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27 殺し合い

右足の負傷のため、みじめに這いつくばりながら、それでも必死に光の槍を防ぐ。


光の攻撃は、俺がコントロールすれば目の前まで来れば消せる。


だが、シエロが発生させた直後の槍は消せない。


そんなに離れていないのに、俺の光のコントロールはシエロの光のコントロールを凌駕していないということか。


数発の光の槍を放った後、シエロも俺にその攻撃が通じないと理解したのか後ろに飛び退き間合いを広げた。


「曲がりなりにも生き残ってきたわけではない、ということか。まあ、光のコントロールができる者同士が戦えばこんなものか」


まるでRPGのラスボスのように悠然とした態度で冷静に分析をするシエロに対して、俺はすでに満身創痍。


完全に初手でミスった。


これがもし、油断せず最初の二発の光の槍に対処できていたら互角だったかもしれない。


と、ここでたられば考えてる場合じゃない。打開策考えなきゃ…殺される!


「じゃあこれはどうだ?」


深い呼吸の後、殺気の満ちた眼差しで俺を見る。


再び周囲に緊迫感が戻った。


次の瞬間、俺は何が起きたか理解できなかった。


光の槍が…後ろから俺の右頬をかすめ消えていった!?


「やはり久々だから脳天に直撃はできなかったか」


ゆっくりと先ほどの光の槍で付けられた傷を手で触る。


大きな傷ではないが、火傷みたいにヒリヒリしている。血は出ていない。


今の攻撃で…改めて恐怖が襲ってきた。


今、少し頭の位置がズレていれば…死んでいた。


シエロは本当に…俺を殺そうとしている。


その現実を受け止めるには心が動揺しすぎて理解が追いつかない。


俺は心のどこかで「修行だから本当に殺すようなことはない」と思っていた。


本気…なんだ。


本気で俺を殺そうとしているんだ…。


何より先ほどと違い、背後からの光の槍。


明らかに死角から急所を狙い確実に仕留めようとしている。


ん…ちょっと待て。


今の攻撃、背後から…来たよな?


光の槍を俺の後ろに作り出したのか?


またそんな攻撃されたら…次は運だけで回避できるかわからない。


不意に体勢が崩れた。


ちょっと血を流しすぎたせいか、体がふらついてしまった。


その眼前を一筋の光が横切る。


光の進んだ先を見てみると…光の槍が地面に墓標のように突き立っていた。


「これも避けるとは…少し驚きだ」


また、死角からの光の槍。


こんなのどうやって防げばいいんだよ!


どこから出てくるかわからない攻撃を予測なんてできるわけない!


いや、落ち着け、俺。


少なくともスピリットスキルを使っての攻撃なのだから、まずはどうやってこの攻撃をしてるかを見極めなくては。


見えていれば光の槍は俺も光のコントロールで消滅させられる。


ただ、問題は光の槍を俺の死角から放ってくる点だ。


それはシエロが鍛錬によって身につけたものなのか?


それはちょっと無理があるだろう。


今までの特性から考えると、スピリットスキルでの攻撃は本人の周辺から発動して攻撃を開始する。


となると、光のコントロールだけでこの攻撃をするのは無理じゃないか?


それとも例外パターンが存在する?


覚醒するとか、まだ知らない強化方法があるのか?


情報が少ない上に俺は手負い。


このままだと…殺される!


俺は咄嗟に風を起こす。


その起こした風で目を顰めたシエロを確認して俺はとりあえず朽ちた機械の陰に逃げた。


…どうする?


ここで考えるべきことは3つ。


一つ、シエロはどういうスキルを使って攻撃してきたか?


二つ、この不利な状況で攻撃に転じられるか?


三つ、俺の体力、気力は後どれくらい持ち堪えられるか?


である。


三つ目に関してはあまり長くないだろう。


さて、どうするかな。


血は流れている。


足は死ぬほど痛い。


呼吸も落ち着かない。


もう…時間がない。


となると、一つ目と二つ目、どちらかの問題を解決しなくてはならない。


二つ目は一つ目のシエロのスキルを分析しなくては、こちらの攻撃も無駄になる。


結果、シエロのあの攻撃をなんとかして防ぐ手段を見つけるしかないわけか…。


「待っていてもヒントは掴めそうにないな。それなら」


俺は炎の球を作り、自分が見やすい場所であり、シエロの視界に入るところへと投げた。


すると、その炎はどこから現れたのか分からない方向から光の槍が貫通して地面に突き刺さった。


「くそ…ホラー映画で命狙われてる主人公みたいじゃねぇか!」


得体の知れない攻撃に俺は何も策が思いつかない。


思い切って光でシールド作りつつ特攻…いや、この足では遅いから的になるだけだ。


風でまた目潰しでもするか?


