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26 消えた未来

「結論から言えば…俺の知る未来では、お前は次の戦いで死ぬことになっている」


思わず「えっ!?」と聞き返す俺。


いきなりの爆弾発言。


思わずシエロを見つめ固まってしまう。


「次の相手の空間コントロールで首をはねられて死ぬんだ」


聞こえていなかったのか?と言わんばかりに、シエロは丁寧に同じことを繰り返した。


俺は絶句する。


自分が死ぬことなんて…。


いや、今までの戦いで死にかけたはずなのに…俺は一度も想像したことはなかった。


死ぬかもしれない、と想像するのと、自分の死ぬところを想像するのは似ているが…まるで違う。


自分が首をはねられて死ぬ。


具体的な死に方を言われて頭の中で想像する。


自分の胴体から落ちていく首。


どんな景色が見えるのだろうか?


昔ギロチンで処刑された者は数秒は意識があったというのを聞いたことがある。


その時、未来の俺は何を考えていたのだろうか?


「そう深刻になるな」


シエロの励ましの言葉はまるで意味を成さない。重い気分は俺を支配したままだ。


「ここからもっと絶望的になる。今からそんなんだと、話し終わるころには死ぬぞ」


やはりシエロはシエロだ。


傷口に塩どころか酢や泥水を塗ってくれる。


「未来のお前は…空間コントロール『カオス』が使えていた。それでも死んだ」


「俺が…空間コントロールを?」


「あぁ。使えるようになったのは…雫との戦いの時だ。覚醒したんだよ、お前は」


覚醒…。


今の俺は覚醒なんてしていない。空間コントロールなんて使えない。


「空間コントロールが使える者同士、白熱した戦いをしていたんだが…何かに気が付いたお前は油断をした。その一瞬を突かれ…負けたんだ」


「一体何に気が付いたんだよ?」


知りたい。


俺は何に気が付き油断したんだ?


まさか…相手が誰なのかが分かった…とか?


もしかしたら…香織…だったとか?


「相手の正体が誰なのか…気が付いてしまったんだ」


嫌な予感は当たった。


やはり…今までの流れから考えると香織…なのだろうか?


「誰なんだよ、相手って…」


ま、まあ今は違う未来になってるわけだし、誰が相手だったとしても問題は無いはずだ。


「波野香織だ」


嬉しくない当たりであった。


だが、こうしてシエロが話せるということは俺が戦う相手は香織ではない…ということでいいんだよ…な?


「あれは化け物だ。格闘能力を生かしたあらゆる角度からの拳や、空間を歪めて動きを止めるタイミング、相性が良すぎるスピリットスキルだった」


想像したくないがきっと今までと比ではない強さだろう。


焦馬にしても雫にしても格闘経験はない。戦いにおいては素人だ。


だが、香織は違う。


試合とはいえ、実戦経験は俺なんかより圧倒的にある。


なんせ親父さんからの英才教育で物心ついた頃から拳の握り方を仕込まれたらしいからなぁ。


大会優勝の常連であり、女子相手では物足りないと男子相手に稽古する格闘漫画の主人公そのままのような生き方をしている。


そんな香織相手に勝てるビジョンが全く浮かばない。


どこかの名探偵の幼馴染の女子高生とも、本気でやり合えそうなんだよなぁ。


「そんな相手…こちらに余裕なんて皆無の状態な上に…相手が香織と気が付けば…勝てる要素は消え失せて当然だ」


「一体何に気がついたんだよ?」


素朴な疑問である。


今までも焦馬や雫については気が付きもしなかったことなのに、なぜ香織については分かったのだろうか?


「前日、お前は香織から戦いについての心得を聞くことにしたんだ」


「戦いについての心得?」


「そうだ。素人が闇雲に戦っても運でしか勝てない。だが、ある程度戦闘経験のある者には自分なりのやり方が…型がある。それを聞いたんだ」


「聞くだけで分かるのか、香織かどうかが?」


今の俺にはさっぱり分からない。


例えば胸触るとか、見覚えのあるパンツが見えたとかなら分からなくはないけどさ。


「香織は『視、攻、間』が大事と言ってた」


「し、こう、ま?」


何とも達人が言いそうな言葉ではあるが、さっぱり理解できないのが俺である。


序破Qとか悪即斬くらいの三文字熟語はわかるのだが…いや、ちょい違うか。


「香織はな『相手を【視て】自らの【攻め】を組み立て、己の【間】で試合をする』と言ってた」


「それだけで香織って分かるもんなのか?」


俺は武道の達人ではない。そんなの見て分かる訳がない。


「戦い方で疑問に思い、決定打が目に入ったから…お前は足を止めた。止めてしまったんだ」


「止めてしまった?」


肉薄した戦いをしているのに足を止めるのは自殺行為。なのになぜ俺は足を止めたんだ?


