれだって必死に努力すりゃエリートを超えることもあるかもよ」とか…いや、これはアニメか。偉人とは違うか…。


そう、そうだよな。


偉人の言葉思い出すよりアニメの名言思い出すのが俺…だよな?


いやいや、悩むとこはそこじゃない。


グラディオスも決勝まで来たのに…分からないことが多すぎる。


なぜ俺が選ばれたのか。


どうして身近な者ばかりが敵なのか。


俺の能力がどうして多いのか。


そして増えていくのか。


やり直し機能…時間のコントロールなんて規格外の力を持っているのか。


でもなぜ、俺は時間を意識してコントロールできないのか。


自分だけのことじゃない。


なぜセロは敗者の存在を消すのか。


なぜあんなにオーチェは使命感を持って…いや、俺のために?使命を果たそうとしているのか。


本当にセロを殺せばこの世界は消えるのか。


そもそも本当にセロは暇つぶしでこのグラディオスを開催したのか。


問題は尽きない。


むしろ増える一方だ。


これって俺が優勝して全ての問題解決!とはいかないんだろうな。


無事全て終わったとして…問題放置で日常に戻れるのだろうか。


だめだ!考えれば考えるほど深みにはまってくる気がする…。


まずは、目の前の相手を何とかしなきゃならないっていう難問をクリアしなきゃならないんだよな…。






気がつくと俺は見覚えのあるところにいた。


四角のモザイクのようなものに包まれている、人らしきものがいる。


相手はやる気満々のようで、右足を前に出し、腰を落とし右手を前に軽く出し、いわゆる戦うための「構え」を取っている。


「こんな所に戻るのかよ…。どうせなら…シエロが命を落とす前にして欲しかったな」


自分でコントロールできないこのやり直し機能が、少しもどかしい。


もし、シエロが生きているところに戻れたのなら…俺はもっと真剣に空間コントロールを覚醒させるために修行をするよ。


「この戦いに勝利した者は私が勝者の願いを叶えよう」


そういえばこのセリフの後に始まるんだよな、戦いが。


「では、最後の戦いを始めよ」


相手の初手は上段蹴りだ!


俺は相手の動きに合わせてしゃがむ。


俺の頭の上で空を切る音がした。実に恐ろしい。


今の行動が予想外だったのか相手の動きが止まった。


今回は目に見えるランデルーズではなく風の刃を精製した。


「フィロディビエント!」


相手に向かって風の刃が飛んでいく。これならランデルーズのように光が一瞬でも見えて対応される心配はないはず…。


そんな俺の期待はあっさり裏切られた。


フィロディビエントは相手に届く前にランデルーズの時のようにいきなり俺に向かって飛んできた!


「ウソだろ!」


咄嗟に風の刃を避けると再びフィロディビエントを放とうと構える。


「ゲホッ!」


腹に重い一撃が入った。


どうして…見えない風が…分かるんだ!?


直感にしてはおかしい。精密すぎる。


となると…見えている?


もしくは感じることができる?


よく考えれば、光なんて反応して回避できるものじゃないし、風も近くに来なくては分からないはずだ。


それを正確に俺に向けて反射させている。


この謎が解明できないと…俺の攻撃は当たらないってことか。


もしかして以前シエロの言っていた「無意識レベル」でコントロールしているってやつなのか?


シエロも俺のランデルーズを防いだ。


あれと同じ理屈なのか?


そうだとしたら相手は相当スピリットスキルのレベルが高いってことになるんじゃないか!?


相手が見えているのに当てられないのはもどかしい。


その上、相手は攻撃し放題。


時間を戻したところで話にならない。


それに俺の空間コントロールは発動する気配すらない。


まるで竹やりで戦闘機を落とすような気分だ。


空間コントロール…最強すぎるだろ。


「その上、過去に戻ってきても行動を変えれば未来が変わるってことか。悔しいけど…シエロの歯がゆさ、少し分かっただけのような気がする…」


知っている未来と変わること…自分の知識の無意味さと、何のために戻って来たのかという喪失感は思った以上に俺の精神を苦しめている。


「こうなれば何度でもやってやる!」


俺はランデルーズを撃てるだけ撃ちまくった。


下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる作戦しかできない自分を恨みながら…。





何度、殺されただろうか?


十回以降は数えていない。


様々な推測を立て、試すも当たらない。


まるで証明できてない自然現象を探り当てようとしている科学者の気分だ。


何よりも、これだけ戦っているのに…空間コントロールが全く使えない。


イメージしようが、追い込もうが、精神を集中させようが他のスキルのように発動しない。


唯一の救いは、以前オーチェが言っていた時間の戻し過ぎで起きると言っていた精神崩壊が起きてないということぐらいだ。


シエロが…命懸けで与えてくれたスキルが…どうして…。


悔しさで泣きそうになるが立ち上がり、顔を上げて相手を見た。


しかし、次の瞬間。


今度は首が飛んだ…。


俺の視界に首のない俺の体が映る。


首のあったところから勢いよく血が噴き出している。


あれって本当に俺の体なのか?と今でも疑っているが、それは現実逃避だろう。


そう言えばゲームかマンガかで言ってたなぁ。


人は首を切られても、しばらくは意識があり、目が見え、話すこともある…と。


俺は…コイツに…勝てないのかもしれない…。


コイツは…段違いに強い…。


運なんて要素で勝ってきた俺とは違い…基本的な能力が高いってことなんだろうな。


ごめん、シエロ…。


俺はお前の期待に応えることはできないようだ…。


ごめん、焦馬…。


お前の魂を引き継いだのに…ここで終わりそうだ…。


ごめん、香織…。


お前に告白する約束…守れそうにないみたいだ…。


ごめん、オーチェ…。


どうやら俺には…この戦いは荷が重すぎたみたいだ…。


俺はきっとこうやって何度も何度も殺されては戻される無間地獄から出られずに…人生が終わるんだろうなぁ…。


少しずつ暗転していく世界。


もう何度も見た風景。


もう見たくない風景。


この繰り返しは…いつ終わるんだ?


俺は何度繰り返せば…このループから抜けられるのだろうか?


何度目か分からない意識の消失の中、感じられるのは絶望だけ。


頼む…もう…この無間地獄から…どんな形でもいい。


誰か救い出してくれ…。


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