それとも炎の壁を…。


どちらにしてもこの足では、まともな作戦は思いつかない。


シエロまでは十メートル弱。


物陰に隠れているからシエロがその場所から動いているのかどうかは確認できないので定かではないが、動いてないならそんなものか。


それにしてもおかしい。


俺の位置の推測なんかシエロにならできるだろうに、先ほどの炎の球以降の攻撃が来ない。


まあ、何度も使えば対策もとれると思われている可能性はあるが、攻め込んでこないのは不可解である。


ここまで手負いの俺に警戒する理由もないだろうに。


それとも、攻撃できない理由でもあるのか?


俺はチラリと機械の端からシエロのいた所を見る。


シエロは…動いていなかった。


おかしい。


何で全く動いていないんだ?


あれだけ攻撃してたのに…なぜだ?


さっきの炎の球は攻撃した。


でも、隠れている俺を攻撃しない。


ならば…。


俺は自分のいる所から放物線を描くようにシエロに炎の球を投げてみた。


すると炎の球は放物線の頂点で光の槍数本に串刺しにされ、地面に落ちて消えた。


もしかして…あの不思議な攻撃は


・動きながらできない


・標的を目視しなくてはならない


という可能性が出てきた。


もしかしたら俺をそう思わせて動くのを躊躇させ、出血による行動不能を狙っている可能性も否定はできないが、こんなにダメージを負った俺に小細工する意味がない。


むしろ、さっさとトドメを刺せば終わる話である。


「んじゃ…割の悪い博打でもするか」


俺は覚悟を決め、着ていたTシャツを脱ぎ、足を縛り止血する。これで少しは動ける。


いや、動かせる、が正解かな。


俺は三つの炎の球を作り出し上、左右と同時に放った。


一つの時より遅れはあったものの、上、左、右と一つずつ光の槍で串刺しにされ消えていく。


まさか…。


シエロは俺の炎の球を「一つずつ」しか消せていない。


最後の右の炎の球を消した…その瞬間。


俺はシエロの眼前に飛び込んだ。


見たことのない驚愕の表情が、シエロに走る!


「くらえクソ猫!」


俺のランデルーズがシエロを貫いた!


さすがに不意打ちなので俺の攻撃を消すことはできなかったようだ。


「なっ…」


何かを言おうとするシエロに追い打ちのボラデルーズをお見舞いする。


シエロは転がりながら必死に避けているが、ボラデルーズの炎で四肢に火傷を負っていた。


そして、俺は倒れ、シエロも動かなくなった。


相打ち…か。


俺の作戦…それはこうだった。


炎の球をおとりにして、俺をフラージュオプティで隠す。


次に風をコントロールして自らをぶっ飛ばしてシエロに近付き、至近距離から攻撃を当てる。


これは俺の仮説の目標を視認しなくてはならないが当たった結果、成功した作戦だ。


もし、シエロが俺を誘い出すために演技をしていたら俺が負けていた。


「でさ…死にかけてる俺たち…この後…どうすればいいんだよ…」


勝負には勝った。


でも風で飛んだ俺は、負傷している体で着地などまともにできるわけがない。


きっと何か所か骨、折れたなぁ。


これで最後の戦い…挑むなんて…もう無理だよなぁ。


俺はここで終わりか…。


まさか最後はシエロと相打ち…とか…。


ほんと…三流…ゲームの…バッド…エンド…だな。


俺の意識はゆっくりと遠のいていく。


人生って呆気ないもんだなぁ…。





辺りは暗闇に包まれていた。


だが、それでも俺は焦らなかった。


この感触は…布団である。しかも俺のベッドだ。


側にあるスマホを手に取り時間を見る。


「二十三時…か」


…最悪の夢を見た。


シエロと殺し合う夢である。


夢…。


あの廃工場でもないし、俺の体には傷はない。痛みもない。


自分の部屋のベッドで悪夢から覚めたのだ。


さて、今日は…。


ん?


いや、待て。


…どこまでが夢…だったんだ?


俺は再びスマホを見る。


今は…五月二十三日…日曜日!?


俺は今まで夢を見ていたのか?


セロが現れたこと、オーチェとのキス、香織とのやりとり、カエルに殺されかけたこと、シエロとの殺し合い…全て夢…でいいんだよ…な?


にしても…リアルな夢だったな。シエロと殺し合いとはね。


まあ、憎たらしいけど殺し合いをしようとはさすがに思わないけどさ…。


オーチェとキスするなんて…欲求不満なのかな、俺。


「うーん。ちょっとオーチェとのキスは…嬉しいような残念なような…」


「そうしなければお前は止まらないと思ったからそうしたまでだ」


声の主はいつの間にか俺の学習机の椅子に座っていた。


暗い部屋でも月明りでほのかに光るオーチェの体が余計に美しい体のラインを引き立て…俺を残念な気分にさせる。


ん?