「戦っている最中、相手の本当の姿は見えないが、相手から離れたものは…無機質のものは普通に見えるようになるんだよ」


「つまり、香織は何かを落とした…ということか?」


「そういうことだ」


それは知らなかった。確かに今までの戦いで、そんなものあったとしても気が付けるほど余裕は無かっただろうけどさ。


「一体何を落としたんだ?」


「ハンカチだ」


その言葉に俺は違和感を覚えた。


戦いの場にハンカチ?


そんなもの持ってくるのだろうか?


それよりも俺は、香織が持っているハンカチの種類なんて知らないぞ?


なのに…どうしてわかったんだ?


「まあ、そういう顔になるよな」


どうやら考えが顔に出ていたらしい。


今までもそうだが、グラディオスでは相手の顔が見えないというのは俺にプラスとなっている気がした。


すぐ表情から色んなことを読み取られ…雫とか俺の顔見て攻撃決めたりしそうだもんなぁ。


「もしかして、お前の知る未来の俺は香織のハンカチを事前に見たってことなのか?」


俺の言葉をシエロは鼻で笑った。こういうとこ、ホントムカつく。


「事前に…か」


だが、そのムカつく態度とは裏腹に、言葉には憂いのようなものを帯びていた。


「そのハンカチはな、幼い時にお前が香織にプレゼントしたピンク色の魔法少女のアニメのキャラが描かれたものだったんだよ」


違和感がストンと心に落ちた。


記憶にある。


そのハンカチは香織が小学生に上がってすぐくらいに俺がプレゼントしたものに間違いない。


実に懐かしい。


確かプレゼントした理由は…俺の誕生日にアニメロボット名鑑をくれたお礼に香織の誕生日にお返ししたはずだ。


なぜハンカチかと言うと確か…香織が誰かがハンカチを持ち歩いてるのを見て「いいなぁ」と言っていたのを覚えていたからだ。


まあ、そのプレゼント交換も一回だけ。


別に理由は無かったが、小学生になると男の子は男の子と、女の子は女の子で遊ぶようになるのが流れであり、その流れに消されるようにお互いの誕生日のことを何となく忘れていった。


とは言え、幼い頃よりは遊ばなくなったが、全く遊ばなかったわけではないので腐れ縁が継続できたわけなのだが。


そのハンカチを持ってきている理由は何となく想像できる。


先程のカエルの話と合わせると、命懸けの戦いに対してお守り代わりに持参したのだろう。


皮肉にもそのお守りは香織を見事に守った。


しかし、それと同時に…香織にとって最悪の事態の引き金となってしまった…か。


「皮肉な話だよな。お前にもらったものをお守りにして…そのお守りのせいでお前を殺すことができたんだからな」


何て嫌味を言いやがる!と突っかかりそうになったが、それはできなかった。


シエロは…とても悲しそうな顔をしていたからだ。


「俺の知る未来はこんなものだ。どうだ、聞いてて気分が悪くなっただろ?」


「あぁ…」


その一言を発するだけで精一杯だった。


自分の死ぬ未来。それも香織に殺される未来。


唯一救いなのが…次の相手が香織じゃない可能性が高いということだ。


もし香織が相手ならセロがシエロの話を止めるはずだ。


そうに違いない!


そうに…違いない…。


…そうであってくれ。


必死に自分に言い聞かすが、不安は拭えない。


俺は気が付けば駆け出していた。


何度もスマホから香織にメッセージを送る。


「聞きたいことがある」


「大事な話なんだ」


「未来に関わることなんだ」


など思いつく限りの言葉を、祈るように送り続けた。


真夜中に何度もメッセージを送るなんて非常識極まりない。


でも、そうせずにはいられなかった。


何度目のメッセージだろうか?香織から電話がかかってきた。


俺は電話を受けるのに躊躇してしまった。


もし、香織が…スピリットスキルを持っていて、俺の敵となる場合、どうすればいいのだろうか?


何も思いつかないが、香織がスピリットスキルを持っていないことを信じて電話に出る。


「…何かあったの?」


言葉を発しない俺の空気を察したのか香織が心配そうに聞いてきた。


「あ…あのさ」


なんて聞けばいい?


もしスピリットスキルを持っていない場合、余計なことを香織に伝えることになる。


「お前…超能力とか…持ってたりする?」


真夜中にメッセージ連打をした上に聞くことはこんなこと。頭がおかしくなったと思われても仕方がない。


「…超能力?…えっと、どんな感じの?」


俺は香織の返答に鼓動が早くなった。


否定しないのか!?呆れたりしないのか!?聞き返したりしないのか!?


それはもしかして…もしかして…もしかして…。


頼む!頼むからあしらってくれ!まともに答えないでくれ!


俺は願いを込めて話を続ける。


「た、例えば、炎を自由自在操れたり、例えば、水を自由自在に操れたり…」


間を開ける俺。唾を飲み込むと思い切って本命を聞いてみた。


「例えば、空間を自由自在に操れたり…さ」


香織の返事は…すぐに返ってこなかった。


沈黙が続く。


こういう時、一体なんて言ったらいいんだよ…。


「…ばか」


香織は少し寂しそうな声色だった。


そして通話が切られた。


呆然と立ち尽くす俺。


これは…どういうことなんだ?


「冷静に考えろ。お前のやったことは香織がスピリットスキルを持っていない場合、香織がお前のメッセージから違う解釈をして当たり前だ」


いつの間にか隣にいるシエロが呆れた口調で話しかけてきた。


「ど、どういう解釈なんだよ!」


思わず言い返す。


そんな俺を冷めた目で見つめてくるシエロ。


何か…ムカつく。


「告白されるって思ったんじゃないのか?」


言われて思考が固まる。


告白?なぜ?どうしてそうなる?


「どうせ真剣に『未来の話がしたい』と『大事な話がある』とか言ったんだろ?そんな思いつめた話、最高か最悪かどちらかと思うだろ?香織の心境からすれば最悪は考えたくないだろうから、もしかして告白されるかも、と考えるだろうからな」


説明されて納得した。


それと同時に香織に悪いことをしたことをやっと理解した。


ただ、俺の質問に驚きではなく呆れが感じられたので、香織はきっと空間コントロールのスピリットスキルを持っていないと思う。


今はそれだけでホッとしたし、嬉しくもあった。


「で、これからどうするんだ?俺やオーチェを避けて一人で頑張るのか?」


そうだ!と言いたいところだが今の俺は空間コントロールが使えない。


つまりこのままだと絶対負ける未来が待っている…と考えてよいだろう。


悔しいが一人で考えるより二人…いや、もう一匹いた方が勝率は上がる…はずだ。


「そういえばさ、お前の見た未来でもお前は俺のナビゲーターだったのか?」


何でこんな事を聞いてしまったのか、自分ではよく分からなかったが、つい口から出てしまった。


誰がナビゲーターでも関係ないと言えばそれまでなのだが。


「…違う。俺じゃない」


その答えに俺は一瞬言葉の意味の理解が遅れた。


「ナビゲーターはお前じゃない…のか?」


遅れた理解が追い付いた時、俺の中では大きな疑問が生まれた。


「じゃあお前は…それを…さっき話した未来の話を…どこで見たんだよ…」


怪訝そうな顔になったシエロは俺の問いに答えることはなかった。してはいけない質問だったのだろうか?


いや、気が付けば誰もが疑問に思うことだ。聞かない方がおかしいだろ?


「そんな難しい顔をするな。どう説明すればいいものか悩んだだけだ。話をセロに妨害される可能性があるからな」


今の一言で俺は何かを掴みかけた気がした。


だが、所詮「気がした」だけ。


俺に家族の名に懸けて名推理のできる高校生並の能力があればなぁ…。


「さてと、無駄話は終わりだ。ここからは本気で次の戦いに勝つための修行を始めるぞ」


残念ながら次の戦いのために俺を鍛えてくれるのは、この口悪い猫しかいない…か。


それにしても…まさか、次も俺の知り合いが相手、とかないよな?