いや、ちょっと待て!?


今の会話おかしくないか!?


オーチェとのキスって夢の中であり、夢の中だとしてもこの後起きること…じゃないのか!?


今のオーチェがそれを知っているって…どういうことだ!?


「そう驚くな。順を追って説明していく」


そう言うとオーチェはすっと俺の横に座る。


体を起こした俺に触れそうな距離。


ヤバイ。ドキドキしてきた…。


「結論から言えばお前は時間を戻したのだ」


結論とは聞けば意味が理解できるものであるはずだ。


だが、結論に対して俺の答えは「は?」であった。


「俺が?時間を戻した?俺が?時間を?はい?」


「そうだ。お前がこの時間に戻したのだ」


落ち着け、俺。


今オーチェの言っている言葉を整理してみよう。


俺が時間を戻した。


つまり、俺が…覚えてないが、時間を戻した、ということか。


「お前は無意識に自分の命を守るためにここに戻って来たのだ」


無意識に戻ってきた?


それだとおかしくないか?


俺の怪我は?


どうしてオーチェは俺が時を遡り戻って来たことを知っているんだ?


時間コントロールってセロしか使えないんじゃないのか?


疑問が一気に溢れ出てくる。


「落ち着け。言ったはずだ、順を追って説明する、と」


「あのさ、オーチェ。この状況で落ち着くことなんてできるわけないだろ!時間が戻った?は?SFなの、この世界?じゃあ何?過去の俺はどこだよ!?それとも俺が戻ってきたことによってこの俺が消えたの?それとも俺がいない世界になったの?それに何でオーチェは俺の未来の体験を知ってるわけ!?は?おかしいだろ、それ!じゃあ何か?オーチェは不思議な力で知っちゃいました、とかいう適当なオチ!?冗談だろ!?俺の未来はどうなるんだよ!これからどうすれば」


不安と怒りと自分の処理できない感情任せにオーチェに顔を近付けた俺は学習をしない人間かもしれない。


その近付けた顔に合わせて、オーチェはまたもや俺の唇を奪ったのであった…。


固まる俺。


きっと一秒くらいなのだろうが、俺には一時間くらいに感じられた。


「やはりこれがお前を大人しくさせるには良い方法らしいな」


…キスって人を黙らせるための手段なの!?


いや、確かにさっきまで溢れ出していた疑問は沈静化できたよ。


でも…なんか違わない?


キスって…そういうものじゃなくない?


いくらオーチェでも…何度もされると…その…嫌じゃないんだけど…ねぇ。


「まだ落ち着いていないようだが…」


「いえ、落ち着きました!もうダイジョブです、ハイ!」


何か最後は動揺が隠せてない言い方だったが、オーチェは「それならいい」と言ってくれたのでキスされずに済んだ。


あんなの何度もされたら俺…オーチェに恋してしまうかもしれない。


これじゃあまるで天使のキスではなく悪魔の誘惑みたいだよ。


「詳しく話すにあたって、約束をして欲しいことがある」


「約束?」


今までのオーチェの行動からすると俺が躊躇するような約束をさせることはないと思い俺は頷いた。


「難しい事ではない。質問はしないで欲しい。答えようとすればセロに止められる可能性がある」


無難な約束だ。それは同意できるので、俺は再び頷く。


「それともう一つ」


このパターンだと、アニメなんかでは無理難題が言われるのだろうが、まさかそんな「お約束」はさすがにないだろう。


「次こそシエロを仕留めてほしい」


お約束は実在したようである。


「シエロを…仕留める…とは?」


聞き返すまでもないことを聞き返す。


だが、俺の想像していることと違う意味の場合もある。


大事な確認…のはずだ。


要はシエロを倒すくらい強くなれって意味で…。


「…殺してくれ、という意味だ」


俺の想像との誤差は全くなかった。俺は…頷けなかった。


「理由は…説明してくれる…のか?」


俺の問いにオーチェは答えなかった。早速質問しないという約束を破った俺に対して不満を持ったのだろうか?


「質問するなという約束だったが、それくらいは答えよう」


どうやら気分を害したわけではないようでホッとした。


今オーチェが万が一気分を損ねた場合、最悪、オーチェは何も話してくれず、俺はこの状況下でどうすればいいか分からなくなってしまうだろう。


次からは気をつけなくては。


「殺せばわかる。それだけだ」


オーチェは答えたはくれた。


答えてくれたが…それは俺が求めた答えとは程遠いものであった。


「では、順序立てて説明を始めるとしよう」


この時の俺は、状況を把握をするのに必死にだった。


だが、それが無意味だったことを、この後、思い知ることになる。


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