まあ、セロが楽しむために仕組む可能性は否めないが、そう簡単に俺の周りにスピリットスキルを持ってるヤツばかりいるなんてあり得ないだろ?


あり得ない…はずだよな?


香織と殺し合いなんて…したくない。


香織じゃなきゃいいわけではないが…あと一回。


あと一回なんだ。


それで…勝てば…。


そこでふと疑問が一つ生まれた。


「なあ、もし次の戦いで勝ったら…どうなるんだ?」


「さあな」


大事なことを素っ気なく答えるシエロ。


一瞬言い返してやろうかと思ったが、そう言えばコイツ、俺が負けた未来しか知らないってことなんだよな。知るわけ…いや、ちょっと待てよ?


「なあ、お前は俺の負けた未来を知っているってことは…お前はどうなったんだ?お前も一緒に殺されたのか?そして転生してこの世界に来た…とか?もしくは時空を超えてお前はやってきたのか?」


シエロはまたすぐに答えない。その代わりとして大きなため息を一つ吐く。


「聞いちゃダメな質問だったのか?」


俺の言葉が聞こえていないのだろうか?シエロはまるで何事もなかったかのように歩き出した。


「お、おい。無視するなよ」


「答える必要がないから無視しただけだ」


これだよ、これ!


本当に可愛げが無い!


俺はこんなヤツに頼って本当にいいのか?と思わされる行動。


もしかしてここまでくるとワザとではないかと思ってしまう。


「分かったよ。じゃあ修行始めようぜ」


不満はあるものの、時間がない。


俺は…死にたくない。


生き延びたい。


いや、相手を殺さなくても勝てる強さがほしい。


もう、知ってる人とか知らない人とか関係なく、命を奪うことはしたくない。


そのためには俺がもっと強くなるしかない。


戯言と言われたとしても、それが今の俺の目指すところである。


「泣いても笑ってもこれが最後の修行になるだろう。それに、お前が命を落とさないためにも…」


くるりと俺に向き直ったシエロの鋭い眼光が俺を射抜く。


今までにない殺気。


そんなシエロに俺は恐怖すら覚えた。


「ここで生き残って見せろ。ここで死ぬくらいならお前は明日勝てないからな」


「ここで…生き残って…ってどういうことだよ…」


聞き直すことしかできなかった。


それだけ声に落ち着きがあり、ゆえに重みがあり、冗談ではないことを俺の鈍い本能ですら気付けるレベルの口調。


俺はシエロの次の言葉を待った。


正確には待つことしかできなかった。


それだけ俺は…ビビっていた。


「スピリットスキルは理屈じゃない。お前の魂に呼応して使われるものだ。だったら…」


淡い光を体から放ち始めたシエロを前にして俺は気が付かないうちに身構えていた。


危険を感じる。


それくらい空気が張り詰めたこの廃工場。


震える体を必死に抑えている俺に再びシエロが声を発した。


「お前の魂を追い詰めてやるよ。…お前の魂に危機感を…魂が消えるという感覚を味合わせてやるよ」


今まで焦馬や雫と戦ってきた時とは、まるで別物だ。


あの時は俺も必死でそんなこと考える余裕がなかった。


しかし、今回は違う。


最初から殺すと言われて、しかもこの殺意をまともに受けて、その上相手がはっきりと分かっている。


本当に…殺し合いをする気なんだ。


「いくぞ、空」


青白い光は輝きを増し、まるで昼間になったかのように辺りを明るく照らした。


「弱いのなら…俺程度が倒せないなら…お前はここで死ね」


言葉と共に放たれた光の槍は、俺の肩をあっけなく貫通した。


遅れてくる激痛。思わず苦悶の声が漏れる。


これは現実であり、シエロは本当に俺を…。


思考する間に次の光の槍がシエロの頭上に生成された。


「じゃあな、空」


微塵も躊躇なき声が魂に刺さる。


今度は光の槍が、無慈悲に右足に突き立った。


痛みで自分でも信じられないくらい叫び声をあげた。


まさかシエロに殺されるとは思わなかった。


痛みに悶えながら俺は…覚悟を決めるしかなかった。


本気でシエロに反撃しなければ…俺は殺される!

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